レオVSジュード
「チッ!さっさと死ねよ、混じり野郎!」
「ぐぅっ!」
大勢の住民が凍死した街の上で、レオとジュードは激しく刃を交えていた。ジュードは自分の手勢と共にやって来たはずなのだが、彼らは一対一で斬り結んでいる。その理由は二つあった。
一つはレオは灼熱の熱気を、ジュードは極寒の冷気を放っているからだ。二人はお互いの霊術によってお互いの霊術を打ち消し合っているので問題はない。だが、だからこそ余人が割って入るには困難な状況を作り出していた。
「こんなモンかよ、聖騎士様よぉ!?」
「ええい、こうなれば生死は問わん!鎮圧せよっ!」
そしてもう一つの理由だが、傭兵達が聖騎士と争い始めたからだ。ジュードはレオを仕留めるために多くの民間人を巻き込んでいる。その凶行は聖騎士の逆鱗に触れたのだ。
レオを追い掛けるべく出撃した聖騎士には、今の方針を盲目的に支持する者も懐疑的になっている者も含まれている。だが、彼らは『正義の神』を信奉している者達だ。ジュードの凶行を見過ごすことは出来なかった。
この時、この行為がジュードの独断なのか彼が所属する傭兵団が是としているのか聖騎士達にはわからなかった。そしてジュードは既にレオと戦っている。故にまず、ジュードが率いていた者達を捕縛しようと試みたのだ。
だが、傭兵達は捕縛されることを拒絶した。彼らもジュードの凶行はやり過ぎだとは思っている。しかしながら、彼らは教会に雇われた傭兵だ。聖騎士は雇い主の配下でしかない。そんな聖騎士に一方的に拘束されることには強い抵抗感があったのだ。
「オラオラオラオラァ!防いでばっかりかぁ?所詮は混じり野郎でしかねぇんだよ!」
レオが複数人に囲まれて袋叩きにされる状況になっていないのは、ある意味でジュードのお陰と言えなくもない。この一対一という状況でありながら、レオは防戦一方の有様であった。
民間人を巻き込む行為を平然と行える人格はともかく、ジュードの霊術と槍術の腕前は本物だ。レオが気を抜けば全身が凍り付くであろう冷気を常に放ちながら、巧みに槍を操って虚実を織り交ぜた多彩な攻めを見せていた。
ジュードの槍術はとにかく当てることを重視しているらしい。手の甲や足の甲などを狙ったり、腕や脚を浅く斬りつけたりと急所以外を削るような戦法を取っていた。
それ故に耐久力にも優れる魔人にとって、まだまだ致命傷にはほど遠い傷しか負っていない。だが反撃する隙がほとんどないせいで、レオの腕や脚に走る幾筋もの裂傷からは赤い血が滲んでいるのも事実だった。
「ケッ!小賢しい霊術で抵抗しやがって。本当ならとっくに凍死してんだぜ?」
圧倒しているジュードだったが、彼はまだレオが粘っていることそのものが気に入らなかった。本来であれば、ジュードが付けた傷から出血することはない。何故なら槍の穂先にまとわせた冷気によって、傷口とその周辺は凍り付くはずだからだ。
傷口を凍らせると出血量は減るかもしれないが、傷口周辺の筋肉が硬直してしまう。動きは徐々に鈍くなり、いつかは立つこともままならなくなる。ジュードが刃を当てることを重視した戦法を用いるのは、わざわざ急所を狙わずとも当て続けさえすれば勝てるからなのだ。
だが、今回は相手が悪かった。全身から高熱を放つレオの傷口を凍り付かせることは出来なかったのだ。レオとの戦闘において、ジュードの戦法は決め手に欠けたのである。
「舐め、んな!ふんがっ!」
「ぐっ……ガハッ!?」
レオも黙ってやられてばかりではない。防戦一方で軽傷を負いながらもジュードの動きを観察し、タイミングを合わせて大剣を振るったのである。
単純な腕力であればレオの方が上なのは最初からわかっていたこと。レオは必死に耐えながら、最も効果的なタイミングを狙っていたのだ。
レオは槍を弾くだけでは終わらない大きく一歩踏み込むと、鋭い蹴りを脇腹に叩き込む。レオの格闘術、特に蹴り技の威力とキレはティガル譲りなのだ。
しかも、叩き込んだのはただの蹴りではない。ジュードの肝臓へ打撃の威力を浸透させるように蹴ったのだ。
鎧の上からでもレオの打撃は響く。ジュードはこれまで味わったことのない、呼吸困難になりそうな苦痛に苦悶の表情を浮かべずにはいられなかった。だが、動きを止めてはならないという直感に従って、彼はその場から横へ跳躍した。
直後、ジュードがいた場所にレオの大剣が振り下ろされる。大剣は屋根に触れる直前でピタリと止まり、地面を転がったジュードへ追い打ちするべく薙ぎ払われた。
「……やられた。それにしても、その槍って何で出来てんだ?」
ジュードは槍の柄で大剣の刃を受け止める。彼はレオの剛力に逆らわずにわざと吹き飛ばされ、距離をとってから立ち上がった。
敵の老獪さに舌を巻きつつ、レオは抱いた疑問をそのまま投げ掛ける。レオの大剣は生半可な硬度では防ぎ切れない。例え金属製であろうと、槍の柄程度の太さであれば切断してみせる自信があった。
だが、実際には切断されるどころか傷一つ付いていない。柄の素材が何なのか気になるのは当然であり、レオはここで初めてジュードの槍を観察した。
レオの大剣を防いだ柄には黒い革が巻かれていたらしく、大剣によって切られていることから革は特別な代物ではないらしい。だが、その隙間から覗いていたのは透明な物質であった。
「水晶?いや、その臭い……水?まさか、氷で出来てるのか!?」
「こんの……クソガキがぁ!この俺は誰だと思っていやがる!?」
柄の部分が氷で出来ていることに気付いて驚愕するレオの声を塗りつぶす大声でジュードは絶叫する。彼からは最初の余裕など消え去っており、ギリギリと歯ぎしりをしていた。
ジュードは槍の柄を強く握り込む。するとバキバキと音を立てて槍の穂先が砕け散り、中から透明な……氷の刃が姿を現す。これまで撃ち合っていた穂先は、氷の上に被せていたようだ。
「この槍はよぉ、『氷の神』が吐いた息で凍った水から作られてんだと。手に入れるのにそりゃあ苦労したんだぜ?これで俺は二度と負けねぇ。次がありゃあ、あの神の末裔だってブチ殺せる……そのはずなのによぉ!」
「っ!」
槍の由来について語っている間は冷静そうだったジュードだが、急に声を荒げながら石突を屋根に叩き付ける。屋根が砕けると同時に強い冷気が吹き荒れ、レオは身体から発する熱量を引き上げた。
冷気が通用しない様子を見て、ジュードは何度目かわからない舌打ちをする。苦労して得た自分の力が通用しないことが不服なのだろう。彼は怒りを発散するように槍を大きく薙いだ。
ここからはジュードの攻勢がもっと激しくなるだろう。そう予想したレオは大剣を油断なく構える。その時、目を覆いたくなるほどの強い閃光が街全体を包みこんだ。
「うっ!?」
「あぁ!?」
閃光はレオだけでなく、ジュードにとっても想定外だったらしい。二人共が反射的に視線を光の発生源に向けてしまった。
既に閃光は収まったものの、その発生源がまだアンタレスがいたはずの建物だと知った時、レオは内心でかなり動揺していた。アンタレスが閃光を放つような派手な霊術を使うとは思えない。あれはアンタレスの仕業だとは考えられなかった。
では、何があったのか?父親に次いで敬愛する兄貴分が後れを取るとは思えないが、何事にも絶対はない。許される状況であれば、即座にアンタレスの下へと馳せ参じていたことだろう。
「意味がわからねぇが、どうでもいい。今はテメェをブチ殺せりゃそれで満足だ!」
「くっ!無事でいてくれよ、アニキ!」
だが、目の前のジュードがそれを許してくれるような甘い相手ではない。レオは否が応でもジュードと刃を交えるしかないのだった。
次回は5月3日に投稿予定です。




