レオVSティガル その一
窮地にあった私を救ってくれたレオだったが、その頭を目掛けて飛んで来る矢を私は切り落とす。普段のレオであればこんなヘマはしないだろう。自分で防いでいたはずだ。
「父ちゃん……」
しかしながら、今のレオが集中出来ないのも無理はない。彼の目の前には敵に回った父親のティガルがいるのだから。
レオはブンブンと何かを振り払うように頭を振ると、大剣の切っ先をティガルに向ける。ああ、そうか。レオは既に知っているのだ。攻め寄せているのが傀儡兵ということと、傀儡兵がどうやって作られているのかを。
「アニキ、オレに任せてくれないか」
「やれるのか?」
「…………やれるよ。オレが、やらなきゃダメなんだ」
ガリリと牙が削れるほど強く噛みしめてから、レオは私にそう言った。そうか。もう覚悟を決めたのか。ならば、私がやることはただ一つ。レオが全力で戦えるように、邪魔が入らないようにすることだ。
「……」
「行くぞ、父ちゃん!ガオオオオオオオッ!!!」
相変わらず無言のまま突撃してくるティガルと、城壁が震えるほどの咆哮と共に迎え撃つべく突撃するレオ。そんなレオを狙って放たれる矢を私は斬り落とした。
二本の大剣が激突し、耳をつんざく音と火花が飛び散る。その横を通り抜けて猫の魔人に斬り掛かろうとする私の足首に、ティガルは尻尾を巻き付けようとした。
「オレを片手間に相手出来るなんて思うなよ、父ちゃん」
ただし、そんなことを許すレオではない。私の方に意識を向けた瞬間に蹴りを仕掛けたのだ。それも膝の関節を狙っており、直撃すれば片脚の動きを奪うことが出来ただろう。
この容赦のない蹴りをティガルは足を上げて打点をずらすことで防いでいる。尻尾は定位置に戻っていて、私の行く手を阻むことは諦めて眼前のレオに集中するつもりのようだ。
「……」
「ほう?奇しくも似た戦い方だったようだな」
弓を構えていた猫の魔人だが、私が接近すると弓をあっさりと捨ててしまう。そして腰に下げていた二本のナイフを抜いて逆手に構えた。
どうやら彼も双剣術の使い手らしい。より正確に言えば双短剣術とでも言うのだろうか。刃渡りは私の双剣よりも短いものの、刃そのものは肉厚だ。上手く扱えば私の生命に届きうるだろう。
私達は激しく斬り結ぶ。ティガルの時とは異なり、私の方が体格で勝っている。だが、お互いに刃が身体を傷付けることはなかった。
私よりも手数が多い敵との戦闘経験がなかったこともあるが、猫の魔人が相当な腕前の持ち主だったこと主な原因である。二本の短剣を素早く振るうだけでなく、格闘術も織り交ぜていた。
私と酷似したスタイルであり、だからこそ手数の差で押されてしまう。外骨格の隙間を狙って来るので、外骨格の強度に任せてゴリ押すことも出来ない。防戦一方とまでは行かないが、防御主体で戦わざるを得なかった。
「世界は広いな。それに惜しい。敵でなければ、いや、生きていれば技術交流したかったものだ」
確かに防戦気味ではあれど、私にはまだ余裕があった。言い方は悪いが、猫の魔人の斬撃は軽いからだ。
外骨格の隙間を狙われるので、刺さってしまえば厄介なのだろう。だが、逆に言えば狙われている場所はバレバレだ。外骨格を強く斬りつけたとて、表面を削る程度でしかない。あくまでも上手くすれば私の生命に届き得るだけなのである。
隙間さえ気を配っていれば危うい場面はない。仮に彼が傀儡兵でなければ、攻め方を変えるか諦めて逃げるかしていただろう。だが、彼は傀儡兵。命じられるまま、生前の技術を活かして戦うことしか出来ない存在だ。彼に相性が悪いからと撤退を選ぶことは出来ないのだ。
「ここだ!」
「……!」
そしてこれだけ斬り結んでいれば、ある程度動きのクセは掴める。タイミングを計って、私は双剣を左右に開くように振るい、猫の魔人の双剣を弾いた。
生前の彼であれば私と同じように動きのクセを読み、裏を描くように動けたかもしれない。だが、傀儡兵は学べない。私の動きを学習し、先読みすることが出来ないのだ。
ただ、双剣を弾かれた経験がないはずがない。そんな時に態勢を立て直したこともあるだろう。それが分かっているからこそ、私は尻尾の毒針を脇腹に突き刺した。
「…………」
「悪いな」
毒針が効かないことは知っている。そこで毒には期待せず、毒針を深く突き刺したまま尻尾を引き寄せる。猫の魔人は態勢を立て直す前に引き寄せられ、その首を私の双剣で挟み込むようにして両断した。
頭部を失えば傀儡兵は動きを止める。私は胸の中に広がる苦さに耐えながら双剣の血を振り払う。ティガルとレオの戦いはどうなっているのだろうか?
「ガアアアアアッ!」
「……」
二人の戦いは余人が近付けない激しさであった。大剣を打ち合い、紫電と火花が飛び散らせている。互角に戦っているように見えたることだろう。
金属の武器を持つ相手に対して、ティガルは優位を得られる。だが、それはレオも同じこと。炎熱を操る霊術が得意な彼は、自分の温度を上げて敵をジリジリと消耗させられるのだ。
周囲に味方がいるから出力を抑えているが、それでも相対するティガルは辛いだろう。何せ持っている武器の柄や装備している防具が炎で炙られたような温度になっているのだから。
実際、ティガルの体毛は毛先が黒く焦げているし、防具の隙間からは白い煙が上がっている。鎧の下は凄まじい温度になっているのだろう。
「グルルル……!」
「……」
ただ、この点に関しては傀儡兵であることが利点になっているらしい。本来は武器を持つことも難しい状態のはずだが、傀儡兵であるからこそ平然と剣を握っている。さらに高温が身体の動きや思考に与える影響からも解放されているので、レオの特技が有利に働かないのだ。
レオは苦しそうに唸りながら大剣を振るう。やはり互角に見えるだけで、レオの方が劣勢であるらしい。ここは助けに入るべきかもしれない。
「アンタレス!敵の増援だ!こっちも頼む!」
「クッ……わかった。負けるなよ」
レオのことは気がかりだが、味方を見捨てる訳にも行かない。私は小声でレオに声援を送ってから、別の場所の援護へと向かった。
今回の攻勢は私が城壁の上を駆けずり回ることになるほど激しいモノになっていた。傀儡兵の増援があったのが主な理由である。砦の城門は破壊される間際にまで追い詰められつつあった。
「「「ウオオオオオオオッ!」」」
「来たっ!味方の援軍だっ!」
「勝てるぞ!押し返せぇ!」
味方の劣勢に思えたものの、守備兵達が踏み止まった甲斐はあったらしい。味方の援軍が到着し、カール王に率いられた私達がやったように傀儡兵の側面を叩いたのである。
そして援軍の数は私達よりも圧倒的に多い。突撃したのは騎兵とそれに追随可能な魔人達だ。砦への攻撃のみを命じられている傀儡兵は、相変わらず側面からの攻撃に弱い。まともな対処も出来ずに食い破られていた。
城壁や城門への攻勢は弱まり、守備兵達の士気も盛り返す。そうこうしている内に稼働時間の限界が来たらしい。傀儡兵達は後方へと撤退していく。苦戦を強いられてから退けたということもあり、砦では大きな勝鬨が上がるのだった。
次回は2月16日に投稿予定です。




