洋上戦艦攻略戦 合流
「うぐっ……あの距離だと外骨格でも耐えられんか」
至近距離からの散弾を食らった私は空中を飛ばされ、甲板の上で何度か跳ねてから転がった。ようやく止まってから私は即座に立ち上がり、右手で胸の外骨格に食い込んだ弾丸を摘出しながら無人機の方に注意を向けた。
無人機は胴体に刻まれた二つの傷口から火を噴きながら、ガクガクと痙攣するように小刻みに振動していた。黒い剣によってフレームごとその奥にある仕掛けを斬られた上に、白い剣によって胸の銃口から背中を貫通するまで突き刺された結果であろう。
撃たれる直前、防ぐのも刺すのも間に合わないと判断した私は、咄嗟に白い剣を投擲していたのである。相変わらず恐ろしいほどの切れ味の白い剣は、適当な投げ方であったにもかかわらず無人機の胸を簡単に貫いた。ポピ族には感謝の言葉しかない。
『損傷……甚大……自爆……』
「やはりか。させな……い!?」
動けなくなったところで、想像通り無人機は自爆しようとする。そこで私は奴を包み込むようにして砂の殻を作り出そうとした。霊力は消費するが、自分の外骨格が損傷している今、己の防御力を過信する訳にはいかなかったからだ。
しかしながら、共和国軍は自爆を防ごうとすることそのものに対策を講じていたらしい。背中にあった箱が展開されると、そこから熱風を噴射して砂を吹き散らしたのである。
しっかりと固めた砂を散らされるとは思っておらず、私は慌てて霊術を再構築しようとした。だが、防ぐのは間に合わず、無人機は盛大に爆発してしまった。
「ぐおぉっ……!」
私は自分の判断ミスを呪った。無人機を砂で囲むことに失敗した時点で、自分を守る方向にシフトするべきだったのだ。霊術を半端に再構築しようとしたせいで、自分を守る防壁も中途半端になってしまったのである。
飛び散った破片の大半は外骨格にぶつかって弾かれたものの、運が悪いことに脆くなっている胸の部分に特に大きな破片が突き刺さった。急所は避けられたものの、痛覚を切っていなければしばらく動けなかったかもしれない。
「何事も半端はいかんということ……か」
私は反省しつつ、胸に刺さった破片を引き抜く。傷口からはドロリと血が出たものの、闘気によって治癒力を高めたので出血はすぐに止まった。想定外の消耗はしたが、まだ十分に戦えるだろう。
このまま外骨格も治癒しつつ、白い剣を回収してから仲間のもとへ向かおう。白い剣は自爆によって千切れた人型の上半身の残骸に刺さったままなのは見えている。さっさと抜いて合流するのだ。
私がそう考えた矢先、私の複眼は自爆によって壊れたはずの無人機が動くのを見てしまった。まさか、あの状態でもまだ動くのか?無人機はギシギシと軋んだ音を立てながら、まだ胴体にくっついていた右腕の鋏をこちらに向けた。
「うおっ!?そんな仕掛けまであったのか……」
鋏を限界まで開いたかと思えば、何とその鋏の部分を発射したのである。もしも複眼で見ていなければ、反応が遅れていたことだろう。
逆に言えば見えていたので、私は余裕を持って回避した。飛んで来た鋏はそのまま海に落ちていく。まさか動かなくなったと思わせておいてから、腓腹を刺すかのように奇襲を仕掛けてくるとは……このパターンを作った奴は絶対に性格が悪いと思う。兵器を作る者にとっては誉め言葉かもしれないが。
「流石にもう動かんか」
私は慎重に近付くと、念のために左手の黒い剣でもう一度叩き斬っておく。また何か反応があるかと思ったが、今度こそ完全に機能が停止したらしい。全く動く様子はなかった。
私は一息ついてから、胸に刺さったままだった白い剣を回収した。無茶な使い方をしたはずなのだが、その刃には一ヶ所たりとも刃毀れはない。しかも全く曲がってすらいなかった。流石はポピ族である。
「思っていたよりも新兵器は強いぞ。皆も無事だと良いが……先を急ごう」
剣の調子を確かめてから、私は仲間達のもとへと駆けた。近くにある兵器を破壊しながら真っ直ぐ向かうと、そこでは二十機の無人機と戦う仲間達がいた。
仲間達はマルケルスの指揮に従って防戦しているようだった。破壊した砲台を並べて即席の壁としながら、そこに隠れつつ霊術で応戦していたのである。
対する無人機は左腕の銃や両肩の大砲でその壁を一方的に銃撃し続けている。離れた場所から一方的に攻撃されれば、守りに徹するしかないだろう。
「だが、それも終わりだな」
「アニキ!」
「遅ぇぞ、ボス!」
その戦況を動かすべく、私は無人機の一機に背後から斬り掛かった。無人機は私の接近に気付いていたようだが、こちらを振り向く動作のために一拍遅れてしまう。その隙に私は双剣で今度こそ人型の胴体を両断してみせた。
近くに味方の無人機がいる状況では自爆することはないようで、私が斬った無人機は動きを止めている。一応、念のために私はその胴体より上の部分を尻尾で薙ぎ払って海へと落とした。これで自爆しても我々が被害を受けることはないだろう。
「流れが変わった!今こそ反撃だ!」
「待ってたぜ!」
「守り続けるってなぁ、性に合いやせんからねぇ!」
無人機の一部が私の方を振り向いたことで、仲間達を襲う弾幕が薄くなった。そのお陰で壁の向こうへと飛び出す余裕が生まれたらしい。血の気の多いティガルやゴーラなどは、待ってましたと言わんばかりに飛び出した。
彼らに続くように飛び出したのは、レオやトゥルなど大型の武器や盾を持つ者達だ。彼らは斜めに構えた武器や盾で銃弾を弾きながら前に進む。若干名が銃弾によって手足を貫かれて転んだようだが、持ち前の頑丈さと治癒力によってすぐに立ち上がっていた。
「オラァ!ぶっ壊れろ!」
「急所と言える部分がない敵は苦手なのだが……」
ティガルのような力が強い者達は、その巨大な得物を叩き付けて無人機を破壊していく。接近すれば右腕の鋏で襲って来るのだが、そこは盾を持っている者達が活躍していた。盾を上手に使って鋏を押さえ付け、攻撃する隙を作っていたのである。
一方でザルドやアスミのように、一撃の威力よりも手数や急所を正確に狙うタイプの戦士にとっては非常に戦いにくい相手である。私がやったように四本ある脚の関節や装甲の隙間に刃を突き立てていた。
目に見える速度で無人機を破壊する前者と、ジワジワと性能が落としてから仕留める後者。破壊する効率は圧倒的に前者の方が上だが、危なげなく戦えているのは後者であった。
「負傷者は一度下がるんだ!盾持ちはもう少し踏ん張ってくれ!」
ただし、彼らの力が十全に発揮されているのはマルケルスのお陰であった。彼が全体を見ながら正確な指揮をしてくれるからこそ、被害がほとんど出ずに戦えているのだ。
これは彼の適正もあるのだろうが、それ以上に帝国軍で指揮官として教育を受けた者と我流でやっている者の差だろう。ミカから学問を教わるようになって、適切な教育を受けるということの大切さを痛感していた。
ミカは様々な学問に通じているが、どれも専門家ではないし個人の戦闘はともかく軍略については素人である。積み重なった知識を学んだ者と無学な者には越えられない差があるのだ。
『僚機、被害甚大』
『出力制限、完全解除』
無人機が半数ほどに減った時、無人機は私が戦った時のように赤熱し始める。ここからが本番と言ってもよいだろう。私は尻尾で無人機の残骸を海へと弾き飛ばしながら、仲間達に注意喚起することにした。
「赤くなると性能が段違いに上がるぞ。しかも表面の温度が上がって最後には自爆もしてくる。注意しろ」
「「「おう!」」」
銃声と爆音が入り交じった戦いの最中であっても、魔人の聴覚は私の声を正確に聞き取っている。マルケルスには近くにいたアスミがしっかりと私が言ったことを伝えていた。
無人機の性能が数段上がり、凄まじい熱を発するようになると盾で押さえる者達の負担が一気に大きくなってしまう。トゥルのように霊術などで熱を中和する手段を持たない者は、全身が燃え上がりそうな温度の中を耐えるしかなかった。
それでも戦えているのはシャルを始めとした霊術に長けた者達が守ってくれているからだ。もしも彼女らがいなければ、もう一度即席の壁の裏に逃げ込まなければならなかっただろう。
「こんなもんかよ!温いくらいだぜ!」
「レオ!お前、ずりぃぞ!」
「体質なんだから仕方ないでしょ……」
ただし、私のように熱に対して耐性がある者達にとっては普段通りに戦える温度だ。それが特に顕著なのがレオであった。
輝獅子と合成されたレオは、金属を簡単に溶かすほどの熱を放つことが可能である。無論、その熱で自分が火傷をするようなことはない。無人機の温度もレオにとっては温風程度にしか感じていないようだ。
レオはむしろ普段よりも調子が良いのか、軽やかに、しかし力強く剣を振っている。そんな彼に文句を言うユリウスをアリエルは呆れながら宥めていた。
そうして本気を出した無人機との戦いも善戦していたのだが、動けなくなるほどの損傷を与えたところで数体が自爆してしまう。それに巻き込まれた者達は熱に炙られて吹き飛ばされる。悔しいことに数人は破片が急所に刺さって死んでしまった。ちっ、やはり自爆は厄介すぎるな……!
「完全に壊れる前に距離を取るか海に沈めろ!それが無理なら全力で防ぐんだ!」
「うん、わかった」
マルケルスは破壊する前に無人機から離れるようにと命令する。彼も無人機の自爆戦術に関しては嫌と言うほど知っている。対策させるのは当然と言えた。
それに応えたのはラピだった。彼女は自爆しようとする直前の無人機へと躊躇なく突撃すると、ドロップキックで後方へと蹴り飛ばしたのだ。無人機は砲台の一つと激突し、そのまま爆発してしまった。
「ハッハァ!やるな、ラピ!」
「ラピと同じことをするのは難しい。無理せず、自爆の兆候があれば防げよ」
ティガルは手放しに称賛するが、私はあくまでも冷静に防ぐのを優先するようにと追加で指示しておく。私自身、中途半端なことをして怪我をしたのだから。
特戦隊の者達は一体ずつ、確実に無人機を破壊していく。自爆する前に対処するのは難しく、大抵は防ぐことになっている。盾を持っている者達の負担は激増しており、負傷者と死者が数多く出してしまったものの、我々はどうにか無人機を全滅させることに成功したのだった。
次回は3月24日に投稿予定です。




