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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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魔人達の目覚め

「うぐっ……ここは……?」


 『ルガル隊』のリーダーであるティガルは、クラクラする頭を抱えながら目を覚ました。彼はズキズキと痛む頭と何故か凝り固まった全身の筋肉に困惑しながらうつ伏せで倒れていた身体を起こす。そして自分の状態を確認した。


 彼はいつの間にか全裸になっていて、新しい服と下着が彼の側に畳まれて置かれていた。不思議に思いながらも、彼は裸でいるのも落ち着かないのでいそいそと服を着る。そして痛む頭に手を当て、痛みを追い払うように首を振った。


「クソ、頭が痛ぇ……あれからどうなったんだ?ここはどこだ?」


 ティガルは額を押さえながら辺りを見回す。すると彼は自分達が数日間いたのと同じ大部屋にいて、床には自分と同じように妻子と同じ部隊の同胞達、そしてカダハ隊の面々も横たわっていた。


 彼は慌てて横になっている者達の生死を確認する。すると全員が無事に生きていて、ティガルはまずそのことに安堵した。その後、先ずは愛する妻と息子の肩を揺すって真っ先に起こすことにした。


「シャル、レオ。二人とも起きろ」

「貴方……?」

「うぅん……父ちゃん?」


 シャルとレオは自分が目覚めた時と同じような状態だとわかっていたティガルは、すぐに二人に服を着るように促した。シャルは全裸であることに驚いて急いで服を着たが、まだ意識が覚醒しきっていないレオは寝ぼけ眼でゆっくり服を着ていた。


 服を着たティガルとシャルは、部屋中を回って仲間達を起こしていく。起きた時の反応は大体一緒であったが、男性陣よりも女性陣の方が服を着るのが早かったのは言うまでもなかろう。


「とりあえず、全員生きてるってのは喜んで良いんだよな?」

「そうだと思いたい。だが、あの霊術士が言っていたことが本当なら、私達はもう……」

「…………」


 ティガルは確認するようにザルドに聞いたが、彼は気を失う前に聞いた言葉を思い出して言葉を濁す。どうやらオルヴォは今から何をするのかを全員に話していたらしい。あえて考えないようにしていたことを思い出して、ティガルもまた押し黙ってしまった。


 ヒト種ではなくなった。今のところそんな実感はないものの、あんなものは出任せだと笑い飛ばすことは出来ない。得体の知れない何かが足元から這い上がってくるような恐怖を彼らは感じていた。


「あ……?ああああ!?」

「足が、足が治ってる!?」


 そんな時、大部屋に大きな声が響き渡った。声の主はここに輸送される直前の戦いで四肢を失った者達である。驚いたことに彼らの四肢は元通りになっていて、しかもちゃんと自分の意思通りに動いているようだった。


 それは指や耳などの部位をこれまでの戦いで失っていた者達にも同じことが言えた。ティガル自身先日の戦いで左肩にそれなりに深い傷を受けていたのだが、それも完全に癒えている。それ自体は良いことであったが、変化の時は急に訪れた。


「あれ?何か傷跡が……?」

「うわあああああっ!?」


 最初に変化したのは、大きく部位を欠損していた者だった。欠損していた部分を触りながら意識を強く向けると、妙な感覚が走ったかと思えばその部分が毛皮や鱗に覆われ始めたのだ。彼らが悲鳴を上げたかと思えば、他の者達も治った傷口の部分が変化し始めた。


 ティガルは自分の左肩を見る。そこは金と黒のコントラストが美しい虎の毛皮となっていた。隣で話していたザルドは片脚が灰色の毛皮に包まれている。二人は顔を見合わせると、それぞれリーダーとして同胞達のパニックを鎮めるべく動き出した。


「テメェら!黙りやがれ!」

「静かに。速やかに現状を報告せよ」


 ティガルは威圧的に、ザルドはあえて普段通りに命令する。ティガルの迫力によってルガル隊は沈黙し、ザルドの命令によってカダハ隊は冷静さを取り戻す。だが、全員の顔に恐怖と不安の色が残っていた。


 二人のリーダーは自分の同胞の姿を確認する。そのほとんどは皮膚が毛皮状になっているが、一部の者達は鱗や羽毛が生えている。特に羽毛が生えた者の一人は、背中から鳥の翼が片方だけ生えていた。


「ファル。背中のそりゃ動くのか?」

「へ?あ、えーっと……動くよ、お頭」


 翼が生えた一人は複雑そうな表情でパタパタと翼を動かす。他の者達も自分の毛を引っ張ったり、鱗を摘まんでみたりと試している。


 そうして全てが自分の身体であるとわかった彼らは、オルヴォの言っていたことが事実であることを嫌でも理解させられた。もう自分はヒト種ではなくなってしまったのだ、と。


「まさかマジでヒト種ですらなくなっちまうとはな……けどよ、これまでだってヒト種以下の扱いをされてきたんだ。そう考えりゃ、大したこたぁねぇだろ」

「ふふっ……ふはははは!確かにその通りだ!こうなってしまったからにはどうしようもない。各員、自分の身体について詳しく調べるぞ」


 ただし、彼らの切り替えは素早かった。絶望的な戦いに駆り出されることばかりの贖罪兵にとって、切り替えの早さはとても重要だ。そうでなければ生き残れないからである。


 そもそも贖罪兵は階級外民、即ち帝国では国民として扱われていない。兵士ではなく、武器でしかないのだ。そんな彼らにヒト種でなくなったことは最初こそ衝撃を与えたが、ティガルの言う通り今までと大して変わらないと言えた。


 彼らの首には『隷属の首輪』が嵌められたままなので、許される範囲で闘気や霊力を高めてみる。あるいは変化しろと念じてみる者もいた。色々と試すことで自在に変化させたり戻したりする方法を模索したのである。


 特に早くコツを掴んだのは子供達であった。感覚に依るところが大きい変化は、大人よりも子供の方が得意だったのだ。一部の大人は子供達に教わる形で何とか変化の感覚を掴んでいった。


「ガルルルル……おお、息しただけで獣の唸り声が出ちまうぜ」

「グルルルル……私も同じだ。闘気と霊力が増加している上に、身体能力も増しているし五感が鋭敏になっている。変化すればより強くなるようだな。あの霊術士が言っていた通り、強くなっているのは間違いないだろう」


 ティガルは虎のそれとなった頭部を肉球がついた掌でペタペタと触りながら、自分の口から漏れる唸り声を聞いて自分のことながら驚いている。一方でザルドはオルヴォの言う通りに自分達の力が増大していることに複雑な表情になっていた。


 そうして彼らが体調を確かめていると、獣の如く鋭敏になった聴覚が大部屋に接近してくる者の足音を捉えていた。ティガル達はすぐに変化を解き、まるでついさっき起きたかのような姿勢を取る。誰も何も言わずとも、子供ですらその動きが出来るのは長年の経験と言わざるを得なかった。


「おっ、全員起きてるね。じゃあ、移動させて」

「はっ!ついてこい」


 大部屋にやって来たのは、やはり帝国兵を連れたオルヴォだった。ティガル達は命令に従って二列になって帝国兵の後ろをついていく。彼らが連れてこられたのは、屋敷の地下にある広い空間であった。


 これまでいた部屋よりも広く、同時に天井も高い。入り口の反対側には百を超える数の檻が積み上げられていて、その中にいたのは変化した時のティガル達に似た者達だった。


 ただし、ティガル達と違って檻の中にいる個体は全て狂乱している。彼らは知らないことだが、ここにいるのは全てヒト種以外の魂を使って作られた魔人であった。


「起きてすぐに悪いんだけど、性能テストと同時に不良品の破棄を行うね。これから君たちには向こうにいる不良品と戦って貰うよ。荷台から持ってきた君達の武器があるから好きに使ってちょうだい」


 制御不能の魔人達は、実験としては有意義であったが兵器としては役立たずでしかない。それ故にオルヴォはヒト種の魂を用いて作った魔人の力を確認しつつ、不要となった魔人を処分させることにしたのだ。


 ティガル達はそんな事情を一切知らないが、例え知っていても逆らうことは出来ない。彼らは部屋の片隅に積み上げられた武器を手に取った。


「準備出来たよね?なら始めるよ~」


 オルヴォが気軽にそう言いながら杖で床をコツンと叩くと同時に檻が開け放たれる。すると暴れていた魔人達が檻から勢いよく飛び出した。


 鳴き声と共に突撃する魔人達を前にして、オルヴォ達は全く動じない。冷静に隊列を整えると、ティガルとザルドはそれぞれ先頭に立って武器を構えた。


「ブッ放せ!」

「放て!」


 二人が同時に号令を掛けると、霊術を得意とする隊員と弓矢を持った隊員が一斉に霊術と矢を放つ。一斉射撃は魔人達の出鼻を挫き、その瞬間に前衛の戦士達が斬り込んだ。


 ティガルは先祖伝来の大剣を肩に担ぎ、それを大上段から振り下ろす。これまでの彼ならば闘気で肉体を強化していたとしても重く感じる重量を誇っていた大剣だが、今の彼にとってはまるで木の枝であるかのように感じていた。


「オオオオオオオッ!」

「ギャアアアアアッ!?」


 大剣は真っ直ぐに振り下ろされ、魔人を頭部から股下に掛けて易々と両断する。縦に両断された魔人の死体が床に落ちる前に、ティガルはその間を抜けて次の獲物へと斬りかかる。同じようにルガル隊とカダハ隊の者達は敵を魔人を討ち取って行った。


 しかし、敵の数は彼らの三倍近い数がいる。数の差と広いとは言え限られた広さしかない空間は、ティガル達を追い詰めるかに思えた。


「いい加減にしやがれ!ガルルルルッ!」

「グオオオオオッ!」


 ティガル達は数の差を押し返すべく、オルヴォによって与えられた魔人としての姿へと変化する。全身を毛皮や鱗が覆い、身体が一回り大きくなって身体能力が向上した。


 彼らが本気を出して戦った結果、そこからは一方的であった。戦う技術も理性すらもない魔人達になす術はなく、瞬く間に狩り尽くされる。哀れな魔人達は、同じ魔人達によって始末されてしまった。


「おお!もう魔人形態を使いこなしてるんだね!やるなぁ~、場数が違うって感じなのかな?それじゃあ武器はその場に残してこっちに来てよ。紹介したい魔人がいるんだ」


 オルヴォは楽しそうにしながら再び先頭を歩く。帝国兵と共にその後ろについていくと、そこはまるで牢獄のような場所であった。空の監房が並んでいたが、その一番奥には妙な光景が広がっていた。


 まず目に入るのは、牢屋には相応しくない普通の牛と馬がいることだった。干し草の上で座り込んで気持ち良さそうに眠っている。牢屋には全く似つかわしくない、異常としか言い様のない状況だった。


 しかし、それ以上に異常なのはその牢屋の中にある檻であろう。牢屋の中の檻の中には椅子があって、そこには身体の一部が外骨格に包まれて腰から太い尻尾が生えた一人の魔人が座っていた。


「紹介しよう!彼らは君達の先輩の魔人だよ!特に椅子で寝ているのは最初の魔人……現時点では最強の魔人だね」


 オルヴォはどこか誇らしげに胸を張る。ティガル達の視線が集中した冥王蠍の魔人は、微動だにせず三つの目蓋を閉じたままであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 次々と生まれるショッカー怪人軍団。 脳改造はされてないのでまだマシだろうか…?
[一言] 人外仲間が増えてきましたね そろそろ蠍も少しくらいコミュニケーションがとれるようになると面白いんですけどねー
[一言] 贖罪兵の人達は牛や馬とは違って楽観的って訳ではなく前向きって感じですねー 元が元だけにいつ死ぬかもわからない状態だったわけで人からは外れましたが強くなったことは生きることに繋がりますもんね …
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