ベルナール達の陽動
「突っ込め!鬨の声を上げろ!」
「「「「「ウオオオオオオオオオッ!!!」」」」」
アンタレスとレオの二人が離脱した後、ベルナール達は雄叫びと共に突撃を開始する。彼らの咆哮は大地を、大気を震わせる力強さに満ちていた。
ここまでの移動中、彼らの間に会話らしい会話はなかった。口を開く時と言えば、作戦の立案や味方同士の伝令くらいだろう。直前までの彼らを見ていた者がいれば、いきなりの豹変ぶりに恐怖すら抱いたかもしれない。
彼らは自分達の生命を燃やし尽くすつもりでここまでやって来た。今日、この時に全てを出し尽くすために体力と気力を温存していたのである。
「放てっ!」
ベルナール達は大陸西部各地に存在していたいくつもの神殿が抱えていた神殿騎士だ。強大な戦力を有する聖騎士に敗れた後、それでも戦い続け、再び敗れた者達だ。彼らは敗残兵であると同時に、寄せ集めでもあった。
だが、彼らはまるで最初から一つの集団だったかのように統率がとれている。騎乗した状態で一糸乱れぬタイミングで一斉に放たれた霊術が、待機状態となっている傀儡兵をまとめて吹き飛ばした。
何故彼らがここまで統率が取れているのか?彼らは同じ苦難と憎悪を共有する者達だ。何よりも彼らは目的を同じくする同志だった。彼らにとって、お互いは他人ではなかったのだ。ある意味で、彼らは一つの集団どころか一つの生命体のようになっていた。
「出て来たな。だが……」
「聖騎士ではなさそうだ」
ただし、敵もやられてばかりではない。傀儡兵は数の暴力という覆すのが難しい有利をもたらす兵器だ。いたずらに失う訳にはいかない。対応するべく騎兵が現れた。
しかし、その騎兵は聖騎士ではなかった。聖騎士は『正義教会』の聖印が鎧に装飾されている。それがないということは、逆説的に聖騎士ではないということだ。
「手はず通りに行くぞ」
「「「おう」」」
ベルナール達は迎撃に出た騎兵隊へ向かっていく……ことはなかった。彼らは距離を取るように馬を走らせながら、霊術やそれぞれの得物で傀儡兵達を一方的に破壊し始めたのだ。
すると迎撃に出てきた騎兵隊は慌てて速度を上げている。傀儡兵の損害を抑えるために出撃したのに、破壊されるペースが上がったのだ。慌てるのも無理はなかった。
「何をしている!貴様ら、何者だ!?」
「何者か、だと?我らはただの亡霊よ」
仲間達と共に死ねずに生き恥を晒す亡霊。これが彼らの偽らざる自己認識であった。一人が返答している間にも他の者達は破壊を続け、返答した者もそれ以上の言葉を交わす必要すらないとばかりに傀儡兵の破壊を再開した。
彼らの異様さに気圧された騎兵隊だったが、ここで引くという選択肢はない。命令を果たすべく、彼らはベルナール達に襲い掛かった。
「こっ、こいつら!」
「速……!?」
ただし、彼我の実力差は歴然であった。敗残兵だと自分達を卑下しているが、実際の彼らは一人一人がアンタレスが認めるほどに強い。最終的には敗北したとは言え、聖騎士を相手取って幾度も戦闘を行って生還しているのだ。個人の戦闘能力で言えばゼルズラの戦士にも匹敵するだろう。
人材の払底が地域全体の問題となっている大陸西部の、しかも大陸中央部に近いが国境付近でもない単なる地方でしかない街の騎士が相手になるはずもない。彼らは瞬く間に討ち取られてしまった。
騎士達が自分達の力量を測るための当て馬に使われたことは、ベルナール達も理解している。想定外だったことは、実力の一端を明らかにすることすら出来ないほど力量に差があったことであろう。
「やっと出て来たか、聖騎士共」
現地の騎士を一蹴した後、まるで草を刈るかのように動かない傀儡兵を一方的に蹂躙していると、一際装飾の多い装備を装着した者達が出撃してきた。鎧には『正義教会』の聖印が刻まれていことから、聖騎士であることは確実であった。
憎き聖騎士達が現れたというのに、ベルナール達は憎悪に任せて突撃していくこともなかった。それどころか、彼らは二手に分かれて傀儡兵の集団の中へと突入していくではないか。
「おのれぇ、厄介な!」
彼らの行為を見た聖騎士は舌打ちをせずにはいられなかった。二手に分かれるというのは、ただでさえ少ない数を分けることになる愚行にも思える。各個撃破されるだけではないか、と。
この街にいる聖騎士は精鋭であるし、傀儡兵の運用に十分な数がいた。だが、聖騎士は各地に派遣されている。それ故に聖騎士達の方が数は多いものの、圧倒的と言うわけではないのだ。
さらにベルナール達の行為が陽動である可能性を考慮して、聖騎士が全員出撃している訳ではない。ここにいる者達が、現在出撃可能な限界の戦力だったのだ。
聖騎士側には三つの選択肢があった。一つ目は各個撃破すること。ベルナール達が手練と言え、それは聖騎士も同じだ。数が半数以下なのだから、多少手こずるにせよ確実に鎮圧可能だろう。
ただ、この場合は片方を対処している間に、もう片方が傀儡兵を好き放題に攻撃するだろう。粘られた場合は目を覆いたくなる被害が出るかもしれない。
二つ目は部隊を二つに分けること。こちらの方が数が多いこともあり、部隊を分けても数的優位は変わらない。同時に対処すれば傀儡兵の被害は最低限に抑えられるだろう。
この場合、ベルナール達が手練であることが懸念点である。数的優位が保たれると言っても、人数はかなり近くなってしまう。その優位は相当に薄れており、聖騎士が何人も討ち取られる可能性が高かった。
三つ目は街に残った聖騎士の増援を願うということ。自分達とは別の部隊に出動を願えば、数的優位を今のまま維持しつつ二手に分かれた双方に対処可能であろう。
しかし、この際は街の内部が手薄になる。そもそもこれが陽動である可能性があったからこそ、自分達だけが出撃したのだ。増援を乞うことは出来なかった。
「仕方がない。二手に分かれるぞ!」
「「「はっ!」」」
聖騎士のリーダーが迷ったのは一瞬のこと。彼が選んだのは二つ目の選択肢だった。増援を乞うことが難しい以上、傀儡兵の損害を抑えろという命令を果たすために選んだのである。
聖騎士は統率が取れた集団ということもあり、二手に分かれること自体には問題はない。混乱することなく今も傀儡兵を破壊し続けているベルナール達に襲い掛かった。
「迎え撃て!」
「撃滅せよ!」
聖騎士とベルナール達は周囲が傀儡兵だらけの場所で激突する。激突する前から聖騎士達は楽な戦いにはならないとわかっていた。お互いの距離が近付くにつれ、ベルナール達の正体を察したからだ。
彼らは聖騎士を、教会を憎んでいる。ならば今すぐにでも反転し、憎悪に任せて襲い掛かり、最期の瞬間まで戦い続けるに違いない。自分達であればそうするのだから。
「ぐっ!?」
「こいつら!?」
だが、ベルナール達は予想に反してまともに戦おうとしなかった。それどころか傀儡兵の間を縫うように馬を操りながら、傀儡兵を巻き込むような形で聖騎士へ霊術を放ちながら距離を取ろうとして来るのだ。
聖騎士が出撃したのは、傀儡兵をこれ以上破壊させないため。それ故に霊術から傀儡兵を守る必要がある。守りのために霊術を使っている間にベルナール達は距離をとり、再び傀儡兵を破壊するべく霊術を放ってくるのだ。
逃げながら傀儡兵ばかり狙うベルナール達と、それを防ぎながら追いかけるしかない聖騎士達。街の外では不毛な鬼ごっこが始まっていた。
次回は4月21日に投稿予定です。




