街の外では
『悪戯の古神』様は目的を果たしてその隔絶した力を見せつけた後、さっさと消えてしまった。やりたい放題やってから素早く去っていくとは、まるで嵐のような御方である。
まあ六柱しかいない古神の一柱なのだ。最早そういう現象なのだと思った方が良いのかもしれない。神々の中でも別格なのだと思い知らされる体験をしたこともあり、私はそうやって自らを納得させつつあった。
「なぁ、アニキ。さっきの人は何者なんだ?」
一方でレオは私と同じように納得することは出来なかったらしい。無理もない。レオにとっては唐突に現れた私の知り合いらしい謎の人物が、やりたい放題やってかき消えるように去っていったのだから。
「その答えは後だ。外に急ぐぞ!」
「外って、あの人が言ってた?」
「ああ、その通りだ」
『悪戯の古神』様は司る概念からして完全なる善性の持ち主ではない。こちらに送ると言いつつ、私でなければ死ぬ高度から落とすようなことをされる御方なのだから。
だが、『正義の神』が言うような邪神や悪神でもないと思っている。少なくとも、幾度となく陰ながら助けられた私にとっては邪悪な神ではなかった。
それに、嘘を吐いているとも思わない。あえて勘違いされるような言い方で翻弄することはあっても、明確に嘘を嘘を吐くような方ではないと思うのだ。
無論、これは私の主観であり、同時に直感でもある。だが、あながち外れてはいないだろうという確信もあった。それ故に一刻も早く外へ行くべきだと考えたのである。
私に急かされたことで、レオは仕方なく大剣を鞘に納める。その後、私達は街を脱出すべく移動を開始した。
こう言っては不謹慎だが、ジュードが街の一般人を巻き込む形で大規模な霊術を使ったせいで近くに生きる者の気配はない。私達のことを見ている者は誰一人としていなかった。
「うわぁ……やっぱり酷いことになってるな、アニキ」
「ああ。戦場で見慣れた光景だが、見ていて気持ちの良いモノではないな」
本来であれば慎重に移動することが求められたはずだが、もはやこの街で脱出する私達を咎める余裕のある者自体が存在していないらしい。何故なら、街中が混沌としていたからだ。
まず、街のいたる所で戦闘が起きている。聖騎士と傭兵、それに街の衛兵まで加わっての三つ巴だ。聖騎士と傭兵はともかく、どうして街の衛兵まで聖騎士と対立しているのか?それはこの街に住む者達の総意とも言えるからだ。
聖騎士がここに駐屯するだけなら許せる。だが、兵器として無理やり動かすための死人を街の外にズラリと並べられているのだ。不気味であるし、こんな非道な兵器を用いる者達への嫌悪と軽蔑、それ以上に不信感が限界まで高まっていたのである。
それに、起きているのは戦闘だけではない。戦闘の余波による街の破壊、戦闘以外にも様々な要因から起きたであろう火事、そして火事の混乱にかこつけた火事場泥棒……誰も彼も自分のことで手一杯だったのだ。
「さて、外に急げとのことだったが……これは、どうなっている?」
「聖騎士が同士討ちしてる?何で?」
結局、私達は誰かに見咎められるどころか、全く隠れずとも見つからずに城壁の上までたどり着いた。衛兵は城壁内のことで手一杯なのか、城壁の上の通路は警備がなきに等しい。私達は堂々と外の様子を観察することができた。
すると外では聖騎士の集団同士が激突しているではないか。と言うか、聖騎士の総数が増えているような気がする。何がどうなっているのか全く分からなかった。
「いや、最優先するべきはベルナール達の安否か。探すぞ、レオ」
「ああ!」
聖騎士について考えるのは後だ。私とレオはそれぞれの五感を研ぎ澄ませてベルナール達の気配を探る。すると、苦しげではあるが彼らの息遣いを確かに聞き取れた。
それはレオも同じことだったらしい。私達は城壁から飛び降りると、その声が聞こえる方へと駆け寄った。
「ベルナールさん!」
「良かった。生きていたか」
「良かった、のですよね。はは、また生き残ってしまいましたよ」
ベルナールは生きていた。彼の他にも数人の戦士達が生き残っている。彼らは霊術によって築かれたらしい、土のドームの中で横たわっていたのだ。
生き残りがいたことは素直に嬉しい。だが、これだけの数しか生き残っていないことを忘れてはならない。生き残りを含めて全員が死に場所を求めていたのだ、誰も彼も無茶な戦い方をしたのだろう。私はため息を吐きたくなるのをグッと堪えた。
そして生き残ったベルナール達もまた、かなりの重傷だ。応急処置をしなければ死んでしまいそうな者もいる。私達は粛々と応急処置を行なった。
嫌がられるかとも思ったものの、ベルナール達は治療を素直に受け入れていた。反発する体力もないのかもしれない。助かる生命を無駄にせずに済むようだ。
「ベルナール、外はどうなっているんだ?聖騎士同士が戦っているようだが……」
「ああ、そのことですか。不甲斐ないことに、私達は彼らに助けられたのですよ」
私は外で起きていることについてベルナールに尋ねる。すると彼は横たわったまま何が起きたのかを語り始めた。
私の思った通り、ベルナール達は生命を惜しまない戦い方で暴れていたらしい。一人、また一人と生命を失い、ベルナールも深い傷を負った。次は自分の番かもしれない。そう思った時、鬨の声を挙げて聖騎士の一団がやって来たという。
ここで増援が来たのか、と最初は絶望したという。だが、彼らは聖騎士に対して戦闘を止めるように訴えかけたのだ。
「その上で彼らは言いました。今の教会のやり方は間違っている。これを是正しなければ、正義を名乗る資格はないと」
「へぇ~。マトモな奴って結構多かったんだな」
教会のやり方に疑問を抱く者達はこの街にもいた。そんな者達が集団となって教会に反旗を翻したということ。パッと見ただけでも、それなりの人数が揃っていたので前々から準備は始まっていたのだろう。思っていた以上に教会には真っ当な者達がいたようだ。
彼らの呼びかけに動揺した者もいたとベルナールは語る。だが、大多数は神に逆らうのかと激怒したらしい。そしてベルナール達を放り出して聖騎士同士で戦い始めたのだ。
「その後、やって来た者達の一部がここを作って我々を収容したのです。私が知っているのはここまでですね」
「聞かせてくれてありがとう。さて……」
ベルナールの話を聞きながら応急処置を終えた所で、私は土のドームの外へ出る。聖騎士同士の戦いは決着がついたらしい。戦闘の音は鳴り止んでおり、今は部隊の再編成を行なっている。やはり大陸でも最大規模の神殿騎士団ということもあって、帝国軍に勝るとも劣らない練度であるようだ。
勝利した集団から二人の聖騎士がこちらへ歩いてくる。武器を抜く素振りを見せていないので、きっと土のドームを作った方が勝ったのだろう。ひとまずは安心したと言っても良いだろう。
こちらに来るということは、動ける私が応対しなければなるまい。ただ、そんな私は彼らの信仰する神を討った者。それをどう説明したものか。
「失礼。貴方が……」
「あー!お、お前っ!」
「君は……!あの時の!」
「待て待て!やめろ!」
そんなことを考えていると、私に遅れて外へ出てきたレオが大声を出しながら聖騎士の一人に指を差す。さらに武器へ手を伸ばそうとするレオを私は慌てて押さえ付けるのだった。
次回は7月18日に投稿予定です。




