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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第七章 大陸騒乱編
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砂漠地方の未来

 リーゼロッテと共に行った面談は連日行われている。自分が住んでいる砂漠のことを自ら悪く言うようで複雑だが、こんなに神官達が来るとは思わなかった。何故なら、ローレンツが執筆した紀行文『山脈以南紀行』が原因だった。


 『山脈以南紀行』は紀行文として高い評価を受けている。シュミエ山脈と砂漠での体験と光景を詳細に描写しているのも評価点だが、他にも砂漠での生活の現実についても正確に描写されていたことも大きかった。


 昼間は肌が焼けそうなほど熱く、逆に夜は凍えるほど寒い。時折訪れる大規模な砂嵐は去るまで外に出られない。砂海は恵みをもたらすと同時に巨大生物が住んでいる。過酷としか言えない環境だ。


 だからこそ、物見遊山で砂漠へ行きたいという者はまずいなかった。砂漠行きを切望したのは学者先生ばかりなのも当然だろう。


「厳しい環境を求める神官だけだと聞いていたが……」

「状況は日々変わるものですよ」


 答えを求めていなかった私の独り言に反応したのはリーゼロッテだった。彼女は口を隠して上品に笑っている。彼女の言う通り、状況が変わったのが原因だった。


 その状況とは『正義教会』の勢力が伸長して来たことが原因だ。大陸西部を掌握したと言っても過言ではない。実際、『灼鉄騎士団』のアイザックとベルナールの悲惨な境遇は記憶に新しかった。


 この状況を鑑みて各神殿は、信仰を守るためにも新たな神殿を築きたいと望み始めた。しかしながら、各国の既に神殿は飽和状態に近い。そこで目を付けたのが手付かずの山脈以南の砂漠地帯だったのだ。


「しかし、意味があるのか?ゼルズラには私達しかいないんだぞ?」

「意味はありますよ。今、砂漠方面からやって来る物資の大半はゼルズラからもたらされています。ですが、元々は洞窟などを通ってごく少数を運ぶ者達がいました」


 リーゼロッテの言うように、私達が砂漠に定住する以前から砂漠の物資は持ち込まれていた。シュミエ山脈の地下には洞窟が幾つもあり、そこを通ってやって来るのだ。


 具体的にはワイルの一族やアイザック達が護衛していた狩猟者だろう。私の卵を王国に持ち込んだのも同じような狩猟者なのは疑う余地はなかった。


「ただ、そんな者達が持ち込む物資の量とゼルズラが持ち込む量。その差は歴然です。理由はわかりますか?」

「全て人力だからではないのか?一度に持って帰る物資の量が我々とは段違いだろう」


 私達は山脈を越え、麓の森を通る許可を得ている。それ故に馬車に詰め込めるだけの荷物を一度に詰め込んで王国を目指せるのだ。山脈越えは半年に一度であるが、それでも馬車を使えない者達に比べればその量は圧倒的だろう。


 これが私なりに考えた答えだったのだが、リーゼロッテは首を横に振る。驚く私に彼女は真剣な表情で口を開いた。


「それも理由の一つでしょう。ですが、根本的な理由ではありません。それはごく少数がそのルートを独占していることです」

「……なるほど」


 ワイルもアイザック達が護衛していた狩猟者達も、自分の一族だけで砂漠へ行く手段を独占していた。一族だけで独占していれば、砂漠の生み出す富を独占出来る。何せ持ち込めるのは自分達だけなのだから、全て言い値で売れるのだ。濡れ手に粟だったことだろう。


「連中からすれば私達はさぞ目障りだろうな」

「そうでしょうね。ですが、ゼルズラから物資を運び込むことは、既に王国の事業となっています。一個人が手を出すことはできません」


 一族で独占していた砂漠の品々が、王国の事業として大量に流入して来たのだ。連中としては面白くないのは間違いない。


 しかしながら、それを防ぐ手立ても存在しない。王国そのものに喧嘩を売ることなど出来ないからだ。ならば私達を狙うという方法もあるが……共和国との戦争を駆け抜けた魔人が交ざっている集団を襲うほどのリスクを負うとは思えなかった。


「では、そんな集団が取る手段は何でしょう?」

「これまで通りなんじゃないのか?私達とは持ち込む品の種類が違うだろう」


 これが私達を襲撃しようと考えないと私が判断した最大の理由である。私達が持ち込むのは大多数がゼルズラの産物だ。砂漠の品はそれだけではない。それこそ、私の卵なども狩猟者達が持ち帰ったはずだ。


 元々、持ち込む品が異なるのだから、目障りかもしれないがやることは変わらないのではないか。そんな私の主張はリーゼロッテによって否定された。


「今まで通りは無理ですよ。確かに扱う品に違いはありますが、ゼルズラから来た品の相場が砂漠の産物全体の相場になってしまっています。彼らも足下を見られていると聞きますよ」

「相場か……」


 私達が持ち込む品はほとんどが高級品扱いだ。当然ながら高額だが、その値段が砂漠の産物全体の価格の相場となる。扱う品が違うとしても、あまりにも相場からかけ離れていては客が離れるということか。


 これまではボッタクリ価格を吹っかけていたのだろうが、それが難しくなったのだろう。これは本気で恨まれていそうだ。襲撃されるリスクは高くなったのではなかろうか?


「彼らが生き残るためには、変化した状況に適応しなければなりません。そして目端が利く者達はもう動き出しています」

「というと?」

「自分達が秘匿してきたルートの一般開放です」

「何だと?」


 自分達が独占し続けることで利益を生み出してきたルートを公開するだと?そんなことをしたらもっと利益が減ってしまうのではないか?だが、私の抱いた疑問についての答えをリーゼロッテは当然のように持っていた。


「そもそも、砂漠の産物が何故高価なのか。その大元は絶対的な量の少なさにあります」

「確かにその通りだ」

「ですが、その量を増やそうにも一族で独占していては一度に運べる量は絶対に増えません。人手が足りないからです」


 私達のせいで砂漠の産物の相場が下がり、それによって利益を得ていた者達は儲けが減った。ならば持ち込む量を増やせば良いと思ってもそれは難しい。一族だけで独占しているからこそ、いきなり仕入れる量を増やすことは出来ないのだ。


 一族でルートを独占し、一族の狩猟者だけがそのルートを使う。つまり実際に砂漠へ行く者達の人数をいきなり増やすことが出来ないのだ。一族だけで秘匿する弊害と言えよう。


 そして抱えているルートがどれだけ安全だとしても、往復で一ヶ月以上必要となることだろう。疲労を抜くための休息も必要だと考えれば、砂漠へ行く回数を増やすことも実質的に不可能だ。今の彼らのやり方では利益が減ることを防ぐ術はないのである。


「秘匿してこのまま細々と稼ぐよりも、開放して通路として維持管理する代わりに使用料を取る。そんな形を取ることは可能か、と打診してきたそうですよ」

「打診、ということはルートを抱えた一族の側から?」


 驚く私にリーゼロッテは首肯した。狩猟者として砂漠で狩猟・採集を行っていたのが、いきなり通路の使用料を取る通路の管理人に転身する。そんなに上手くいくのだろうか?生き方をいきなり変えるというのは難しいと思うのだが……


「当然、向こうでも反発する声があるとか。今は調整中のようですね」

「ふむふむ」

「ただ、これが上手く行ったなら砂漠側の出口に街が築いてもらうことになると思います。そこで神殿の方々が役立つのです」


 使用料を払えば行き来が可能な通路の出口に街を築けば、そこで取引をして帰るだけで砂漠の産物を持ち帰ることが可能だ。砂漠との行き来はより活発になることだろう。


 その際、神官がいれば商人達の心の安寧に繋がるとリーゼロッテは語る。この構想があるからこそ、王国は神官の砂漠行きを歓迎しているらしい。


 ここで神官達の話が繋がってくるとは。それにしてもカール王は数年、数十年先を見据えての計画を立てているのか。日々を生きる私達とは見ている視点が違う。それを思い知らされたのだった。

 次回は10月27日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
いろんな立場でいろんな利害が生じて面倒が増えますね。 人が増えれば争いも起こるでしょう。 王はそのことも折り込み済みでしょうね。
既に砂漠地方の情勢は大きく変わってきてますからねえ 旧態依然では消え去ると判断できる一族がどれほどあるか
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