急ぎ王都へ
「……ですって」
「……そうか」
リーゼロッテの話を聞いた後、診療所から戻って来たクリスからシャルの視点から見た状況を聞き終わった。途中で気を失っていたリーゼロッテからは聞けなかった情報も聞けたのだが、聞いたからと言って気が晴れるようなことはなかった。
オルヴォが使っていた転移の霊術を用いての襲撃。魔人を一ヶ所に集めたことから考えて、魔人を殲滅するのが目的だったのは明らかだ。それを行ったのは聖騎士……つまり『正義の神』の手先である。
「貴方のせいじゃないわよ」
「……だが!」
「連中は魔人の存在を知った時から否定的だったじゃない。狙われたのは『魔人だから』であって、貴方が原因じゃないはずよ!」
語気を強めてクリスは否定するものの、私は受け入れることが出来なかった。聖騎士と私には深い因縁がある。私は怒りのままに聖騎士を襲い、手段を選ばずに戦ってその団長を討った。
誰がどう考えても恨まれている。魔人の存在自体を否定しているのは知っているが、仲間達を殺してしまおうとする凶行に出たのが私のせいではないと言われても受け入れられるものではなかった。
「落ち込んでもしょうがないって。今は先のことを考えない?やるべきことを決めちゃいましょ」
「……最優先は隠れ里で治療を受ける仲間達と、ティガルの安否確認だ」
「そうそう!積荷は捨てたって聞くけど、そんなモノは代えがきくもんね!」
自分の責任だと思い悩む私に、カタバミは建設的なことを考えるように促す。すぐには割り切れないものの、私は真っ先に考えるべきと考えるのはゼルズラへ帰還していない仲間達の安否だった。
カタバミの言う通り、ゼルズラの物資は代えがきく。同じモノを都合するのは骨が折れる品も存在するが、どれもこれも不可能ではない。
だが、仲間の生命は一度失えば取り戻せない。オルヴォのように幽霊にされた人物は例外として、死者の魂は世界に還ってしまうからだ。
「ボタンは?」
「大母様はもう帰っちゃったわ。話を聞くなら里に行かなきゃね」
「そうか」
安否確認のためにも、すぐに里へ行かなければならない。私は立ち上がると、出掛けるために双剣を手に取ろうとする。だが、私の手首を握って待ったをかける者がいた。
「お待ち下さい」
「止めるな、お嬢。行かねばならん」
「私は行くなと言っていません。待ってくださいと言っているのです」
仮にただ制止しようとするだけだったなら、私は無視して出発したことだろう。リーゼロッテには悪いが、彼女の命令よりも仲間の生命の方が優先されるからだ。
だが、断固たる態度で腕をつかむリーゼロッテと視線を合わせたことで私は少しだけ冷静になった。それ故に気付けたのだ。行くな、ではなく待てという言い回しに何らかの意図があることに。
「私が消息を絶ったことで王都でも騒ぎになっているハズです。手紙をしたためますから、どうか陛下へと届けて欲しいのです」
「……なるほど」
一度頭が冷えたことで、私は冷静に頭を働かせることが出来るようになった。リーゼロッテは貴族、それも貴族家の当主。それが日中にいきなり姿を消したとなれば話題にならない方がおかしいだろう。
王国は間違いなくリーゼロッテのことを探している。彼女の身に何が起こったのか正確に把握出来るかどうかはわからない。だが、捜索することだけは間違いなかった。
リーゼロッテからの手紙を届けることは、王国にとって都合が良いハズ。誰の手で何が起きたのかを正確に把握出来れば王国もどう動くかを決めやすい。同時にリーゼロッテの生存も報告することが出来る。王国にとって一石二鳥であった。
そして王国の混乱がすぐに終息することは私達にとってもメリットがある。こちらとしても持ち込むハズだった品物を失ったことの謝罪とその原因を訴える絶好の機会になる。リーゼロッテの手紙を持って行くことはゼルズラにとっても良い話だった。
「先に皆の無事を確かめる。手紙を届けるのはその後になるぞ」
「かまいません。届けてもらうことの方が大切ですから」
リーゼロッテは私が今すぐに出発する気ではなくなったことを察したのか、掴んでいた手を離した。私は双剣を手に取らず、彼女が手紙を書いている間にやるべきことを考えた。
「なら、私は同行者を募って来る。また襲撃がないとも限らんからな」
書き上げるまでの時間にやるべきこと。それは同行者を集めることだ。隠れ里に運ばれた怪我人の家族や恋人達も安否が気になるハズ。彼らを集めて面会させてもらい、安心させるのだ。
ただ、希望者を全員という訳にはいかない。隠れ里に行って終わりではないからだ。手紙を届けるのも重要な仕事であり、再び襲撃される可能性を考えれば戦闘力は考慮する必要があった。
「ボス!どうなってんだ!?」
「何があったんです!?」
私が家の外に出ると、続々と私の周囲に人が集まってくる。気を失ったリーゼロッテがいたことから、我が家に突撃するのは控えていたようだが、仲間達の安否を一刻も早く確認したかったらしい。見渡せば集まっているのは帰っていない者達の関係者ばかりだった。
自分の身に置き換えてみれば彼らが気になるのは当然だ。むしろリーゼロッテのことを考えて我が家に押し掛けなかっただけ理性的と言えよう。
私はリーゼロッテとシャルの話を要約して皆に話した。怪我人だらけではあるものの、死者は確認されていない。とりあえず自分の家族や恋人が無事だとわかって彼らは胸を撫で下ろしていた。
ただし、誰一人として笑顔に戻ることはなかった。当たり前だろう。実際に仲間達の無事をこの目で確認した訳ではないからだ。第一、ティガルはボタンですらどうなったのかわからない行方不明。笑っていられる状況では断じてなかった。
「今、お嬢はカール王への手紙を書いている。それを届けるために私は王都へ行く。そのための同行者を選びたい」
「俺が行く!行かせてくれ!」
「私に行かせて!」
私が出てくるのを待っていたことから予想はしていたが、集まっていた者達はほぼ全員が自分が生きたいと主張し始めた。実際に目で見て安心したい。肉親が混ざっていない私ですら皆のことが気になるのだ。彼らの焦燥感は推して知るべしである。
出来ることなら全員を連れて行ってやりたい。不可能ではないだろう。不可能ではないのだが……ここは心を鬼にして現実を叩き付けなければならなかった。
「聞いてくれ。仲間達は周到な準備を行った者達に襲撃された。つまり、その連中によって再び襲撃される可能性がある」
「あっ……」
「重傷を負ったレオを見ただろう。あのリナルドですら重傷だと言う。半端な腕前しかない者達は連れて行けない。これ以上、無意味に傷付く者達は見たくないからだ」
私が現実と私個人の考えを述べると、周囲はシンと静まり返った。彼らも本心では行きたいのだろう。だが、ゼルズラの精鋭ですら重傷を負わされた者達に襲われる可能性を考慮すれば力不足だと自覚している者達は何も言えないようだった。
彼らが落ち着いたところで、私は集まった者達から手練を選別していく。選ばれた者達はいつでも出発出来るように準備するべく自宅へ急いで帰っていくのだった。
次回は12月10日に投稿予定です。




