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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第七章 大陸騒乱編
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駆け抜けた先で

「ブルルルル!」

「ヒヒィィン!」


 警戒網を突破するためにベルナール達が下した決断は、まさかの野生化した家畜……特に馬を捕まえて一気に駆け抜けるという作戦だった。ここまでの慎重さとはかけ離れた作戦である。


 これ以上、密かに接近することは現実的ではない。ならばいっそのこと、騎乗して一気に接近しようという開き直ったらしい。ある意味で潔いとも言える。


「かなり荒ぶっているな。完全に野生化しているじゃないか……」


 私は二頭の馬を確保したのだが、砂で拘束しているというのに馬は必死に暴れている。元は家畜だったはずなのだが、懐く気配がなかった。


 こういう時にどうすれば良いのだろうか?私が触れたことがある家畜はシユウとアパオによって統率されていて、懐かせるために何かしたことがない。暴れ馬を落ち着かせる方法を知らないのだ。


「そんなに暴れるな。身体を痛め……むっ」


 私が落ち着かせるべく手を伸ばすと、馬は二頭とも私に噛み付いた。馬は肉食獣ではないが、気性が荒いと噛み付くこともあるのか。不用意に後ろから近付くと蹴られるのは知っていたが、こうなるのは想定外だった。


 噛み付かれたと言っても、私の手に怪我はない。噛まれる直前に反射的に外国家を硬化させたからだ。何度も繰り返し噛み付いているが、馬の噛み付きで砕けるほど外骨格はヤワではなかった。


「ブルルルゥ……」

「大人しくなったか」


 拘束され、最後の抵抗の噛み付きが全く効かなかったからか馬は二頭とも大人しくなった。いや、違うか。生きることを諦めたように見える。どうやら私を捕食者だと思っていたようだ。


 あくまでも目的は生け捕りだったのだが……二頭とも野生に生きていたのだ。それに馬齢も若そうに見える。生きたまま家畜として利用される経験がないのかもしれない。


「アニキ、戻ったぜ」

「ああ。鞍はあったようだな」

「オンボロだけどね」


 私が二頭の馬を確保していたのは、ここにいなかったレオのためである。彼は他の騎士達と共に廃墟となった牧場を捜索に向かっていた。


 目的は鞍だ。野生化している馬は当然ながら裸馬であり、操れる者は我々の中に存在しない。いくら馬がいても乗れなければ意味がないのだ。


「人数分は足りたのか?」

「うん。それどころか、たくさん残ってたんだ。他は結構荒らされてたのに。一緒に行った人が言ってたけど、多分盗んでも意味ないからだろうってさ」


 レオが聞いた話によれば、今いる場所を含めて大陸西部では人口そのものが大幅に減っている。鞍は大きくて重い上に嵩張るし、そもそも購入する者も少ない。それ故に荒らされた廃墟であるというのに残っていたようだ。


 とは言え、万全な状態からはほど遠い。破損は多く、鐙などの金属部品は引き千切られているモノばかりだったと言う。嵩張らず、高価で売れる金属部品だけは回収されていたようだ。


「直せるヤツだけでも人数分はあったよ。鐙は……布を丸く結べってさ」

「敵陣に突入するまでの付き合いだろうからな。とりあえず使える状態になれば良いということか」


 馬に乗る理由は敵に可能な限り素早く接近するため。近付いたら用済みになるので、目的地まで乗れれば良いということだろう。


 やはりベルナール達にとって生きて帰ることは重要視されていないらしい。作戦を成功させられるなら死んでも構わないと考えているのだから当然か。


「レオ。優先順位を誤るなよ」

「うん。オレは母ちゃんや妹達を守らなきゃだもんな」


 レオの返答は私を満足させるものだった。ティガルの仇討ちや作戦の成功よりも、家族のためにも自分の生命を優先する。ベルナール達を見てレオが出した結論だった。


 私は砂の拘束を解くと、レオと共に馬に鞍を装着する。二頭の馬達は露骨に嫌がっていたが、私への恐怖からか暴れることはなかった。


 鞍を装着したところで、私達は早速騎乗してみる。私が乗った馬は中々落ち着かないが、レオが乗った馬は簡単に動きを止めていた。山脈以北にいたこともあり、私よりも乗馬の機会がずっと多かったのだから当然であろう。


 また、乗馬の技術に優れるのは他の騎士も同じこと。ベルナール達は鞍を付けた馬を巧みに操って容易く隊列を作っていた。


 全員が馬に騎乗したこともあり、我々は行軍を再開する。私とレオは先導する者のすぐ後ろにいた。その役割は何かがいた時に知らせること。発見されたとしてもわざわざ排除することはないが、発見されたこと自体は知っておきたいようだ。


「かなりのペースだな。馬を潰しても良いということか」

「とにかく早く行こうってことだね!」


 この行軍ペースは相当に速い。途中で休憩を挟むにせよ、このペースを保つとなれば馬は潰れてしまいそうだ。帰りのことを考えていないのは間違いなかった。


 馬を操りながら、私は五感を研ぎ澄ます。馬術ではこの集団で最も劣っている自覚があるのに、置いていかれないように必死に食らいつきながら周囲を警戒するので全く余裕がない。私はこれ以上話す余裕すらなかった。


「アニキ!」

「ああ、誰かいたな」

「見付かったよ!」

「発見された!速度を上げるぞ!」


 しばらく走っていると、私はこちらが見える位置に誰かがいることを察知した。私よりも余裕があるレオも気付いたらしい。私達は確信を持って進言した。


 すると先頭を走る神殿騎士は速度をグンと上げる。ここまで速くなると私どころかレオにも移動中は警戒する余裕はない。後はただ前に進むだけになるようだ。


「見えてきたぞ。あの街だ」

「これはまた……」

「なんて数だ!」


 数日後、私達は目的地が見える距離にまでたどり着いた。その街は特別に大きい訳でも、逆に小さい訳でもない。だが、街を囲む城壁の外にいる夥しい数の傀儡兵は異様としか言いようがなかった。


 話に聞いた通り、傀儡兵の大軍がここに集められたらしい。傀儡兵が居座っている範囲の方が、街そのものよりも広いのではなかろうか?


 一部とは言え、あれが王国へ向かうと考えるだけでも寒気がする。作戦が失敗すれば、あの不毛で後味の悪い戦いを強いられることになるからだ。


「どうする?向こうは気付いているぞ」

「ええ、そうでしょうね。だからこそ、裏をかくチャンスです」

「チャンス?」


 ここまでの移動中に、私達は何度も目撃されている。速度を上げた後、馬の扱いに四苦八苦している私やレオですら数回気付いているのだ。もっと上手く気配を消していた者がいただろうし、その者達には間違いなく見付かっていた。


 しかし、裏をかくチャンスとはどう言うことだろうか?私とレオは顔を見合わせた後、ベルナールの言葉を待った。


「敵はこちらが騎兵隊を成して接近していると知っています。そして恐らくは敵はこちらが何者なのかも知っているでしょう」

「そうだろうな」

「ですが、正確な人数を知っているとは思えません。そうでしょう?」


 私とレオは大きく頷く。移動中こそ敵に気を配る余裕はなかったが、幾度か挟んだ休憩中は近くにいた敵を私達が排除している。それ故に正確な陣容などを把握されている可能性は低かった。


「そこでお二人の出番です。我々はこのまま派手に戦って注意を引きます。その間に……」

「密かに近付いて人形師を殺せ、か」


 私の言葉にベルナールは頷いた。騎兵の部隊が近付いていると知られていることを利用して、本命は我々による暗殺なのだ。


 馬を手配すると決めた時から考えていたな?自分達が危険な陽動役を買って出ると言えば聞こえは良いが、こうすれば私達と自分達を分けられる。作戦の成否に関わらず、私達に気を使わずに戦えるのだ。


 やはり彼らは死に場所を求めている。死ぬまで戦う気でいる。その決意は変わらないらしい。何を言っても無駄なのだろう。私はベルナールの目を真っ直ぐに見ながら口を開いた。


「良いだろう。私達は必ずことを成す。死ぬな、とはもう言わない。存分に暴れて来い」

「ええ。そちらもご武運を」


 私はレオと共に馬から降りると、地面を砂に変えて地中に潜る。その直後、地上では馬蹄の音が鳴り響く。死にに行く者達の音が遠のくのを感じながら、私は自分の役目を果たすべく行動を開始するのだった。

 次回は4月17日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
やはり傀儡兵の大群がいましたか。 この様子では全員が無事に帰られる可能性は低いでしょうね。
馬君達にとっては最後の抵抗だったんかなあ噛み付き 作戦の都合上酷使はしてるけど死なずに済むといいなあ
復讐すら二の次になってるんじゃあ、華々しくやれ、としか言えんよなぁ……せめて無駄死にとはさせないでやりたい。
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