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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
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久々の帝都

 帝都への道中、我々は幾度も襲われた。脱走兵による襲撃が二回で、残りは痩せ細った農民によるものだった。我々はその全てを難なく返り討ちにして、命令によって生き残りを捕縛している。今では魔人よりも縛られている捕虜の方が多いほどだった。


 そうして増えた捕虜だが、その扱いをあの男は我々に押し付けている。『なるべく生きて帝都までたどり着かせろ』としか言われていないのだが、逆に言えばなるべく生かしておかなければならない。それが大変な負担となっていた。


「あの、隊長。捕虜の人達が食事が少ないって文句を言っているんですが…」

「あいつら、俺達のことをガキだと思ってナメ腐ってんだ!ふざけやがって……!」


 行軍の小休止の最中、申し訳なさそうに報告したのはアリエルだった。彼女達には捕虜に食事を配給させていたのだが、どうやら不満をぶつけられたらしい。その時の態度が気に入らなかったのか、ユリウスはかなり怒っていた。


 捕虜を生かすのなら、当然ながら食べさせなければならない。その数が増えれば消費量も増えてしまう。あの男は自分を含めた帝国兵の食糧は別にしているので、世話を押し付けられた我々の食糧を分けてやらねばならない。その結果、物凄いペースで食糧が削られていた。


 食糧には余裕があったのだが、あの男が無計画に捕虜を増やしたせいで残り僅かとなっていた。ミカの見立てによれば、帝都まではギリギリ足りるらしい。戦勝によって浮かれた連合軍から多めに食糧をもらっていなければ、我々も飢えに苦しむことになっていたかもしれない。


「主に荷車の護衛を任せていたせいで、お前達が実際に戦う姿を見ていないからな。すまない、私のせいでもある」

「……隊長は別に悪くないですよ。悪いのはゴミの癖に口だけは達者な身の程を弁えない馬鹿共ですから」


 怒っているユリウスに私は己のミスを謝罪したが、それを否定したのはボルツだった。苛立ちを露にするでもなく淡々と言うその様子は、それまで怒っていたユリウスが落ち着きを取り戻すくらいには不気味であった。


 低い声で捕虜達を口汚く罵倒する彼からは、初めて会った時の気弱そうな雰囲気はもう感じられない。戦場の経験が彼を変えてしまったのだろう。我々も忙しかったとは言え、彼のことをもっと見てやるべきだった。


「何にせよ、捕虜の説得には私が向かう。それと次からは捕虜の世話は大人だけにさせる。それで今回のことは水に流せ」

「はい。ありがとうございます」

「まぁ、アンタの顔を立ててやるよ」

「そうですか?個人的にはもっと現実を教えてやりたかったんですが……」


 アリエルは素直に頭を下げ、ユリウスは渋々ながら承諾し、ボルツは何か不穏なことを言いながら残念そうにしている。やはり、ボルツとは一度腰を据えて話を聞いてやる必要がありそうだ。どうにかしてその時間を捻出せねばなるまい。


 ティガル達にも相談するべきだろう。そんなことを考えながら、私は隷属の首輪をはめられた状態で座り込んでいる捕虜のもとへ向かう。


 捕虜を見る度に疑問に思うのだが、どうして我々よりも多い人数分の隷属の首輪が用意されているのだろうか?我々を虐げているあの男は、内心では我々を恐れているのかもしれない。反逆されるかもしれないという不安を軽減するべく、過剰な数の首輪を手元に置いているのだ。


 私の推測が正しいのなら少しだけ溜飲が下がる思いだ。あの男についての考察はさておき、今は捕虜達に集中しよう。それまで何かを話していたらしい捕虜達だったが、私の姿を見た途端に怯えながら口を閉じた。


 自分達の仲間を斬殺し、捕まえた者達の長を見れば怖じ気づくのも無理はない。だが、その警戒心をユリウス達にも見せるべきだ。何故なら、見た目は子供でも彼らの方が捕虜達の誰よりも強いのだから。


「食事について不満があるそうだな?悪いが、これ以上は配給出来ない。我々も食事をとらなければならないからな」

「そっ、それがどうした!人間様がメシが足りないって言ってんだ!なら俺達を優先しやがれ、この混じり野郎!」


 私に向かって啖呵を切ったのは、一番最初の襲撃で捕らえた脱走兵の一人だった。あの時に比べて肌の色艶も悪くなっているし、ボサボサの髪と伸び放題の無精髭がみすぼらしい印象を与えている。ただでさえ壊れかけていた装備は、行軍の間にさらに汚れていた。


 満足な食事も休憩も与えられず行軍に付き合わされた結果、ずいぶんとやつれてしまったようだ。そんな哀れな脱走兵は、あくまでも自分が上位者であるかのように振る舞っている。魔人は戦争の道具でしかない。我々に敗北した上で捕虜の身となっても、その考え方を変えられないのだろう。


「そうだ、そうだ!」

「メシを寄越せ!」


 一人が強気に出ると、残りの捕虜達も次々と私に対して大きな態度で要求してくる。別に私は罵倒されたくらいで怒りはしないが、どうしてこんなにも横柄な態度でいられるのだろうか?


「好き放題言うのは勝手だが、お前達は自分の立場がわかっているのか?」

「何を偉そうに!俺は知ってるんだ!俺達を生かしたまま帝都に連れていくんだろ!?だったらメシは十分に食わせろ!このままじゃ飢えて死んじまうぞ!」


 ああ、それで強気に出ていたのか。おそらく帝国兵あたりが余計なことを漏らしたのだろう。自分達の命が交渉の材料になると思って図に乗っているのだ。


 だが、甘い。甘すぎる。こいつらは自分達の立場もそうだが、それ以上に自分達がこれからどうなるのか全くわかっていない。ボルツではないが、彼らのためにも一度ハッキリとさせておいた方が良いか。


「確かに、我々はお前達を()()()()死なせるなと言われている」

「やっぱりな!だったら……」

「勘違いするな。『なるべく』であって『全員』ではない。数人死んだところで、少しだけ叱責されて終わりだ。お前達の命は、帝国兵にとってその程度の価値しかない」


 叱責される時に理不尽な暴力にさらされることになるだろうが、あの男の力では私に致命傷を与えることなど不可能だ。殴られても対して問題ないし、そんなことを教えてやる必要はなかった。


 私が当然のことのように言い切ると、威勢が良かった脱走兵は怯んだように口を閉ざした。脱走兵だからこそ、帝国兵の冷酷さを知っているのだろう。


 しかし、その目にはまだ敵意の炎が燃えていた。ただ脱走兵に限らず、捕虜達が私達に敵意を向けるのは間違っている。何故なら……


「それに私達を睨んだり子供の魔人に嫌がらせをしたりするのは得策ではないぞ。我々の心象が悪くなるからな」

「……はぁ?何だって俺達人間様が、お前らみたいな混じりモンに気を使わなきゃならないってんだ?」

「当然、お前達も魔人にされるからだ」


 最近の帝国では、些細な犯罪であっても拘束されれば確実に魔人とされて戦場に送られる。帝国軍、それも魔人連隊に拘束されて無事でいられると思っていたのだろうか?もしそうだとしたら考えが甘すぎると言わざるを得ない。


 私に現実を突き付けられた捕虜達の反応は綺麗に二分されていた。一方はそんなわけがないと一笑に付し、もう一方は絶望に顔を歪ませる。絶望している者の大半は脱走兵で、これがただの脅しではないと勘づいているようだ。


「そんなわけがあるか!ビビらせようったって、そうはいかねぇぞ!」

「行軍中の帝国軍の一部隊を襲撃したんだ。そのくらいのリスクは承知だと思っていたがな……信じようが信じまいが、お前らの勝手だ。とにかく、何を言われようが食事の量は変わらない。それだけは理解しろ」


 もう私からするべき話は終わった。私は踵を返して捕虜達の前から立ち去り、仲間達と合流する。ちょうどそのタイミングで小休止は終わりとなって、再び帝都を目指しての行軍が始まった。


 そんなやり取りがあった数日後、我々はようやく帝都にたどり着いた。それにしても、捕虜の歩く速度に合わせて行軍したせいでずいぶんと余計な時間がかかっている。我々の食糧もほとんど残っていないし……本当にギリギリだったな。


 あれから捕虜達に接するのは大人、それも男だけに限っていおいた。その甲斐もあって捕虜達から文句が出ることは一度もなかった。やはり見た目というものは重要であるようだ。それを見たユリウスは「早く大人になりてぇ」と呟いていた。


 久々に戻った帝都だったが、初めて訪れた時に比べて明らかに荒廃していた。日中であると言うのに帝都から人々の声はほとんど聞こえず、人ごみで埋め尽くされていた大通りには数えられるほどの人しかいない。あの時の活気は、もはや人々の記憶の中にしか残っていないようだ。


 この大陸で最も強大な帝国であっても、戦争の影響からは逃れられない。共和国による侵略を追い返したとしても、帝国が戦前の姿を取り戻すにはどれだけ時間がかかるのだろうか?いや、そもそも元通りになることすら可能なのか?まあ、私が心配するべきことではないか。


「魔人共、連隊長がお呼びだ!さっさと来い!」

「はっ。ティガル、ザルド、アスミ……行くぞ」


 『特戦隊』に与えられたボロボロの兵舎に戻る前に、我々はあの男に呼び出された。どうやら連隊長、すなわちマルケルスが呼んでいるらしい。逆らうつもりはないし、久々にマルケルスの顔も見ておきたい。私は『特戦隊』の中心人物である三人を連れて奴についていった。


 マルケルスの執務室は魔人に与えられた兵舎のすぐ側の建物の中にあった。我々の兵舎は老朽化が激しい場所をそのまま使わされているのだが、こちらの建物は新品同様である。すきま風とかがなさそうで羨ましいものだ。


 建物の守衛によるボディチェックを受けてから、我々は建物の中に入った。ボディチェックといってもここに来る前に武装は荷車に片付けているので問題が起きる訳がない。守衛もそれをわかっているからか、チェックがかなりおざなりだった。


「……ベタベタと触られるのはいつになっても慣れん」

「じゃあ来ない方が良かったか?」

「うぐっ……それは、嫌だ」

「なら我慢しろ。女にゃ酷だろうがよ」


 ただし、アスミだけは渋面を浮かべていた。彼女は魔人である前に一人の女だ。好きでもない男の守衛に触られて嬉しい訳がない。その反応は当然と言えた。


 だが、それでもアスミがついてくるのには理由がある。その理由を知っている私は、我慢してでも会いたいという強い想いを持つ彼女のことが少し羨ましかった。


「ああ、やっと来ましたか。待ちくたびれましたよ」


 建物に入った我々を出迎えたのはデキウスだった。マルケルスの部下だった彼も出世しており、今では副連隊長となってマルケルスの右腕としてその手腕を振るっていた。


 デキウスもまた、帝国兵には珍しい魔人を差別しない人物だ。マルケルスの待遇改善案を実現可能な形にするべく尽力してくれたと聞く。マルケルス同じく、我々にとっては戦友にして恩人であった。


「デキウス副連隊長!不肖この……」

「挨拶は結構。それよりも君達が捕らえてきた大量の捕虜について話があります。こちらへ来なさい」

「えっ?しっ、しかし報告は……?」

「魔人達に任せればよろしい。実際に前線で戦った者達の方が詳細に報告出来るでしょう」

「はっ!貴様ら、連隊長に失礼のないようにしろ!」


 敬礼と共に何かを言おうとした上官殿だったが、その前に捕虜についての話があるとデキウスに連れていかれた。あの男は何か言っているが、お前よりは付き合いが長いのだ。そんなことを心配される筋合いはない。


 あの男はともかく、去り際にデキウスが目配せをしてきたことに私は気付いている。彼が伝えたいことはわかっている。私は小さく頷いてから、三人を連れてマルケルスの下へと向かうのだった。

 次回は2月20日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔人にされるのか使役兵にされるのか。 いずれにしても捕虜になってしまったのだからどうなってしまっても文句は言えないということでしょうか。
[一言] 即刻処刑されたり、あるのか分からんけども鉱山送りみたいな労働刑にされるのと魔人にされて戦場送りになるのはどちらがマシなのかねえ
[一言] メシどうすんだ?と思ってたらこれかぁ…はぁ。 末路が魔人なのは知ってたはずなのに……自分の手駒を増やせると思ったか? すこしは「人間」と話して落ち着きたいね……。
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