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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第七章 大陸騒乱編
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傀儡兵

 ティガルが敵軍の側にいるという事実は私に強い衝撃を与えた。今すぐに城壁から飛び降りて、何を考えているのか問い質したい。そんな欲求のままに飛び出そうとする私を、直属兵達が慌てて押し留めた。


「何やってんだ!?死ぬ気か!?」

「何を見たのか知らんが、今は落ち着け!」


 味方によって押さえ付けられたことで、私は暴れることを躊躇する。私を拘束しているのは味方の、それも私のことを差別しない者達だ。そんな彼らを傷付けてまで飛び降りることを私に戻った微かな理性が思いとどまらせた。


 私が力を抜いたからか、彼らも安堵して拘束を解く。大きく深呼吸をしてから、私はティガルとその周囲にいる魔人達を観察した。


 幸いにも、と言って良いのかわからないがざっと見たところティガル以外の魔人に仲間は含まれていないらしい。奥の方にはいるかもしれないが……今の精神状態では後方の様子を振動から読み取ることは出来なかった。


「何があったんだ?」

「……仲間がいた。襲撃された後、行方知れずになっていた者だ」

「それは……」


 怒りを抑えながら絞り出すように発した声は、自分のモノとは思えないほどにかすれていた。私の声色から私がどう感じているのかを察したのだろう。私を引き止めていた直属兵達は言葉に詰まってしまった。


 仲間が敵に回ったことは、私の信用を確実に落としたはず。彼らが個人的に私を信じてくれるとしても、私を信じられない者は必ず出て来る。そして彼らは職務として報告しない訳にはいかない。お互いに分かっているのだろう、私達は城壁から下へ降りようとした。


「待て!陛下がお呼びだ!ついて来い!」


 しかしながら、その前に私達を呼ぶ者がいた。その人物には見覚えがある。確か、砦の元々の守将の側近だったはずだ。


 それにしても、このタイミングでカール王の呼び出しとは……ティガルの件と無関係ではないだろう。私は前後を直属兵に挟まれた状態でカール王の下へ向かった。


「来てくれたね」


 カール王がいたのは砦の一室ではなく、城壁の上だった。直属兵は城壁の防衛にも加わっているが、カール王はその一部を率いて遊撃隊を指揮するつもりらしい。戦況が厳しくなった場所の救援へ向かうのだ。


 彼らは直属兵の中でも特に優れた武勇を誇る者達なのだろう。敵がゼルズラの戦士、それも魔人の戦士であっても互角に戦える実力者がチラホラと含まれていた。


「ああ、畏まる必要はないよ。ここには直属の兵士しかいないからね」

「……恐れ多いことです」


 カール王の御前に連れて来られた私は、何も言わずに膝を付く。カール王は立ち上がるように促しているが、私は顔を伏せ続けて立ち上がることはなかった。


 カール王はそうかとだけ言ってそれ以上追求することはない。今はそれどころではないのだろう。彼は早速本題を切り出した。


「敵の中にゼルズラの魔人、ティガルがいる。これは事実かな?」

「……おっしゃる通りです。ですが!」

「慌てることはないよ。あり得ることだったからね」


 あり得ること、だと?それは一体、どういう意味何だ?ティガルが裏切ることを想定していたということなのか?


 ティガルが裏切り者という信じ難い話に呆然自失してしまった私だったが、カール王はそう言うことではないと苦笑した。ただ、苦笑しながらもカール王の目は全く笑っていない。その目に浮かぶのは……悲しみだろうか?


「君は先日、生け捕りにされた者の末路を見ただろう?あの後、君が戦った者以外の死体を医務官に解剖させた。君が戦った相手は……ね?」


 アイザックは自爆して死体が残っていなかったから解剖は不可能だ。ああ、そうか。あの時、動揺していた医官は死体を解剖していたのだ。


 ただ、それとティガルの話がどう繋がるのか。その答えはカール王が知っているに違いない。私は黙って彼の次の言葉を待った。


「結論から言おう。彼らは全員、操られていた」

「操られて……?」

「全員の遺体は()()()()の辺りに縫合された場所があってね。その奥から複雑な霊術回路が刻まれた、謎の人工物の球体が出て来たんだよ」


 解析は全く進んでいないけどね、とカール王は続けた。この話は周囲の直属兵達も聞いていない者が多かったのだろう。彼らは声こそ上げなかったものの、動揺からか防具が擦れ合う音がそこかしこから聞こえてきた。


 他者を操り、自由を奪って戦わせる。私が最初に感じたのは吐き気を催すほどの嫌悪と、背筋が凍り付くかのような恐怖だった。戦いとは命懸けだ。だからこそ、本人の意思で剣を取ったかどうかは重要なことだと思っている。長い間、自分の意思とは関係なく戦わされていたからこその持論だった。


 カール王の調査が正しいとするなら、アイザック達は意思を奪って強制的に戦わされ、あまつさえ捨て駒のように扱われたことになる。アイザックは『正義教会』と敵対していたので、彼は武運拙く捕虜とされたのかもしれない。だが、いくら敵だからと言ってここまで辱めを受けて良いとは思えなかったのだ。


 だが、怒りに震えるのと同時に私は恐怖も抱いていた。この戦いに敗北した時、私も同じように意思を奪われることになるからだ。場合によっては意思を奪われた状態で家族を手に掛けるハメになるかもしれないのだろう?想像し得る中でも最悪の末路ではないか!


 ただ、同時に強い罪悪感も抱いていた。操られていたと言うことはアイザックは生きていたと言うこと。彼にトドメを差したのは、紛れもなくこの私自身ということになるからだ。


「操られている兵士……そうだね、傀儡兵とでも名付けようか。彼らは操られているから、恐怖も痛みもない。操られているから怪我も死すらも恐れない。こんなに都合の良い兵士はいない。そして同時に、こんな外法が許されて良いはずがない」


 私だけでなく、話を聞いていた直属兵の全員が強く頷いた。意思を奪い、生命を弄ぶ傀儡兵は製法から闇に葬った方が良い。あんなモノが席巻するようになれば、ただでさえ悲惨な戦場が、傀儡兵が尽きるまで殺し合わせる地獄になってしまうからだ。


「傀儡兵の対処法は二つしかない。それは腹部に埋め込まれた球体は引きずり出すか、頭を叩き潰すこと。基本的に後者になるだろう」

「……ッ!」


 カール王の言い分はわかる。そもそもの元凶である球体を摘出することはとても難しい。体内の臓器を傷付けずに球体を摘出することを戦場で行うのは不可能だからだ。


 仮に生け捕りにしたところで、動きが止まる瞬間まで動き続けるのは経験済み。暴れる身体を押さえ付けながら、臓器を傷付けずに開腹手術をするのは現実的ではない。霊術まで使えることも考慮すると限りなく不可能に近かった。


 だが……それはティガルを殺さなければならないということ。私は奥歯が砕けんばかりに噛みしめる。理性ではほぼ不可能だと分かっていても、解放する手段があるかもしれないと一縷の望みを抱かずにもいられなかったからだ。


「皆、殺すことを躊躇ってはならないよ。何故なら……」

「報告します!敵軍が動き出しました!」


 カール王が念押ししようとしたところで、敵軍に動きがあったらしい。このまま長々と話をしている場合ではない。呼び出された私達は急いで自分の持ち場へ戻るのだった。

 次回は1月27日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
アイワスから貰った霊術の効果を無効化する道具をまだ持っているなら、解除の可能性があるのか?
クローンでなくて傀儡ですか。 それは『本人』ということだからティガルと真っ向闘わなければいけなくなったアンタレスの苦悩は計り知れないですねえ。 こんな外道なやり方を考え編み出す知恵と技術を持った者と言…
死体を操るような技術ではなかったようですが、ほぼほぼ変わらないですよねえ まだ助かる可能性は無くはないですが球体を外したらちゃんと戻ると実証されてもいませんしなあ これが正義とか反吐が出ますねえ
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