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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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反攻作戦 その二

 以前に砦を攻めた経験はとても役に立っている。敵が何をしてくるのかわかっているから、どう動けば良いのかもわかっているのだ。


 自分や味方を巻き込むので、接近すれば侵略軍は炎弾を撃てなくなる。そして接近すると甲冑の仕込み武器を展開してくるので、その素振りを見せる前に仕留める。とにかく迅速に、何もさせずに殺すのが肝要なのだ。


 剣を使っても良いが、私はあえて鋭い外骨格の爪で暴れていた。アレクサンドルから剣の扱いを教わったし、ハタケヤマの剣は非常に強力だ。しかし、剣を握るよりも素手の方が便利なこともある。先ほども手が空いていたからこそ、武器を拾って投擲出来たのだ。


「■■■■■!」

「■■、■■■■!」


 侵略軍の兵士が何を言っているのか、相変わらずよくわからない。ただ罵倒されていることだけは確実だ。そんな兵士は剣や槍を構えて私に飛び掛かって来る。闘気で強化した外骨格で刃を弾きながら一歩踏み込んで腹部に槍のように指を伸ばした貫手を叩き込んだ。


 貫手は甲冑を穿ち、背中側から手が出てくる。力が抜けていく兵士から腕を抜いてから武器を奪い取り、最も近くにいた兵士に向かって投擲した。投げた剣は甲冑に弾かれたが、その兵士は思わず怯んだ。


 その意識の隙間を突き、尻尾で横殴りにして兵士を外壁の外へと吹き飛ばす。毒針を刺してはいないが、外壁の外に落ちれば生きていたとしても戦線復帰は無理だろう。


 そうやって敵兵を薙ぎ倒しながら塔に取り付いた私は、再び爪を立ててよじ登って上にいた兵士を血祭りに上げる。ここには普通の兵士しかいなかったので、苦戦することもなく塔の上の制圧は終了した。


(白い鎧の兵士は……主力がいる方向の城壁の上に一人だけか。主力の牽制に忙しいからこちらには来ないだろう。なら、私も内側から……何だ?)


 侵略軍の流す血の海の上で両手についた血を払いつつ、私はティガル達と合流するべく塔から飛び降りた。そして着地した瞬間、触れた地面から微かにではあるが何かの振動を感じた。進軍する帝国軍の足音ではない。それとは別の何かが地中を高速で近付いているのだ。


 私は両手を地面に着け、さらにうつ伏せになることで全身によって地中の振動を感じてみる。かなり深い位置を進んでいた気配を捉えることに成功した。


 その気配は砦の中央の真下辺りで停止すると、今度は急上昇して来るではないか。その気配はたった一つだが、保有する力はかなり強い。間違いなく白い鎧の兵士だろう。


 それも今まで私が遭遇した二人よりも一回り強い気がする。本気で戦わなければ私も殺されてしまいかねない強者だろう。魔人部隊は手練れの集まりだが、あれには勝てないと思う。


 地上に出たその気配は、真っ直ぐにティガル達が内側から開けようとしている門を目指している。戦いになれば即座に全滅することはないだろうが、怪我人や死人が出るのは確実だ。


(私を殺し得る強さの気配にはなるべく近付きたくないのだが、これは任務。逃げる訳にはいかない。それに……約束は守るためにあるものだ)


 私は生き延びて使命を果たすためならば、卑怯なことでも姑息なことでも何でもするつもりだ。だが、私のことを信じてくれた者の想いには応えたい。私は覚悟を決めて立ち上がった。


 私は腰の剣をスラリと抜き放ち、外壁の内側に沿って門へと駆け出す。私の前に兵士がゾロゾロと現れて立ち塞がるが、そんなもので止まる私ではない。私の防御力と剣の切れ味にモノを言わせ、攻撃をものともせずにゴリ押しで全てを斬り払って前進した。


 そうして私は敵兵の間を突破して門が見える位置にまでたどり着く。門の前では激しい戦いが繰り広げられていた。


 魔人部隊の一部が金属製の門を破壊しようと武器を振るい、残りの者達は盾を構えたり防御の霊術を使ったりして守りを固めている。敵兵は彼らから離れた位置から鉄の礫と炎弾を容赦なく撃っていた。敵兵の攻勢は激しく、門を破壊する前に守りが崩れてしまいそうだ。


「ガルルルルル!」

「ウオオオオン!」

「■■■■!■■■■■■■!」


 そんな中でティガルとザルドは強い気配の元凶である白い鎧の兵士を二人掛かりで抑えていた。やはり地中から来たのは白い鎧の兵士だったらしい。白い鎧に強い闘気と霊力を有するのは同じだが、鎧の形状は大きく異なっている。と言うのも、奴には四本の腕があったからだ。


 正確に言うと鎧の背部に腕を模した部分があって、それを自分の腕のように扱えるらしい。全ての手には一本ずつ剣が握られており、四刀流とも言うべき剣術によってティガルとザルドを相手に有利に戦いを進めていた。


(死なせる訳にはいかん。よし、やるか)


 私は一気に霊力を高めながら、魔人部隊の前に飛び込む。そして霊術によって魔人部隊と敵兵の間に半円形の分厚い砂の壁を作り出した。


 鉄の礫はこれを貫通せず、途中で止まってしまうことは以前の戦いで学んでいる。炎弾も表面が弾けるだけで、砂の壁に穴を開けることは出来なかった。砂の壁によって、敵兵と魔人部隊は完全に分断されたのである。


「あ、あんたは……」

「助かりましたぁ」


 身体を張って仲間を守っていた魔人達は傷だらけではあったものの、まだ死人は出ていない。どうやら約束は果たせそうだ。


 私は右の剣の先を門の方へ向ける。ここは良いから、あっちに向かえ。私はまだ上手に言葉を発音出来ないので、動きで意志疎通を図ったのだ。幸いにも魔人達は理解してくれたようで、仲間を守っていた者達も門の破壊に参加した。


 それを見届けた後、私は自分で作り出した砂の壁の上から戦場を見渡す。敵兵の攻撃は続いているものの、やはり砂の壁が崩れる気配はない。炎弾が爆ぜて抉れた部分もあるが、すぐに元通りに修復は可能だ。一撃で壁を崩すほどの威力の攻撃以外なら、砂の壁は効果的なのかもしれないな。


 敵兵は私に向かって鉄の礫を発射するが、それを無視して私は砂の壁を駆ける。そして大きく跳躍すると、ティガルとザルドが戦っている白い鎧の兵士へと上空から襲い掛かった。


「■■、■■■!」


 奴は私のことに気付いていて、後ろへと大きく退いた。落下と同時に地面を踏み抜いたので、少しだけ踵が地面にめり込んでいる。それをズポッと引き抜きながら、私は両手の剣を構えた。


 背後からティガルとザルドが加勢するべくやって来ているようだが、私はそれを尻尾を大きく振るって止めさせる。そして毒針の先端で砂の壁を崩すのは諦めて登って越えようとしている敵兵を指し示した。


「あぁ?何のつもり……」

「ティガル!こっちだ!」


 ティガルは意味がわからずに困惑していたが、ザルドは即座に理解したらしい。ザルドはティガルの腕を引っ張って敵兵の中に突撃していく。敵兵は砂の壁よりも先にティガル達に対処すべくそちらを向く。二人の実力ならばあの程度の雑兵に倒されるどころか、軽く片付けられるだろう。


 それよりも私は目の前の強敵に集中せねばなるまい。四本の腕をユラユラと動かし、何かをブツブツと呟きながら私に向かって明確な殺意を向けている。そうだ、狙うのならば私を狙え。その間に魔人部隊は門をうち壊すぞ。


 それが終われば任務は終了だ。それまで生き残れば私の勝ち。それまでに私を殺せれば奴の勝ち。とてもシンプルな戦いだった。


「■■!■■!■■!■■!■■■■■!」


 白い鎧の兵士は何かを繰り返しながら四本の腕を振り回す。一本は右手の剣で弾き、一本は左手の剣で防ぎ、一本は尻尾で跳ね上げ……最後の一本は防げずに肩に振り下ろされた。


 奴の剣はどれも上質かつ霊術で強化されていて、ハタケヤマの剣とぶつかり合っても切断されることはなかった。それどころか肩の外骨格を少しだけではあるが削り、破片が私の頬に飛び散った。


 限界まで強化していたと言うのに、私の自慢の外骨格を削ってみせるとは……思った通りの強さである。しかも手数で負けているという初めての状況だ。


 だが、必要以上に怯えることはない。闘気によって外骨格は修復し始めているし、内側の肉にまでは刃は到達していない。それに生まれたばかりの時の私とゲオルグのような、絶望的なほどの実力差があるわけではないのだから。


 私は二本の剣と尻尾で四本の剣に立ち向かう。しかし、やはりと言うべきか敵の剣術の腕前は私よりも数段上であった。反撃するどころか防ぐだけでも精一杯で、それも防ぎきれずに何度も刃が外骨格を削っていく。肩に、胸に、腰に、脚に、刃が当たって火花と外骨格の破片が飛び散った。


(このままでは不利だ……何時か深く斬られてしまう。どうすれば良い?クソ、私も腕が四本あれば……腕?)


 私は斬り結びながらどうすれば良いのか思考し続ける。その時、一つの天啓を得た。敵には腕が四本もあり、手数で負けているせいで防ぎきれていない。それなら私も手数を増やせば良いではないか。


 一瞬で霊力を高めた私は、その霊力で砂を作り出す。その砂は二つの鋏の形状に変えた。元々、この鋏こそが私にとって腕のようなもの。扱いには魔人としての手足よりも慣れているので、難しいことを考えずに使えそうだ。


「■■■!■■■■■■!」


 フワフワと浮遊する砂の鋏を操って、私は敵の肘や膝を切断するべくけしかける。敵兵は苛立った様子で声を荒げながら剣を振るう。この鋏は所詮、霊力で砂を固めたものでしかない。鋭い剣によって容易く散らされてしまった。


 壁を作った時もそうだったが、確かに砂は素材としては脆い。しかし修復が簡単な上、密度を高めれば勢いを殺ぐことは可能だ。散らされた鋏は瞬く間に修復され、再び足元を狙って挟み斬ろうとする。敵は鬱陶しそうにそれを脚を上げて避けていた。


 そこに合わせて私も剣で斬り掛かる。私の鋏で作られた黒い剣が敵の剣にめり込み、聖騎士が使っていた白い剣は弾かれ、尻尾は逆に毒針を斬り飛ばされた。敵の操る四本の剣と、私の操る二本の剣と二つの鋏と一本の尻尾。ぶつかり合いは互角であるからこそ、何かの援護があればこの均衡はすぐに崩れるだろう。


「■■■■■!」


 そしてその援護は敵に訪れた。どこにいたのかわからないほどの黒い鎧の兵士が現れて、とても長い筒状兵器から大きな鉄の礫を私へ放ったのである。驚くほど速く飛ぶ大きな鉄の礫は肩に直撃し、私は強い衝撃を受けて体勢を崩す。そこへ四本の剣が四方向から襲い掛かった。


 二本の剣と尻尾によって三方向から迫る剣は防いだ。しかし、下段から来る残りの一本は防げない。敵の剣は私の胴体を容赦なく斬り上げる。冷たい刃が外骨格ごと私の肉を斬り裂き、真っ赤な血液が宙を舞った。

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― 新着の感想 ―
[一言] おおっと、今回も余裕で砦を落とせるのかなと思っていたら結構なピンチなようで 四本腕、強敵ですねえ
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