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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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潜入任務 その六

 岩場の影で一晩を明かした翌朝、我々はすぐに移動を開始した。目指すは街の下に張り巡らされている地下排水路、その中でも街の外にまで延びている場所だった。


 地下排水路は迷路のように入り組んでいる上に、街からかなり離れた場所にまで続いているらしい。それは都市計画の一環として水路を作ったものの、地上部分を築く前に戦争で計画が流れてしまったことが何度かあったからだ。大昔からヒト種という生物は戦争が大好きだったらしいな。


「地図によればこの辺に出入口があるはずだ」


 海岸沿いに岩場を進んだ後、マルケルスが指定した範囲を捜索する。こんな場所に水路への入り口があるとは思えないが……言われた通りに調べてみるか。


 私は川を渡る前と同じように、しかしあまり大きな音を立てないように注意しながら岩を軽く小突く。そうして帰ってきた反響の音を頼りに岩の内側を探知しようと試みたのだ。


「……ここですか」

「もう見付けたの?」


 すると、またもや私が探知してみせる前にミカが発見してしまった。ミカが私よりも優れた聴覚の持ち主なのは知っていたが、まだ私がぼんやりとした構造すら把握する前に聞き分けてしまった。


 本当かよと思いながらミカを見ていると、彼は岩場の地面にある大きな岩の根本にある大きな石を退けていく。その下にはボロボロの木製の扉があるではないか。


「マルケルス様。発見致しました」

「でかした!じゃあ降りるぞ」


 木製の扉に手を掛けたマルケルスが力を入れて取手を引っ張ると、取手は根本から折れてしまった。長い年月をかけて風化してしまったのだろう。呆然と取手を見るマルケルスを見かねた私は、扉を思い切り踏みつけてやる。すると扉は砕け散って下へ落ちていった。


 穴の奥から扉の破片が地下排水路に落ちた音が聞こえてくる。下に続く梯子があったようだが、とっくに風化したようで足場は一つも残っていない。光の角度が悪いので底は見えないが、音が返ってくるまでの時間から考えてこの穴そのものはあまり深くないようだ。ミカに目配せした後、私は穴の中へと飛び込んだ。


 予想していた通り、穴は大して深くない。飛び降りた直後に着地した。足元に転がる扉の破片は後から降りてくる者達にとって危ないので、蹴って退けておく。そしてジャンプして穴の縁に手を掛けると、懸垂の要領で穴の上にまで上半身を出して三人を手招きした。


「よっと」

「どうぞ」

「……ありがと」


 まずはマルケルスが、次にミカ、そして最後にリンネが降りてくる。リンネは穴の周囲を霊術によって塞いでから降りるために最後になっている。後ろ向きに飛び降りた彼女を、ミカが優しく受け止めた。


 そんな二人をやはりマルケルスはニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。相変わらず二人が何かしていると妙な反応を見せるのだ。その反応の意図がわからず、私は首を捻った。


 出入口を塞いだことで水路は真っ暗になったものの、夜目が利く魔人達にとっては大した障害にはなり得ない。しかし、普通のフル族であるマルケルスは別だ。


 ならば洞窟を通って川を渡った時のようにランタンを灯せば良いのかもしれないが、水路を見回っている敵兵がいたら危ない。そこでミカが夜目が利くようにする霊術を知っていたので、それを掛けてもらっていた。


「ええと、次は右だな」

「……マルケルス様、地図と違って緩やかなカーブを描いていますが?」

「嘘だろ?道は間違えてなかったよな?」


 水路をしばらく歩いた後、先頭にいたミカとマルケルスがそんなことを言い出した。二人は並んで地図を読みながら色々と話し合った結果、この地図は分かりやすさを重視した結果、排水路の長さや曲がり方などを考慮していないらしいという結論に至った。


 地図は大体の目安、程度に考えておかなければならないらしい。それでもあるのとないのとでは大違いであり、分かれ道があった場合には正しい方向を選ぶことが出来るので重宝していた。


「むっ、また排水路が崩れているな。サソリ君、頼む」


 我々が通っているのは古い上に使われていない排水路であり、補修されていないので崩れている場所が多々あった。それは正解の道であっても同じこと。土砂で埋まっているせいで進めなくなっていることがあった。


 その時に道を切り開くのは私の役割だった。排水路を塞ぐ土砂を全てサラサラの砂に変えつつ、天井が再び崩れないように固定して通路を確保する。意外と繊細な霊術の制御が必要だったが、それは私の得意分野と言っても過言ではない。私はキッチリと役割を果たしてみせた。


 四人全員が通った後、道には退けさせた砂を再び詰めた後に固定しておけとマルケルスは私に命じた。そうしないと地上の地盤が沈下する可能性が高いからだ。一回だけならば侵略軍に見付かっても偶然と思われるかもしれないが、何度も起きれば地下を進んでいることが発覚するだろう。無用なリスクを避けるためにも排水路を埋め直すことに私も賛成だった。


「お待ちを。足音がします」


 カルネラ港にかなり近付いて来た時、ミカの鋭敏な耳が何かを聞き取った。私も集中しながら両手を壁に着けて、耳と四肢で音を拾う。するとかなり遠い位置に三人の足音を捉えた。


 ガシャガシャという足音から考えて、そこにいるのは機鎧兵だと思われる。足音の間隔が狭い……走っているようだ。私達のいる場所とは別の方向に向かって走っている。接近していることに気付かれた訳ではないようだ。


「見付かってはいないようですが、ここからは慎重になりましょう」

「わかった。聞いたな、二人とも」

「うん」

「……」


 マルケルスの確認にリンネは短く、私は頷きによって返事をした。ミカは歩くペースを変えていないが聴覚によって遠くの状況を把握しているようで、ここは直進しても良いとか迂回するべきとか進言するのだ。その通りに進むことで、我々は危険を避けることが出来た。


 ミカと同じことを私は出来ない。いや、時間を掛ければ位置を把握することは可能だ。しかし、彼のように歩きながらやることは不可能である。本当にどんな生物と合成されたのだろうか?気になるところだ。


「む、これは……。マルケルス様、挟み込む形で敵が来ます。一本道なので避けられません」

「そうか。リンネ、全員に透明化する幻術を掛けてくれ」

「わかった」


 逃げられないのならば、リンネの幻術によってやり過ごせば良い。我々はその場で停止すると、水路の端に寄って息を潜めた。


 しばらくするとマルケルスの耳にも聞こえるほどに近付いた足音が左右から聞こえてくる。奴等はランタン……ではなく先端から強い光を放つ筒を持っていて、その明かりがあるから接近は分かりやすかった。


 先に右からやって来た敵は、我々のすぐ側にまでやってくる。リンネの幻術は光をも透過するので、バレている様子はない。それでも手を伸ばせば届く位置に敵がいるという状況は緊張してしまう。平然としているのはミカくらいのものだった。


「■■■■■」

「■■■、■■■■!」


 私達の緊張感とは裏腹に、機鎧兵は気付くことなく談笑しながら通り過ぎて行った。やはり何を話しているのかはわからないが、こうして談笑している姿はヒト種や魔人達と大差ない。敵は正体不明の存在ではなく、ただのヒト種の一種なのだ。


 右から来た敵はやり過ごした。次は左から来る敵に対処せねばなるまい。二つの部隊は何か会話を交わしたようだが、やはりこちらにやって来る。こちら側も我々には気付かず、通り過ぎていく……はずだった。


「■■……?」


 二つ目の部隊が我々の前を通り過ぎるちょうどその時、一人が腰に下げていた金属製の筒を落としてしまった。それは床をコロコロと転がって、何もないところで何かにぶつかったように止まってしまった。透明になっていたリンネの杖に当たってしまったのだ。


 バレた。それがわかった瞬間に動いたのは私とミカだった。私は白い剣を一番近い敵の鎧の隙間から喉に突き刺しながら、その隣の機鎧兵に尻尾の先端の毒針を鎧の上から突き刺してやる。ミカは背後から機鎧兵の仮面を掴むと顔を上げさせて喉を露出させ、逆手に持った短剣で掻き斬った。


 崩れ落ちる三人の機鎧兵がそのまま倒れれば、けたたましい音が鳴るのは明らかだ。それを防ぐべく、私は両腕と尻尾で支えながらゆっくりと横たえる。ミカも同じく仕留めた一人を仰向けになるように床に倒した。


「……私のせい。ごめんなさい」

「いや、あれを予想するのは無理だろう。それよりも二人の機転で助かった。流石だな、ありがとう」


 リンネは自分のせいで厄介なことになったかもしれないと顔を青くするが、マルケルスは冷静にそんなことはないと慰めつつ我々に感謝してみせた。ミカは一礼して応じ、私も剣と針に付着した血を払いながら問題ないという気持ちを込めて頷いた。


 ただ、不用意に敵を殺してしまったのは問題だろう。死体を隠すことは容易いが、部隊を構成していた三人が急に失踪して問題にならない訳がない。さて、マルケルスはどうするのだろうか?


 判断を下すべきマルケルスは三人の死体の近くで膝を着き、何かを見聞している。それから何度か頷いた後、彼は立ち上がってこちらを向く。その時のマルケルスの顔には、悪巧みを思い付いた者特有の不敵な笑みが浮かんでいた。


「確かに、これは不測の事態だ。行方不明者が出た分、潜入したことがバレるまでの時間は短くなるだろう。だが、幸いにも三人の機鎧兵は二人が男で一人が女だ。鎧を装着可能な者と数もサイズも合うぞ」

「マルケルス様、まさかとは思いますが……」

「ああ、そのまさかだ。この死体を処理した後、私とミカとリンネはこの鎧を着てカルネラ港を調査する。サソリ君は……どうしようか?」


 いや、私に聞かれても困るのだが。それよりも敵のフリをして堂々と侵入するつもりか。言葉がわからない上に敵のやり方などがわからない以上、それは大きな賭けにしか思えないのだが……マルケルスはやる気満々のようだった。


 止めることは難しいだろう。既に音を立てないように気を付けながら鎧を外す作業を始めている。私とミカは顔を見合わせてから、ため息と共にその作業を手伝うのだった。

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― 新着の感想 ―
正気かこいつ?
交わされてる言葉がわからない。鎧の持ち主たちの詳しい任務内容を把握してない。侵略者たちの普段通りの仕草を知らない。彼らの社会にだけ存在する特異なマナーやルールが有るかもしれない。そもそも彼らの詳しい社…
[一言] いやほんと、サソリも言ってますが言葉もわからないのに変装して堂々と侵入する作戦立てるのはリスクばかりがドンドン積み上がっていきますねー 行き当りばったりやなあマルケルスの作戦
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