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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第七章 大陸騒乱編
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『正義の神』の弱点

 『正義の神』に、本物の神に向かって自らの意志で刃を向ける。神の末裔などではなく、力を剥がれたとは言え本物の神を相手に。教会の信徒から見れば、とんでもなく不敬かつ不遜な行為であろう。


 だが、これは自分と仲間達を守るために必要な行為だ。今、ここ以上にこの傲慢極まる神を討つ好機はない。故に、ここで確実に討ち滅ぼすのだ。


「シッ!」

「舐めるな!」


 相手は神であり、私に油断をしている余裕などあるはずもない。最初の一太刀で決める、という勢いで双剣を振り抜いた。


 だが、『正義の神』は苛立ちも露わに光の剣で弾く。二方向から迫る刃を、たった一振りで両方弾いたのだ。その力は尋常ではなく、私は後ろに押し返されてしまった。


 神というだけあって、力を削がれようと闘気で強化された身体能力は私を凌ぐらしい。だが、一太刀で双剣を両方弾いたことは、ただの動体視力や反射神経だけでは説明がつかない。間違いない。この神には、確かな技量が備わっている!


「『正義の神』アンドリュー・マリウス。正義感の強さと天才的な武芸の腕に裏打ちされた、圧倒的カリスマで多くの戦士が忠誠を誓った。凶暴な害獣から多くの人々を守り、数多くの凶悪な犯罪者や犯罪組織を討ち取った。その功績は人々に慕われるという次元を越えて、信仰されるまでに至った……ってのがアンドリュー君の昔話さ」


 斬り結ぶ私と『正義の神』を見物しながら、『悪戯の古神』様は説明口調で解説してくれる。教会の持つ戦力については聞いていたが、神に至った経緯は全く知らなかった。


 何せ、向こうから私を敵だと認定しているのだ。私にとっても敵でしかない。それに今のように神と直接的に殺し合うことになるなど、想定してすらいなかった。調べるという発想にすらならなかったのである。


「だから、アンドリュー君の強さは本物だよ。確か……あ~……ド忘れしちゃった!でも、大丈夫!こんなこともあろうかと!ジャジャ~ン!ここの聖典を用意してたんだ!」


 『正義の神』の強さについて具体的な例を挙げようとした『悪戯の古神』様だったが、エピソードを忘れてしまったという。しかし、懐に手を入れるとどう考えても懐に入るはずがない分厚さの書籍を取り出した。


 恐らくは『正義教会』の聖典なのだろうそれは、表紙にも背表紙にも何も書かれていない。完全な無地であった。『悪戯の古神』様はその聖典をパラパラとめくっていく。すぐ側で刃が激突していると言うのに、ページを捲る音はやけに耳に大きく聞こえていた。


「これ、無駄に重いし分厚いんだよねぇ。こんなに分厚い聖典、そうそうないよ?でも、きっとアンドリュー君の華々しい活躍が記録されて……おっ、ここっぽいかな。ええと、何々……あれ?アンドリュー君、ここ間違ってるじゃ~ん」


 『正義の神』の強さについての記述を見付けた『悪戯の古神』様だったが、その内容が間違っていると声を上げた。その瞬間、目の前の『正義の神』の動きが一瞬だけ止まったのを私は見逃さない。私は『正義の神』に尻尾の毒針を突き刺そうとした。


 狙ったのは意識を向けにくい下半身、それも足首だ。『正義の神』が着ている服は高級そうではあれど鎧ではない。奴にとっても今の状況はイレギュラーであり、防具を装備しているはずもなかろう。


「なっ、刺さらないだと!?」

「鬱陶しい!」


 だが、私の毒針が『正義の神』の肌を貫くことはなかった。闘気で強化していることは知っていたが、私の予想を上回る強化幅だったらしい。今の感覚から考えて、毒針を刺すには柔らかい部分、具体的には首筋などを狙わない限り刺さることはないだろう。


 貴重な隙を無駄にしてしまったことに舌打ちしながら、尻尾が斬られないように素早く引き戻す。『正義の神』は忌々しげに私と背後の『悪戯の古神』様を交互に睨んでいた。


「ここに『醜悪で凶暴な獣を狩った』ってあるけど、これって観光に来てた他の星の神の子供をやっちゃったヤツでしょ?あの種族はとって穏やかな性格なのに……見た目だけで判断しちゃいかんでしょ」


 どうやら『正義の神』の偉業や教義が記されている聖典に虚偽の記載があるらしい。恐ろしい見た目の生物を討ったのは事実でも、実は功績というよりも汚点だったようだ。


 それにしても、他の星の神か。生物が暮らす星があり、そこに座する神がいるということは知っていた。だが、同時に自分には関係のないことだとも考えていた。


 しかし、他の星の神々の関係者は娯楽としてこの星に来ることがあるとは知らなかった。これを酔っ払いが言ったのであれば聞き流しただろう。だが、『悪戯の古神』様という創世の時代から存在する神様の言葉なのだ。ならば真実であるに違いない。


「あの後は大変だったなぁ。ブチギレた親がこっちに来そうになったんだよねぇ……まだ君が神じゃなかったってことで何とか宥めたんだけど、場合によっちゃ大陸一つくらい消し飛んでてもおかしくなかったんだよ」

「……」

「はは~ん?さては、こういう風に事実を歪めてるところが結構あるね?そっか!だからネルちゃんにも嫌われてるんだ!あ、ちなみにネルちゃんってのは『真実の女神』のことだよ、アンタレス君」


 『悪戯の古神』様は納得したとばかりに何度も頷いていた。自分の権威を高めるために、事実を捻じ曲げる。これ自体は当たり前に行われていることだ。


 しかし、それを人々から信仰される神がやるのはいかがなものか。神々について詳しくない私は『真実の女神』様について存じ上げないが、これでは嫌われるのも当然だ。


「我を蔑むか、邪悪の分際で!」

「ぐっ……ぬぐぅ……!」


 私が内心で軽蔑したことを察したのだろう。『正義の神』は激昂して激しく攻勢に出た。私は必死に防ぐが、完全には防ぎきれない。霊術で作られた光の剣は私の外骨格を容易く斬り裂いた。


 傷は浅いものの、傷口からの出血は馬鹿にならない。私は持てる技術を全て費やして防御に徹する。傷だらけになりながらも、致命傷を受けることだけはないように守り切った。


「がんばれ~!アンタレスく~ん!格上を喰って来た君なら勝てるよ~!」


 背後から聞こえてくる『悪戯の古神』様の応援が耳に届く。必死に防ぎながらも、私はふと気になった。どうして私は守り切れているのだ、と。


 『正義の神』の剣術の腕は格上なのだろう。なのにギリギリで反応し、防御が間に合っている。これは『正義の神』にとっても予想外なのか、その表情には苛立ちが強く表れていた。


「おおっ?アンタレス君が傷を負わなくなった?」

「このっ……!しぶとい!」


 反撃に出ることが出来てはいないものの、いつしか私は『正義の神』の斬撃を防ぎ切ることが出来るようになっていた。『正義の神』の顔には苛立ちだけでなく焦りも浮かんでいる。私に粘られている理由が理解出来ないようだ。


 私がこの短い期間で成長した、などと都合の良いことは起きない。では何故、身体能力でも剣術の腕前でも劣る私が防げるのか?それは、『正義の神』の太刀筋があまりにも素直だからだ。


 確かに、剣を振るった時の鋭さや重さは目を見張るものがある。同じ重さと長さの剣を渡されたとして、同じことが出来る者はゼルズラに存在しないだろう。


 全てが洗練された必殺の一撃ではある。全ての動きが自然と最適な動きなのだから、確かに天才としか言いようがない。しかし、それだけだ。素早く、正確で、最適な動きで急所を狙うからこそ、次の一手が簡単に読めてしまうのだ。


 今は動きに慣れてきたから傷を負わなくなった。それ以前も、最も狙われると急所を反射的に守っていたから直撃を免れることが出来たのだ。


 魔人の身体能力があるからこそ防げているが、それがなければ私も防御が間に合わずに斬られていたに違いない。おそらくだが、『正義の神』は天才だったが故に苦戦したことがないのではなかろうか?どんな敵も最適な動きで屠って来たからこそ、それで倒せない相手への対処が思い付かないのではないか?


「何故だ!何故、防げる!?」

「いや、ホントに何でだろうね?僕、戦いは専門外だから分かんないや」


 ……涼しい顔で軽々と『正義の神』を圧倒していた御方のことはともかく、『正義の神』の焦りはどんどん大きくなっている。私の予想が正しいとすれば、これは唯一にして明確な弱点と言えた。


 これを突くより他に勝ち目はない。当然、危険は伴うが……やらなければ殺されるだけだ。私は死の恐怖に抗いながら、勝つために動く決心を固めるのだった。

 次回は5月31日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
真実を捻じ曲げた話でできてる聖典って聖典とは言えないよね。 他の神たちがそれを今まで放っていたのって、同罪じゃないのかなあ?
いつも楽しく読ませていただいております。 「悪戯の古神」は「正義の神」を正義感が強い天才と持ち上げておいてすぐに落としていて笑っちゃいました(笑) まあ正義wのやらかしが原因なんですけどね。
正義の神が嘘つくのはねぇ。 このまま倒して、邪神名義で世間の集合知にしてやって欲しい。
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