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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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砦の攻防戦 その三

 突撃する私だったが、白い鎧の兵士は腰の左に吊り下げていた四角い棒を抜く。すると一瞬で筒状兵器へと変形し、そこからもう見慣れつつある青白い炎弾が放たれた。


 その威力を知っている私だったが、あえてそのまま突っ込んだ。熱風が舐めるように流れ、衝撃が着弾した胸の辺りから全身に駆け回る。それを耐えて前進した先に待っていたのは回転する小さな刃であった。


「ががっ!」


 私は慌てて突き出されていた剣の腹を両手で挟んで止める。白い鎧の兵士は間髪入れずに左手に持つ筒状兵器を変形させて片刃の剣にすると、私の脚の付け根を狙って振り回した。


 私は片足を上げて脛で剣を受け止めると、反撃として尻尾で足払いを仕掛けた。尻尾で引っ掛けて転ばすことには成功したものの、白い鎧の兵士は受け身をとって一回転して流れるように立ち上がる。馬乗りになって殴り倒すつもりだったが、逃げられてしまった。


「■■■、■■■■■!」


 白い鎧の兵士の言葉はわからないが、その声は苛立っているようだ。それもそのはず、私が南側の外壁の上にいるせいで南側の設置式の防衛兵器が使えないのだから。


 南東の塔の防衛兵器は壊したし、今連合軍の主力を攻撃しているのは南西の塔だけ。いくら爆発する炎弾が広範囲に被害をもたらす強力な攻撃だとしても、数が減れば被害も減る。私がここで戦っているだけでも、連合軍は進軍しやすくなっているのだ。


 実は私よりも敵の方が焦っているのかもしれない。もしそうなら……こう言うのはどうだ?私は尻尾を大きく伸ばし、無造作に振り回して一番近くにあった防衛兵器を破壊する。すると、白い鎧の兵士は私を罵倒しながら駆け出した。


「■■■■■!」

がががっ(はははっ)ごぐがぎごげが(そんなにこれが)がぎぎが(大事か)?」


 右手の回転する剣と左手の変形する剣を巧みに操って私を追い詰めていく。その動きに淀みはなく、戦うための訓練を積んでいるのは明白だった。


 一方でまだヒト種の身体に慣れていない私は、どうしても無駄な動きが多くなってしまう。闘獣達は使わないフェイントにも簡単に引っ掛かり、幾度となく刃が幾度も私の身体を捉えていた。認めよう。純粋な近接戦闘の技術で私はこの兵士に全く敵わないことを。


 だが、防ぐだけなら何も問題はない。どんな攻撃も強化した私の外骨格を切断することは出来ないからだ。そして手足と胴体で刃を防ぎつつ、尻尾で防衛兵器を破壊する。その度に白い鎧の兵士は怒りからか動きが雑になっていった。


ぐぎごぎげがが(隙を見せたな)

「■■■■■!?」


 怒りのせいで大振りの攻撃ばかりになった隙を突いた私は、兵士の腹部を思い切り蹴り飛ばす。殴った時のように直前で跳ばれたものの、ここは狭い外壁の通路。それだけで白い鎧の兵士は壁の内側に落ちていった。


 落ちたは良いが安心は出来ない。再び登ってくる可能性は高いからだ。私は速やかに南側の防衛兵器を破壊してから、南西の塔にも登ってその上も制圧しようと思った。しかしその直前、連合軍の方角から霊力が爆発的に高まった。


 颶風を纏った光輝く槍が飛来する。それは南西の塔に突き刺さると、塔だけを巻き込む竜巻と化す。霊術の暴風によって塔だけが捻るようにして崩れてしまった。


 遠距離への霊術によって、必要な部分だけわ破壊する。そんな芸当は私に出来ない。この霊術を使った者の技量は私よりも数段は上であろう。もっともっと精進せねば。


「今だ!進め、進めぇい!我に続けぇ!ガハハハハ!」

「「「ウオオオオオオオオッ!!!」」」


 私が外壁の上の兵器を破壊し、南西の塔も崩れたのを確認した所で重装兵が駆け出した。号令を掛けたのは私のことを警戒していた者の一人である。見た目からして筋肉質な雄だろう。どうやら重装兵を率いる立場にいるらしい。


 炎弾が爆発した時の音に匹敵する大音声が戦場に響き渡ると、その雄は先陣を切って凄まじい速度で走っている。他の重装兵達を置き去りにして門に接近すると、肩に担いでいた武器を思い切り叩き付けた。


 使っているのは先端に斧のような刃がある長細い武器だった。闘気が爆発的に膨れ上がり、刃が霊力によって目映い光を放つ。それが金属の門と激突した瞬間、南側の門は一撃で吹き飛ばされた。


 私のいる外壁も激しく揺れ、兵士の死体が地面に落ちていく。予定は多少変わったが、これで私に下された命令は果たした。オルヴォから更なる追加の命令がないようだし、さっさと帰るとしよう。


「ガハハハハ!死ねぇい!死にさらせぇい!」

「■■■■!」


 砦の中では門を破壊した雄と白い鎧の兵士が激しく戦っている。刃同士が激突し、耳をつんざく音が私の所にまで届いていた。私はそれを尻目に崩れた南側の外壁を飛び越えて東側に移動すると、外壁に張り付いたのと同じルートで砦から脱出した。


 私は草原を駆け抜け、オルヴォと分かれた地点を目指す。そこに行けというのがオルヴォの命令であるからだ。私は誰もいない目的地にたどり着くと、オルヴォが来るまで砦の様子を観察することにした。


 砦では今も戦闘が続いている。しかし、外壁の内側から幾つもの黒い煙が上がっているし、外壁の上で戦闘が起きていることからも連合軍の側が優勢であるようだ。


 しばらくすると東側の門が開き、兵士と共に馬車のような何かが飛び出して来た。形状としては馬車に似ているのだが、全てが金属で出来ている上に馬がいない。金属の箱がそれだけで走っているのだ。何だあれは?


 数台の金属の箱が兵士と共に北に向かって走っていく。恐らくは北と西の門からも北へと脱出していることだろう。その速度はかなり速い。重装兵は当然のこと、軽装兵であっても追い付けない速さだった。騎兵であれば追い付けそうだが、残念なことに砦の近くに騎兵は誰もいなかった。


「がごっ!?」


 金属の箱の列を興味深く眺めていると、一際大きな金属の箱が現れた。その上部には大小両方の筒状兵器が設置してあり、砦の内側に向かって鉄の礫と炎弾を何発も放ちながら逃げている。鉄の礫の嵐と炎弾を防ぎながら追いかけられる者はおらず、大型の金属の箱は去っていった。


 侵略軍はあんなものまで持っているのか。この砦を奪ったとしても連合軍は苦戦するだろう。その戦いにこれからも放り込まれると考えると憂鬱な気分になるなぁ。


「やあ、お疲れ!見てたけどいい働きだったよ!やっぱり君、頭がいいんだね?」


 私が嘆息していると、フワフワと空を飛びながらオルヴォがやって来た。既に硬化を解いて柔らかくなっている私の両肩に手を置くと、興奮しながらグイグイと大きく揺らす。何と言うか、無邪気な奴だ。ここは陰険なゲオルグとは大きな違いだった。


 私が砦の戦いを見ることが出来たのはここまでだった。私はオルヴォの後ろに続いて連合軍の本陣に向かう。その後、オルヴォは本陣の首脳部がいる天幕に、私は檻の中へと入る。両手両足、そして尻尾に枷を自ら嵌めて椅子に座って目蓋を閉じた。檻の中で待機するのがオルヴォの命令であったからである。


 無論、私は目蓋のある三つ以外にも複眼を持っているので周囲はよく見える。しかし、そうとは知らない檻の近くにいた連合軍の兵士は安心して胸を撫で下ろした。彼らからはそれなりに強そうな力を感じるが、そんな者達が思わず身構えるほど私という存在は異質だということなのだ。


「ガハハハハ!ようやく勝ったな!」


 私が椅子に座って周囲を観察しつつ休んでいると、大きな声が近付いてくる。その大声には聞き覚えがあるぞ。と言うか忘れられる訳がない。ついさっき聞いたばかりだからだ。


 思った通りやって来たのは南側の門を一撃で吹き飛ばした雄だった。血塗れのマントと鎧をガシャガシャと言わせつつ、外した兜を小脇に挟みながら同じような武装をした一団を連れて歩いている。どうやら砦から本陣に帰還したらしい。


 背後にいる者達も相当な強さだ。体格も先頭の雄に似ていて、髪の毛も同じくゴワゴワしている。そういう民族の住む国の戦士なのだろう。声が大きいのもお国柄なのか、人数は百人ほどなのに非常に五月蝿かった。


 複眼によって観察していた私だったが、先頭を歩いていたその雄は私を見付けたらしい。するとニカッと笑うと大股で歩いてこちらに近付いてきた。初めて私を見た時のような殺気は全くない。むしろ友好的な雰囲気であった。


「お主か!さっきは助かったぞ!ガハハハハ!」


 私の檻の前に立った雄は、大声で笑いながら礼を言った。後ろにいる一団も代わる代わる私の前に来て礼を言う。まさか礼を言われると思っていなかった私は、思わず目蓋を開けてしまった。


 私の複眼を見て、雄達は一様に驚いている。しかし、その反応の中に拒絶はない。むしろ好意的なほどだった。


「合成獣と聞いていたが!そんな眼であったとはな!驚いたぞ!ガハハハハ!」

「宝石のようですな、団長!」

「太い尻尾だなぁ!団長の腕より太ぇぞ!」

「腕と脚は鎧じゃねぇんだな!俺はすぐ壊しちまうから羨ましいぜ!」

「おめぇはもっと避けりゃいいだけの話だろうが!」

「違ぇねぇ!ワハハハハ!」


 屈強な雄達は下品にゲラゲラと笑っている。それを見ても困惑するだけで、不愉快には思わなかった。理由はただ一つ。悪意が全くなかったからだ。


 この暑苦しい雄達は見た目と話し方こそ恐ろしい。だが、私が言葉を理解していると知らないにもかかわらず、それでも礼を言いに来た。他の連中よりもよほど礼儀正しいだろう。


「おやおや?何だか人が集まってるね?」

「むっ!貴公がこの者の主人殿か!」


 連合軍の首脳陣との話し合いが終わったのか、オルヴォは私のところに戻ってきた。奴は檻を囲む雄達に困惑している。それを発見した雄達の長は、大声でオルヴォにも礼を言った。


「我はヘルク王国、『竜血騎士団』の団長!アレクサンドル・レンクヴィンストと申す者!貴公の合成獣のお陰で楽に勝て申した!礼を申す!一堂、敬礼!」

「「「ありがとうございます!」」」


 それまでは騒がしくも肩の力を抜いていた『竜血騎士団』の雄達だったが、長の一言で姿勢を正して綺麗な敬礼をしてみせる。一糸乱れぬその動きは、騎士団の練度の高さとアレクサンドルの統率力が成せる技であった。


 『竜血騎士団』の雰囲気に気圧されることもなく、オルヴォは自慢げに胸を張っている。礼を言われて満更でもないようだった。

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― 新着の感想 ―
敵の武器がかっこすぎる件 変形武器に変形鎧はかっこよいなぁ!
[良い点] 早く拘束解かれて動けるようになって欲しいですなあ 筋トレ捗るし なんとなくそんなに嫌な奴らじゃないですね オルヴォも最初は勝手に合成獣にされてムカつきましたが無邪気なやつなので毒気が抜か…
[一言] 合成獣だからって兵器とかモノ扱いすることもしないで気持ちのいい連中ですなあ 未だに縛られてこそいますが新しい職場は中々良さそうですね
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