洋上戦艦攻略戦 作戦
ニグロ港から見て水平線よりも少しだけ手前の洋上に、巨大な戦艦は浮かんでいた。小島ほどの大きさ、そしてどう見ても金属製なのであれが共和国軍の戦艦なのは確実だった。
あの大きさにも驚きだが、どうして金属の塊が浮かぶことが可能なのだろうか?普通に考えれば沈むような気がするものだが……理屈が全くわからんぞ。
「あんなのがいたら調子こいてられる訳がねぇよな。アスミ、何か知ってるか?」
「知らんよ。あんな戦艦、見たことも聞いたこともない。そもそも私の持つ情報はもう古いからな」
「どの戦線でも、戦争の間に技術が大幅に進歩していた。進歩するのがこちら側だけだと思う方が傲慢だろう」
あの洋上要塞と言っても良い戦艦は、共和国軍による新造艦であるらしい。連合軍が共和国軍の技術を流用して強力な兵器が次々と開発しているように、共和国軍もそれに対抗する兵器を開発しているのだ。
実際、敵の使っている機鎧や銃、自走砲の性能は間違いなく上昇している。機鎧によって強化された兵士の動きは良くなっていて、白兵戦になると厄介に感じることもあった。
ただし、銃に関しては魔人の治癒能力をもってすれば大した怪我にはならないし、そもそも私の外骨格に銃弾は効かない。白兵戦も厄介というだけで、命の危険を感じたのは神の末裔と戦った時くらいのものだろう。
敵兵の強さはさておき、アスミが知らないのならばそれ以上に知る手立てはない。帝国があの戦艦を攻撃するのは間違いないし、我々はその時に言われるがまま戦うだけだ。
「おい、魔人共!作戦が決まった!心して聞くが良い!」
ニグロ港の外で待機しながら雑談に興じていた我々であったが、この穏やかな時間を終わらせたのはあの男だった。作戦か……どうせろくでもない内容なのだろう。帝国の魔人の扱いは中央戦線よりも荒いからな。
しかし、我々に断る権利などない。大人しく話を聞くことしか出来ない。危険な作戦でなければ良いのだが、そんなことはあり得ない。精々、その作戦とやらを大人しく聞いてやるとするか。
「三日後、帝国軍は総力を挙げて洋上に浮かぶ戦艦を攻撃する。そして戦艦を破壊するのだ!」
戦艦を攻撃するのは当然の流れだろう。そもそも帝国軍にあれを沈める火力があるのかどうかわからないが、何か考えがあるのだろう。あえてそこに触れることはしない。
ただ、破壊するにしても港からの攻撃で沈める訳ではないのは間違いない。もしそうなら我々に出来ることなどなく、作戦を伝える必要はないからだ。
ならば洋上からあの戦艦に近付かねばならないのだが……それは可能なのだろうか?遠目に見ても無数の砲台があるし、戦艦の兵器があれだけだとは思えない。不用意に近付けばボコボコにされてしまうだろう。
私に思い付くことを帝国軍が想定していない訳がない。それをどう突破するつもりなのだろうか?そこが作戦の最も重要な部分である。そこのところを聞かせてもらいたい。
「無論、敵も間抜けではない。激しい反撃が予想される。貴様らはそれを防ぐべく、先陣を切って戦艦に乗り込め」
いやいや、無理だろう。反射的に言い返さなかった私達を誉めて欲しい。予想される激しい反撃を掻い潜って戦艦までたどり着く方法など我々にはないからだ。
空を飛べる仲間達によって運んでもらうことは可能だが、その状態では機動力がガクッと落ちてしまう。戦艦からの対空射撃を回避不能となり、まとめて撃墜されるのは火を見るよりも明らかだった。
一人か二人ならば運良く乗り込めるかもしれないが、それだけの人数では戦艦の兵器を全て破壊することなど不可能である。最も死ににくい私であっても、数の力で圧し潰されるのは間違いないだろう。
「しかし、空からの接近は難しい。そこで海中から向かえ。幸いにも新たに海の魔人が生産されたからな。奴等に密封性の高い箱に詰め込んだお前達を運ばせることになった」
ほう?無策という訳ではないようだな。海の魔人と言うと、マルケルスが言っていた元は海賊だった者達か。素行が悪いと聞いているが、そんな連中に命を預けることになるとは……先が思いやられる。
「空を飛べる魔人共は、特戦隊外の飛べる魔人と共に空戦部隊に従って敵の目を反らすために空から攻勢をかけろ。わかったな」
言いたいことを言い終えた上官は、さっさと港へと戻っていった。残された我々はすぐに集まって話し合うことにした。議題はもちろん、三日後に決まった巨大戦艦への攻撃についてだった。
「海の中から近付け、か。そんなに上手く行くと思うか?」
「行くんじゃねぇか?マルケルスも言ってたろ、海の魔人が戦艦を沈めまくったってよ」
「だからこそ対策を練ってくるだろう。アスミ、どんな対策が予想される?」
ティガルは楽観的な意見を述べたが、それに私は異論を唱えた。さっきまで話していたではないか。連合軍の各国も共和国軍もこの戦争を通して、お互いの兵器への対策を練っていた。ならば海中からの攻撃に対しても当然のように対策していると思った方が良いのではなかろうか。
私の質問に対し、アスミは顎に手を当てて何かを考える。そして自分は専門家ではないがと前置きをした上で、彼女は自分の見解を語り始めた。
「陸での戦いしか知らないが、地雷のような兵器はあってもおかしくないだろう。海の中を漂って、接触すると炸裂する爆弾とかな」
「うげぇ!何も出来ずに魚の餌になるのはゴメンだぜ?」
「忘れるなよ、リナルド。私は研究者ではなく、一人の兵士でしかなかった女だ。連中はもっと優れた兵器を作っていてもおかしくないぞ」
海中で爆発する兵器……想像するだけでも危険な兵器だ。仮にそんな爆弾があったとすれば、それを回避しながら戦艦に接近しなければならないだろう。
だが、アスミも言っているように彼女が予想した以上の性能を誇る兵器があってもおかしくない。となれば、我々を運ぶ箱とやらを牽引する海の魔人達の働きの重要性は増したと言えよう。
「一番の問題点は、我々を運ぶという海の魔人は信用も信頼も出来ない相手だということだ」
「あのマルケルスでも手を焼いているという話ですものね」
「そこはどうしようもねぇだろ。何を言われてもシカトしてりゃいいのさ」
リナルドは事もなげにそう言うが、彼の性格を知っている私からすると信じられなかった。それは彼に堪え性がないとか怒りっぽいとか、そう言うことではない。彼には決して聞き逃せないであろう一言があるからだ。
「……仮に妻や子が馬鹿にされたらどうする?」
「「ブッ殺す!」」
「無視出来てないじゃないか」
リナルドだけでなくティガルも同時に物騒なことを叫んだ。この二人は妻子のことをとても大事にしているので、貶されたりすればたちまち今のように怒りを露にするのは明白だった。
あまりにも下品な言葉で罵られれば殺し合いに発展しかねない。命令されれば止まるのだろうが、逆に言えば命令されない限りは確実に息の根を止めようとするだろう。頼むからそんなことにならないようにしてくれよ、と私達は願うことしか出来なかった。
「海も大変だろうけど、空は空で大変だよ?空戦部隊の連中って、あたし達のことを目の敵にしてるからね」
「霊術で空を飛びながら戦うのは相当な専門技能なのに、それをただ魔人になっただけで出来るようになったのが気に食わないのでしょう。私達も好きで魔人になった訳でもないのですが……」
疲れたような溜め息を吐いたのはファルだった。彼女やミカのような翼を持つ生物と合成された魔人は空を飛ぶことが可能だ。それ故に空戦部隊や、空を飛べる魔人だけの部隊と共に空中から攻撃する作戦に従事することは幾度もあった。
しかし、空戦部隊は一方的に我々を、正確には空を飛べる魔人を強く嫌悪していた。その理由はただ一つ。嫉妬であった。
ミカの言う通り、飛行の霊術を用いながら空中で戦うのはかなり難しい。私も砂の足場を作って空を浮くことが可能だが、自由に空中を動き回る機動力に関しては到底足元にも及ばなかった。
だが、ファル達ならば彼らに匹敵するかそれ以上に機敏に飛ぶことが出来る。厳しい訓練を経た末に習得した特殊な技能を、魔人になっただけの者達が凌駕しかねないのだ。空戦部隊の者達が嫉妬してしまう気持ちは多少だが理解出来る。
ただし、彼らの嫉妬こそ我々からすれば理不尽であった。我々の中で望んで魔人になった者は一人もおらず、飛行に関してもファル達のようなオルヴォが作った魔人でなければ飛べるまで苦労していたからだ。
本人の特徴や体質に合わせて合成する生物を選んでいたオルヴォとは異なり、カレルヴォは効率優先で本人の素質を度外視して合成している。そのせいで空を飛ぶ感覚を掴めるようになるまで時間を要した。魔人には魔人の苦労があるのだ。
「そんなに俺達が羨ましいなら魔人になっちまえって話だよな。それが嫌ならゴチャゴチャ言うんじゃねぇっての」
「確かに正論だが、感情を抑えるのは難しいものだ。ついさっきのお前達のようにな」
「「うぐっ!」」
「不安要素は尽きんが、悲しいことにそんなのはいつものことだ。皆、必ず生き残るぞ」
「「「おう!」」」
そもそも、我々が戦いに赴く際に不安要素がなかったことがない。ならば重視するべきは必ず生き残ることだ。いつものように私が締め括ると、話し合いは解散するのだった。
次回は3月4日に投稿予定です。




