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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第七章 大陸騒乱編
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アイザックの最期

 アイザックとの最悪の再会を果たした私は現実を飲み込めてはいなかった。だが、状況は私の理解を追い抜いて動き続ける。動揺を禁じ得ない私とは裏腹に、全く動じる気配すら見せないアイザックは弾かれた剣を再び振り下ろした。


 この斬撃を私は両腕を交差させて受け止める。動揺していたせいで反応が遅れ、弾くことも受け流すことも出来なかったのだ。


「これは……!」


 アイザックは受け止められた剣に力を込めて押しこんでくる。それだけではない。私を斬り裂かんと迫る刃は真っ赤に染まっていた。


 どうやらアイザックは霊術によって剣を赤熱させているらしい。金属が赤熱する温度ということは剣そのものの強度は落ちるのではないかと思うのだが、刀身が歪む気配はない。きっとこの使い方を前提としているのだろう。


「だが、無意味だ」

「……」


 しかしながら、私の外骨格がこの程度の温度で焼けることなどない。動揺から立ち直った私は交差させた腕で剣を挟んで固定し、刀身を引っ張ってアイザックを引き倒して彼の背中を強く踏み付けた。


 後は拘束するだけ……だったのだが、私は背後から突き出された槍の穂先を鷲掴みにする。私が止めていなければ、槍は倒したアイザックの身体を貫いていたことだろう。


「何故邪魔をする!?」

「殺さずに捕らえるべきだ。どう見てもこいつは普通じゃない」


 槍でトドメを刺そうとしていたのは私が庇った守備兵だった。自分を殺そうとした相手なのだから、殺してやろうと思うのは無理もない。だが、私はそれを許容出来なかった。


 それは敵が顔見知りだったからではない。顔見知りを死なせたくないという感情はあるが、それ以上に私の理性がアイザックを生け捕りにするべきだと訴えていたのだ。


 私は一目見てアイザックのことを認識した。ならばアイザックは私のことを認識していると考えるのが自然だ。彼に戦闘形態を見せたことがあったかどうかは覚えていないが、私達は何度も言葉を交わしている。ならば声で分かってもおかしくはないだろう。


 だが、アイザックは私を見ても何も言わない。動揺から立ち直った直後は彼が何らかの覚悟を決めているのだと思った。だが、そうではないのではないかと今は感じていた。

 

 その根拠は城壁の上に引き倒し、背中を踏んだ時の反応だ。この時、彼はうめき声の一つすらも上げなかった。私はかなり強く踏んでおり、肺の空気を強制的に排出させる勢いだったはず。同じことをされれば、魔人の中でも特にタフなゴーラですら苦しそうに息を吐いただろう。


 だが、アイザックはどうだ?彼は声を出すことすらなかった。我慢すればどうこうなるモノではないのに、だ。それに思い返せば、アイザックの目はまるで死んだ魚のように覇気が感じられなかった気がする。まるで自由意志が奪われてしまったかのようだった。


 そして今のアイザックに似た異常性を私達はついさっき目撃している。この砦に攻め込んで来た兵士達だ。明らかな致命傷を負ったはずなのに動き続けた、あの不気味な兵士である。


 敵が撤退した後、残っていたのは損傷が激しい死体のみ。アイザックを捕らえることで敵の秘密を暴けるかもしれない。そのためにも殺さずに捕らえられるなら捕らえておくべきなのだ。


「黙れ!お前は俺に指図出来る立場にないだろう!さっさと手を離せ!」

「そっ、その通りだ!普通じゃないなら、早い内に仕留めておくべきだ!」

「まだ他の奴等がいる!捕まえるならそっちでも良いだろう!?」


 ただ、私が庇ったのはそもそも私に嫌悪していた守備兵だ。私の言葉に聞く耳を持たない。そもそも、殺されかけて殺気立っているのだ。槍から手を離さなければ殺すとまで言いたげに私を睨み付けていた。


 そして運が悪いことに他の守備兵も彼を支持しているらしい。その中にはアイザックにトドメを刺した後、他の誰かを確保すれば良いという断れない意見を述べる者もいた。


 これは反論出来ない。敵に回った顔見知りよりも、話したことすらない味方を優先するのは当然のこと。この優先順位を誤れば私だけではなく、ゼルズラの仲間達も信頼されなくなるに違いない。


 私の双肩にはゼルズラの仲間達が乗っている。だが短い期間とは言え、共に過ごした者をこの手にかけるのは思った以上に忌避感が……何だと!?


「こっ、これは!?」

「まさか、自爆する……っ!?」


 アイザックをどうするべきか私が悩んだ短い時間で、彼が強大な霊力を練り上げ始める。その霊力が集中しているのは彼の身体の内部、より細かく言うならば心臓付近だったのだ。


 私は咄嗟に槍から手を離しつつ、自分とアイザックを包み込むように砂を発生させる。その直後、アイザックの身体は轟音を立てて爆発した。


 爆発の衝撃は私の身体を軋ませ、発生した熱量は外骨格を表面だけではあるが炭化させるほどの温度であった。砂によって私ごと包んでいたので、熱も衝撃波も砂で受け止めている。もし間に合わなかったなら、周囲に集まっていた守備兵達は炭の塊になっていたことだろう。


 この自爆霊術は、おそらくは最期の手段なのだろう。生命を燃やし尽くしながらも、己を火山のように爆発させて周囲の敵を道連れにする……まさに彼が信仰していた『火山の神』様に仕える戦士らしい霊術とも言えた。


「……無事か?」

「あ、ああ……」

「たっ、助かった……」


 自分とアイザックを包んでいた砂の霊術を解除して守備兵達の安否を確かめる。守った甲斐はあったらしく、私の周囲にいた守備兵達は無事であった。何とか味方だけは助けられたようだ。


 腰を抜かした守備兵達を尻目に、私は床に転がっていたアイザックの剣を拾い上げる。彼は自爆したせいで肉体は消滅してしまい、遺ったのはこの剣だけになってしまった。


 戦場にいたのだから、私は仲間を失ったことは何度もある。アイザックは仲間と言うには浅い関係だったのは間違いない。それ故に仲間を失った時に比べれば悲しみは深いとは言えなかった。


 だが、彼の死に様はあまりにも凄惨だった。明らかに異様な態度で攻め込んだ上に、自爆して遺体も残らなかったのだから。あまりにも憐れであり、私は後味の悪い思いをさせられていた。


「向こうも終わったようだな」


 アイザックが自爆してしばらくした後、他の侵入者も排除されたらしい。砦の各地で勝鬨が上がっているのだから間違いはないだろう。ならば私の役割は終わりだ。与えられた部屋に帰るとしよう。


 私の後頭部の複眼は、立ち去っていく私の背中を見つめる守備兵達を捉えている。彼らは何か言いたげであったが、結局私がいなくなるまで何かを述べることはなかった。


「誰もいないか。まあ、あれだけ騒いでいれば当然だな」


 部屋に戻ると、同室の直属兵達は一人もいなかった。どうやら城壁の騒ぎで飛び起きたのだろう。むしろあれで寝たままでいられる者がいたなら、その人物の胆力は本気で羨ましい。


 部屋の壁に背を預け、私は漠然とアイザックの遺品である剣を眺める。柄の部分に巻き付けられた革紐は使い古されているが、刀身には曇りも刃毀れもない。しっかりと手入れがされていたに違いない。この剣を眺めているだけでも彼の人柄が伝わってくるような気がした。


 だからこそ、アイザックの死に様を思い出すと苛立ちを禁じ得ない。彼が何故、あんな最期を迎えなければならなかったのか?あれが彼が本当に望んだ最期だったのか?とてもそうとは思えなかったのだ。


「……ああ、そうか。私は怒っているのか。良いだろう。落とし前は必ず付けてやるさ」


 刀身に映った自分の顔を見て、やっと私は自分が激怒していることに気が付いた。元凶の首は私が必ず討ち取ってやる。私は決意と共に剣の柄を握り締めるのだった。

 次回は1月15日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
正義は我にあり! 間違ってもお前らには無い!
やはり魔人の死体を持ち帰った輩が新しい方法で作りだした『新しい魔人』なのでしょう。 それにしてもアイザックとは。  皮肉なめぐりあわせですね。 アンタレスはより燃え上がるでしょう。
あれ程の武人の最期がこれか? こんなロボットかなんかみたいに命令されたままに何も考えず戦い最後は自爆する? どこのどいつがやったか知りませんが到底許せる所業じゃないですね
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