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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第四章 解放編
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アイワスとの会談

「最初に今の君の状況を教えてあげよう。ツヴァイ、頼むよ」

『かしこまりました』


 アイワスに返事をしたのは信じられないことに天井からぶら下がる水晶玉だった。まさか喋るとは思っておらず、呆然としてしまう私だったが立て続けに驚かされることになる。水晶玉が柔らかな光を放ったかと思えば、中空に光で出来た球体が現れたのだ。


 球体はほとんどが青く、所々に緑色や茶色の奇妙な模様がついている。そしてオルヴォのように半透明であった。それを見た時、私は何故か即座にこれが我々の住む星の姿なのだと直感した。


「これはこの惑星を俯瞰した映像だ。君がいたエンゾ大陸はこの部分になる」


 アイワスの説明に合わせて球体の大きな模様の一つが強く発光する。エンゾ大陸を上から見るとあんな形をしているらしい。あれが正確な形なのかどうかはわからないが、今はそこを突っ込む時ではない。最後まで話を聞こう。


「そして現在地はここ、エンゾ大陸から見て北東にある小さな島だ。現地の島民はラキス島と呼んでいる。この島に移住した時の巫女の名前らしい。その巫女はエンゾ大陸で放浪していた時、偉大なる六柱の古神の一柱の寵愛を受け……」


 アイワスはそれからこの島の歴史の話を始めた。そんなものに興味はないしどうでも良い。それよりも今必要なことを教えて欲しかった。


 だが、優男のようにみえるアイワスはその気になれば私など簡単に蹴散らせる膨大な霊力の持ち主だ。幸いにも奴は理知的で気紛れに他者を傷付けるような乱暴者ではなさそうなので、多少の無礼は許してくれそうだが……それに甘えるという選択肢は私にはなかった。


「ご主人様、脱線してますぜ」

「ん?ああ、すまないね。何かにつけて説明したがるのは私の悪い癖だ。直したいと思うのだけども、性分と言うものは中々に厄介なもので……」

「ご主人様!また脱線してますって!」

「おお、それはすまない」


 ……私は一体何を見せられているんだ?慎重に警戒している自分が馬鹿のようではないか。だが、警戒を解くことも出来ない。それこそアイワスの言う私の性分が無警戒になることを許してくれなかった。


「ええと、島の名前まで話したのだったか。君は自分がどうやってこの島にたどり着いたのかわかっているかね?」

「当然だろう。鯨に丸飲みにされた経験など忘れられるはずがない」


 アイワスの問いに私は即答した。マルケルス達を庇って海に沈んだ後、私は大きな鯨に丸飲みにされてしまった。その後、喉を通って胃袋に達した。


 胃の中は酷い臭いだったが、そんなことよりも危険だったのはその胃液の強さである。胃に到達した時、私の視界に映ったのは形が崩れつつある兵器の残骸だったのだ。


 金属をも容易く溶かすのだと知った時、私は即座に砂を作って自分を守る殻とした。しかしながら、砂の殻も胃液に触れるとすぐに溶け始めてしまう。それを補修するために砂を作り出すも、補修する端から溶かされたので一瞬たりとも気を抜けなかった。


「それはそうか。ではやはり海帝鯨を殺したのも君かね?」

「死因が毒ならばそうだと思う」


 だが、私もやられるばかりではなかった。ひたすらに耐えながら尻尾の針を胃の壁に突き刺してジワジワと毒を注入していたのだ。


 ヒト種相手であれば一滴でも即死する、今の私が作り出せる最悪の猛毒だったのだが……私を食べた鯨はその巨体故に中々毒が回らなかった。しかも毒針を刺すために尻尾は砂の殻の外に出さなくてはならない。そのお陰で何度も尻尾が溶けかけた。私の外骨格すら、あの鯨の胃液の前では力不足だったのだ。


 砂の殻から尻尾を出しては毒針を差して猛毒を注入し、外骨格がボロボロになる前に抜いて砂の殻の内側で治癒する。尻尾が治れば再び同じことを繰り返す。実は効かないのではないかと弱気になることもあったが、私は諦めずに毒を注ぎ続けたのだ。


 守りのために霊力を、治癒のために闘気をずっと使い続けることを余儀なくされた私の体力は激しく消耗していく。死にたくないという一心でそれを続けたのである。


 元々私の眠りは浅い上に短くとも平気であった。しかし、一睡も出来ないというのは余りにも辛い。極度の疲労によって意識が朦朧としてくる中で、いつしか私は常に蠕動していた鯨の胃袋が動かなくなったことに気が付いた。その後、最後の力を振り絞り、素手で鯨の胃袋と腹の肉を引き裂いて外に出て生還したのである。


 冷静になって考えれば、胃の動きが止まったからと言って外が安全だとは限らない。海の中で腹を突き破る可能性もあったのだ。我ながら分の悪い賭けに出ていたと今更ながら背筋が凍る思いである。


 何はともあれ、こうして私は生き延びた。その時点で私の記憶は途切れ、目を覚ますとオルヴォと再会したという訳だ。食われてからは生きることしか頭になかったが、我ながらよく生きていたものだな。自分の生への執着には我ながら驚かされる。


「ならば海帝鯨を殺したはやはり君だ。あれは毒で死んでいたからね。ならば私は君に感謝しなければならない」

「感謝?」

「私は霊術士であり、世の真理を探求する研究者だと自認している。だが同時に珍しい品を集めることが大好きな蒐集家でもあるのだよ。あの海帝鯨は最高のコレクションになる。偶然とは言え、それを私の下へ運んでくれた君には感謝しているのだ」


 コレクション……あの鯨の死体にそこまでの価値があるとは思えないが、アイワスにとっては魅力的なのだろう。知らない内に恩に着せることが出来たのなら、それを最大限に活かすべきだ。


「なら、元の場所に帰るのに手を貸して欲しい」

「帰る……か。君は本当にそれで良いのかね?」

「どういう意味だ、それは」

「私はこの島に住む隠者だが、外の情報はしっかりと集めている。全知全能には程遠くとも、そこらの有象無象よりは遥かに知っていることは多い」


 さっきは話が脱線していたが、今度は前置きが長い。もっと簡潔に話して欲しいのだが、私は急かしたい気持ちを再び抑えて続きを促した。


「それで?」

「だから知っているのだよ。君達のような魔人が、エンゾ大陸でどのような待遇を受けているのかを。常に前線で戦わされ、命を磨り減らし続けているという事実をね」

「……」


 アイワスの言う通り、魔人の扱いは非常に悪い。マルケルスは少しでもマシにしようと色々やっていたようだが、彼が目指す基準には決して届いていなかった。


 そんな場所に帰る意味があるのか、とアイワスは言っているのだろう。それに対して私が何かを言う前にアイワスは言葉を続ける。その内容は私にとって驚くべきものだった。


「それにエンゾ大陸はこれから先も戦乱が続くと思われるのだよ。中央と西部ではまだ共和国と戦いが続いているし、君がいた帝国では皇帝が暗殺されて内戦が勃発したからね」

「何だと!?」


 帝国で内戦が勃発した。それを聞いた私は思わず大きな声を出してしまった。皇帝は一度顔を見ただけであるが、あれほどに威厳に満ち溢れた人物でも死ぬときはアッサリと死ぬらしい。


 と言うか、あの仰々しい護衛は何をしていたのだろう?手練れが揃っていたはずなのだが……いや、そんなことはどうでも良い。私にとってもっと重要なことは他にある。それは……


「君の知能は高いとオルヴォから聞いているよ。賢い君ならばわかるはずだ。今、エンゾ大陸に戻ることはわざわざ危険を犯しに行くことなるのだと」

「……」

「だから君にとって最も賢い選択は、この島に滞在することだ。ああ、安心したまえ。君一人くらいなら私は養える。食客として歓迎しよう」

「……」

「それにここの島民は純朴で穏やかな気質の者ばかりだ。アインのことも当然のように受け入れてくれている。少々外骨格があったり尻尾があったりする魔人であっても差別することはないと保証しよう」

「……差別されない、か。いいな、それは」


 賢者であるアイワスの言っていることは全て正論である。中央以西ではまだ侵略者との戦争が、東部では内戦が起きている戦乱の大陸に行くなど危険極まりない。折角九死に一生を得たのに、また戦場に身を投じるなど馬鹿のすることであろう。


 それにアイワスは資産家のようだし、食客として養ってもらえるのならば生活の心配もない。多少は面倒事を頼まれるかもしれないが、家賃だと思えば安いものだ。


 また、島民の差別意識がないと言うのは最も魅力的に聞こえる。ずっと虐げられて来た我々にとって、その心配がない集団の存在は驚くと同時にありがたい。そんな人々となら仲良くやれるだろうし、暮らすのも楽しいだろう。


「そうだろうとも。だから……」

「だが、私は戻らねばならん。仲間達が戦っているのに、それを見捨てたら私は絶対に後悔する」


 この島で暮らすことは、きっと賢い選択なのだろう。戦いから離れて悠々自適に暮らすことに憧れない訳がない。それほどに魅力的に感じる提案であったのだ。


 しかしながら、私には仲間達を見捨てて自分だけ平穏を享受することは出来ない。私の中の魂とも言うべき部分がそんなことを許せないと言っている。危険は承知の上で仲間の下へ行かなければならないのだ。


「良いのかね?この島は君にとっては楽園と言っても差し支えないと思うのだが?」

「一人で楽園にいても虚しいだろう。例え地獄であっても、私は仲間といることを選ぶ。そう思わせてくれる程には良い奴等だからな」


 再度確認してくるアイワスだったが、私の意思は変わらなかった。自分よりも上位の相手による好意を無下にすることは罪悪感があるし、心象が悪くなるかもしれないが……自分の本心には嘘を吐けなかった。


 しばらくの間私の顔をじっと見詰めていたアイワスだったが、彼は何の前触れもなく急に笑い始める。彼の真意がわからないのは私だけではないようで、アインもオルヴォでさえも困惑するように彼を見ていた。


「フフフ……いや、失敬。この話に食い付くような愚か者なら失望していたところだが、予想以上の答えを返してくれた」

「……口車に乗っていたら殺されていたかもしれないのか」

「いや、そのくらいで命を奪いはしない。失望はしても約束は守るつもりだったよ。君を養うくらいなら負担にならないからね。ただ、君への感心をほぼ失っていただろう。わかった。少し時間をもらうが、君がエンゾ大陸へ帰還出来るように手配してあげようではないか」


 どうやら私は試されていたようだ。そして私の答えはアイワスのお気に召したらしい。少なくとも合格点には達していたと考えても良いだろう。


 そして帰還についての言質も取った。どうやって私を送り届けるのかはわからないが、アイワスほどの人物ならきっとどうにかしてくれるに違いない。待っていろよ、皆。私は必ず帰るからな!

 次回は4月17日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり仲間のもとに帰ることを選んだんですね。新たな戦いに身を投じることになってしまうけれど、それしかないですものね。  なんでもわかってなんでもできるんだったら、戦いも収めてくれたらいいの…
[一言] 惑星の俯瞰図!? 流石、オルヴォの所属する秘密結社の創設者よ……底が知れない技術力持ってますねえ にしても鯨に飲み込まれてどれくらい経ったのか分かりませんが皇帝暗殺からの内戦勃発とは そん…
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