再生派
聖騎士を見た途端に武器を抜こうとしたレオだったが、私が何とか落ち着かせた。相手が殺気立った時、普通であれば身構えるはずだ。だが、こちらへ近付いてきた聖騎士は違った。レオの反応は当然だと言わんばかりの冷静さであったのだ。
これはレオがこんな態度をとる理由に心当たりがあるということ。レオと接点がある聖騎士という時点で私が思い付くのは一人だけだった。
「レオ、お前を斬った聖騎士か」
「……そうだよ」
レオは苦虫を噛み潰したような表情で肯定する。以前、転移の罠に捕まって戦い、レオに重傷を負わせた聖騎士。それがこの二人のどちらからしい。決して喧嘩っ早い性格ではないレオがカッとなるのも仕方がないことだろう。
それほどの手練れが反旗を翻した。これは教会内部に大きな波紋を呼ぶこととなるだろう。まあ、既に教会は私の手で致命傷を受けているのだが。
「敵意を見せるまでは抑えろ」
「……もし見せたら?」
「始末するだけだ。聖騎士は信用ならん」
あえて高圧的な言葉を選んだが、言っていることは紛れもない私の本音である。世間一般はどうか知らないが、私達にとって聖騎士とは敵でしかなかったからだ。
それは目の前にいるのがベルナール達をこの土のドームに保護した者達であっても同じこと。それほどに互いの間にある溝は深いのだ。
「わかっていると思うが、こちらに敵意はない」
「はっ!どうだか」
敵意はないことをアピールするためか、聖騎士は二人とも両手を挙げている。ただ、レオは聖騎士が何をしても気に入らないのだろう。普段は絶対にやらないヤジを飛ばすような真似をしていた。
これでは流石に話が進まない。私は無言でレオを咎めるように睨む。流石に悪いと思ったのか、謝ることこそなかったが視線を反らして黙ってしまった。
「失礼。続けてくれ」
「……そこの中にいる者達から聞いたかもしれないが、我々は今の教会が間違った方へ向かっていると考えている。そしてそれを是正すべく活動を開始した」
「改革派ということか?」
「改革、ではない。本来あるべき姿に戻そうとしているのだから、再生派とでも言えば分かりやすいか」
私に教会の本来あるべき姿というものは分からない。だが、教会が大陸西部で広く支持されているのは彼らの正義に支持を集めるだけの説得力があったからに他ならない。
大きく変わってしまった教会を、かつての姿へと戻すこと。それは確かに改革派とは言えない。ここからは再生派と勝手に呼ぶとするか。
「その再生派の数は?」
「各地に点在する聖騎士達へ呼び掛けている。実際、正道へ戻すべく多くの聖騎士達が応えてくれた。数の上ではこちらの方が上回っているだろう」
話半分に聞くとしても、再生派の人数は徐々に増えているらしい。この街に潜入した時も、自分の正義と教会の方針の違いに苦悩する聖騎士を見かけた。生きていれば再生派へ加わるに違いない。
教会には己の正義を掲げる者達が多くいたようだ。狂信者ばかりで自分の正義を押し付けることしか考えていないというのは偏見だったのかもしれない。
「数を集めて何をするつもりだ」
「まず、この戦争を終わらせる。その後は新たな団体を創設する」
「戦争を?どうやって?」
「正道を見失った我が神を説得する。諫言をお聞き入れ下さらないのなら……我らの手で討つ」
……どうやら再生派の覚悟は私の想像を遥かに越えていたらしい。黙っただけでずっと嫌悪していることを隠そうともしていなかったレオですら、呆然と二人を交互に凝視していた。
神を、それも神殿騎士となってまで自分が信奉している主神を討つ。ただの力自慢が神に挑むのとは根本的に異なる、明確な神への叛逆行為である。神への叛逆という汚名を被ってでも止める。それほどの覚悟を決めているのだ。
「再生派の覚悟は理解した。ただ、お前達の目的を果たすことは無理だぞ」
「無理だと思われることはわかっている。我が神はヒト種だった頃から英雄と呼ばれる強者だった。数を揃えたとて勝てる可能性は低いだろう。だが、我々はやらねばならない。例え玉砕することになったとしても、正すべきだという自分の正義に背は向けられないのだから」
聖騎士は力強くそう語った。勝てる勝てないではなく、自分達の信念を通すためにはやらねばならない。彼らの覚悟には元が敵ながら天晴と言わざるを得なかった。
ただ、私は彼らに言わなければならないことがある。それが彼らの覚悟に水を差すような真似であっても、話しておかなければ後々にややこしいことになるのは確実であるからだ。
「いや、そうではない。お前達の実力も何も関係ない。『正義の神』はすでに私がこの手で討ったからだ」
「「「…………は?」」」
私はこれ以上ないほど簡潔に述べたのだが、三人は何を言われているのか分からないとでも言いたげな表情で呆けてしまった。気持ちは理解出来る。仮に私が彼らの立場であれば、同じ反応をしていたはずだからだ。
まだ三人は呆けているものの、私はどういう経緯で『正義の神』を討ったのかについて詳しく語った。転移させられたこと、ガイウスの孫と取り巻きのこと、そして『悪戯の古神』様のこと。一切の嘘と誇張を交えずに語ったのだ。
「え?ちょっと待って……アニキ。ひょっとしてさっきの兄ちゃんって……?」
「ああ。『悪戯の古神』様だ」
最も早く立ち直ったのはレオだった。彼は先ほどジュードだった氷の中から神の遺物を回収した御方が誰だか察してしまったようだ。
普通であれば疑問が氷解すれば納得するものだが、レオの顔はむしろ真っ青になっている。気持ちは分かるぞ。世界の創生と共に存在すると言われる偉大な神に向かって刃を向けそうになったのだから。
気にするな、と言っても無理だろう。驚く姿を楽しんでおられるし、何なら私だろうがレオだろうが傷付けることすら出来ない御方なのだから。だが、これを言ったら言ったでレオは何とも言えない表情になるのは考えるまでもない。余計なことは言わないでおこう。
「嘘だと思うのならそれでも良い。後で知るだけだからな」
「……信じよう。にわかには信じられない内容だが、すぐに分かる嘘を吐く理由がない。それに古神様の名を幾度も出してまで虚言を吐くなど、天罰が下ってもおかしくない冒涜だ」
聖騎士は私の言葉を信じることにしたらしい。彼の言う通り、真偽は確かめればすぐに分かることだ。信じさせることに労力を割くつもりはなかったので、話が早く進むのはこちらとしても助かった。
「だが、困ったことになった。我らには自らの手で教会を正道に戻すべく戦ったという事実が必要だったのだ。仮に我々が玉砕しても、戻そうとした者達がいたことを世に示すつもりだったのだが……」
聖騎士達は戦いの勝敗に限らず、戦わなければならなかったらしい。彼らの計画の前提を私が知らず知らずの内に破壊してしまったようだ。
私にも私の事情があったし、生かして降伏させるような真似が出来るほど『正義の神』は弱くなかった。私に責任はないはずだ。だが、それでも私は彼らに対して罪悪感を抱いてしまっていた。
「なあ、アニキ。アニキはその神さんを倒したってのを自慢したい?」
「ん?いや、別に。武勇を誇ったところで私の立場では良いことなどないだろう」
レオの不思議な問いに私は正直に答えた。手助けがあったとて、神を討ったとなれば必ず面倒なことになる。嘘だと疑う者や、己の武勇を示すべく私の生命を狙う者が現れるのは確実だからだ。
「だったらさ、こういうのはどう?」
私の意思を確認したレオは一つの提案をする。それを聞いた私と聖騎士達は熟慮した後、修正を加えた後に採用することになるのだった。
次回は7月22日に投稿予定です。




