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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
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洋上戦艦攻略戦 海中の脅威

 潜水艇の上にある扉を開けて内部に入ると、その内部は以外と広かった。特戦隊と顔面蒼白な上官殿、そしてマルケルスを合わせた百人超が入ってもまだ余裕があったのだ。


 天井からは小さなランタンが幾つか吊られているだけなので、潜水艇の内側は薄暗い。内壁と床にはベンチが据え付けられていて、我々はそこに座ることになった。


「全員、潜水艇に乗ったな?では……魔人連隊、出陣せよ!」


 マルケルスは自分が持つ伝言球に指示を出した。すると潜水艇がグラリと揺れてからゆっくりと沈んでいく。ついに海中へと潜り始めたようだ。


 下へ降りていくというのは不思議な感覚である。高所から落下したことは何度もあるが、その時とは全く違う。不思議、としか本当に言い様がないのだ。これから戦場に向かうと言うのに、私は少しだけ今の状況を楽しんでいた。


「戦艦まではかなりの距離がある。しばらくはこのままゆっくり進むことになるだろう……そろそろ海上では陽動作戦が始まるぞ」


 マルケルスが言うが早いか、上から轟音と共に強い振動が潜水艇を襲った。木造の船体がギシギシと軋み、上官の男は情けない悲鳴を上げる。このくらいで騒ぐな、みっともない。


 海上では我々が接近するまでの時間を稼ぐべく帝国軍が戦っているようだ。ファル達も空戦部隊と共に空から攻撃に加わっていることだろう。彼女らが撃ち落とされないようにするためにも、この奇襲作戦は必ず成功させなければなるまい。


「この音は……?何か来ます!」

「うおおぉぉ!?」

「ぶべぇ!?」


 ミカが何かの音を察知した直後、少しだけ離れた後方で唐突に膨大な霊力が発生する。そうして作られた霊力は激流となって潜水艇を襲った。牽引していた魔人が直前で気付いたことで直撃は避けられたものの、潜航を開始した時とは比較にならないほど揺らされることになった。


 内部の上下は引っくり返り、我々は壁や天井に打ち付けられている。潜水艇は何かの攻撃を受けているらしい。私は感覚を研ぎ澄ませて外の状況を窺おうとするが、普段と勝手が違うからか詳細なことはわからなかった。


「何があった!?報告しろ!」

『大海蛇だ!大海蛇が出やがった!』


 だが、敵の大体の大きさと形状は把握することが出来ている。それは潜水艇の三倍はあろうかという長細い巨体の蛇だった。大海蛇という名前の通り、私が見たことのない大きさの蛇である。巻き付いて締め上げるだけでも潜水艇が潰されてしまいそうだ。


 そんな巨体でありながら、攻撃するまでこちらに全く気付かれていなかった。慣れない水中という条件を差し引いてもその慎重さと狡猾さは高い知能を持つことの証明だ。恐ろしい生物である。


 現に伝言球から聞こえてくる海の魔人の声には、隠し様のない恐怖が滲んでいた。元海賊という経歴のせいで、大海蛇という生物の恐ろしさを我々よりも知っているに違いない。出陣前と同じ者達とは思えないほど狼狽えているのだから。


「ぐっ!このままだと作戦が……潜水艇を死守しろ!」

『むっ、無理だっ!相手は海の王者だぞ!?勝てっこねぇよ!』

「これは命令だ!潜水艇が戦艦に取りつくまでで良い!絶対に潜水艇を破壊させるな!牽引している魔人は速度を上げろ!全力で振り切れ!」

『ちっ、畜生っ!やってやらあぁ!』


 大海蛇と戦えと言われて拒絶する海の魔人だったが、潜水艇が破壊されれば我々も死ぬし作戦も台無しになってしまう。マルケルスは心を鬼にして命を賭して守れと命令した。


 命令に逆らえない海の魔人達は、命懸けで大海蛇へと立ち向かうしかない。大海蛇に勝ったとしても、海の魔人には多くの犠牲が出ることだろう。いくら好きになれない相手だとしても自分の命令で死地に向かわせるのは辛いのか、マルケルスは奥歯が砕けそうなほどに噛み締めていた。


 速度を上げろとの命令通り、潜水艇は一気に加速する。そのせいで内部は再び大きく揺れ、尻餅をついたり転んだりする者が続出した。特に上官の男は盛大に転んで頭を打って気絶している。お前、本当に何をしに来たんだ?


『ヤバい!新手だ!何で大海蛇が群れ……ギャアアアアアア!?』

『うわああああっ!死にたくねぇよぉぉ!』

「何だと!?おい、正確に報告しろ!聞こえているのか!?」


 伝言球から悲鳴と共に聞こえてきたのは最悪の報せであった。我々は大海蛇という強大な生物の群れに襲われてしまったらしい。潜水艇の中にいる我々には逃げ場などない。一刻も早く戦艦に乗り込み、海から離れなければなるまい。戦場に到着するのがこんなにも待ち遠しいと思ったのは初めての経験だ。


 加速した潜水艇だったが、追い掛けて来る大海蛇による攻撃を完全に回避するのは無理だった。霊力が膨れ上がったかと思えば、再び激流が潜水艇に迫る。今回も回避に成功したものの、内部は再び大きく揺らされた。船体の軋みも強くなっており、今にも穴が空くのではないかと心配になるほどだ。


「痛ぇな、クソ!ソフィー!お前の遠い親戚の知り合いみたいなもんだろ!何とかならねぇのか!?」

「何とかなる訳がないでしょう!それに合成されたのが蛇というだけで……キャッ!?」


 ティガルのメチャクチャな言い分にソフィーが言い返す前に、再び潜水艇が大きく傾いた。しかし今回は攻撃を受けたのが原因ではなく、潜水艇が浮上しているからだ。咄嗟に壁や床の突起を掴めた者以外は潜水艇の後部へと転がってしまった。


 潜水艇の内側はとんでもないことになっているが、これは良い知らせでもあった。何故なら浮上していると言うことは、戦艦はもう目と鼻の先だと言えるからだ。


「各員、何時でも戦えるように準備をしろ!お前もいつまで寝ているんだ!」

「うーん……」


 マルケルスも同じ結論に至ったからか、全員に準備するように促す。ただし、上官の男は傾いた時に再び頭を打ったようで気絶している。マルケルスに顔を叩かれても起きる様子はない。お前、足を引っ張ってばかりじゃないか……。


 数秒後、潜水艇の外からザバッという音が聞こえるのと同時に今度は前方が何かに激突してまたもや内部が大きく揺れる。大海蛇から逃げていたからか、潜水艇は一切減速せずにぶつかった。


 その分、今回の衝撃は今までで一番強い。尻尾で支えられる私ですら、一瞬身体がふらつくほどだった。その強さを証明するように、潜水艇の前側には亀裂が入って……浸水して来ているではないか!


「ふん!」


 私はマルケルスからの命令を待つことなく天井を双剣で斬り裂いた。間髪いれずに尻尾を振って天井を完全に破壊すると、すぐにその穴から外に飛び出した。


 潜水艇の天井に足を着けた途端に、海面にボコボコと大きく……そして真っ赤に染まった泡が上がってくる。泡はどんどん大きくなって行き、その下から大きな黒い影が迫ってきた。


「でっ、でけぇ!?」

「これが大海蛇か……!」


 海面から姿を表した大海蛇見て、私に続いて天井に乗ったティガルとザルドはその大きさに圧倒されているようだ。その口には海面が赤く染まった原因であろう魔人が咥えられており、口からは下半身だけがだらりと垂れていた。


 大海蛇は頭を上に向け、海の魔人をゆっくりと嚥下していく。自分が圧倒的に優位だと思っているのか、奴はこちらから目を離している。それは強者故の慢心としか言えぬ、隙だらけの姿をさらしていた。


「その慢心が命取りだ」


 私は空中に砂の足場を作ると、そこを足場にして接近して双剣を振るう。ポピ族によって手入れをされている私の双剣の鋭さは凄まじく、一刀の下に大海蛇の首を両断することに成功した。


 大海蛇の頭部はクルクルと空中で回転してから海へと沈んでいった。着水する直前に私は確かに見た。大海蛇の頭部に鈍色に光る金属製の何かが刺さっていたのを。


 まさか共和国軍が大海蛇を操っているのか?つまり、襲撃されたのは偶然ではなく、共和国軍による策略だったと?いや、偶然にも戦艦に接近する我々が襲われたと言う方が無理があるのではなかろうか。アスミが言っていた海中の爆弾よりも余程恐ろしい罠である。


 詳しく確かめたいところだが、大海蛇の頭は海の底であるし、そもそもそんな時間はない。同胞が斬られたことに気付いたのか、大海蛇と思われる気配がこちらに向かってくるからだ。私が一匹を斬ったことで、図らずも他の部隊を救うことになったらしいな。


「ティガル、ザルド。二人はマルケルスの指示に従え。私は大海蛇と戯れて来る」

「はいよ、ボス。後は任せときな!戦艦の上で合流しようぜ!」

「心配は不要だろうが、万が一ということもある。油断はするなよ」

「わかっている」


 二人の激励と忠告を受け止めてから、私は砂の足場を操って空を飛ぶ。私が仲間を討った下手人だと理解しているのか、こちらに来る全ての大海蛇からは強い殺気を感じる。私が死ぬか、奴らが全滅するか。そのどちらかしか道はなさそうだ。


 最初に仕掛けて来たのは真下に潜んでいた個体である。海の中にいた時のように気配を消して近付き、下から私を丸呑みにしようと大きく口を開けて飛び出して来た。


 食われる前に私は足場から横に跳んで回避する。気配は消していたようだが、漏れ出る殺気がバレバレだったのだ。大海蛇が飲み込んだのは私の足場だった砂の塊だけであり……それを飲み込めてしまったことが奴の不幸と言えた。


「爆ぜろ」


 奴の口の中にあるのは私が霊術で操っている砂である。多少離れていても遠隔操作することなど雑作もない。しっかりと踏ん張るべく圧縮して固めていた砂を一気に膨張させたことで、大海蛇の頭部は内側から爆散した。


 バラバラと降り注ぐ頭部だった破片の中に、光を反射する何かが混ざっていた。新たな足場を作って着地した私は、足場ごと移動してそれが海に落ちる前に頬の鋏で掴み取った。


 それは先ほど斬った大海蛇の額にあったモノと同じ金属製の何かである。杭のような形状のそれは私の頬の鋏で挟めるほどに小さく、緻密な霊術回路が刻まれていた。


 やはり共和国軍の仕業か。どんな効果があるのかはわからんが、ろくでもないモノなのは確実だ。後でマルケルスに渡すべく、私はそれを腰紐の隙間に挟んでおいた。


「シャアアアアッ!!!」

「むっ、いかん!」


 大海蛇は接近するのは危険だと理解したのか、海面から頭を出した数匹が口から大量の水を噴射する。私はそれを回避しようと思ったのだが、私の後ろには戦艦によじ登ろうとしている仲間達がいた。回避する訳にもいかず、私は急いで砂の壁を構築してこれを真っ向から受け止めるしかなかった。


 だが、急いで作った砂の壁は受け止めきるには強度が足りなかったらしい。圧縮された水によって外骨格が強かに打ち据えられ、その衝撃は身体の芯にまで届いた。


「ぐっ……皆は無事か」


 ほとんどは私が防いだものの、水流の余波は我々が乗っていた潜水艇に直撃して粉砕されてしまった。まだ戦艦に張り付けていなかった一部の仲間達が海に放り出されたようだが、潜水艇の破片を掴んで浮かんでいる。沈んでしまった者達はいないようだ。


 私が囮になっているからか、別の潜水艇も浮かんできて魔人達が戦艦の舷側を登り始めている。作戦そのものを成功させるためには、私の働きは重要となりそうだ。私は覚悟を決めて双剣を握る手に力を籠めるのだった。

 次回は3月12日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 共和国軍が生物を操作できるのは何かを体に組み込んで、それを遠隔操作しているからなのか、それとも頭の中を自由自在に操作できるのか。いずれにしても恐ろしい技術ですね。連合軍にはそんな技術はないの…
[一言] まさか大海蛇を操ってくるとはなあ 魔物混じりにぶつけるにはピッタリだとか言いながらやってそうだなあ共和国軍
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