援軍到着
それから数日間、私達は傀儡兵と戦い続けている。その全てを撃退している内に、傀儡兵には二つの制約があることがわかってきた。
まず、傀儡兵は稼働時間に限界がある。稼働時間を過ぎた場合、糸が切れた人形のように動きが止まってしまうのだ。この状態になると二度と動くことはない。万が一の事態があっても困るので、動かなくなった傀儡兵からは例の球体を必ず摘出していた。
最初に捕らえられた傀儡兵は稼働時間が残っていたからこそカール王を襲えたのだ。もう少し時間を置けば安全だったのだろう。まあ、あのときは少しでも情報が欲しかったので時間を置くという発想になるはずがなかったのだが。
傀儡兵が中途半端なタイミングで撤退していく原因が、この稼働時間なのだ。有利不利にかかわらず、稼働時間の限界が近くなれば撤退する。あともう一押しというタイミングであっても撤退する。きっと敵の指揮官は苛立っていることだろう。
ただ、この稼働時間はここ数日は稼働時間に兵士が慣れてきたところがある。体感的にあと少し踏ん張れば敵が勝手に退いていくと考えるようになっているのだ。
この慣れは危険だとカール王は危惧している。その警戒には私も全面的に同意だ。仮に何らかの方法で稼働時間を延ばせるようになった場合、兵士の士気に大きな影響が出ると思われるからだ。坂道を登り切ったと思ったら、その先に先の見えない坂道があれば誰だろうと絶望してしまうだろう?
もう一つの制約は、外傷を受けると稼働時間が短くなっていくことだ。傀儡兵は生きている時と同様に傷付くと血が流れるのだが、どうやらこの血液も身体を動かすのに重要な役割を果たしているらしい。重傷を負って大量に出血した傀儡兵が、撤退中に脱落することが何度もあったのだ。
砦に詰めている霊術士達もどうやって死体を動かしているのか調べているが、調査のために必要な設備が足りていない。それゆえに戦った経験から分かっていること以上に判明していることはなかった。
「……今日も夜襲はなかったみたいだな」
「ああ。だからこそ気が重い」
私の近くで兵士が話している通り、夜襲がないままに夜が明けた。しかし、夜襲がなかったことを素直に喜べる者は砦の中にいないだろう。何故なら、夜襲がなかった翌朝は攻勢が激しくなるからだ。
連日の戦いで私を含めて疲弊している。砦の城門も補強されているが、度重なる攻撃で激しく損傷している。死傷者も増えており、全体の士気も下がりつつあった。このタイミングで激しい攻勢に出られたら、最悪の場合はこの砦が陥落するかもしれない。
「おい、聞いたか!?」
「ああ!援軍が来るって話だろ!」
ただし、悲観的な話ばかりではないらしい。どうやら砦の近くまで援軍が到着しつつあるようだ。下がりつつあった士気は明らかに上がっている。この調子であれば今日の攻勢も守りきれそうだ。
そんなことを考えていると、もう聞き慣れた砦の警鐘が鳴り始める。敵軍が今日も動き出したようだ。援軍は近くにいるようだが、間に合うのだろうか?
宿舎の部屋で休んでいた私は、素早く双剣を装着して城壁の上へ向かう。重い鎧などよりもよほど頑丈な自前の外骨格があるからこそ、準備らしい準備は武器を持つことだけですむのだ。
城壁の上に上がった私は敵軍の様子をうかがう。相変わらず敵の傀儡兵の大軍が並んでいるようだ。敵も甚大な被害が出ているはずなのだが、一向に数が減っているように見えない。本国から補充されているのだろう。
傀儡兵の素材が誰かの亡骸であることを加味すると、胸糞が悪くなってくる。どこかの誰かの生命を奪い、それを戦争に利用しているということなのだから。その上、連中が自分達を正義の使徒だと名乗っているのも不愉快だ。むしろこれ以上ないほど邪悪ではないか。
私が内心でどれだけ怒っていようとも、敵の進軍は止まらない。いつも通り、霊術士達が放つ霊術を物ともせずに前進し続けていた。
「アンタレス!東側に行ってくれ!」
「わかった」
ただ、初日と大きく変わっているのは私はティガルを専門に迎え撃つ役割を任されていることだ。普通の兵士にとってティガルを相手取ることは自殺に等しく、直属兵のような精鋭でも一人では命懸け。ならば安定して戦える私が相手取るのは自然な流れであった。
私が東側へと移動している間にも、集中砲火を浴びながらティガルは砦へ接近している。そして城壁を素早くよじ登り、私と相対した。
「今日の取り巻きは三人か。もっと増やしても良いんだぞ?」
「「「「……」」」」
しかしながら、相手も馬鹿ではない。城壁を駆け上がっても撃退され、制圧出来ない現状への対策は行っている。必ず城壁の上までよじ登れるティガルに他の魔人を付けるようになったのだ。
今回は三人。どれも見覚えのない魔人ばかりだ。合成されたのは猫と蜥蜴と……何かの虫だろうか。彼らも当然のように傀儡兵であった。
ティガルは普段通り大剣、猫の魔人は弓矢、蜥蜴の魔人は槍、そして虫の魔人は左右の手に一本ずつ鉄槌を握っている。彼らは私の軽口に応えることなく攻撃を開始した。
最初の一手は猫の魔人が放った矢である。魔人の膂力に合わせた強弓から放たれた矢だが、私の外骨格を貫くには威力が足りない。後ろの兵士に当たらないようにあえて回避せずに外骨格で受け止めた。
「……」
「リナルドとは天と地の差だな」
弾かれた矢の下から接近して来たのは蜥蜴の魔人であった。同じ蜥蜴の魔人、それも槍使いだが、リナルドとは比較するのも烏滸がましい程度の腕前だ。
余裕をもって槍の切っ先を踏み付け、左手の黒剣を頭に叩き込む。黒剣は首元の辺りまでめり込み、頭部は両断されてしまった。
「……」
「ヌルい。外骨格も砕けない程度で私と戦えると思うな」
そのタイミングで虫の魔人が鉄槌を振り下ろす。その一撃を私は尻尾で弾き飛ばした。虫の魔人は膂力に優れているし、鉄槌は膂力を最も活かせると言っても過言ではない。しかし、その技術はあまりにも拙かった。
鉄槌は私の外骨格を砕くどころか、凹ませることすら出来ていない。そんな魔人の首筋を私は右手の白剣で斬り裂いた。
虫の魔人というだけあって、体表は外骨格に守られている。だが、いくら硬い外骨格があるとしても動くためにも関節部は守られていない場所があるのだ。その部分を正確に斬り裂いたのである。
首筋からは夥しい量の血が流れている。あれだけ流れれば稼働時間は一気に短くなったことだろう。撤退する前には動かなくなっているはずだ。
「……」
「ぬっ……おおっ!」
ティガルはこの二人を捨て駒に使ったらしい。蜥蜴の魔人の頭を両断するのに黒剣を、虫の魔人の首筋を斬り裂くのに白剣を振り抜いた私の一瞬の隙を突くように、跳躍していたティガルが真っ直ぐに振り下ろしたのだ。
急いで双剣を交差させた私だったが、その肩を射抜くように猫の魔人が矢を放つ。相変わらず外骨格を貫く威力はないものの、押されたせいで体勢がわずかに崩れてしまった。
その隙を逃すティガルではない。彼は私を潰すべく大剣を押し込んで来る。私は床に突き刺した尻尾を支えにしながら必死に押し返す他になかった。
「ガオオオオッ!アニキ、大丈夫か!?」
「……!」
ここからどうやって立て直すかを必死に考えていた最中、ティガルは何者かによって弾き飛ばされた。私の複眼は私を救ったのが誰なのか、ハッキリと捉えている。その人物はティガルの息子、レオであった。
次回は2月12日に投稿予定です。




