人形師を討った後
負傷者と合流した後、私達は砦へと帰還する。武装集団が接近していることもあって、砦は夜襲に備えているように見えた。
だが、私達の容姿を知っている者達が説得したのか騒ぎは鎮静化しつつあった。一方で完全に警戒を解いた訳でもないらしく、砦からは武装した集団が出撃してくる。どうやら彼らは直属兵で、先頭にいたのは私の顔なじみであった。
「ああ、良かった!味方だ!」
「作戦は成功したんだな!?」
顔なじみぼ直属兵達は私の肩を叩いて帰還を喜んでくれた。彼ら以外の者達も我々が味方だと確認出来たようで安堵している。負傷者多数とは言え、私達がほぼ数を減らすことなく帰還したことで作戦が成功したことは分かってくれたようだ。
彼らは帰還を喜び、戦果を讃えてくれている。ティガルの件もあって讃えられても私は素直に喜べない。それは他の者達も同じようだったが、私達は努めて彼らの声に応えるようにしていた。
「皆、英雄達の帰還だ!」
「「「うおおおおおおおおっ!!!」」」
私達は直属兵と共に砦へと入っていく。すると城門の前でカール王が待ち受けており、私達を盛大に出迎えた。直属兵達に讃えられるだけでも無理しているのだが、ここで雰囲気を壊す訳にもいかない。私は無理やり笑顔を浮かべて手を振って応えた。
他の者達も空気を読んで歓声に応える。私の肩に手を置いて褒め称えるように見せながら、カール王は私にだけ聞こえる声で後で詳細を報告するようにと囁いた。断る理由もないので、私は小さく頷いた。
士気を上げるためのネタにされた訳だが、戦争は輝かしい部分だけではない。その闇の部分の一つが味方の遺体についてである。私達は戦死した仲間達の遺体を持ち帰ったが、案内人の遺体は王国側によって収容されることとなった。
「酷い状態だな……何があった?」
「ああ、実は……」
私は案内人に限らず、仲間達の遺体も全て砂で棺を作って保存している。案内人の遺体も砂の棺に包んでいたものの、当然の流れとして遺体の確認を求められた。
すると遺体の状態を確認される訳だが、案内人のことを知る兵士に収容所で遺体を見せて本人確認を行った。かなり損傷が激しい遺体を見せることになったこともあり、私は自分が見た状況をそのまま伝えた。
「そんな最期だったのか……まあ、あいつの恨みはかなり深かったからな」
「そうらしいな。理由を聞いても教えてもらえなかったが」
「あー……そうか。言葉にして思い出すのも嫌だって言ってたっけ」
その兵士は私が聞きたいと言った訳でもないのに、彼が何故『正義教会』を恨んでいたのかを教えてくれた。事の発端は私にとっても大きな意味を持つ事件、王都で起きたクーデターだ。案内人はあの事件に巻き込まれた者の一人だったのである。
ただ、彼の場合はただの被害者というのとも異なる。彼自身は全く関わっていなかったのだが、彼の兄が教会の熱心な教徒だったらしい。そう、クーデターに加わった者の一人だったのだ。
彼の両親も兄は今からでも離脱しろと懇願した。しかし兄は両親の言葉を聞き入れるどころか激昂したらしい。感情に任せて両親を殺してしまったのだ。
「ま、その兄貴も取っ捕まって処刑されたけどな。あいつは教会のせいで家族がメチャクチャにされたってことで、骨の髄まで教会を恨むようになったってことだ」
恨みの矛先が兄ではなく教会に向いた気持ちは分かる気がする。既に故人となっている肉親でもある兄よりも、兄が凶行に走る原因を作った組織の方が恨みや怒りを向け易かったのではなかろうか。
案内人は見つかることなく敵の正確な居場所を突き止め、その上で情報を持ち帰った。さらに生命を賭して人形師を全員仕留めている。この戦果は強い恨みを原動力としていたのだ。
「それにしても、こんなになってでも戦えるなんて……凄いヤツだよ」
「ああ。これほどの傷を負っているのに、死に顔は安らかだ。普通なら苦痛で歪んでいるだろうに」
「お前さんの言う通りだ。俺達は偵察が主な任務だから、戦闘力はそんなに高くない。しかもコイツ、足は速かったけど戦うのは下から数えた方が早いんだぜ?なのに大戦果を挙げやがった……本当に、よくやったよ」
同僚の兵士は誇らしげに、しかし同時に寂しげにそう語った。案内人は人形師を討つことで、傀儡兵全てを機能不全にするという大戦果を挙げている。彼一人の手柄ではないが、同僚として誇らしいのだろう。
だが、そのために亡くなったのは悲しいことだ。私もこの戦いで仲間を喪った。いくら勝利に貢献したと称賛されようと、この喪失感に慣れることはない。きっと私は生命が尽きる日まで慣れることはないのだろう。
案内人の遺体を預けた後、仲間達の下へ向かいたかったのだがカール王に呼び出されている。それに案内人が亡くなった以上、報告するのは私の義務でもある。私は文句を言うことなく王の下へと向かった。
「やあ、英雄。待っていたよ」
「……その呼び方は止めていただきたい」
出会い頭に茶化してくるカール王に、私は思わず眉を顰めてしまう。私が本気で嫌がっているのがわかったのか、カール王はこれ以上英雄と言う言葉を使うことはなかった。
それから私はカール王に襲撃の経緯について可能な限り詳しく説明する。この時、私は案内人の功績をあえて強調した。自分達の功績を強調した方が我々の利益に繋がるかもしれないが、戦死した案内人へのせめてもの手向けである。
カール王は最後まで私の報告を黙って聞いていた。私の意図に気付いているのかないのか、常に湛えている微笑みのせいで全く分からない。何となくだが、気付いた上で無視しているような気がする。まあ、指摘されないのならわざわざ修正する気はないが。
「人形師、及び護衛と思われる聖騎士は全員討ち取った。素晴らしい戦果だ。明日からは傀儡兵の回収作業を始めなければ。準備は任せるよ」
「「はっ!」」
「アンタレス君も、良くやってくれた。今日はゆっくり休んでくれ」
「はっ」
明日からは傀儡兵だった遺体の処理を始めなければならない。カール王の側に控える者達が手はずを整えるのだろう。そして報告が終われば私がここにいる理由はない。労いの言葉を頂戴した後、カール王の前から退出した。
きっと彼らは夜通し計画を練ることになるのだろう。私が戦う場所とは異なる戦場が彼らにはあるのだ。
カール王の前から去った後、私はレオの下へと向かった。てっきり我々の部屋にいるのかと思ったのだが、気がついたらいなくなっていたとザルド達は言う。それ故に砦の様々な場所を探し回るハメになった。
「こんなところにいたのか」
「……アニキ」
探し回った挙げ句、レオを見付けたのは砦にある調練所だった。戦時中ということもあって今は物資を搬入する荷馬車などが乱雑に駐車してある。今は人気もなく、一人になりたかったのであろう彼にはうってつけであった。
私はレオの横に腰を下ろす。気の利いたことが言えるほど器用ではないが、今は一人にさせない方が良い気がする。たとえ彼の意思に反しているのだとしても、誰かがいてやった方が良いと思うのだ。
「……オレさ、頑張ったんだ。父ちゃんを倒してあげなきゃって。オレの役目なんだって」
「そうか」
「でも、倒せなかった。躊躇ったってことじゃなくて、攻めきれなかったんだ。色々考えて、対策してたのに」
「……流石はお前の親父だな」
「ハハッ、そうだね」
ティガルのことを褒めるとレオは力なく笑う。どうやらティガルに一騎打ちを挑み、倒す前に人形師が討たれてしまったらしい。ティガルを斬る必要がなくなったと考えるべきだが……内心は複雑なのだろうな。
「すっごく悔しいんだ。あれだけ考えたのに通じなかったことが。でも、同じくらいホッとしてるんだ。父ちゃんをぶった斬るハメにならなくて」
「……」
「けど……目の前で急に動かなくなった父ちゃんを見たのが一番ショックだった。ああ、父ちゃんは死んじまったんだな、って実感がわいてきて……頭の中がグチャグチャなんだよ」
「そうか」
地面をじっと見つめながら、レオは己の心中を私に吐露してくれた。暗い表情のまま地面を見つめるレオに掛けるべき言葉が見つからない。口下手な己がこれほど腹立たしいことはなかった。
そうこうしている内に夜が明け、朝日が砦を照らし始める。俯いているからだろうか、レオの顔の影はとても濃いように見えたのだった。
次回は3月16日に投稿予定です。




