ガイウスならどうしたか
私は顔を動かすことなく、右手に持つ白剣を見る。これは元はガイウスの剣であり、オルヴォに回収された私に突き刺さっていたモノだ。
今でこそゲンバによって再加工されて、かつての私の鋏と共に一対の双剣になっている。だが、この刃は一度は私を瀕死の重傷に追い込んだ。これを見ているとガイウスとの戦いの記憶が蘇ってきた。
「お前の祖父、ガイウスは強かった。私が生を受けてより、最初に出会った強いヒト種だ」
「何を……」
「私は生き延びるために取れる手段を全て使った。ガイウスよりも力量で劣る聖騎士達を盾に使い、極力正面から戦うことを避けたのだ」
当時の私ではどう足掻いてもガイウスには勝てなかった。それ故に味方を巻き込みたくないという心理を利用し、つけ込み、無理やり作り出した隙をついて相打ちに持ち込んだのだ。オルヴォに拾われていなければ、私もあの場で野垂れ死んでいたことだろう。
私の独白を聞いたガイウスの孫は、大きく目を見開いてからこれ以上ないほどに瞳に憎悪を滾らせる。そして長剣の切っ先を私に向けた。
「卑怯者め!祖父の善意につけ入るとは!」
「殺し合いだぞ?卑怯も何もあるものか。私は死なないために、勝つために最善を尽くしただけだ。ガイウスもそれは認めていたぞ」
ガイウスの孫は私を罵るが、彼の糾弾は私に何の痛痒ももたらさない。私とガイウスは試合ではなく、お互いの生命を奪うために戦った。そのために最善を尽くすのは当然のことであろう。
そしてそれは間違いなくガイウスも同意するはず。その根拠は最期の言葉が私を見事だと称賛する言葉だったこと。卑怯だの卑劣だのと思っていたのなら、恨み言を遺していたに違いあるまい。
「いけしゃあしゃあと……祖父をわかったような口を利くな!」
ガイウスの孫は激昂したのか、再び私に斬り掛かって来る。その勢いと気迫は先程よりも強いが、同時により動きは直線的になっていた。
それ故に追随しようとする傀儡兵の動きも単調にならざるを得ない。援護の霊術も動き回る味方を巻き込まないためか、威力よりも手数を重視したモノばかりが飛んでくる。激しい攻撃にさらされているように見えて、実は先程よりも対処は楽になっていた。
逆にガイウスの孫の顔には明らかな焦りが浮かんでいる。それはそうだろう。奴の目からすれば、六対一でずっと攻め続けているのに崩れないのだから。
「かくなる上は……ハアアアアアアッ!」
このままでは埒が明かないと思ったのか、ここでガイウスの孫は初めて自分から後ろにさがった。そして長剣を上段に掲げて霊力を纏わせていく。すると長剣は白く輝き始めた。強力な一撃を私に叩き込もうと目論んでいるに違いない。
ただ、ガイウスの孫が抜けたということは傀儡兵化した聖騎士だけで私の相手をするということ。傀儡兵は生前の技量を保っているが……ガイウスの孫は忘れているらしい。六対一でようやく私と渡り合えていたということを。
「……」
「……」
「悪く思うなよ」
ガイウスの孫がいなくなったことで、私と斬り結んでいるのは傀儡兵化した聖騎士二人だけ。その技量はガイウスの孫に及ばない程度でしかない。ならば私の敵ではなかった。
左右から迫る白刃を双剣で弾き、尻尾の毒針を片方に深く突き刺す。あれだけ傀儡兵の処理を行ったのだ、どこに例の球体が入っているのかは大体の予測はつく。毒針の先端から何か硬い物体を貫く感触が返ってきたと同時に、その聖騎士は機能を停止して動きを止めた。
ただ、流石にもう一人を始末する時間はなかったらしい。ガイウスの孫は眩い輝きを放つ長剣を振り上げる。それで私を斬り裂こうという算段なのだろう。私は残った聖騎士の長剣を弾いてから胸に双剣を突き刺した後、聖騎士を力任せにガイウスの孫目掛けて投げ付けた。
「っ!?滅びろ、化け物め!」
自分に向かって味方が飛んでくるという状況で、ガイウスの孫が驚いたのは一瞬のこと。彼は驚いただけであって、一切の躊躇はなかった。彼はその場で長剣を振り下ろした。
長剣の間合いではなかったのだが、振り下ろすと同時に眩い霊力の刃が放たれる。霊力の刃は真っ先に聖騎士の亡骸を飲み込んだ後、神殿の内部は光の奔流で溢れかえった。
「ハァ……ハァ……これで……っ!?」
「……そう来ると思ったぞ」
ガイウスの孫は肩で息をするほどに消耗している。それだけのことはあり、霊力の刃は神殿の床ごと私がいた場所をゴッソリと抉り取っていた。直撃していれば無事ではすまなかったことだろう。
だが、私は聖騎士を投げた後に小細工をしておいた。砂で私の姿を模した人形を作り、私自身は床を這ってガイウスの孫に密かに接近していたのだ。
「っ……かっ……!」
私はガイウスの孫の首筋に毒針を打ち込む。彼はビクリと痙攣してからその場で膝を付いた。生かしてあるのは慈悲ではない。残された霊術で援護していた聖騎士対策であった。
私は双剣を鞘に納めると、ガイウスの孫の首を鷲掴みにして盾にする。すると聖騎士達は、いや傀儡兵達は攻撃できない。何故なら彼らはガイウスの孫を援護するように命令された傀儡兵だからだ。
これが傀儡兵同士であれば、私を討つためにガイウスの孫ごと霊術を放っていたことだろう。だが、最初の一撃を除けばガイウスの孫を巻き添えにすることを避けている。彼を傷付けるなと命じられていると想像するのは容易いだろう。
現にガイウスの孫を盾にするだけで霊術を一切放たなくなった。どうやら、最初の一撃で自分も燃えかけたのはガイウスの孫のミスだったようだな。
「感覚は麻痺していても聞こえているな?お前が祖父であるガイウスを尊敬しているのは伝わってくる。だがな、今のお前を見たガイウスはきっと嘆くだろうな」
「な……にっ……を……」
「ガイウスが実力に劣る私に何故、後れを取ったのか。それは仲間を巻き添えにしたくなかったから。仲間を死なせまいとしたからだ」
ガイウスは仲間想いの人格者だった。彼の人望は実績や実力だけでなく、仲間を見捨てないという部分から来ていたに違いない。少なくとも、私はそういう人物でなければ従う気になれないだろう。
「翻って、お前はどうだ?仲間が傀儡兵に……動く屍になることを止めるどころか、素晴らしい行為であるかのように称賛した。にもかかわらず、好機と見れば称賛した者の亡骸ごと私を討とうとしたな」
「そっ……れ……は……」
「あの状況、ガイウスであればまず亡骸を受け止めていただろう。いや、そもそも動く屍などという技術そものに反対していたのではないか?」
ガイウスを殺した張本人が言うのも変かもしれないが、私はきっとそうするだろうという確信があった。少なくとも、あの時の私はガイウスが仲間を大事に扱うという前提の下に戦術を組み立てていた。それで勝利したのだから、私は間違っていなかったはずだ。
「お前はガイウスの仇を討つという大義名分で、ガイウスが忌み嫌うであろう行為を行った。そこに本当に正義があるのか?」
「く……は……」
「そもそも、お前達のどこが正義なんだ?正義とは誰が定義するんだ!?」
私はガイウスに怒鳴るようにして問いかける。彼が私の毒で麻痺しているのだから、返答など全く期待していない。それでも私は問わずにはいられなかったのだ。
ぞぶり
加減を誤ればガイウスの孫の首を握り潰してしまいかねないほどの力で締め上げていると、私の胸の辺りからそんな音が聞こえた。不思議に思って視線を下に向けると、私の胸から一本の剣が生えているではないか。身体から急速に力が抜けていき、私はその場で膝を付くのだった。
次回は5月15日に投稿予定です。




