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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第一章 闘獣編
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決勝戦 前編

 ゲオルグからお叱りを受けたので、準決勝は闘気を可能な限り高めて正面から叩き潰した。尻尾で嘴を釘付けにしてから首を切断したのである。私は力よりも機敏さの方が優れていると自負しているのに、力で叩き潰せとは無理を言ってくれたものだ。何時か必ず殺してやるからな。


 私にとって幸運だったのは、準決勝の相手だった陸王鳥がそこまで膂力に優れた生物でも、防御力が高い生物でもなかったことだ。もしもそのどちらかが戦人形並みに勝れていたなら、私は生き延びるために普段通りの戦い方で倒しただろうから。


『やっと決勝ね。相手はあの岩竜だけど……アンタなら勝てるって信じてるわよ!』


 鋏にこびりついていた陸王鳥の肉片を味わっている私をカタバミは激励する。ああ、戦いが終わったばかりだと言うのにもうすぐ始まってしまうのか。片付けが早い理由は、単純に闘技場の地形を大きく変えたり血肉が飛び散ったりしない戦い方で勝利したからだ。


 つまり、決勝戦までの休憩時間が少ないのは私のせいなのだ。かと言って片付けを長引かせるためだけに死体を損壊するのも哀れ過ぎると思って行わなかった。諦めて腹を括ろう。


「皆様、大変長らくお待たせいたしましたっ!『新人戦』の決勝戦を始めさせていただきますっ!両者、前へっ!」


 支配人がそう言うが早いか、私は闘技場へと節足を踏み入れる。観客が私に向ける感情の大半はどのように殺されるのかという興味であり、ごく一部の大穴狙いの博徒だけが応援していた。客観的に見て勝ち目は薄いしそんなものだろう。


 実際に近くで見た岩竜は、見上げる姿勢だからか想像以上に大きく感じられる。まだ怒りが収まっていないらしく、鼻息が荒く、鱗が逆立ったままで目も真っ赤になるほど血走っていた。おお、怖い怖い。


 それにしても、戦士蟹にボコボコにされたことがそんなに不服だったのだろうか?勝って生き残ったのだからそれで良いじゃないかと思うのだが……勝ったのに不機嫌だなんて、私から見ればそれは強者として生まれた者の我が儘にしか見えない。羨ましいものだ。


「ここまで圧倒的な力を見せ付け続けた優勝候補筆頭の岩竜とっ!多くの人々の予想を覆して決勝にまで残った最強のダークホース、冥王蠍っ!これ以上の言葉は無粋でしょう!それでは……決勝戦、始めええぇぇぇっ!」

「グオオオオオッ!!!」


 支配人が開始の合図をした直後、岩竜は咆哮を上げながら真っ直ぐに突撃してくる。私がどんな反撃をしてくるのかなど、全く考慮していないかのような動きだ。全てを捩じ伏せられるだけの力を持つ者にしか出来ない、良く言えば堂々たる、悪く言えば考えなしの突撃だった。


 私は冷静に鋏を開くと岩竜に向かって自分から突撃する。お互いの間にあった距離は一瞬で詰まり、岩竜は私を噛み砕こうしたが私はスルリと回避。その後、すれ違い様に私は鋏によって岩竜の足首を斬り付けた。


 闘技場に凄まじい音が鳴り響き、岩竜の鱗の破片が宙を舞う。闘気を集中させて可能な限り強化したのだが、残念ながら鱗の下の肉までは届かなかった。戦人形の装甲なら傷付けることが出来たのだが、前の戦いで強化された鱗を突破することは出来なかったらしい。ただでさえ強いのに強化までするのはズルいよなぁ。


 やはり闘気だけで最強種に勝つことなど不可能らしい。もう決勝戦であるし、出し惜しみをする必要はないだろう。ゲオルグも私に掛けた命令を解除しているようだし、ようやく使えるぞ……霊術を。


「グオオ?」


 私は闘気を高めたまま、霊力を練り上げていく。これまで隠すことを強要されていたから一度も見せなかった霊力の発現に、観客の驚愕と岩竜の困惑が伝わってくる。前者は霊力を使えることを隠していたのかという驚きであり、後者は小さいのが何か変なことをしているという困惑だった。


 岩竜は困惑しつつも再び突撃してくる。この期に及んで工夫しようとしない姿勢には一周回って敬意すら覚えるが、だからと言って私は容赦するつもりはない。霊術という闘気と同様に鍛え上げた技術をぶつけてやろう。


「グルル?グオオオオッ!?」


 私が初めて霊術を発現した時に作り出したのは砂だった。それもあって今でも砂を操る霊術が最も得意だった。作り出した砂を回して砂嵐を発生させ、岩竜を包み込んだ。


 唐突に発生した砂嵐に岩竜が困惑を深めている間に私は次の手を撃つ。砂を操り、一瞬で私のイメージ通りに形を変えていく。


 象ったのは私の鋏。この形状を選んだのは、私の身体の延長として扱うことが出来るからだ。しかしその大きさは実物よりも遥かに大きなモノである。何せ岩竜の頭よりも大きいのだから。


 空中に浮かぶ鋏がパカリと開くと、砂嵐の中にいる岩竜の首を挟み込む。岩竜はパニックになりながら暴れて外そうとするが、私が鋏に込めた霊力は膨大な量だ。首を振るくらいのことで散るほど生温い攻撃ではなかった。


 苦しそうに藻掻きながら砂嵐からフラフラとした足取りで脱出した岩竜は必死に暴れているが、暴れるだけで霊術を使っている私を見ていない。この状態に持ち込んだ私に対して備えようとしていないのだ。


 今、ハッキリしたことがある。岩竜は強者だ。潜在的な闘気と霊力は膨大で、これで幼体だと言う話なら成体になればもう手の付けようがない化物になるのだろう。それこそ、戦いの余波で闘技場どころか国そのものを滅ぼしてしまうほどに。


 しかし、竜種は生物としてあまりにも強すぎた。それ故に岩竜にとって同種以外の生物は雑魚でしかない。現に獣鬼の攻撃では何の痛痒も与えられず、偶然にも急所に刺さった合成獣の牙も致命傷からは程遠く、戦士蟹の猛攻を受けながらも力ずくで叩き潰していた。


 だから戦闘の技術を磨くことはなかったのだ。そんなことをせずとも生来の力だけでどうにでもなったから。だから視界を奪われても棒立ちのままだったし、攻撃している()から平気で目を放す。とにかく、戦い方が拙いのだ。


(せっかくの闘気と霊力もそれでは宝の持ち腐れだ。その驕り、最大限に付け込ませてもらうぞ)


 岩竜が見失った隙に接近した私は、岩竜の脚から背中の上によじ登ると揺れる身体の上を目的地へと走る。目指す場所はただ一つ。後頭部にあった合成獣が偶然発見してくれた逆鱗……つまり、岩竜の数少ない弱点である。


 そこまでたどり着いた私は鋏で周囲の鱗を掴んで身体を固定すると、躊躇なく逆鱗に尻尾を突き刺した。治療されたからか合成獣の牙の跡が消えいていたものの、場所はハッキリと覚えている。私の毒針は治療されていてもやはり軟らかい逆鱗を易々と貫通して肉へと到達した。


「グギャアアアアアアッ!?」


 毒針の先端から私は猛毒を注入していく。逆鱗を突かれたこと、そして命を脅かす猛毒に岩竜はたまらず悲鳴を上げた。むぅ、緋眼犬に注入した量の数倍を流しているのにまだ死なないのか。この頑健さは鬱陶しい。もっともっと毒を注入せねば。


 ただ、岩竜も馬鹿ではないらしい。合成獣にやったのと同じように地面へ背中から倒れて自重で私を潰そうと試みた。潰されるのは勘弁して欲しいので、私は毒針を刺すことにこだわらず背中から飛び降りた。


「グルル……ゴアアアアアアアアッ!!!」


 毒の影響からか体調が悪そうだが、目には激しい怒りの炎が灯っている。そして真っ直ぐに私を睨み付けながら、口を大きく開くと喉の奥から目映い光が……息吹が放たれた。


 正直、もう使ってくるとは思っていなかった。しかし、私は慌てず騒がず、冷静に霊術によって砂の壁を構築して息吹を受け止める。その威力は凄まじく、全力で砂を維持すれば防げないほどだった。砂の壁を維持するのに集中したせいで首を挟んだ鋏は崩れ落ちてしまう。これが純粋な力の差と言うものか!


 しかも、岩竜の息吹は一発だけではない。連続で何度も何度も、無尽蔵とも思える霊力にモノを言わせて連射しているのだ。毒が効いている様子だったのに、これだけ動けるとは。想像以上に頑丈過ぎるぞ、竜種という奴は!


「ガアアッ!ガアアッ!ガアアッ!ガアアアアッ!」


 岩竜は息吹を連射しながらこちらへと駆け出した。息吹に加えて肉弾戦まで行おうと言うのか。これは守っていては勝てない。私は息吹の合間に砂の壁を解除して、闘技場の壁沿いに走り出した。


 私を発見した岩竜は足を止めると、追い掛けながら息吹を連射する。その精度は決して良いとは言えず、高速で走る私に直撃させることは出来なかった。


(ぐううっ!余波だけで闘気で強化した外骨格が軋むのか……何て威力だ!)


 だが、直撃していないだけでダメージを負っていない訳ではない。精度が悪いせいで予想外の場所に飛んできて逆に回避しきれないことがあるのだ。すぐそばを通った息吹に外骨格が炙られ、着弾時の衝撃波が全身を叩く。私の身体は少しずつ、しかし確実に傷付いていた。


 私は駆けずり回って回避しながらも霊術でちょっかいを掛け続けていた。砂の弾丸を飛ばしたり、岩竜の下に砂の棘を作って串刺しにしようとしたり、再び砂嵐を起こしたりと攻撃と妨害は絶えず行っていたのである。


 しかし、攻撃も妨害も意味がなかった。逃げながら放つ砂の弾丸や棘では鱗を貫くには威力が足りず、妨害のために起こした砂嵐は息吹を足元に着弾させた爆風でかき消してしまうのだ。反則だろ、あの防御力は!


「グルルルル……」


 そうして逃げ続けて闘技場を三周ばかり走った頃、岩竜は息吹の連射を止めて低く唸る。ようやく疲れを見せたのか?そう思った私だったが、岩竜の霊力が一気に膨れ上がったことで楽観視するのを止める。疲れるどころか、これまでとは比較にならないような一撃が飛んでくるんじゃ……!?


「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」


 その直後、岩竜の口から息吹が放たれた。しかし、これまでのような大きな光の玉ではない。岩竜の口と同じ直径を持つ、熱線として襲い掛かったのだ。


 熱線は地面をドロドロに溶かしながら私を追ってくる。下手な射撃を繰り返すのではなく、極太の光線で薙ぎ払うという算段らしい。霊力の消費量は跳ね上がるだろうに力業で解決しようとするとは……強引にもほどがあるだろう!?


(くっ!追い付かれるか……南無三!)


 私は逃げながら苦し紛れに砂の壁を構築する。熱線が壁に触れた瞬間、激しい爆発によって私の視界は真っ白に染め上げられた。

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