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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
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目が覚めたら

 三つ目のレビューをいただいておりました。ありがとうございます!

 深紅の空間にいた私は急に睡魔に襲われて、深い眠りについていた。何か夢を見ていた気がするが、合成される直前と違って全く覚えていない。覚醒した私は、早速自分の現状を確認すべく……()()を開けた。


(待て、目蓋だと!?ううぅっ!?)


 複眼にそんな機能はないはずだ、と思った直後に私の頭を酷い頭痛が襲った。視界がグチャグチャになってしまい、私は思わず目蓋を閉じる。


 その瞬間、私の頭に走っていた激痛が収まった。しかし、変だ。目蓋を閉じている状態なのに、視界が全く変わらないのである。一体どうなっているんだ?


 私は恐る恐る目蓋を開ける。すると再び頭痛がしてくるが、痛みの度合いはかなり軽くて最初の時ほどではない。視界は安定しているので、恐らくは新たな身体に頭の中身が追い付いて来たのだろう。


(視界は良好。前の時とは違って下も()()もよく見える)


 落ち着いた私は十個ある複眼で現状を確認する。元々はヤロの眼球だった場所に大きな複眼が三つ、額の複眼の左右に小さな複眼が二つずつ、頭頂部の少し後側に三つあった。


 そのお陰で全ての方位がよく見える。今の私には死角と呼べる角度はほぼないと言っても良いだろう。ただし、髪の毛が伸びると後方の視界は少し隠れそうだ。面倒だが、髪の毛はこまめに短く切るべきかもしれない。


(身体の形状はヒト種に近いが、蠍の名残も残っているか。ただ、尾節ではなく尻尾になっているのは驚きだ)


 今の私の姿だが、全体的な身体の形状はヒト種にそっくりだった。しかし、両腕の前腕と両脚の膝から下が外骨格に覆われていて、腰の付け根から尻尾が生えている。腹部の先端にあった尾節とは違い、今の尻尾は内側に骨が通っている歴とした尻尾だった。


 尻尾は生まれた時からあったかのように先端にまで意識が届く。自由自在に動かせるのが本能的にわかるぞ。しかし、今の尻尾は四肢と同様にガチガチに拘束されていた。


(予想はしていたが、やはり私は拘束されているようだ。椅子の肘掛けと脚にある枷で四肢の自由が奪われている。破壊は……無理か)


 私は椅子に座らされていて、手首と足首を枷によって固定されている。無理矢理に破壊しようかと思ったものの、その瞬間にいつの間にか胴体に彫られていた刺青が黒く輝いて力が抜けてしまった。


 痛くならないものの、『魂の隷属』と似たような術を施されているらしい。いや、無為に痛め付けずに動くことすらさせないこちらの方が術としては上か。気絶している間に必要な処置は終えたのだろう。逃がすつもりは一切ないのだ。あー、嫌だ嫌だ。


(この部屋は霊術回路が刻まれていないし、合成に使われたのとは別の部屋か。部屋には私と椅子しかない……監禁専用の部屋と言ったところか)


 部屋は殺風景で、私と椅子以外には何もない。私の正面に扉はあるが、インテリアも家具もない。唯一あるのは部屋の天井に吊るされているランタンくらいだった。


 四方の壁には窓もないし、もうこれ以上は何の気なしに情報も得られないようだ。仕方がない、何時ものように闘気と霊力の制御訓練で暇潰しをしよう。私に彫られた刺青がどんな時に反応するのかを検証しておきたいしな。


「こっちこっち!早く来てよ、じっちゃん!」

「そう急かすでないわ!やれやれ、これだから最近の若者は……」


 暇潰しの制御訓練を行っていると、あの霊術士と誰かの声が聞こえてきた。もう一人は声音からしてゲオルグと同じくらいの歳だろうか?まだかなり遠くにいるようだが、私の聴覚は連中の声を正確に聞き取っている。五感の鋭さは健在らしい。それがわかっただけでも収穫だ。


 やいのやいの言いながら近付き、扉を開けて入ってきた。片方は私とヤロを合成した霊術士で、もう一人は背が低い老人である。ただし、その老人は全身が筋肉の塊のようになっていて、伸び放題の髪の毛と髭を三つ編みにしていた。


 部屋に入った霊術士は得意げな顔付きで胸を張り、共に来ていたらしい老人は私を見て目を細めている。私を品定めするように眺めると、私から視線を逸らさずに霊術士に質問した。


「おい、オルヴォ。こいつぁ何じゃ?」

「フッフッフ!よくぞ聞いてくれたね、じっちゃん!彼は僕の作った合成獣さ!」

「そうじゃないわい、研究馬鹿め。確かにヒト種を使った合成獣には驚いたが、儂の驚きの本質はそこではないわ。驚くほど巧妙に隠しておるが、多くの戦士と関わった長年の勘が告げておる。これは真性の化物じゃ……尋常の生物ではあるまい。お主、何を使った?」

「えぇ~?もっと驚いて欲しかったのに……まあいいや。じっちゃんには最初から説明してあげるよ」


 不服そうに唇を尖らせながら、オルヴォという名前らしい霊術士は私についての概要を説明する。それを聞いた老人は呆れたようにため息を吐いてから言った。馬鹿かお前は、と。


「『雷光』を殺した冥王蠍を使った合成獣?さぞや強いのじゃろうが、そんな化物を無理矢理従わせるのはリスクが大き過ぎる。何時か必ず叛かれるぞ」

「大丈夫だって!改良型の『魂の隷属』を刺青として刻んでるんだからさ!」


 やはり首元から胸に掛けて彫られている刺青は『魂の隷属』だったのか。しかもその改良型とは……私にとっては厄介でしかない。どの部分が改良されているのだろう?


「だと良いがのぅ」

「じっちゃんは心配性だなぁ。それでじっちゃん頼みたいことだけど、彼の武器を作って欲しいんだ」

「……正気か?寝首を掻かれるかもしれんのだぞ」


 オルヴォの要求は予想だにしていなかったのか、老人は思わず返事が遅れるほど驚いている。それは私も同じで、三つある目蓋を大きく開いていた。


 私にとってオルヴォは自由を奪っている張本人だ。隙さえあれば殺して自由になりたいと思っている。そんな相手に武器を与えるなんて、とてもではないがまともな判断とは思えなかった。


「正気だよ?失礼しちゃうなぁ……今よりもキツく拘束するし、普段は武器に近付けないようにもするさ」

「……まあ、儂の知ったことではないか。儂は武具職人として仕事を全うするだけじゃ」


 どうせ被害を被るのはオルヴォだけだと思い直した老人は、ベルトに提げていた縄を外して私の身体に押し当てる。どうやら手足の長さを計っているようだ。それから私の腕や脚を指で強く押すと、何か気に入らなかったのか渋面を作った。


「何じゃ、この筋肉は……同じ大きさでもフル族の数倍の力が出せよう。半端な武器を使うくらいなら、固そうな拳で殴った方が強いぞ」

「だからじっちゃんに頼んでるんじゃん!素材はあるからさぁ、ね?いい感じの武器を作ってよ~」

「ええい、猫なで声を出すでない!気持ち悪い……まあ良かろう。こやつの力に負けぬ武器を仕上げてみせよう」


 老人は嫌そうに身震いしつつも、オルヴォの頼みを聞き入れるらしい。武器か……攻撃に使う道具の一つ。蠍だった私は、これまで斬られたことはあっても触ったことは一度もない。使えないモノをあのゲオルグが私に渡すわけがなかった。


 ヒト種の道具は私の鋏では使えないのだ。一応、霊術で武器を象ったことはある。だが作ってぶつけただけなので、それを使ったとは言えないだろう。作ってもらったとしても使いこなせるとは思えなかった。


「いよっ!じっちゃん!神の末裔!」

「ふん、大親父様には遠く及ばんがな。それで素材を見せんか」

「はーい」


 オルヴォは裾に手を入れると、そこから二つのモノを取り出した。それは先端が折れた剣と……私の左の鋏であった。


 剣はあの聖騎士が私に突き刺したモノだから、ここにあるのは理解出来る。それよりも左の鋏!斬り飛ばされた後にどこへ行ったのかわからなかったが、回収していたのか。あるならくっ付けてくれよ!


 二つのモノを受け取った老人は、最初に折れた剣の方を見る。折れた断面だけではなく、全体を舐め回すようにして眺めると感心したように頷いた。


「ほう……剣は中々の業物じゃな。霊脈鋼の上に粉末にした竜種の鱗を混ぜた銀でコーティングしておる」

「へー、そうなんだ」

「ただし、剣の出来はまだ甘いしコーティングにもムラがある。修理がてら手直ししてやるとするかの。それよりも問題はこっちの鋏じゃ」


 剣を腰のベルトに差し込んだ老人は、私の鋏をポンポンと手の中で軽く投げながら弄ぶ。おい、私の前で私の鋏で遊ぶんじゃない。もっと大切にしろ!


「こいつは難物じゃぞ。触った感じ、相当な硬度がある。其奴の手足と尻尾と同等じゃな。それでいて異常なほど軽い……しかし、挟むのに特化した形故に加工が難しい。ふむ……」

「でも、じっちゃんならどうにかなるでしょ」

「当然じゃ。一ヶ月寄越せ。それまでに両方とも仕上げておくわい。素材の特性を最も活かした、最高の武器にな」


 難しいと言っておきながら、数日で仕上げてみせると言い切った。オルヴォと同じく自分の腕前に絶対の自信があるのだろう。オルヴォが信頼を寄せていることからもそれは間違いない。


 老人は私の鋏を腰のベルトに差し込む。左側に剣、右側に鋏を垂らした小柄な老人はその瞳にやる気という名の炎を燃え上がらせていた。私の鋏がどんな武器にされるのか、何だか少しだけ気になってくる。変な武器にだけはしないでくれよ?


「そっか。じゃあその間に一回実戦に投入してみるよ。都合良く幾ら殺しても怒られるどころか喜ばれる連中がいる訳だし」

「然り。儂の作品も活躍の場を得て喜んでおるわい」


 あ、何だか嫌な予感がしてきた。実戦に投入だって?しかも殺しても喜ばれる相手?そんな奴等と私を殺し合わせるつもりか?


 生まれてからすぐに死と隣り合わせの訓練を強要され、百匹ほどの生き物と殺し合いをさせられ、一瞬だけ自由になったものの恩人を失った。その仇討ちで死にかけて、気が付いたら合成獣に変えられて、結局させられることは殺し合いか。ああ、死にたくない。


 『百年間生き延びる』という使命を帯びているというのに、私の行く道は戦いと死で満たされている。ああ、何時か戦いとは関係のない、平穏な暮らしを送りたいなぁ……。

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― 新着の感想 ―
むかつく展開だけど作者への誹謗中傷はライン越えやでー
ど、毒針は!? 無事なんだろうね?彼のアイデンティティの一つ、鋏と並ぶ蠍の証は!
[一言] また、拘束されんの?作者ドMかよw
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