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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
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洋上戦艦攻略戦 戦艦へ

 大海蛇の群れに向かって冥王蠍の魔人が立ち向かって行った頃、マルケルスは潜水艇の上に立って指揮をしていた。その目的は無論、戦艦の舷側を登るためだった。


 魔人の多くは自前の爪を舷側に引っ掛けて登ることが可能だが、一部の魔人やマルケルス達にそれは出来ない。そこで魔人に命綱を着け、登るのをサポートさせるのだ。


 命綱を着けるのはティガルやザルドなどの力が強く、足手まといがいても問題がない者達である。彼らは沈みかけの潜水艇に入れてあった綱を取り出し、自分達の腰に巻き付けていた。


「チッ!いつまで寝てやがるんだよ、この野郎……」

「口を慎め。起きたらどうするんだ」


 ティガルとザルド、冥王蠍の魔人に次ぐ強さと目される二人は当然ながら補助する側になっている。ただし、二人が補助するのは気絶したままの上官の帝国兵だった。


 いつまでも起きる気配を見せない彼は、この中では最も弱い。だからこそ、安全のためにも最も強い二人が運ぶのだ。


「なあ、マルケルスよぅ。今さら何だが、こいつの名前って何なんだ?」

「はぁ?何だその質問は……ってまさか、名乗っていないのか!?」

「ああ。我々に名乗る必要などないと言っていた。向こうも私達の個人名を覚えていないようだ」


 縄を結んでいる最中に、ティガルはマルケルスに上官の名前を尋ねた。マルケルスはティガルだけが自分の上官の名前を知らないのだと思いたかったのだが、ザルドからの補足を聞いて皆が知らないのだと嫌でも理解させられた。


「コネで入隊した上にそれか。じゃあ今のうちに教えとこ……マズイ!全員、伏せろ!」

「どああああっ!?」

「縄がっ!?」


 馬鹿馬鹿しいと思いながらも自分の口から名を教えようとしたマルケルスだったが、その前に彼は見てしまった。大海蛇の大きく開かれた口から、瀑布の如き勢いで水が放たれた瞬間を。


 冥王蠍の魔人回避せずに身を呈して防ごうとしたので直撃こそ免れたものの、その余波だけでも亀裂が入って浸水している潜水艇にとっては致命的であった。余波を受けた潜水艇は砕け散り、特戦隊の者達は海へと投げ出された。


「うわっぷ!皆、無事か!?」

「ゴハッ!なっ、何とかな!」

「ペッペッ!これほど泳げる者が羨ましいと思った日はないぞ……」


 海に落ちた特戦隊の者達だったが、必海に浮かんでいる潜水艇の破片を浮き袋代わりにして溺れるのを回避していた。ほっとしたのも束の間、彼の部下の姿がどこにもないことにマルケルスだけは気付いていた。


「おい、あいつはどこだ!?」

「はぁ!?うげっ、いねぇじゃねぇか!」

「気絶したまま沈んだのか!?我々に泳げる者がいない以上、助けには行けないぞ」

「海の魔人に……くっ!落ちた時に伝言球を落としたらしい」


 まだ縄を結ぶ前だったこともあり、上官の男はそのまま沈んで行ってしまったらしい。助けに行くべきなのだが、特戦隊に泳ぐことが得意な者はいない。海の魔人に助けるように命令しようにも、マルケルスは落水時に伝言球を落としてしまった。


 これでは命令を伝えることも出来ない。かといって特戦隊の者達に無理に助けに行かせれば、今度は彼らが溺れてしまうだろう。マルケルスは熟慮した結果、部下を見捨てるしかないと結論を出した。


「……どうしようもない。我々だけで舷側をよじ登る。ティガル、私のことは頼む。ザルドは他の者の補助をしてやってくれ」

「いいぜ。任せときな」

「そうさせてもらおう」


 苦悩したマルケルスとは異なり、上官の帝国兵を見捨てて作戦を続行すると言われてもティガル達の反応はアッサリとしたものだった。自分達を散々虐げていた者が死んだところで、心が痛むどころか『ざまあみろ』と思うほどだった。


 二人の淡白な反応を見れば、自分の部下がどのように特戦隊へ接していたのか察しがつく。マルケルスは粗雑に扱うなと繰り返し注意していたのだが、それを全く守っていなかったことを実感して複雑な思いを抱いていた。


「どうした?さっさと登ろうぜ、マルケルス」

「あ、ああ。縄を結び次第、舷側を登るぞ。もう登りきった部隊もいるようだからな」


 彼らが落水している間に、狙われていなかった者達は舷側を登りきっていたらしい。甲板からは砲撃の轟音に混ざって怒号と剣戟の音が聞こえてくる。一歩出遅れた形になったが、ようやく上へと登り始めた。


「ん?どうした、ボルツ?」

「……何でもありませんよ。ええ、何でもね」


 そんな時、最後尾を登り始めたリナルドは彼が補助しているボルツが大きく動いた。補助していたリナルドは何かあったのかと尋ねたのだが、ボルツは落ち着いた声で何もなかったと答える。


 リナルドはバランスを崩しただけだろうと思い、それ以上追及することはなかった。だが、その時に彼は気付くべきだったのかも知れない。ボルツが浮かべていた邪悪な笑みに。



◆◇◆◇◆◇



「シャアアアアアッ!!」

「ジュラアアアアッ!!」


 大海蛇は海面から頭を出して水流を吐いたり、殴打しようと海中から尻尾を出したりして来る。私は砂の足場に乗ったまま、鋏と双剣を使って渡り合っていた。


 放たれる水流は鋏を盾にして防ぎ、尻尾は双剣で斬り、隙を見て首を落として仕留めている。敵の数は多く、攻撃の密度は高い上に一撃でも直撃すれば致命的なダメージを負うだろう。


 だが、お互いの体格に差が有りすぎたことが私にとって有利に働いた。奴等にとって随分と小さい私が動き回るだけで見失うことが多々あるようなのだ。特に頭の付け根にまで接近すると完全に見失ってくれる。そうすれば後は私の思うがままだった。


「ギャオオオオオッ!?」

「ジュロオオオオッ!!」

「ぐぅ……!中々に辛いな、これは」


 私は着実に数を減らしていたものの、余裕だと言える状況ではなかった。私が想像以上の消耗を強いられているのもお互いの体格の差が原因である。奴等の大きな口から放たれる水流は太く、しっかりと狙いを定められると回避するのが難しいのだ。


 しかも水流を吐きながら首を振って薙ぎ払って来ることも回避の難易度を上げている。仕方がないので砂の鋏を盾のように使って防いでいるが、その度に鋏が砕かれるので再構築するために霊力を大量に消耗させられていた。


「だが、お前で最後だ」


 それでも私の優位は変わりない。複雑な軌道で移動しつつ接近し、最後の一体の首を双剣で両断する。既に大海蛇の血液で赤を越えて真っ黒に染まった海へと首が落ちていった。


 首が着水した時、飛び散った飛沫が私の口に入ってしまう。血生臭く、それでいて塩辛い味が口に広がり、私は思わず眉を顰めた。まるで大海蛇達による最期の嫌がらせかもしれない、と益体もないことを考えてしまった。


「ふぅ……行くか」

「お、おい!待ってくれ!」


 一息ついてから戦艦の上を目指して飛ぼうと思った時、下から私を呼ぶ声が聞こえてきた。声のした方を向けば、そこにいたのは海の魔人であった。それもリーダー格らしき鮫の魔人である。


 私はさっさと仲間の下へ行きたいのだが……その顔には妙な必死さがあった。それを見た私は少しだけなら話を聞いてやっても良いかと思い、その場に留まった。


「何だ?私は上に行かねばならん。用があるなら手短にな」

「あんた、何なんだ!?俺達が敵わなかった大海蛇をあんなにあっさり……俺達が最強の魔人なんじゃないのかよ!?」

「さあな。ただ、お前達を合成したカレルヴォは私達のことを失敗作と呼んでいるぞ」

「失敗作だと……?」


 鮫の魔人は言葉を失って呆然としている。これ以上付き合ってやる時間はない。私は餞別として一言だけ言葉を掛けてやることにした。


「海の中ならばお前達は間違いなく最強だろう。それで満足するならそれで良い。だが、それ以上を目指すのなら腕を磨け。私もまだまだ弱く、生き延びるために鍛えているのだから」


 私は返事を待たずして砂の足場を操って高度を上げる。そしてそのまま戦艦の甲板へと飛び乗った。


 甲板の上は怒号と銃声、霊術が飛び交う戦場と化している。運が悪いことに私が降り立った場所は敵の背後であった。私の姿に気付いていなければ良かったのだが、私の霊力を感知していたらしい三人の白機兵が襲い掛かって来た。


『まだいたのか!』

『一人で来たのが運の尽きだぜ!』

『油断するな!多分そいつは噂の……』


 私はある程度共和国軍の言葉を聞き取れるので、大体何を言っているのかはわかっている。真っ先に突っ込んで来た二人は私を侮っているようだが、その後ろにいる一人は私のことを知っているらしい。


 基本的に出会った敵は皆殺しにしているのだが、大規模な戦闘になればそうもいかない。取り逃がしたり遠目から見られていたりして、私について知っている者もいるようだ。


 まあ、知られていようがいまいが関係ない。私が生き残るため、目の前の敵は斬り捨てるだけだ。既に激しい戦いを経て身体に疲労が溜まっているのだが、大きく深呼吸をしてそれを意識の外へと追いやった。


「……あれに比べれば鈍すぎる」

『ガッ!?』

『馬鹿な……!』


 ただし、神の末裔たる黄金の機鎧兵と戦った経験は私を一段強くしてくれている。以前から白機兵が相手でも一対一ならばまず負けないくらいには強くなっていたのだが、あの速度と膂力を知っているせいで全く驚異には感じなかった。


 白機兵の振るう白刃を見切って回避しつつ、鎧の隙間へと双剣を滑り込ませる。正確に急所を抉ったことで、二人の白機兵は絶命していた。


『……最も最悪な魔人は蠍の魔人だという噂は本当だったようだな。だが、私は先の二人よりも強く、油断もしない。何を言っているのかはわからないだろうがな』


 いや、ちゃんと聞き取れているぞ。どうやら私は共和国軍の間で『最悪な魔人』という扱いらしい。そしてそんな魔人を前にして、勝てる気でいる程度には腕に自信があるようだ。


 強い敵は厄介だが、殺すだけならば付け入る隙はいくらでもある。一刻も早く倒し、仲間達に合流しなければ。

 次回は3月16日に投降予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ボルツの笑みって? なんか不気味。 海の魔人が今後どうするのか 鍛えるのか? 蠍君たちに教えを乞うのか? それとも今に満足するのか? いずれにしても助け合えればチームが強くはなりますね。
[一言] あっ…… 上官、名も知らぬままに退場かあ あっさりとした最期であった ボルツの笑みが不穏極まりないですが、何をしでかすつもりやら
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