表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第二章 戦奴編
36/477

二つを一つに

 気が付くと私は再び卵の中にいた。これは私が生まれる前に見た景色だろうか?いや、違うな。何故なら私が入っている卵の殻から見える外には、大きな魚が悠々と泳いでいるからだ。


 ここは水中?どうしてこんな場所に……って、おい、待て。そこの魚、どうしてこっちに来るんだ?こっ、こいつ!口を開けて、近くの卵を食べやがった!止めろ!私を食べるんじゃない!ダメだ!私には百年生きる使命があるのだ!まだ生まれてすらいないのに、死ぬなんて絶対に…………!


「ギシィ……ィ?」


 ……どうやら水中の光景は夢だったらしい。使命を果たせなかったと言う絶望感によって、寝ていた私は目が覚めた。自分の夢で起きるとは……あれが悪夢というものか。


 妙に鮮明だった夢から目が覚めたのは良いが、今の状況は決して良いとは言えなかった。何故なら、私は床と四方の壁と天井に霊術回路が刻まれた部屋の中心で鎖に縛られて拘束されていたからだ。どうしてこんなことになっているんだ?


 ええと、何があったのか思い出せ。屋敷が襲撃されて、ゲオルグを殺してから逃走して、奴隷の仇討ちをしてから墓を作って、べらぼうに強い老境の聖騎士をどうにか討ち取って、激怒した聖騎士達を皆殺しにした。いいぞ、そこまでは思い出せた。


 しかし、そこからの記憶は全くない。恐らくは聖騎士達を皆殺しにした所で気を失って、その後に何者かの手によってここまで運ばれたのだろう。


 私を生かしている時点で聖騎士の関係者ではあるまい。では誰が、何のために私をここに連れてきたのか?この部屋の様子を見ればロクでもない理由なのは明白だ。必死に戦ってあの激戦を生き残ったと言うのに、自由にはなれなかったらしい。


 ただ一つ救いがあるとすれば、私の怪我がほぼ治療されていることだろうか。最後に刺された剣だけはそのままだが、他の傷口は全て塞がっている。どうやらこの剣を無理に引き抜くと、私は出血で死んでしまうようだ。でもずっとこのままというのは勘弁して欲しいところである。


「ほらほら、こっちだよ!早く来なって!」

「止めろ!放しやがれ、このイカレ野郎!」


 私が現状を確認していると、部屋の外から声が聞こえてきた。老境の聖騎士に二本斬られ、その後も何本か斬られた節足だが、一本でも残っていれば床の振動で聞き取ることは可能なのだ。


 声は二人分で足音は一人分、それに何かが引きずられるような音……片方がもう片方を引きずっているんだろう。二人とも声から若い雄だと思われる。片方はとても楽しそうで、もう片方は怒り狂っていた。


 普通に考えれば、怒り狂っているのは引きずられている方だろう。逆だったとしたら……それは最早理解不能だ。


 声は徐々に近付いてくるが、罵倒とそれをあしらう言葉しか聞こえてこない。会話から私がどうなるのかについての情報を得ようと思っていたのに……死んだフリをして待つしかなさそうだ。


「はい、到着っと。えいっ」

「ぐべぇっ!?痛ぇだ……うわっ!?何だこいつ!?」


 そうこうしている内に声は近くなり、部屋に一つだけあった扉が蹴破られる。そして入ってきたのはローブを着た霊術士らしきフル族の雄と、その霊術士の裾から延びる鎖で雁字搦めにされたレカ族の雄だった。


 レカ族とはフル族やポピ族と同じヒト種で、額に第三の眼を持つのが特徴である。そのレカ族は鎖に縛られた状態で放り投げられ、私にぶつかって止まった。


 レカ族の雄は霊術士に向かって文句を言おうとしたが、私を見て怯えている。鎖に縛られたまま、芋虫のように蠢いて私から距離を取ろうとしていた。威勢は良いが、案外小心者なのかもしれない。


「こいつとは失礼な!彼はね、僕が知る中で最強の蟲系生物さ。スラムで悪さばっかりしている君みたいなクズのチンピラとは比べ物にならない価値があるんだよ」

「んだと!?ふざけんな!ぶっ殺すぞ!」


 馬鹿にされたレカ族の雄は顔を真っ赤にして怒っている。三つの目を吊り上げて喚き散らすが、鎖で縛られている状態では恫喝されても恐ろしいどころか滑稽でしかない。私と同じ感想を抱いているのか、霊術士は全く気にしていなかった。


 霊術士はギャアギャアと罵声を上げ続けるレカ族を完全に無視しつつ扉を閉めてから壁の霊術回路を起動させていく。さらに同時に謎の物質をローブの裾から取り出して床に置いていた。


 おいおい、どこにそんなモノが入っていたんだ?取り出したモノの総量は明らかにローブの内側の容積を超えている。空間を操る霊術だろうか?そんな術があるとは知らなかった。


「うるさいなぁ……ああ、そうだ。君にもたった一つだけ価値があるよ」

「ああ!?」

「君の霊術の適性が珍しいことさ。だから僕に拉致されてここにいる……光栄に思って欲しいね。君みたいなどうしようもない男が、僕の研究に役立てるんだからさ!」


 霊術士はウキウキしながら準備を続ける。壁の側で作業を続けながら、霊術士は自分が何をしているのかについて語り始めた。


「僕はね、合成獣作成の専門家なんだ。合成獣って知ってる?色んな生物同士を組み合わせて、一つの生物にするんだ。組み合わせにもよるけど、基本的に強くなるんだけど……色々と問題もあるんだよね」


 霊術士は合成獣の問題点について聞いてもいないのに教えてくれた。曰く、合成獣にすると知能が落ちる。賢い生物同士を組み合わせたとしても、何故か必ず知能が低下してしまうらしい。


 確かに、私が戦ってきた合成獣に賢い個体はいなかった。良くて通常の獣並み、悪ければ自分が傷付くことにも気付いていない状態で暴れることしか出来なかったと記憶している。合成獣とはそう言う存在だったのか……知らなかった。


 問題点は他にもある。相性が良い生物同士を組み合わせなければ、寿命が極端に短くなるのだとか。相性が良ければ逆に延びることもあるが、最悪の場合は一日も命を保てないようだ。


 それに合成獣に使えるのは生きた生物同士でなければならない。部位の欠損があっても問題ないようだが、必ず生きていないと合成した直後に死んでいた方の生物の部位が腐敗してしまうのだと言う。意外と合成獣を作るのは難しいようだ。


「そして最大の問題点だけど、同じ生物を組み合わせても個体によって性能が大きく変わるんだよね。性能を安定させられないから、どれだけデータを集めても結果の予想が出来なかったんだ……これまではね!」


 壁とその周囲に配置するのは終わったのか、今度はフワリと空中に浮かぶとローブから取り出した謎の装置を天井に設置する。問題点を語る時の霊術士の声色は沈んでいたのだが、ここからは一転して明るくなっていた。


「僕はその原因をついに解明したんだ!何だかわかるかい?わからないよね?じゃあ教えてあげよう。その原因は魂だったんだよ!肉体は一つになっても、魂は一つにはならない!つまり、これまでの合成獣は一つの肉体に幾つもの魂が残っている状態なのさ!本来はあり得ない状態のせいで、肉体も魂も本来の力を発揮出来なくなっていたんだ!」


 一つの身体に複数の魂……そうか、合成獣と対峙する度に感じていた違和感の正体はそれだったのか。一つの身体と一つの魂がセットになって生物は存在している。そうではないことを私は違和感として感じ取っていたのだろう。


 自然な状態から外れれば不具合が生じるのも無理はない。十分にあり得ることだと私は思った。原因を突き止めたようだが、ではどうやってその問題点をクリアする方法も編み出しているのだろうか?


「それを解明した時、最初に考えたのは魂同士を一つにする方法の模索だった。でもそれは無理だってすぐにわかったよ。魂の研究を専門にしている僕の友人から無理だって教えてもらったからね。じゃあどうするか……僕が出した結論は、こうすることさ!」

「へ……?」


 天井での作業を終えた霊術士は、着地すると同時に持っていた杖を軽く振る。すると霊術によって風の刃が生み出され……レカ族の首を斬り裂いた。おいおいおいおい、いきなり殺しやがった!何をしている!?


「さあ、ここからは時間との勝負だ!上手く行ってくれよ~!」


 霊術士が杖で床を叩くと、天井の霊術回路と天井の装置が輝き始める。さらにレカ族に巻き付いた鎖が上へ伸び、天井の装置に接続された。鎖はガリガリと巻き上げられ、首から血を流すレカ族は白目を剥いたまま空中に吊るされる形になった。


 すると部屋の床に置かれた謎の物質が液体化して、レカ族の首の傷に張り付いて行く。そしてズルズルと音を鳴らして傷口から体内に潜り込むではないか。一体、何をしているんだ……?


「心音チェック!う~ん……うんうん!やった、成功したぞ!一度殺せば、あらゆる生物の魂は消滅して世界に還ってしまう!でも、その肉体は生きている時と同じ状態に戻せる!これで魂のない生物の完成だ!さっすが僕、失敗することも多いのに本番できっちり成功させるんだから!」


 霊術士は狂ったように笑っている。しかし、私はこれからのことを考えて恐怖していた。合成獣の専門家が魂のない生物を私の目の前で用意したのだ。これまでの話を総合して考えれば、これから何をされるのか解ろうと言うものである。


 私は逃げ出したかったが、まともに動くことも出来ない状態だ。闘気と霊力を高めようと思ったが、それに反応したのか鎖から黒い靄が漂い始める。すると私の内側にあった二つの力が両方とも霧散して行った。


「おっと、お目覚めかな?本能的に逃げようとしたみたいだけど、そうはさせない。その鎖は特別製でね、拘束した相手の闘気と霊力を練られなくするのさ」


 くっ、対策済みかよ!抵抗すら許されないとは……!どうすれば良い?どうすればここから逃げられる!?


「そう警戒しなくて良いよ。僕は君に敬意を抱いている。だからこそ、最高の器を用意したんだよ。君と同じ火と風と土の適性を持っていて、若くて健康で、それでいて行方不明になっても問題のないヒト種……探し出すのに苦労したよ。結社の情報力をフル活用したんだ。だから……」


 再び霊術士が杖を鳴らすと、壁と床の霊術回路が妖しく輝く。深紅の光は複雑な文字が繋がった鎖となって、私の外骨格と殺されたのに生きているレカ族に巻き付いていった。


 深紅の輝きが視界を満たしていく。それと同時に身体の感覚が徐々に消えていった。遠くなっていく耳に最後に届いたのは……最高の合成獣になってね、という霊術士のおぞましい頼みであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
え、人化するのか タグにつけて欲しかった…… ここまではストーリーが面白かっただけに残念
人化するなら人化タグ付けてて欲しかった
[良い点] 人化展開大好き侍 [一言] 応援してます
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ