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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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反攻作戦 その一

 反攻作戦の当日、我々は馬車の荷台に乗ったまま帝国兵と共に移動していた。私はオルヴォの霊術によって、ルガル隊は『隷属の首輪』によって逃げられない。しかし、万が一を考えて荷台から出られないのだ。


 それこそ伏兵による奇襲を受けたなら間違いなく逃げ遅れるのだが、そんなことは考慮してくれないようだ。戦力として期待しているという話ではあったが、それとこれとは話が別らしい。何だかなぁ……。


 私が内心でため息を吐いていると、馬車が急に停止した。そして荷台の扉が開かれ、監視の帝国兵が荷台に乗り込んでルガル隊の手足の枷を外していく。ティガル達は手首を擦りながら荷台の出口近くに置かれていた自分達の武器を握って外へ出ていった。


「えっと、隊長殿?こいつも出すんですよね?」

「当然だ。霊術士様からは鍵を受け取っているだろう。早く解き放て」

「は、はい……」


 私の檻に近付く帝国兵は明らかに怯えている。私が殺気を放っている訳でもないのに、何とも臆病なことだ。声からして下卑た荷台の近くで頻繁に下卑たことを話していた奴だが、思った通り大口を叩くだけで中身が伴わなかったようだ。


 枷を外された私は目蓋を開けながら立ち上がる。それだけなのに帝国兵は小さな悲鳴を上げながらその場で尻餅をつく。おいおい、本当に臆病だな。レオや他の幼い者達は興味津々で見ている言うのに。


 身体の調子を確かめながら私が荷台から降りると、オルヴォがやって来て二振りの剣を私に差し出す。私は鞘に通してある紐を腰に巻き付け、戦闘の準備を整える。そんな私を見て、オルヴォは満足げに何度も頷いていた。


 何だが強い苛立ちを覚えたのだが、無視をして前進する。背中にはレオの視線を感じるが、約束を忘れてはいないから安心して欲しい。私は軽く肩を回しながら魔人部隊に合流した。


 今回はオルヴォが先導せず、代わりに監視の帝国兵がその役目を果たしている。我々が砦へ突撃するタイミングを指示するのも監視の帝国兵達の、正確にはその部隊の隊長の役割であるようだった。


「先ずは俺達が行くから、ザルド達は……」

「わかった。代わりに砦の内部では……」


 帝国兵と共に待機する位置に到着すると、ティガルとカダハ隊を率いるザルドは攻め方について最終調整とばかりに話し始める。他の隊員は武器の調子を確かめたり身体をほぐしたりと戦いに備えて集中している。私は二つの部隊から少し離れた地点で仁王立ちして侵略軍の砦を複眼に収めた。


 砦の前に戦った砦と比べて二回りほど小さいものの、その形状はほぼ同じである。正方形で四角が一段高い塔になっていて、外壁と塔の上に筒状兵器が並んでいた。あれの威力は全て受けたことがある私は十分に知っている。


 通常の鉄の礫はともかく、威力が高い鉄の礫と炎弾を闘気による強化なしで受けるのは危険だ。私は何時でも戦えるように体内で闘気と霊力を可能な限り高めつつ、それが外へ漏れないように制御した。


 オルヴォの仕掛けた術は私の自由を奪っているが、同時に闘気や霊術の制御を更に磨く手助けとなっている。周囲にいる誰も私が全力で力を溜めていることに気付いていない。それだけの制御力を身に付けたことは我ながら自慢しても良いと思う。


 私は砦を見ながら注意を帝国兵に向ける。首を動かさずに全方位を見られるのは我ながら便利だ。それもこれも頭の後ろ側にある複眼のお陰だった。


 中央戦線と違ってこの東方戦線には帝国兵しかおらず、装備が全て統一されている。赤い布地に金色の金具、大きな羽飾りが着いた兜の集団が整列する偉容は壮観である。重装歩兵が最も多く、その後方に霊術士と軽装歩兵が続くのは中央戦線と同じ。これが帝国軍の主力であった。


 ただ、主力にはそれに加えて二つの部隊が存在している。それは侵略軍の甲冑を装備した部隊と、大柄な馬に騎乗した騎兵隊だった。


 侵略軍の甲冑と形が全く同じなので、前者の部隊が装備しているのは殺した侵略軍から剥ぎ取った甲冑なのだろう。壊れた部分を他の甲冑の無事な部分と取り替えて使っているのだ。


 甲冑を装備した兵士は重装歩兵と並んで最前列に並んでいる。表面は敵との区別がつくように帝国軍の色である赤色と金色に塗り替えられていて、数は千を超えていた。


 その手に持っているのは重装歩兵の持つ長方形の大盾と、侵略軍の炎弾を放つ筒状兵器である。劣勢を強いられながらも、倒した敵から奪った装備を使えるように後方の手練れとは言えない兵士を調練していたのだろう。それだけの国力があることが帝国の強みと言っても良いかもしれない。


 一方の騎兵隊だが、数は大体五百ほどいる。これこそ、例の間抜けな将軍のせいで半壊した部隊であった。本来はその倍の人数がいた上に、最も強かった指揮官は意識不明の重体でここにはいない。戦力としては半減どころの話ではないだろう。今はその副官が指揮を執っているそうだ。


 一見すると砦攻めには向かなさそうな騎兵隊がいる理由は、私も参戦した中央戦線での砦攻めでの情報を活かしたかららしい。侵略軍は高速で移動する鉄の箱を使うので、それを追撃するためには機動力に優れる騎兵隊を必要とするのだ。


 このことからもわかるように、この反攻作戦の目的は砦の破壊か奪取だけではない。むしろ砦の奪取よりも優先されるのは、砦に詰めている侵略軍の兵士を皆殺しにすることなのだ。天幕での話し合いを盗み聞きしたので、私はそのことを知っていた。


 だからこそ、騎兵隊が半分になってしまったのはかなりの痛手と言える。オルヴォが代わりを努めるとか言ってたから、攻略が上手く行ったら我ら魔人部隊はその後の追撃に加わらねばなるまい。走って追いかけるのは実に面倒なので、可能なら砦の内部で鉄の箱を壊しておくか。


ドン!ドン!ドドン!


 私がそんなことを考えていると、帝国軍から陣太鼓の音が轟いた。中央戦線では角笛だったが、こちらは陣太鼓が開戦の合図であるらしい。帝国軍はゆっくりと前進を開始した。


 監視の帝国兵はまだ我々に行けと言わない。侵略軍の注意が帝国軍の主力へと注がれ、霊術と炎弾の撃ち合いが始まった時、帝国兵の隊長は声を張り上げて言った。突撃せよ、と。その命令を受けると同時に、私は砦へ向かって一直線に駆け出した。



◆◇◆◇◆◇



 夏の名残の残暑はかき消え、秋の涼風が頬を擽るエンゾ大陸。その北東部では帝国軍の総力を挙げた反攻作戦が始まった。五つある侵略軍の砦に向かって、帝国軍は事前に決めた時刻になると前進を開始する。


 対する侵略軍はその武威に圧されることなく、砦を守るべく攻撃を開始した。鉄の礫が空気を穿って宙を舞い、爆ぜた炎弾の熱波が重装歩兵達を襲う。前衛がそれらの攻撃を耐えている間に、後方の霊術士や弓兵は反撃をして少しでもその勢いを弱めようと奮闘していた。


 そんな攻防が五つある砦の内、最も西側にある砦でも繰り広げられている。その戦場から少し離れた場所に三十名ほどの戦士が立っていた。


 漂う強者特有の風格に見合わぬ貧相だが割りと新しい服を身に付け、年期の入った武器で武装した彼らこそ、帝国の元贖罪兵にして今はオルヴォの所有物である魔人部隊の面々であった。彼らは与えられた任務を果たすためにここで待機していたのである。


「魔人部隊、突撃せよ!」


 監視の帝国兵が命令すると同時にルガル隊とカダハ隊の者達は一斉に駆け出した。魔人化に伴って身体能力が向上した彼らは、魔人形態にならずともかなりの速さで砦へと突撃している。


 だが、その集団を置き去りにして砦へ向かう一つの影がいた。それは他でもない、冥王蠍の魔人である。太くて長い尻尾をたなびかせながら、疾風のように砦へと一直線に駆け抜ける。二つの部隊の者達はその速度に驚いていた。


「おいおい、クッソ速ぇな……!?」

「ああ、驚いたぞ。だが、あのままでは孤立して……チッ!見付かった!」


 凄まじい速度で一気に近付いた魔人だったが、外壁の上にいた兵士はその姿を発見した。外壁の上から鉄の礫が降り注ぎ、ティガルとザルドは穴だらけにされる未来を思い浮かべる。


 しかし、その前に外骨格を硬化した冥王蠍の魔人は礫を弾きながら全く怯まずに前進を続けた。前進を外骨格で覆われた異形。それを見た彼らは不思議と驚かなかった。何故なら獣と混ざった姿になる自分達とは毛色が異なるだけで、結局は同じ魔人であると知っているからだ。


 冥王蠍の魔人は全速力で大地を駆け抜け、ツルツルとした砦の外壁へと跳躍した。そして両手足の指先を突き刺し、走っている時の勢いのまま四肢を素早く動かして外壁を登りきる。それから外壁の上で兵士達と戦い始めた。


「おいおい、マジかよ!」

「だが、助かったのも確かだ!急げ!外壁の連中が狼狽えている間に我々も登りきるぞ!」


 冥王蠍の魔人から少しだけ遅れたティガル達は、即座に鉤縄を外壁に向かって投擲した。外壁にしっかりと引っ掛かったことを確認してから、彼らはスイスイと本人達も驚く素早い身のこなしで登っていく。


 しかし、それを阻もうとする者がいた。外壁の上は戦闘中だが、四角の塔はまだ戦場になっていない。そこにいた兵士が縄を登る者達目掛けて筒状兵器を向ける。これを防ぐべく盾や武器を翳した直後、外壁から飛来した機械的な槍が筒状兵器ごと兵士を貫いた。


「よっこいしょっとぉ!助かったぜ、お前!」

「援護に感謝する」


 彼らの援護をしたのは冥王蠍の魔人だった。彼は外壁の上で素手で殴り殺した敵兵の武器を奪い取り、塔の上から狙う敵兵に向かって投擲したのである。鉄の礫よりも速く飛んだ槍は、兵器ごと敵兵を貫いた。


 鉤縄を最初に登りきったティガルとその後に続いて登ったザルドは、外壁の敵兵に斬りかかりながら冥王蠍の魔人に礼を言った。彼の援護なければ、運が悪ければ自分達を含めた誰かが死んでいたかもしれない。それを防いだ者に感謝しないほど、彼らは恩知らずではなかった。


 冥王蠍の魔人はコクリと一度頷くと、二人に背を向けて外壁の敵を撲殺しながら塔を目指して進撃する。彼が塔を素早く登ると同時に、バラバラに引き裂かれた侵略軍の死体が塔から落下していった。


「あれが最強の魔人の力ってか?とんでもねぇな」

「まったく、味方で良かったよ……予定とは大きく違うが、外壁の上は彼に任せよう。私達は下に行く。それで良いな?」

「おう、そうしようぜ。戦場じゃ臨機応変に動けってな。そんじゃ……ガルルルルル!」

「ウォォォォォォン!」


 ティガルとザルドは雄叫びを挙げながら魔人形態に変化する。彼らに続く魔人部隊も外壁をよじ登ると同時に変化していく。そして門を破壊するべく、外壁の内側へと飛び降りるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 実際サイズが同じなら獣とかじゃなくて昆虫が最強なんだって、火星で変異したゴキブリ人間と戦ってたどっかの人が言ってた気がする まぁこの世界では竜が最強なんだけどね……
[一言] ルガル隊視点の主人公の動きがヤバいですねー 速く、硬く、自分達へのフォローまでしてくれる 会話こそ出来はしないものの意思の疎通も出来てますしホント頼りになるなあ
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