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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第七章 大陸騒乱編
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人形師暗殺

 レオがわざと目立つように建物から飛び出した後、私は可能な限り気配を消しながら天井に張り付いて振動を感知して建物の内部にいる気配を探ってみる。まず、建物の一階に生存者は私以外にいない。地下にいる私が麻痺毒を注入した者達は幸運なことに生きているようだ。


 建物は三階建てらしく、二階に詰めていた聖騎士の多くがレオを追い掛けて出撃していく。そのせいで二階はかなり手薄になっていた。


 私にとっては都合が良い状況だ。だが、その分レオの負担が大きくなっている。可能な限り速やかに人形師共を排除しなければなるまい。


「……二階はもう誰もいない。代わりに残った連中は三階に上がったようだ」


 ただ、敵も無能ではないらしい。残っていた二階の聖騎士は全員が三階に上がり、人形師の護衛に回ったのだ。レオが陽動である可能性にもキッチリと対応していた。


 恐怖からかパニックになっている人形師達を密かに始末することは不可能だろう。不安にさせないために聖騎士が部屋から出ることはないからだ。だが……むしろ悪くない状況とも言えた。


「怯え過ぎだろう。無軌道に霊術を使おうとしたのか」


 人形師共は恐怖に抗うためか、自分を守るための霊術を発動しようと霊力を高めている。自分可愛さから発動していることもあるのだろう、どう考えても過剰な霊力が発せられていた。まるで戦場かのように霊力が吹き荒れていて、人形師のいる部屋は私でなくても丸わかりであった。


 その勢いは霊力に関する私の感覚がおかしくなりそうなほど。仮に振動から感知する技能がなければ、霊術士同士で争っていると勘違いしそうだ。


 なのに霊術自体は使われていない。どうやら霊術同士が干渉して不測の事態が起こることを嫌がった聖騎士達が止めたようだ。


 だからこそ、私にとっては都合が良い。今ならば接近するだけでなく霊術を使っても発覚し辛いのは間違いないからだ。やり取りから察するに、どうやら人形師共は聖騎士を信頼していないらしい。だからこそ分散せず、一つの部屋に集まっているようだった。


 この最高の機会を逃す訳にはいかない。私は音を立てずに天井を這ってレオが開けた穴から外に出る。そして壁を這って人形師共が固まっている部屋の壁に張り付くと……部屋の内部から明らかに私を目掛けて剣が飛び出して来た。


「気付かれたか。何かの道具の効果か、それとも護衛は気配に敏感な者が選抜されていたか。方法はどうあれ、もう関係ない……行くぞ」


 部屋の中は霊力が戦場のように荒れ狂っているはずなのだが、気配を消した私の位置を正確に狙って剣を突き刺していた。何らかの方法で私がいると確信を持っていなければやれない行為だろう。


 バレたのなら、もうコソコソと隠れる必要もない。私は闘気を高めて身体能力を強化して、剣が突き刺さった辺りの壁を固く握り締めた拳を叩き付ける。人形師も聖騎士も壁の強化などはしていないのは、剣が貫通したことからも明白だったからだ。


 私の渾身の一撃は想定通り壁を粉砕した。この時、壁の向こうにいた剣を刺した人物の頭部もまとめて粉砕してしまったらしい。室内は瓦礫と粉塵に混ざって真新しい血も飛び散っていた。


「ヒイィィィ!?ぞっ、賊だっ!」

「助けてくれぇ!」


 砕けた壁から室内に突入すると、前に見た連中と同じ格好をした人形師共が怯えながら一ヶ所に固まっている。戦場で見かけた霊術士であれば一瞬で防御の霊術を展開するのだろうが、聖騎士に止められた時から何も変わっていない。やはり戦闘に慣れていないようだ。


 この混乱に乗じてさっさと斬り捨てる、という訳にもいかない。何故なら私と人形師共の間には既に聖騎士が割り込んでいるからだ。


「あれは、まさか!?」

「神敵だ!討ち果たせ!」


 ……ああ、そうか。そう言えば私は名指しで神敵扱いされているのだったか。私だけでなく周囲も教会の悪行にばかり目を向けていたこともあって、そんなことは頭から抜け落ちていた。


 侵入者が私だったからだろうか、聖騎士達がそれぞれの得物を抜いてこちらへ向かってくる。他の聖騎士達も意識は完全に私に向いていた。どうやら、私を討ち取ることは人形師共の護衛よりも優先されるようだ。


「こうまで都合が良いと、逆に怖くなってしまうな」

「痛っ!何が……?」

「蠍、か?え……あ……?」


 聖騎士の視線と意識は完全にこちらに向かっている。さらに護衛対象のはずの人形師共は、怯えながらも聖騎士が間に入ったことで安堵の表情を浮かべて霊術の守りを解いていた。


 それ故に、私の仕込みに反応できる者は誰一人いなかった。拳で壁を殴り砕いた時、どさくさ紛れに砂で小さな蠍を作っていたのだ。その砂には私が分泌可能な中で最も強力な猛毒が染み込ませている。ごく僅かであろうと傷口から体内に入れば最後、決して助かることはあるまい。


 苦しみ始めた人形師共を見て異常事態だと察したのだろう。聖騎士の一部は慌てて駆け寄っている。だが、もう無意味だ。あの猛毒を解毒するには、ジョナサンが調合した専用の解毒薬を即座に傷口に塗り込む必要があるのだから。


 聖騎士が駆け寄った時には、間違いなく人形師共は全員死亡している。これで私達の目的は完遂された。後はここから脱出するだけだ。


「この霊力は!?」

「……正気か?」


 後は自分が空けた穴から飛び降りてレオと合流し、ベルナール達がまだ生きていればなるべく連れ帰る。そんな計画を立てた直後、街から膨大な霊力が膨れ上がった。


 これは一階を凍て付かせたのと同じ、いやさらに範囲を広げた霊術に違いない。街の住民を巻き込むことになるのではないか、と疑問に思いつつも踏み込んできた二人の聖騎士が振り下ろす刃を冷静に双剣で防いでいた。


「正義のために!」

「滅せよ、神敵!」


 一方で聖騎士達の連係も見事であった。私に斬り掛かった者達は複数人で戦うことに慣れているらしい。動きを合わせて左右から挟み込むように立ち位置を調整したり、片方の背後という死角からいきなり刃が飛び出したりと多彩な攻めを見せていた。


 ここが室内という狭い空間であることが私に有利に働くようにも思えるが、実は一概にそうとも言えない。同時に私を攻められるのは二人が限度であるが、残りの聖騎士も霊術で援護して私を殺しにかかっているからだ。


(これ以上付き合う必要もない。隙を見て脱出……後ろだと!?)


 目的は果たしていることもあり、私が空けた穴から逃げ出す機会をうかがっていると、何の前触れもなく背後に一人の聖騎士が現れたではないか。その聖騎士は太めの刺突剣を私の首筋目掛けて突き刺そうとした。


 私は背後が見えていて気付けたので、不意打ちとしての効果は完全とは言い難い。だが、同時に完全に回避することは出来なかった。刺突剣も業物なのか、私の外骨格を貫いて深々と突き刺さっている。ここまでの痛みを感じるのは久々であった。


「危ないところだったぞ」

「ゴボッ……!」


 ただし、私の背後に回るということは、必殺の毒針から近い位置に自ら行くということ。首筋に刃を突き刺されながらも、反撃として私は毒針を奇襲してきた聖騎士の喉に突き刺したのだ。


 聖騎士の生命はすぐに尽きる。喉を貫かれたことで気道が血で溢れて溺れているし、何よりも人形師共に使ったのと同じ猛毒が体内に入った。どう足掻いても助からない。なのに……何故か、その聖騎士の顔には会心の笑みが浮かんでいるではないか。


「霊術!?この感じはオルヴォの……!」


 瀕死の聖騎士から霊力が高まったかと思った次の瞬間、視界が真っ白に染まるほどの閃光に包まれ……気付けば私は見覚えのない建造物、恐らくは神殿の中に立ち尽くしているのだった。

 次回は5月7日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
オルヴォ?  オルヴォがこんなところにいるはずないんだけど? 私は違う者を想像していたんだけど、どうなんだろう。 とりあえずはレオもアンタレスも生きてるけど。
護衛が我を忘れちゃダメでしょ しかし最後っ屁で何処かに飛ばされたのかなこりゃ まずそうだ
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