仲間達との合流
「大丈夫……ではなさそうだな。立てるか、レオ?」
傀儡兵達が撤退していった後、私は城壁の上でへたり込むレオに声をかける。目立った外傷はないものの、通常形態に戻った彼は疲れ切っているらしい。肩を上下させていた。
私が手を差し伸べると、レオは無言で手を握って立ち上がる。立っているだけでもやっとの状態らしく、私は腕を肩に回して支えてやった。
「一人で先行したんだろう?随分と無茶をしたんじゃないのか?」
「ハァ……ハァ……まあね。いてもたってもいられなかったんだ」
「……そうか」
城壁の上に他の仲間達がいないのはレオが単独で先行したからだ。本来であれば叱るべきなのだが、私にはそれが出来なかった。レオが先行したのは自分の手でティガルを討つためだと察したからだ。
父親を前にして取り乱さず、剣を握って本気で戦う。ここに至るまでのレオの覚悟を思えば叱ることなど出来なかったのである。
城門の辺りが騒がしくなったかと思えば、援軍の一団が入城してきた。その最後尾にはゼルズラの仲間達もいる。彼らは何かを探すようにキョロキョロと周囲を見回していた。
「行くぞ」
「……うん」
仲間達と合流するというのにレオの声はとても小さかった。私はわざわざ顔色をうかがうことはしない。だが、私の複眼の視野は広く、彼がバツの悪そうな表情をしていることは見えていた。
理由はもちろん、一人で単独行動を行ったからだろう。気不味いのは分かるが、顔を合わせないという訳にもいくまい。私は気付かなかったフリをして仲間達に合流した。
「ボス!レオ!」
「ザルド!リナルドまで!もう大丈夫なのか?」
ゼルズラからやって来た援軍はザルドが率いているようだった。手練ばかりを集めているのは当然ながら、その中にはリナルドも含まれている。腕を斬り落とされたはずなのだが、大丈夫なのだろうか?
私の言いたいことは分かっているとばかりにリナルドは腕をグルグルと回し、回復していることをアピールしている。動きにぎこちなさもない。完全に回復しているようだ。
魔人の生命力を考慮しても、この回復速度は目を見張るモノがある。間違いなくボタン達による治療の結果だ。私は心の中で彼女らと『山の神』様に感謝を捧げた。
「来てくれて助かった」
「ボスが一人で戦ってんのに、俺達がチンタラしてられるかってんだ!」
私が感謝するとリナルドは強めに私の胸を叩く。心強い仲間が合流してくれたことを改めて実感した私は力強く頷いた。
この間、ザルドもリナルドも不自然なくらいにレオの話題を出さなかった。無視しているのではない。横目でチラチラと見ているのだから意識はしているのだろう。
きっと二人も私と同じなのだ。単独行動をしたことを咎めるべきだとわかってはいるものの、レオの心情を斟酌すると叱るに叱れないのである。
「……おお。ラピも来てくれたのか」
「ん」
大の男三人でなんとも言えない雰囲気になっていると、二人の後ろから近付いてきたのはラピだった。どうやらラピも来てくれたらしい。
気になったので周囲を見回したが、クリスやカタバミなど他の家族は来ていないようだった。これは物見遊山ではなく、本物の戦争だ。そこにまだ幼い子供たちを放って行くような真似はしなかったらしい。賢明な判断であろう。
ただ、クリス達がいるかどうかを確かめていたせいでラピから一瞬だけ注意が逸れてしまった。その瞬間、ラピは腰の入った鋭く重い蹴りをレオに叩き込んだ。
「ふっ!」
「ぶへぇっ!?」
「勝手はダメ。これ、ケジメ」
……どうやら私達に代わって単独行動を行った罰を与えに来たらしい。全く反応出来なかったレオは鼻血をダラダラと垂らしていた。
これが平時であればレオは抗議していたことだろう。だが、今回は自分に非があると認めている。だからこそ、鼻血が出るほど強く蹴られたのに何も言わないのだ。
「んっ!」
「……何故?」
レオに厳しく当たれなかった自分の不甲斐なさを情けなく思っていると、ラピはその場でジャンプすると身体を縦に回転させながら私の頭頂に踵落としを行った。
外骨格を軟化させていたこともあり、かなり痛い。ただ、私は蹴られる理由がわからない。なのにラピは当然の権利とでも言いたげな雰囲気であった。
「クリス達に頼まれた。一人で無茶した罰」
「……そうか」
どうやらクリス達はラピにわざわざ殴らせる程度には怒っているらしい。これは……アレだな。生きて帰ったとしてもクリスに雷を食らうヤツだ。死ぬよりはずっと良いが、帰っても地獄が待っていそうだ。
そんなやりとりをした後、私達は砦の片隅に集まった。我々は王国軍の援軍としてやって来たが、王国軍の一部とは言い難い。何かしらの因縁を付けられないようにするためにも、具体的な指示をされるまで待機することにしたのである。
援軍はありがたいのは間違いないものの、受け入れて終わりとはいかない。どこの誰が何人を率いているのかを把握し、どの部屋に誰を何人入れるのかを決めなければならないからだ。
そうなると私達の優先度は必然的に低くなる。不満ではないと言えば嘘になるが、私達は半分以上諦めていた。
「アンタレス、陛下がお呼びだ」
「わかった。みんな、少し外すぞ」
「ああ、わかった」
まだしばらく時間がかかると思っていたのだが、直属兵の一人が私を呼び出した。私は肩を貸していたレオをザルドに預けると、直属兵の後に続いてカール王の下へと向かった。
てっきり砦の奥にある部屋で待っているのかと思っていたのだが、意外なことに私が連れて来られたのは兵舎にある一室であった。一瞬だけ騙されたかとも思ったが、部屋の中にはカール王本人が待っていた。
「来てくれたね。ああ、そのままでいいよ。時間をかけられないからね」
部屋の中で寝台に座っていたカール王だが、私の姿を見るや否や立ち上がるとハンドサインで直属兵に指示をする。すると彼は室内に入って内側から扉を閉じた。
それだけではない。直属兵は何らかの霊術を使った。攻撃されたかと警戒したのは一瞬のこと。霊術を使った後は扉の前で仁王立ちしながら、意識を外に向けているようだった。
「突然呼び付けて悪かった。どこから情報が漏れるかわかったものじゃなくてね」
困ったものだ、とカール王は苦笑する。まさか、砦に内通者がいるとでも言うのか?私は驚いたものの、すぐに納得した。その可能性は十分にあり得るからだ。
『正義教会』の教義は多くの人にとっては聞き心地が良いらしい。その実態は他の神々を踏み付け、己の正当性を押し付けるモノだとしても、だ。自分が正しいと保証されることはこの上ない快感なのだろう。
それ故に隠れた信徒がいても不思議ではない。カール王の兄もまた隠れた信者であり、例のクーデターの原因の一つとなったのだ。実体験からカール王が警戒するのも当然と言えた。
「信頼出来る筋からの情報でね、傀儡兵を操っている者の位置がわかったんだ」
「それを密かに討て、と?」
私の質問にカール王は満足げに頷いた。傀儡兵が何者かに操られているのは分かっていたが、操っている張本人の位置を掴んだという。
ならば密かに討てと命じるのは当然のことだ。そして私であれば……いや、私達であればそれが可能だと確信しているらしい。出来るかどうかはわからないが、とりあえず話だけは聞くべきだろう。私は黙ってカール王の策を拝聴するのだった。
次回は2月20日に投稿予定です。




