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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第七章 大陸騒乱編
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雇われたのは……

 廃村や廃墟を転々としながら大陸西部を移動すること数日、私達は人形師と傀儡兵が集まっている場所に接近している。目的地の正確な場所は知らないし、そもそも私達には土地勘がないのに何故わかるのか。それはここまでで一度も見なかった巡回の兵士を見かけるようになったからだ。


「わざわざ兵士が巡回してる……答え合わせってことだよな?」

「ああ、そうだと思う。ここまでがザル過ぎたくらいではあるがな」


 ベルナール達が人気のない場所を選んでいたということもあるのだが、それを差し引いてもここまで兵士と一度も会っていない。それこそ、教会ではなく通ってきた国の兵士すら見たことがなかったのだ。


 大陸西部の人材の払底具合の深刻さは農村だけに留まらない。これまで通った国のどの地方の領主も、領都などの都市部以外の治安維持を行う余裕がないのだ。


 それ故にここまでは都市部とまだ人が多く残っている農村部を避けるだけで良かった。しかし、この辺りからは異なる。街道だけでなく、我々がいる人通りなどほとんどない場所や廃村なども巡回しているのだ。そこで最も偵察が得意な私達が様子を見に出ているのである。


「でも腕利きって感じじゃないぜ?身体もガリガリだし……」

「実際、腕利きではないんだろう。地元の兵士を使っているようだ」


 ただし、まだ距離があるからだろうが巡回している兵士の質は悪い。人の気配を感じたから私達は偵察に出たのだが、発見した兵士は隊長らしき一人以外は全員が新兵に見える。隊長も精鋭兵からはほど遠く、全員が困窮しているのかやせ細っていた。


 装備の質も悪く、本人達の士気も相当に低い。巡回しているはずなのに、暗い顔付きで下ばかり見ているのである。物陰から警戒している私達の方が馬鹿馬鹿しくなるほどのやる気のなさであった。


「教会の統治も絶対的な支持を集めている訳ではないようだ」

「そうだよなぁ……みんな聖騎士みたいに命懸けでなんてやれないよなぁ……」


 末端の兵士の士気の低さは、大陸西部の誰もが教会の狂信者という訳ではないことを示唆している。しみじみとレオが呟いたように、仮に教会の信徒であったとしても誰もが信仰に生命をなげうつ覚悟を決めている訳ではないのだ。


 思い出してみると、レオやリナルドが森で戦った聖騎士も連中同士で揉めていたと聞いている。これまで戦ってきた聖騎士のイメージが強くて先入観を持っていたが、教会による大陸西部支配の地盤は決して盤石ではないようだ。


「帰るぞ。ベルナール達に報告だ」

「うん……んん?アニキ!」

「ああ。何かいたな」


 十分に偵察の役割を果たしただろう。そう判断した私達はベルナール達の下へと戻るべく移動を開始しようとした時、私達の視界の端で動く何かに気が付いた。私達は目配せをし合ってから気配を殺して動いた何かを確認するために駆け出した。


 幸いにも向こうはこちらに気付いていないらしい。足音から考えて三人組だろう。三人は今も移動しているものの、ただ歩いているだけ。速度は一定だし、逃げるどころかこちらに向かっているのだ。


『あれは、傭兵か?』


 私達は動いていた者達の姿を一方的に観察する。三人組は武器だけでなく、防具の意匠もバラバラで全く統一感がない。その時点で兵士ではなく野盗か傭兵かであろう。


 ただ、食い詰めた野盗であれば先ほどの兵士のようにやせ細っているはず。だが、この三人組は違う。鍛えられた戦士の体付きなのだ。傭兵、それも十分な食事を取れるだけの報酬を受け取れる腕利きだと思われた。


『雇われてるって言ってたもんな。でも……』

『どうした?』

『あの中の一人、どっかで見たことがあるような気がするんだよ』


 『念話』を用いてのやり取りで、レオは気になることを言い出した。見たことがある、か。レオの気の所為だとは思わない。十分にあり得ることだからだ。


 傭兵が生きていく上で必要なのは戦場である。戦場での働きと現地での略奪が彼らの主な収入源。共和国との戦いが終結した今、大陸中央部や東部で活躍していた傭兵が西部の戦いに関わっていてもおかしくないからだ。


「チッ!シケてやがるぜ、全く。どこもかしこも何にもありゃしねぇや」

「全くだ。ここまで荒れてるとぶん取るものもねぇんだなぁ……」

「せっかく雑魚の野盗を泳がせて襲わせたってのにな。こういう美味しい思いも傭兵の醍醐味ってなモンだろ?骨折り損なんて、マジでやってらんねぇよ」


 我々の聴覚は傭兵達の会話を捉えていた。会話の内容から連中が何をやったのか察したのか、レオは露骨に顔を顰めた。当然である。連中は相当な外道であるからだ。


 『野盗を泳がせる』そして『美味しい思い』。この二つから察するに、連中は発見した野盗を泳がせてどこかの村を襲わせたのだろう。そして野盗に村を襲わせた挙句、野盗ごと村から略奪したのだ。


 村人を全滅させれば野盗の仕業だと誰もが考えるだろう。少なくとも、やる気のない兵士はそれ以上調べることはあるまい。だが、犯人である野盗はもう地面の下にいるのだ。野盗が見つかることはないし、傭兵達までたどり着くこともないのだ。


『傭兵に高潔さなど求めるな。だが、同類になりたくないという心は失うなよ』

『……うん。そうするよ、アニキ』


 彼らがやっていることは外道ではあるが、どんな傭兵も似たりよったりだ。わざわざ戦いを……人殺しを稼業にしているのが傭兵である。我々のように戦うしか選択肢がなかった者もいるだろうが、多くは自らの意思で傭兵を続けているのだから。


 彼らの生き方を否定はしない。だが、不愉快に感じるのならば反面教師とするべきだ。私の言いたいことは伝わったのか、レオは力強く頷いた。


「そろそろ撤収しようぜ。遅れたら団長にドヤされちまう」

「……それですめば御の字だろ」

「だな。最近は何でもねぇことでブチ切れるし……相当に苛立ってるぜ」


 三人組はもう撤収するらしい。私達からすればありがたい話だが、団長の名前を出した途端に彼らの表情は固くなった。どうやら団長は彼らにとって頼れるリーダーというよりも恐怖の象徴であるようだ。


 戦いを稼業にする傭兵は基本的に荒くれ者ばかり。それを纏めようとするなら、カール王のようなカリスマ性の持ち主か、頭を抑えつけられるほどの腕っ節か恐怖が必要になる。彼らの団長は後者であるようだ。


「団長もそうだけどよ……なぁ?」

「ああ。あの人の方がよっぽどおっかねぇ」

「この前も口が臭ぇってだけで他の団の新兵を槍で滅多刺しにしてブッ殺したんだろ?俺達もいつ刺されるかわかったもんじゃねぇよ」


 三人組はそんなことを言ってから踵を返して去っていく。向かう方向はベルナール達が滞在している場所からは離れている。一応それからも少しだけ追跡したが、やはり離れていくばかりであった。


 こちらに来ることはないとわかったところで、私達もまた撤退する。三人組を討つことは容易いが、それで我々の存在を察知されるのも馬鹿馬鹿しい。私達も帰還することにした。


「ベルナールに報告だな。ここからは慎重に進む必要がある」

「そうだ……ああっ!思い出した!」


 私は巡回の兵士と三人組の傭兵の存在から、偵察の重要性をベルナールに説くつもりだ。ベルナール達は死んでも良いと考えているのだろうが、それ以上に教会に一矢報いたいと考えている。死んでも良いが、作戦を成功させたいとも願っているのだ。ここからはより慎重に進むべきという進言は聞いてくれるはずだ。


 レオも同感だったようだが、彼は唐突に手を叩いた。思い出した、というと今までの流れから考えて見覚えがあると言っていた傭兵のことだろう。


「あの傭兵、やっぱり見たことあるよ!間違いないって!」

「どこの傭兵団だ?私はあまり詳しくないが……」

「あれだよ、あれ!アニキと一緒に共和国の化け物と戦った……」

「……まさか『暁の牙』か?」

「そう!それ!そいつらだよ!」


 『暁の牙』と聞いてレオはその通りだと同意した。『暁の牙』か……最悪だな。奴等の言う槍を使うあの人とは、『氷槍』のジュード……かつて私と共に神の末裔と戦った傭兵なのだから。

 次回は4月9日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
なかなかに手ごわい傭兵のようですね。 直接闘うことにならなければいいですが?
ただでさえ危険な任務だっていうのに傭兵まで絡んでくるとは厄介な 接触したくはないですねえ
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