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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第七章 大陸騒乱編
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神官の信仰

 『水の女神』様の神殿の司祭との面談が終了したのは昼前であった。この面談でわかったことは『水の女神』様の神殿はゼルズラに神殿を建て、人員を送り込むというのは本気だということ。そしてそのための下準備を既に整えていて、いつ出発でも問題はないということだった。


「ほとんど話していないのに、とても疲れたぞ……」

「俺、あのバアちゃんちょっと怖ぇよ……」


 ただ、時折相槌を打つだけだった私とほぼ置物だったレオは強い疲労を感じていた。最初のやり取りを除けば不穏な空気になったことは一度もなかったのに、である。


 その理由は何故か?それはレオの言いように司祭の老婆が原因である。彼女に何か悪口を言われたとか、彼女に根掘り葉掘り何かを聞かれたという訳でもなかった。むしろ話していたのは司祭の老婆ばかりである。


 ではどうして疲れているのか?それは……老婆はあれからずっと、そう、帰り際のギリギリまでずっと『水の女神』様がいかに素晴らしいのかを語り続けていたのである!


「司祭様のように高位の神官は、大なり小なりあんな感じですよ。神々に信仰心と日々の行動を認められた者だけが神殿内で職位が上がるのですから」


 ゲッソリとしている私達を見て、リーゼロッテはクスクスと笑っている。どうやら彼女は慣れているらしい。貴族として神官と関わることが多いからだろう。


 神官とは一柱の神への信仰に殉じることを誓った者達だ。ゼルズラにいる者達を含めた大半の者達は、必要に応じて別の神々へご利益を願う。それ以外の者達は一柱の神を信仰し、その中でも信仰の道に専心しているのが神官なのである。


 ただ、だからこそ彼らの信仰心はとても強い。リーゼロッテの話によると、王国内に限らずどこの国だろうが地域だろうが、おそらく大陸だろうが高位の神官は誰もが非常に敬虔な……言葉を選ばずに言うのなら狂信者とのことだった。


 彼らは必要とあらば信仰のために生命を投げ出すことも厭わない。しかしながら、神々の多くは信徒達に無駄な犠牲を強いることを好まない。そこで各神殿が信徒を守るために抱えるようになったのが神殿騎士団である。


 アイザックとベルナールが所属している『灼鉄騎士団』や、私がまだ魔人になる前に散々殺した『マリウス聖騎士団』などがこれに当たる。神殿によっては小国程度なら容易く滅ぼせる戦力を有しているのは大陸西部を見ればよく分かるだろう。


 おそらく護衛として来ていた厳しい顔付きの男性は『水の女神』様の神殿騎士だったのだろう。誰も明言しなかった上に身体のラインがわかりにくい服装だったが、足運びだけでも手練れであることはわかったからだ。


 ちなみに、あの男性は司祭の老婆の言葉を聞いて目をキラキラと輝かせていた。彼もまた、あっち側の人間だったということである。


 私の中の謎知識は聖職者の組織は必ずと言って良いほど腐敗すると囁いている。しかしながら、私の理性がそれはあり得ないと判断していた。何故なら、腐敗して利益を貪ろうとするような不届き者がのさばることを神々は許さないからだ。


 神々は人々を導き、人々は導かれながらも己の意志で善行を積み重ねていく。信徒が善行を積む理由が神への信仰心ではなく、己の野心や欲望からであるかどうかは神々ならばお見通しらしい。結果、敬虔で狂信的な者達が高位の神官に選ばれるのだ。


 ただし、ほとんどの神々は己を信仰する過程で他の神を排斥することを明確に禁止している。信仰対象の違いのよって価値観の違いは必ず生まれるものの、だからと言ってそれを排斥してはならない。高位の神官であればあるほど、互いに互いを尊重して別の神々にも深い敬意を払うようだ。


 ちなみに、神々同士が争った場合にもその信徒同士が争うことを避けるべきだとされている。例えるなら親同士が喧嘩しているからと言って、子供同士がいがみ合う必要がないということだろう。


「だからこそ、今でも『正義の神』と聖騎士達の暴挙は信じられません」

「他の神に喧嘩を売った訳だからな」


 この常識があるからこそ、『正義の神』とその信徒達のやりようは異様なのだ。正義を司る『正義の神』の下に全ての神と人々が集うべきだという思想を受け入れられるのは元から信徒だった者達だけだろう。


 それでも大陸西部を牛耳っていることは厳然たる事実である。そしていつか必ず大陸北部や中央部にも魔の手は伸びてくるだろう。


「さて、今日の面談はこれで終わりです。私にも政務がありますからね」

「良かった……」

「ですが、面談はこれから毎日あると思って下さい。最も情報を早く得たのが『水の女神』様の神殿だったというだけで、砂漠行きを望む神殿は他にもあるのですから」

「「ハァ〜……」」


 私とレオの深く、重い溜息が重なったことを責める者はいなかった。何せあと何度も先程の司祭のような者達の話を聞くことになるのだ。なまじ悪人ではないからこそタチが悪い。反応から考えてレオも同じであるようだ。


 何とも言い難い気分のまま、私達は昼食をとることになった。わざわざ宿舎に帰るほどのことではないということで、母屋でリーゼロッテと共にとることとなった。


「それにしても、シャウラ達は良い子ですね。それはリースとライも同じですが」

「ああ。皆、真っ直ぐな良い子達だ」


 食事中の話題は娘達のことだった。リーゼロッテは子供が好きなのでこの話題になるのは自然な流れと言える。だが、ここから彼女がどう話を広げて行くのか私は戦々恐々としていた。


 私が警戒していることを察したからだろう。リーゼロッテは心底面白そうに笑っている。見透かされたせいでバツが悪くなった私は誤魔化すように頬を掻くしかなかった。


「本当なら砂漠へ行っても良いと言う教師を見付けるつもりだったんです。必要ありませんでしたけど」

「学者先生達には助かっている」


 リーゼロッテは子供達の教育のために骨を折るつもりだったようだが、砂漠でのフィールドワークを望んだ学者先生達によって解消されている。彼らは暇な時間に子供達へその叡智の一端を授けてくれるからだ。


 お陰でゼルズラの子供達は一般的な農村の子供達よりもずっと知識があるという。知識に偏りはあるものの、都会で教育を受けている子供達よりも深い見識を得ている者もいるようだ。


 その中でも最も賢いのは我が長男であるキリクなのは鼻が高い。初めて会った時点で、孤児の集団における参謀役を引き受けていたのだ。厳しい環境のせいで全員が大人びていたキリク達だが、飛び抜けて地頭が良かったのは疑うべくもない。


「ですが、知識として一つだけ決定的に足りていないモノがあります」

「それは?」

「礼儀作法です。細かい方は本当に細かいことでも非難して来ますから」


 ……リーゼロッテの指摘について私達は何も言い返せなかった。これからゼルズラには礼儀作法について詳しい知識を持つ者がほとんどいないからだ。


 今でこそ、王宮に塔城する時は目立たない裏門などから物資を納入するだけで終わることが多い。だが、急に王宮の正門から入って何かすることを求められる可能性も高いのだ。


 一応、クリスは王国式の、マルケルスとデキウスが帝国式の礼儀作法は最低限修めている。しかし、彼女らは形式にこだわる者達を納得させられるレベルで教えられる訳がない。何と言ってもクリスは護衛であるし、デキウスも軍人であったからだ。


「王都にいる間だけでも、全員に礼儀作法を覚えて……何でしょうか?」

「誰かが門番に止められているようだ」


 礼儀作法を学ぶようにリーゼロッテが勧めていると、外が何やら騒がしくなって来た。リーゼロッテの聴覚では聞き取れないのだろうが、私であれば聞き取れる。私は聴覚を研ぎ澄ませて外の音を拾ってみた。


『どうか!どうか、お目通り願いたい!』

『ですから、急に来られても困ります!』

『某、ラピ様の格闘術に感銘を受け申した!是非、是非ともラピ様に師事致したく!』

「…………何をやっているんだ」


 外で大声を出している男がここに来たのはラピが原因であるらしい。ローガンという人物に用件を伝えるついでに観光しに向かったのに、何をどうすれば弟子志願者を生み出せるというんだ?


 私は思わず天を仰いだが、リーゼロッテに伝えない訳にはいかない。全く気が進まないが、私は門番と押し問答をしている男の発言内容をリーゼロッテに伝えて彼女の反応を待つのだった。

 次回は10月3日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] その男はラピの弟子になって一緒に砂漠に来るつもりなのか? そいつが礼儀作法の師匠だと一石二鳥だけど、そうはうまくは行かないでしょうね。
[一言] 実際に神が存在することで腐敗は起こらないのは良いことですよねえ まあ、その神の性根が腐っていた場合はどうしようもないのですが
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