洋上戦艦攻略戦 新兵器
自信に溢れていただけあって、白機兵は確かに強かった。銃と槍の二刀流という珍しいスタイルの使い手であり、突き出される槍はリナルドに匹敵するほどに鋭く、私の外骨格に幾筋もの傷を付けている。
槍だけでなく銃の腕前も一級品だった。しかも銃には状況に応じて発射する弾丸の種類を選べる機能が搭載されていた。貫通力の高い高速弾や広範囲に散らばる散弾、着弾すると炸裂する榴弾などその種類は多い。銃口から突如として炎が放たれ、それを煙幕代わりにして槍で突かれた時は少しヒヤリとさせられた。
他にも機鎧に仕込まれた武器も活かして立ち回っていた。これまで戦った白機兵の中では三本の指に入るほどの手練れと言っても良いだろう。
『そ、そん……な……』
だが、苦戦はしたものの私を殺すほどの力はなかった。槍は闘気で強化した身体で振るった双剣で穂先を斬り落とし、銃は持っている左腕を砂の鋏で切断して無力化し、様々な武器が仕込まれた機鎧は破壊して露出した胸元に毒針を突き刺して仕留めたのだ。
迂闊に飛び込んだ二人とは違い、堅実に立ち回られたので武器と防具を破壊することだけに集中する戦法を選んだ。少し時間は掛かったものの、私はほぼ無傷で白機兵を討ち取ったのである。
心臓を穿った毒針をズルリと抜いたが、傷口から血が噴き出すことはなかった。何故ならその時には既に白機兵は事切れていたからである。
「あっちは……大丈夫だろう」
私が甲板に飛び乗った時、偶然にも他の魔人部隊と敵を挟撃する形になっていた。敵を挟んだ向こう側の味方であるが、彼らは共和国軍を相手に善戦しているようだった。
それもそのはず、そこにいたのは例の鰐の魔人もいる古参兵の部隊だったからだ。様々な戦場を駆け抜けて来た彼らは、我々ほどではなくとも十分に強い。放っておいても問題はないし……私が手を貸そうとすれば反発されそうだ。
最初の接触が最悪だったこともあり、我々と古参兵の部隊は仲が悪い。仮に私が声を掛けたところで、奴等の上官はともかく彼らの方が共闘を拒否しそうだ。
私としても幼いレオやラピに暴力を振るった連中に手を貸してやる気はない。あんな連中でも味方ではあるので流石に全滅しそうな状況なら救うだろうが、逆に言えばそこまで追い込まれていなければ助ける気にはならなかった。
「さて、皆は……彼処か」
大海蛇との戦いの最中、私は潜水艇が戦艦と激突した場所から随分と離れてしまった。そのせいで仲間達が登った位置とは別の場所から乗り込んでしまったのである。
この戦艦は島のように大きく、甲板も相応に広い。見回したところで、仲間達のいる場所は私の全方位が見える複眼をもってしてもわからない。そんなときに頼れるのは闘気と霊力を感じる感覚だった。
最も近くで戦い続けて来た仲間達の闘気と霊力は、どこにいようと私の感覚の内側であれば一瞬で掴むことが可能だ。距離はあるのに強い力を感じるので、きっと既に敵と戦っているのだろう。
仲間達の強さはよく知っているし、指揮しているのはマルケルスだ。磐石の布陣と言えるものの、万が一ということもある。なるべく早く合流せねばなるまい。
私は甲板の上を駆け抜けながら、行き掛けの駄賃とばかりに手が届く場所にある兵器を破壊していく。兵器の破壊こそ、我々の任務で最優先するべきことだ。ついでに壊せるモノがあるのなら、壊せる内に壊しておこう。
それに私の使う砂の霊術はこう言う兵器を破壊するのに向いている。砲口に砂を詰めて栓にしたり、兵器の隙間から砂を送り込んだりするだけで、ほとんどの兵器は内側から爆発してしまうのだ。私が駆けた後の甲板の上は爆炎に包まれ、砲台の残骸だけが残っていた。
「もうすぐ合流……何だ?」
幾つもの砲台を自爆させながら甲板を走り、もうすぐ仲間達と合流出来るというところで戦艦が唐突に大きく揺れた。よろけたり転んだりすることはなかったものの、嫌な予感がしたので私は足を止めた。
直後、甲板の各所でその一部がスライドし、その下から謎の兵器が現れた。それは四脚型の自走砲のようにも見えるが、本来ならば砲台が載っている部分に機鎧兵の上半身のようなモノがあったのだ。
砲台の代わりということで、機鎧兵の上半身は常人のそれよりも遥かに大きい。さしずめ、鋼鉄の巨人と言ったところだろうか。右手は内側にノコギリのようなギザギザの刃がついている大型の鋏で、左手は複数の銃口を持つ円筒の銃になっていた。
両肩にも通常の自走砲に搭載されているモノよりも一回り小さな大砲があり、背中には四角い箱のような何かが背負われている。肩の大砲はともかく、背中の箱は何に使うのかわからない不気味さがあった。
兵器には頭にあたる部分に単眼を思わせる部分があり、そこをカチカチと音をさせながら動かして私をじっと見詰めている。じっくりと観察されているようで、私は非常に居心地が悪かった。
『登録外生命体、感知。排除開始』
「やはり来るか」
それまではただ細かく動いていただけの単眼のような部分だが、作り物のような硬質な声を発すると同時に赤く発光し始める。すると右手の鋏の内側にあるノコギリ状の刃が前後に動き始め、左手の銃口を私に向けた。
それが戦いが始まる合図であった。私が銃弾が放たれる前に横へ跳ぶと、その直前まで私がいた場所は無数の弾丸によって穿たれてしまう。これまでの戦いで培って来た直感に従って回避したのだが……このやり取りでどうやら厄介な相手であることがわかってしまった。
「……これは無人機か」
無人機は人が乗っておらず、定められたパターンだけで攻撃する兵器である。完全に破壊するまで動き続け、破壊される前に戦闘の継続が難しいと判断すれば自爆することまであった。
決められた動きしか出来ないという欠点はあれど、急所となる部分がない上に人が発する殺気などが全くないので攻撃のタイミングが分かりにくい。仕込み武器の数も隠されている位置も通常とは大違いであり、戦うのが面倒でしかも危険な相手と言える。
しかも、これほど大きな無人機を見るのは初めてだ。恐らくは新兵器なのだろう。幾ら我々が情報を仕入れる方法に乏しいとは言え、こんなモノが存在するのならばマルケルスが戦いの前に教えてくれたはずだ。
「だが、皆と合流するためにもここは慎重になるつもりはない。攻めさせてもらうぞ」
私は仲間達と合流するべく、目の前の無人機を破壊することに決めた。私は姿勢を低くして前に出る。そして四本ある脚の一本を斬るべく、左右から挟み込むように剣を振った。
しかし、無人機は脚を後ろに退いて回避する。まさか避けるとは思わなかったが、一度空振ったくらいで止まる私ではない。尻尾を地面に突き立て、それを軸にして蹴りを入れた。
闘気によって強化された私の蹴りは、外骨格の強度もあって下手な鎧くらいなら一撃で破壊出来る。流石にゴーラやトゥルほどの力はないが、それに準じる膂力はあるつもりだ。
私の蹴りは鈍い音を立てて無人機の脚に激突し、その装甲を大きく凹ませる。ただ、装甲の内側にある鋼鉄の骨……アスミは『フレーム』と呼んでいたか?それまでは折れていないが、ヒビくらいは入った感触がある。よし、やはり勝てない敵ではないようだ。
無人機は右腕の鋏で私を捕まえようとしたので、私は尻尾を使って後ろに飛び退く。その着地を狙って無人機は左腕の銃を撃つが、そこまでは予想していたので着地前に地面を砂の盾で銃弾を受け止めた。
『右前脚部、損傷。脅威度、上方修正。出力制限、完全解除』
「……何だ?」
私が攻撃を防いだ直後、無人機の赤い光がより強くなったかと思えば全身の隙間から白い煙が出始める。そして全身の装甲が赤熱し、空気が揺らめくほどの熱気を放ち始めた。
どうやら全身の温度を急上昇させたらしい。それだけではなく、右腕の鋏の内側にある刃はより素早く動き、左腕の銃と両肩の大砲にも赤い筋が入って展開される。全ての武器が一段階強化されたと考えた方が良いだろう。
『排除。排除。排除』
「急に動きが良くなったな」
無人機は先ほどとは比較にならない速度で右腕を振り回した。ぶつかった時に甲板を叩き割り、少しだけ溶かすほどの威力がある。あの威力……万が一にも挟まれてしまえば、燃やされながら両断されてしまうだろう。
しかも合間を縫うように左腕の銃を撃ち、両肩の大砲からは光の弾を放って来る。それは黄金の機鎧兵が使った霊術に酷似していた。あれの霊術を再現したのだろうか?
「動きは素早く、火力もあって、毒も通じない。しかも近付こうにもその熱で寄せ付けない。いざというときには自爆すれば良い。隙がないようにも思えるが……そうでもないか」
回避に専念しながら、無人機を観察しつつ対応策を練っていた。そこで一つ気付いたことがある。どうやら奴は左腕の銃や両肩の大砲を撃つのは、お互いの距離が一定以上離れた時だけだということだった。
銃も大砲もそれなりに長いので取り回しが悪いらしい。だからと言って不用意に近付けば、右腕の鋏の餌食となる危険もあるのだが……どうやら活路は前にしかないらしい。私は覚悟を決めて前へと飛び出した。
「悔しいが、ゲオルグのお陰で近付けるな」
ゲオルグによる虐待めいた育成の結果、私の外骨格は高温にも低温にも耐えられるようになっている。この程度の温度ならば平気で耐えられるのだ。
人であれば死中に活を求める戦法をとれば多少は驚くだろうが、無人機にそんな感情は存在しない。近付かれた時のパターン通りに攻撃をするだけである。それに従って、奴は大きく開いた右腕の鋏を私に振り下ろした。
そこで後ろに退くことなく、あえて更に前進してその隙間を潜り抜けた。そんな私の眼前に迫っていたのは私が先ほど蹴って凹みを作った前脚の一本である。無人機はここまで近付かれると蹴ってくるようだ。
「ふんっ!」
その脚を私は左手に握る黒い剣で弾きつつ更に踏み込むと、右手の白い剣で脚部の関節を斬り落とした。ただし、ここで止まってはならない。このまま畳み掛けて破壊するのだ。
脚の一本を失った無人機に向かって跳躍すると、人型の上半身に左手の剣を叩き付ける。重量のある黒い剣は腹部に相当する部分を半ばまで斬り裂いた。更に胸部へと右手の剣を突き刺そうと振りかぶった時、奴の胸の装甲が展開され……中から短く、しかし太い銃口が顔を覗かせたではないか!
「不味っ……!?」
私が剣を突き刺すよりも早く、奴の胸に仕込まれていた銃口が火を吹いた。接近した敵を仕留める散弾が詰め込まれていたようで、直撃した私は大きく後方へと吹き飛ばされるのだった。
次回は3月20日に投稿予定です。




