レオVSティガル その二
アンタレス達が聖騎士達と激突している頃。ザルド率いる一部隊は魔人の傀儡兵を迎撃していた。数の面では傀儡兵の方が勝っている。数の上ではザルド達は不利であった。
だが、人形師の命令が中途半端だったのだろうか。砦での戦闘時以上に傀儡兵は連携出来ていない。集団戦において自分本位な動きは互いの動きを阻害する。さすがに能動的な同士討ちまでは行っていないものの、振り回した得物が他の傀儡兵を斬り裂いて手傷を負わせることが多発していた。
「案内人は!?」
「抜けた!」
「良し!」
統率も何もない傀儡兵とは異なり、ザルド達はキッチリと自分達の役割を果たしていた。彼らの目的は案内人が逃げる人形師に追い付けるように傀儡兵を抑えることだ。彼らはこの目的を見失わず、案内人が戦場から離脱するのを確認したのである。
案内人を信じるのなら、ここからは守りを固めれば良いのだろう。彼が人形師を全滅させれば、傀儡兵は動かなくなるのだから。
「なら気遣うことはもう何もない!押し込め!」
「「「ガオオオオオオオオオッ!」」」
ただ、ザルドと案内人の間に強い信頼関係などあるはずもない。今日初めて会ってろくに会話もしていない人物を頼ることなど不可能なのだ。
それ故に案内人にとりあえず任せつつも、自分達は自分達で傀儡兵の撃破してから人形師を追撃するつもりである。ザルドは仲間達を鼓舞しながら長剣を目の前の魔人の腹部に突き刺し、そこにあった球体を深く傷付けて機能を停止させた。
「……」
「ん〜?見覚えある……ような?」
ザルド以外の者達も傀儡兵達と激しく戦っている。とてもではないが余計なことを考える余裕などないはず。だが、そんな状況にあってもマイペースなラピは不思議そうな表情で首を捻っていた。というのも自分が戦っている魔人に既視感を覚えたからだ。
ただ、どこで会ったのかラピは思い出せない。ワニか何かの爬虫類と合成された魔人なのだが、似たような魔人は何人もいる。同じ戦場に放り込まれただけ、という可能性が最も高いことは彼女にも分かっていた。
「ん〜……弱っちい」
その傀儡兵は戦斧を力任せに振り回しているだけであり、技術はないに等しい。分かりやすい軌道の大振りな斬撃など、天才的な戦闘センスの持ち主であるラピの敵ではなかった。
彼女は刃を横から押すようにして受け流し、戦斧を他の傀儡兵の頭に当てさせて数を減らす余裕すらある。強さ故に強い印象を残しているという訳ではなさそうだった。
にもかかわらず、ラピは目の前の魔人に強い不快感を覚えていた。他の傀儡兵に抱いている感情が憐れみであるというのに、である。その理由が彼女は全く見当もつかなかった。
「思い出せないなら、大したことじゃない。えい」
色々と考えたものの、ラピは思い出そうと努力する必要はないと断じた。倒すだけならば何の支障もない。ラピは傀儡兵が振るう戦斧をいなして別の傀儡兵の身体に刃を食い込ませると、長い鼻先を掴んでから頭を思い切り捻った。
ゴキリという鈍い音と共に傀儡兵の頸骨は折れてしまう。ラピは自分が片手間に葬った傀儡兵が、かつて幼い自分を殴った魔人だということに最後まで気付くことはなかった。
「ガアアアアッ!」
そんなザルド隊の中で、最も荒ぶっていたのはレオである。彼は咆哮を上げながら大剣を……父から授かった大剣を振るい続けていた。
誰よりも傀儡兵を斬っているレオだったが、彼の頭の中は至って冷静であった。誰よりも暴れ、誰よりも激しく戦っていれば必ず目的は果たせる。そう確信していたからだ。
「……」
「やっぱり来るよな、父ちゃん」
レオの狙い通り、彼の目的……ティガルがやって来た。相変わらずティガルは無表情であり、レオを見ても一切反応を示さない。ただ、最も派手に暴れる敵を殺せという命令に従っているに過ぎないのだ。
大剣を構えるティガルに向かい合ったレオもまた、大剣を構える。父子であり師弟でもあるが故に、二人の構えは全く同じであった。
「最初はさ、本気でアニキに任せるつもりだったんだぜ?でも、アニキは聖騎士を相手にするのに忙しい。だったら代わりがいるだろ?」
「……」
「な〜んて、ただの言い訳だよ。やっぱりさ、父ちゃんに引導を渡すってのはオレがやらなきゃ、な!」
レオは己の心中を語るものの、傀儡兵となったティガルにその言葉を聞く機能はない。彼は命令通りに大剣を振り上げ、レオに向かって振り下ろした。
話しかけている最中に襲われることなど織り込み済みだったのか、レオは至って冷静だった。軽やかなフットワークで後退し、大剣と刃から迸る電撃の間合いから脱していた。
「オレも!結構!考えてたんだ、ぜ!」
続く連撃もレオは余裕を持って回避する。ティガルとの戦いで勝ちきれなかった後、アンタレスがカール王に呼び出されている間にレオはどうすればティガルに勝てたのか考えていた。
それはアンタレスに対応を任せると決めた後も同じこと。何かあって自分が戦える機会が巡ってきた時にどう戦えば勝てるのかを必死に考えていたのだ。
「今の!父ちゃんは!決まった!動きしか!できない!そう、だろ!」
「……」
全て回避しただけでなく、レオは斬撃に合わせるように突きを放つ。狙いは腹部であり、直撃すれば傀儡兵を傀儡兵たらしめる球体を砕いていたことだろう。
しかしティガルは単なる力自慢ではない。咄嗟に滑り込ませた大剣で何とか防御している。ただ、レオの腰の入った突きを崩れた体勢で受け切ることは出来なかったらしい。ティガルはふんばりきれずに尻もちをついた。
「父ちゃんのことを一番知ってるオレなら戦える。父ちゃんの動きを誰よりも知ってるオレは!オレの想像を越えて来ない父ちゃんに!勝てなきゃダメだろ!」
レオは自分を一喝するように鼓舞しながら、尻もちをついたティガルに追撃する。ティガルはその場で転がって回避しながら、大剣で素早く薙いで足首を斬りつけた。
「それは、ずっと昔に教えてくれたろ?」
自分は起き上がりながら敵の足を斬る、という人によっては卑怯だと言うであろう戦場の技術である。だが、レオの反応は冷ややかであった。こんな技術など大昔にティガルから学んでいる。警戒していないはずがなかった。
空振ったティガルにレオは再び踏み込もうとし、直前に停止していた。何故ならレオは自分の鬣がフワリと浮き上がったからである。こういう時、ティガルは強力な霊術を使おうとしているのだ。
「……」
予想通りティガルは強力な電撃を放った。今からの回避は不可能であり、やれるとしてもこれまでは精々が大剣を間に挟むことくらいであろう。
本気と言っても、手合わせでは殺す威力の霊術を使うことはあり得ない。だが、ティガルは本気で殺しに来る。その時にどうするのか、レオはしっかりと対策を立てていた。
「ふんがっ!」
レオは大剣を地面に突き刺し、何とその柄から手を離したのだ。電撃は大剣に直撃し、刀身から大地へと逃げていく。得物から手を離してはならない、という戦闘の基本中の基本を無視しての秘策であった。
ティガルが生きていたなら、この事態に驚きこそすれ対応していただろう。だが、今のティガルは傀儡兵で……経験にない事態には無難な対応しか出来ないのだ。
「ガアアアアアアアアアアアッ!」
その隙をレオは突く。大剣の陰から飛び出した彼は鋭い爪をティガルに振り下ろす。ティガルは大剣で防ぐ……こともレオは想定していたらしい。彼は狙い通り、大剣を握るティガルの指を切り落としていた。
次回は3月4日に投稿予定です。




