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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第四章 解放編
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計画と依頼

 しばらく笑い続けていたアイワスだったが、アインが新たに注いだお茶の香りを嗅いで落ち着きを取り戻した。さらに一口含んで味わうことで彼の笑いは完全に止まる。だが、その瞳はまるで少年のように輝いていた。


「さてと。君の立てた素晴らしい目標だが、これを叶えるには越えなければならない高い壁がある。それは理解しているね?」

「ああ。自分一人でどうにか出来ると思うほど私は思い上がってはいないし、他者の手を借りることを躊躇するつもりはない」


 アイワスの確認するように問いに対し、私は当然のように首肯した。まず最初に仲間達を解放することにしたって、私一人ではどうしようもないのだから。


 一応、隷属の霊術を使った者をどうにかすれば自由に出来そうだが……それで十分なのかどうか確信は持てない。どうすれば良いのか、アイワスに相談しようと思っていたのだ。


「うんうん、良い心掛けだね。誰かに頼ることは恥ではない。それがわかっているならば良いさ」

「ただ、今の私に対価として払えるモノはほとんどないぞ。それでも良いのか?」

「構わないとも。それについても私には考えがあるからね」


 ただ、私は誰かの力を借りるためには代償が必要になることも理解していた。むしろ、無償で力を貸すと言われたら裏があるのではないかと疑ってしまうだろう。


 予想通り、アイワスは何かを要求する気ではあるようだ。やはり力を貸すからにはアイワスも何らかの対価を求めるらしい。考えはあると言っているが、それが私に払えるモノであることを願うばかりである。


「その件は一先ず無視して話を進めよう。隷属の霊術に関しては心配無用だよ。ツヴァイ、例のモノを」

『かしこまりました』


 アイワスが指示すると、頭上の水晶玉であるツヴァイが青い霊力を含んだ光を放ち始める。その光は空中に何かの図形を描いたかと思えば、何とその図形が立体的になっていき……そのまま一つの物体になってしまった。


 実体化したモノは、私の剣ほどの長さがある大きな鍵であった。持ち手の部分にも柄の部分にも細緻な装飾が施されている。ただ、それは単なる装飾ではないらしい。ツヴァイから放たれた光の残滓が輝いていることから、恐らくは霊術回路となっているのだろう。


「これは霊術の効果を解除する道具だ。これさえあれば、君の仲間を解放することも容易いだろうね」

「そんな……とても貴重なモノなのでは?」

「いいや?ツヴァイなら幾らでも複製を作ることが可能だし、万能という訳でもない。私や私以上に優れた霊術士の霊術には無力だからね」


 いやいや、何を言っているんだ。一目見た時から感じていたことだが、アイワスは私がこれまで遭遇してきたどんな霊術士よりも遥かに優れている。これまで遭遇した霊術士の誰が使った霊術だろうと、この道具の前では無力なのだ。


 それにアインも言っていたではないか。アイワスは世界で七番目に賢いのだ、と。つまり、この鍵が通用しない相手はアイワスを含めても世界に七人しかいないという意味になる。そんな相手と敵対してしまった時点で死を覚悟せねばならず、鍵を使っている余裕などなさそうだ。


「これで第一の壁である仲間を解放することは可能になった訳だ。次の壁はどこへ逃げるかだが……君に腹案はあるかね?」

「どこかの山奥に潜むのは一時凌ぎにしかならないと思っている。きっと何時か噂になって、討伐隊などが送り込まれることだろう」

「そうだろうね。そこで、君達にとって都合の良い場所がある。ツヴァイ?」

『天球儀を表示致します』


 アイワスに応じるようにして、彼と最初に会った時にも見た半透明なこの惑星を表す球体が現れる。何度見ても不思議な光景であった。


 前にアイワスがエンゾ大陸だと言った場所を改めて観察してみる。大陸の中央には大きな山脈が横断しておち、それによって南北に分断されている。私の産まれたハーラシア王国や仲間達のいる帝国は大陸の北部にあった。


 南部に目を向けると北部とは様子が異なっている。半透明かつ着色されていないので詳しいことはわからないのだが、南部は陥没している部分が幾つもあるようなのだ。


 しかもその部分はかなり大きく見える。南側は起伏の激しい地形、ということだろうか?アイワスなら色々と知っていそうだ。


「見たまえ。エンゾ大陸は中央を横断するこのシュミエ大陸によって南北を分けられている。だが幾つもの国家が乱立する北部とは対照的に、南部には国家どころか集落と言える社会集団すら一つも存在しない。何故だかわかるかね?」

「地形のせいだろうか。これだけ凹凸があると生活するのも難しいのではないかと思うのだが……」

「フフフ。これは知識がなければわからないだろう。凹凸のある地形は人々が住めなくなった原因がもたらした結果に過ぎない。真の理由は別にあるのだよ」


 アイワスが含みを持たせた言い方をしたかと思えば、浮かんでいた球体は消えてしまう。代わりに二羽の鳥が表示された。


 左に映っているのは鉤型の嘴に鋭い爪を持ち、見るからに強そうな猛禽類だ。そして右に映っているのは長細く真っ直ぐな嘴に、派手な鶏冠と尾羽が特徴的な鶴を思わせる細身の鳥だった。話の流れからして、この二羽の鳥が南部の現状に関わっているのだろう。一体、何なのだろう?


「全ての元凶はこの二羽の神鳥……すなわち、神と呼ばれるまでに力を付けた鳥達だよ。左が『光輝の神』、そして右は『炎熱の神』と呼ばれていたね」

「その神鳥達は何をした?」

「殺し合ったのさ。その余波で一つの大陸の南半分の地形を変え、不毛の砂漠となったのだよ。三千年ほど前のことだね」


 大陸の半分を凹凸だらけにして、映像ではわからなかったが砂漠にまでしてしまうとは……神という存在の強さを再確認させられた。不完全だったとはいえ、よくもまあ我々は勝てたものだ。


 しかし、ここまで周囲への影響など度外視して争うとは、よほど譲れない理由があったのだろう。そうでなければ巻き込まれた者達があまりにも不憫である。


「ちなみに、二羽が争った原因は雌の奪い合いだ。当時、新たに神にまで至った若い雌の神鳥がいてね。それはもう美しい羽と声の持ち主だった。両雄は一目惚れした結果、己が伴侶とすべく邪魔な相手を始末しようとした訳だよ」

「それは……」

「フフフ。実に利己的で、はた迷惑な話だろう?」


 思っていたのとは異なる、あまりにも下らない理由に私は言葉を失ってしまう。そんな私を見てアイワスは上品に笑った。


 だが、彼の言葉には隠し様もない侮蔑が籠められている。それは私ではなく、二羽の神鳥へ向けられたものであるのは確実だった。


「そのせいで無数の生命が失われ、大陸は大きく傷付いたことでとある存在の逆鱗に触れたのだよ。全知全能たる原初の大神から直接分かたれた六柱の古神、その一柱……『星辰の古神』の逆鱗にね」


 古神……この世界に現存する最古にして最大の力を有する神々だと私の中の知識にはあった。『光輝の神』と『炎熱の神』がどれだけ優秀だったとしても、古神には決して敵わないだろう。


「ただ、古神の力はあまりにも強大だ。手加減に失敗すれば、簡単に惑星一つくらいは消滅させてしまう。それでは本末転倒だ」

「……力の次元が違いすぎるだろう」

「フフフ、全くだね。そこで、かの古神は単純な戦闘ではこの惑星において最強と言える『闘争の神』、ユキトスのソルガに二羽を始末させたのだよ。その際、ソルガは大陸に傷一つつけずに二羽を仕留めた。格の違いというものだね」


 手加減が苦手だから、別の神に討伐させたと言うことか。そして戦いの余波だけで大陸の南半分を滅ぼす神々を圧倒する神も存在する、と。アイワスはまるで見てきたかのように語った。


 前置きは長くなったが、アイワスはこの大陸の南部に行けと言いたいのだろう。確かに我々のような魔人は頑健であり、住むのが難しいであろう砂漠でも生きていけるかも知れない。


「その砂漠に行けと言いたいのか。到着までの道程は厳しくなりそうだし、少しでも住み易い場所を見つけるのも運が絡むが……確実に迫害から逃れることは可能だろう。わかった、大陸の南部を目指そう」

「理解が早くて助かるよ。それに、例の砂漠は君にとっても無関係ではない。冥王蠍はエンゾ大陸南部が生息地なのだから」


 ほう?大陸の南部は私の故郷と言っても良い場所だったらしい。産まれた時にはゲオルグに飼育されていたので、そんな実感は一切ないのだが。


 ただ、それを聞いて一つの懸念材料が生まれた。それは私の卵なのか親と言える個体なのかはわからないが、それを確保するために南部へ行く者達がいることがわかったからだ。


「気付いたようだね。君の予想通り、一部の好事家のために南部へ赴く者達は確かに存在する。だが、安心したまえ。連中は砂漠の奥には決して行かない。生還するのが非常に難しくなるからね」

「……そうであって欲しいものだ」

「嘘ではないさ。これで越えるべき大きな壁の解決策は立てられた。首尾よく帝国から脱出出来るのか、出来たとして南部までたどり着けるのかは君達の努力次第と言ったところかな」


 そう締め括ったアイワスに私は肯定するべく頷いた。賢者であるアイワスであっても、未来に起きることを正確に予測するのは不可能だろう。


 状況に合わせて臨機応変に対応するしかない。生き延びるための道は我々の力で切り開かなければならないのだ。


「ここで君が私に支払う対価の話に移ろう。君にやってもらいたいことが二つあるんだ」

「それは?」

「一つ目はエンゾ大陸南部に私が研究の拠点とし得る土地を確保してもらいたいのだよ。実はね、私はエンゾ大陸南部に興味があるのさ。不毛な土地で逞しく生き延びる動植物に、ね」


 大陸南部における研究拠点か。安全な場所を一から探すのは確かに面倒だろう。ならばそこを求めている我々が見つけた場所を利用すれば良い。何とも効率の良いことである。


 アイワスの屋敷やこの研究室から考えて、最低でもこの屋敷と同等の土地を確保しておく必要がありそうだ。ならば探すべき土地もそれなりの広さが必要になる。条件が少し厳しくなってしまったな。


 だからと言ってこの話を断ることは私には不可能である。何故なら、断るのならば既に受け取った万能鍵とでも言うべき道具を返却しなければならないからだ。これがなければ仲間達を確実に助けられるかどうかわからない。選択肢はあるようでないのである。


「土地の確保は了解した。だが、それをどうやって伝えれば良い?」

「それについても、もちろん考えているさ。同時に、二つ目にも関係してくる。アイン、そこの箱を持って来なさい」

「はいよ、ご主人様」


 アイワスは部屋の片隅に置かれていた金属の箱を指差し、アインに持って来させた。この箱の中身がアイワスとの連絡方法になるのだろうか?


 固唾を飲んで見守っていると、アイワスは箱の蓋を開けて中身を見せる。箱の内側には複雑な霊術回路が刻まれており、中央には一つの台座があった。台座の上には小さな青い水晶玉が鎮座している。随分と厳重に保存されているが、これは何なのだろう?


「これは……?」

「アイン達の八番目の兄弟、アハトだよ」

「ご主人様、新しい兄弟を作ってたんですかい?教えてくれても良いでしょうに」

「フフフ、驚いたかね?」


 この小さな球体が輝晶生命体の幼い頃の姿なのか。良く見れば水晶玉の中央はほんのりと光を放っている。ただの宝石でないのは明らかだ。


「アインから聞いている。輝晶生命体はお互いに繋がっていて、離れていても連絡を取り合えると。その要員としてこのアハトを連れていけと言うことか」

「それだけではない。さっきも言った通り、これが二つ目の対価になる。君達にはアハトを育てて欲しいのだよ。私から離れた環境で輝晶生命体はどう成長するのか。非常に興味があるね」

「……研究者らしい発想だな」


 輝晶生命体はアイワスが創造した種族であり、その数はまだ少ない。しかもずっと彼の近くにいるので、別の環境で育った場合はどうなるのか気になるのだろう。


 だが、輝晶生命体と言うことはアインの兄弟でもある。そんな存在をまるで実験動物のように扱うのは少し抵抗感があった。私の視線は自然とアインの方へ向かっていた。


「オイラ達に気遣う必要はないぜ。オイラ達はそう簡単に死ぬことはないし、ご主人様だってお前が任せられる相手だと思ってるから託すんだ。それに……オイラ達もそう言う風に気遣ってくれるお前になら兄弟を預けられる。なぁ、ツヴァイ?」

『はい、兄様』

「そうか……わかった。大事に育ててみせる」


 こうして私とアイワスの話し合いは終わった。明日から全てが動き出す。その予感に私は武者震いせずにはいられなかった。

 次回は5月7日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一つの光明が差したような前途多難のような。 これでみんなの国ができて独立して暮らせるようになれば、一歩ずつ前に進めるようになるでしょうね。 いつか奴隷ちゃんとも再会できる日もあるのかしら。元…
[良い点] 仲間の魔人達を解放出来そうで何よりですねぇ、まぁ一筋縄ではいかないんでしょうが… [気になる点] 蠍君の「〜不完全だったとはいえ、よくもまあ我々は勝てたものだ。」との内心、それ迄の会話の内…
[一言] 対価として頼まれたことですが無理難題ってレベルの物ではありませんでしたね どちらも今後も交流を持つことを前提とした頼みですしサソリが成功することに期待してくれてますねえ
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