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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
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マルケルスへの報告

 建物の構造は熟知しているので、我々は迷うことなくマルケルスの待つ執務室へと歩いていく。扉の前に立った私は、扉を数回あらかじめ決められた回数を独特なタイミングで叩いた。


 すると扉の向こうから「入ってくれ」と声が返ってくる。我々は呼ばれるままに扉を開け、ぞろぞろと室内に入った。


「おお、帰ってきたか!本当に無事で良かった」


 私達を出迎えたのはマルケルスだった。彼は既に扉の前に待ち構えており、我々を労うように一人一人と握手をしながら肩を叩いた。初めて会った時よりも少し筋肉が減ったように感じるが、握手した掌には固い剣タコの感触がある。日々の鍛練を怠ってはいないようだ。


 気苦労が多いからか顔も少し老けたように思う。だが、それも新たな魅力だと思わせる雰囲気があった。実際、「連隊長は憎たらしいほどモテる」とぼやいている帝国兵を見たことがあった。


 そんなマルケルスの後ろには大量の書類が乗っている執務机があり、今まで書類仕事をこなしていたことがよくわかる。我々とは別の場所でマルケルスも戦っていたようだ。


「怪我はないか?」

「私はな。だが、今回は死者も出ている。それだけ激しい戦いだった」

「そうか……」


 アスミの答えを聞いて、マルケルスは悲しそうに眉をひそめてから短い時間だけだが黙祷をする。その後、目を開けて真面目な顔になると我々が中央戦線で見たものを報告するように命じた。


 それらの情報は先に帰還した伝令によって既に帝国へと伝わっているはずなのだが、マルケルスは実際に戦場で戦った者達の見た意見を参考にしたがる節がある。それを知っている私達は、そこで行われた作戦や使われていた兵器などについて可能な限り詳細に報告した。


 我々の報告を聞いたマルケルスは、しばらく俯いて熟考し始めた。きっと我々の報告と帝国に伝わっていた報告とを擦り合わせているのだろう。自分の中で何らかの結論が出たのか、顔を上げてから彼は呼び出した本題に入った。


「さて、お前達が中央戦線で戦っていた間にこちらでも動きがあった。新たに作られた魔人達の活躍もあって、海上の敵艦隊を壊滅状態にまで追い詰めることに成功したんだ」

「ヒュウ!そいつぁすげぇ!」

「海上ですか?一体どうやって……」

「ひょっとして、ファル達のような飛べる魔人が量産されたのか?もしそうなら凄まじい数の犠牲者が出たことだろうが……」


 共和国軍の艦隊は非常に鬱陶しい存在だった。海上に浮かび、遠くから艦砲射撃によって地上を一方的に攻撃されれば陸上にいる兵士からは脅威となる。東部戦線での戦いは、この艦砲射撃をどうするのかの戦いと言っても過言ではなかった。


 カルネラ港の奪還作戦の時、空中から爆弾を撒き散らしたり乗り込んで内部から破壊したりした。その後、奪還した港ごと帝国軍は別の艦隊から砲撃を受けた訳だが、とにかくあの時は空中からの攻撃は有効であったのだ。


 だが、二度も同じ戦法が有効なほど共和国軍は甘くなかった。他の戦場で飛行の霊術が使える部隊を艦隊の撃破のために派遣した時、どの戦艦も対空装備を充実させていたのである。


 対空砲火にさらされて数を減らした後、増員したと思われる空を飛べる白機兵が迎撃に出てくるのだ。その時点から艦隊を上空から撃破する作戦は、一度も成功することはなかった。


 上空からの攻撃を封じられた帝国軍だったが、何もしていなかった訳ではない。艦砲射撃を防ぐ専門の部隊を設立したり、爆薬を詰め込んだ小型船に火を着けて突撃させたりと色々と策を練っていたのだ。


 最も有効だったのは防衛部隊による防御であり、今では魔人連隊以上の規模になっている。艦砲射撃だけでなく自走砲や敵の防衛兵器の攻撃からも味方を守ってくれるので、戦場の守護神としてありがたがられていた。


 そんな戦いにおける重要な要素だった艦隊が、魔人の活躍によって壊滅した。戦場が少しだけ安全になったことは嬉しいが、その方法がわからない。アスミの言うように飛行可能な魔人を大量に投入してゴリ押ししたのなら、戦死者は膨大な数に上ったことだろう。


「いや、魔人の犠牲者は三人ほどだ。負傷者もそれほどいないし、彼らも傷を癒して前線に復帰している」

「ほう?新たな魔人はよほど優秀なようだ」

「少し違う。単に水中での戦闘に特化した魔人というだけさ。使われたのは魔人になるという条件で死罪を免れた海賊でな……正直に言って下品で粗暴な連中だよ」


 マルケルスの話によると、ユリウス達を合成したラルマーン・ハディンによって海戦に特化した魔人の製作が発案されたらしい。我々が中央戦線への援軍として派遣された後のことなので完全に初耳だった。


 海戦に特化させるべく、素材として海の生物が選ばれたのは当然の流れだろう。だが海賊が選ばれたのは、素材として確保されている人間の中で泳げる者が海賊くらいしかいなかったからだ。


 最初は適当に選ばれた者達と海の生物を合成したようだが、その者達はまともに泳ぐことが出来なかったという。海に適した身体になったとしても、泳ぐという行為に慣れていなければ身体は動いてくれないらしかったのだ。


 その者達が使い物になるには時間が必要だとされたのだが、帝国軍が魔人に求めるものは即戦力である。これでは役に立たないということで、新たに最初から泳げる海賊が素材として抜擢されたのだ。


 魔人となった海賊達は、海中から艦隊に迫って船底に穴を空けて回った。元海賊ということもあって、船がやられたら困ることを熟知していたのである。流石の共和国軍も海中対応策を練る間もなく艦隊は沈められたのだった。


 ちなみに、この時の犠牲者こそまともに泳げなかった魔人である。泳げるようになるまで訓練させてもらえず、そのまま命を散らしてしまったようだ。余りにも憐れな最期であった。


「海からの支援をほぼ無力化されたことで、陸での戦いは一気にこちら側に傾いた。各地で勝利の報告が届いている」

「そうか」


 マルケルスはそこで言葉を一旦切りつつ、アスミの顔をチラリと見た。見捨てられたとは言え、彼女からすれば共和国は祖国である。その敗北の報せを聞いた彼女の心情を慮ったのだろう。


 ただし、当の本人は大して興味もなさそうに頷いただけだった。彼女は特戦隊の一員として共和国と何年も戦っているのだ。今さら自分ごと私達を撃った共和国軍に寝返る訳がない。気を使いすぎというものだ。


「そこで帝国軍は最後の大攻勢に出ることにした。共和国軍を一兵たりとも残さず、帝国の領土から追い払うのが目標になる」

「なるほど。それで、我々にはどんな役割が与えられるんだ?」

「魔人連隊は当然ながら先鋒として戦うことになる。私も最前線で指揮を執ることになるだろう。ただ、特戦隊は遠征から帰ったばかりだ。援軍が必要になった戦場に送る予備戦力としてしばらくは待機……という名目にしてある。短い時間だが、身体を休めて欲しい」

「それは助かる。特にティガルはそうだろう?」


 すぐに戦場へ出る必要はないと聞いて、我々は安堵の溜め息を吐いた。だが、ザルドはニヤリと彼には珍しい類いの笑みを浮かべながら意味深なことを口にした。意味がわからないマルケルスは怪訝な表情でティガルを見る。すると彼は少し躊躇ってから諦めたように口を開いた。


「あー……実はな、二人目が生まれたんだ」

「おおっ!それはおめでとう!名前は?」

「リースってんだ」

「良い名前だな!ふむ、出産祝いは何が良いだろうか……」


 真剣な表情で悩むマルケルスを後目に、出産祝いと聞いたティガルの顔が強張った。ロクムが産まれた時、マルケルスは我が事のように喜んだ。そこまでならば我々も嬉しかったのだが……その後に持ってきた出産祝いが問題だったのである。


 ロクムが産まれた数日後、いつになく上機嫌なマルケルスが持ってきたのは……大量の赤ん坊用の玩具であった。プレゼント自体はありがたかったのだが、その量があまりにも多かったのである。


 マルケルスの働きかけによって我々にも兵舎こそあるものの、ボロボロなので貰ったものを大切に保存するには向いていない。それなのにとても良い笑顔で渡してくるものだから、断るにも断れない状況になってしまった。


 その結果、仕方がないので荷車の奥の方に押し込めている。行軍中にロクムが()()()始めた時には役立っているのだが……荷車の限るある容量の一部を圧迫してしまっていた。


 正直、置場所に困っているのが現状だ。今回も出産祝いとして嵩張るモノを渡されたらどうなることか。場合によっては食糧を押し込むスペースが減ることになるかもしれない。


 ちなみに、合理主義者のザルドはマルケルスに正直に話してロクムが特に気に入っている玩具以外は処分した方が良いと言っている。それに対し、プレゼントしてくれたマルケルスの笑顔を見て捨てるなんて言えないと言ったのがティガルだった。


 そのティガルが困っているのを見て、ザルドは自分が正しかったと言いたいのだろう。そして私もまた、ティガルの意見に同調して捨てさせなかった。やはり、今からでも事実を話すべきだろうか?


「玩具は前の時に多めにくれただろう?なら、今回は赤ん坊用の()()()()なんかが良いと思う。魔人には支給される布も少ないからな」

「おお、それは良い!ついでに皆の分の服も用意しておこう!」


 ここでアスミが上手く誘導してくれた。しかも我々に新たな衣類が用意されるらしい。まあ、清潔な新品な布だと目立ちすぎるので、小汚ない布になるだろう。しかし、その代わりに量は確保してくれそうだ。


 マルケルスはどこから布を入手するのか、その場合はどのくらいの量が確保出来るのかをブツブツと呟きながら考えている。そんなマルケルスを見て、我々は苦笑するのだった。

 次回は2月24日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらずのマルケルスの優しさにほっとさせられました。出産祝いなんてほほえましいかぎりですね。  少しでも体を休めることができるのはありがたいですね。  新しく魔人になった元海賊たちとうまく…
[一言] マルケルスは相変わらずのいい人でしたねー 魔人となったこの部隊の面々、元共和国の人間のアスミにすら嫌な顔ひとつしませんからね
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