表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
156/477

アーディウス要塞攻略戦 蹂躙

 ザーヒ・シュネーラーと言うらしい黄金の機鎧兵は、己を神だと自称している。だが、それはおかしい。アスミの話とは矛盾しているのだ。


 カン族の神は彼らを率いて一つの大陸を掌中に収めたが、その後に自分達が滅ぼした神の呪いによって全滅したはず。アスミの話を信じるのならば奴が嘘を吐いていることになるが、このタイミングで嘘を吐く意味がわからない。どうなっているんだ?


「ぬうぅ!この威圧感、気を抜くでないぞ!」

「言われなくてもわかってらぁ」


 しかしながら、疑問についての答えを探す余裕など今の我々には存在しない。目の前のザーヒは機鎧を失い、下着だけの見窄らしい格好である。しかし、奴からは対峙するだけで肌が粟立つほどの威圧感を放たれている。余計なことを考える余裕などあるはずもなかった。


 自信家らしいジュードすら、一切の余裕を見せずに槍の穂先をザーヒに向けている。私の本能もこれまでにないほど警鐘を鳴らしており、正直に言えば今すぐに逃げ出したかった。


 だが私はそれが許される立場ではないし……何よりも背中を見せれば殺されてしまうだろう。生き延びるには全力で戦って勝利する以外に道はなさそうだ。


『ふむ、聞いたことのない言語だな。それに空気の味も踏み締める大地の感覚も異なる……もしや、ここは別の大陸か』


 極限の緊張状態にある我々とは異なり、ザーヒには余裕があった。我々を前にして自分の現状の把握を優先するほどに。まるで我々を脅威だとは思っていないようだった。


 しかし、その慢心が許されるほどに力の差があるのも事実。不用意に踏み込めば、花を手折るようにあっさりと命を奪われると本能が語っている。我々は刃の切っ先を向けたまま、動くことすら出来なかった。


『それにしても、この貧相な身体は何だ?我とは程遠いながら、我の因子も感じる。子孫のものか?しかし何故我が子孫の身体に憑依している?いかん、記憶が曖昧だ。何もわからぬ』


 ザーヒは自分の身体を見て困惑しているようだ。師匠とジュードは奴が何を言っているのかわからないだろうし、私もどうにか聞き取れている状態で自信はないが……大体は理解していた。


 ザーヒの独り言によれば、奴は自分の身に起きていることがわかっていないらしい。それにやはりあの身体は奴自身のものではないようだ。ならば付け入る隙はあるかもしれない。


『眠っておるようだが、後方からは我が同志の気配もする……奴から聞き出せば良いか。何はともあれ、考えるのは全てを終わらせてからにするとしよう』

「来るぞ!」


 思考の海に沈んでいたザーヒだったが、ついに我々の方へと向き直った。本人も言ったように、これ以上あれこれ考えるのは我々を始末してからのようだ。師匠は声を張り上げ、ジュードはどんな動きも見逃すまいと目を見開いた。


 私も油断していないのだが、私は私で困惑していた。何故なら、我々を殺すと宣言した割には奴から殺気を感じられなかったからだ。


 だが、その理由にはすぐに予想がついた。恐らく、我々は敵として見られていないからだ。草を刈る時や虫を潰す時に一々殺気を放つ者はいない。ザーヒの目には、私達はその程度にしか映っていないのだ。


 ザーヒはフワリと浮かぶと、何もない場所から金属製の直剣を作り出して右手に握る。霊術を使って作ったのだろうが、発動するのも剣を構築するのも一瞬だった。霊術の腕前も人外の領域にあるらしい。目の前の男が神かどうかは知らないが、怪物であるのは間違いないようだ。


「ぬんっ!」

『ほう?』

「シィッ!」

「ふんっ!」


 浮かんでいることでザーヒは予備動作を見せることなく間合いを詰める。そして振るった剣を師匠が斧槍で受け流した。防がれるのは予想外だったのか、ザーヒは感心したようだった。


 その一瞬の隙を逃すジュードと私ではない。ジュードは喉元へと閃光の如き突きを放ち、私も低い姿勢で足元から攻める。何も言わずとも連係が取れているのは、お互いに最も効果的な動きを選択した結果であろう。


『ははっ!存外にやるではないか!』

「何っ!?」

「ぐうっ!?」


 だが、ザーヒは面白そうに笑いながら対処してみせた。信じられないことにジュードの槍を掴み取り、私の顔面には前蹴りを放ったのである。私は蹴りを咄嗟に腕を交差させて防ぎ、掴んだ槍は無造作に引っ張って引き寄せつつ剣で突いた。


 しかしジュードもさるもの、引っ張られる力に逆らわず前に出ると上へと跳躍して剣をギリギリで回避する。毛先が少しだけ斬られたようだがそれだけだ。しかも跳躍しつつ槍を捻ったようで、ザーヒは槍を放していた。


 蹴られた私も直前に後ろへ跳躍して可能な限り威力を殺し、さらに地面を転がって受け身を取っていた。交差させた時に直撃した右腕の外骨格は砕けて出血しているが、骨折はしていない。既に治癒も始まっているので問題はなかった。


「ぬうん!」

『むっ……』


 ザーヒの剣を受け流していた師匠が斧槍を振るうと、流石に重たかったようで少しだけザーヒの眉間に皺が寄った。全身の力を余すことなく乗せた師匠の一撃は、神をも唸らせる威力であるらしい。流石は師匠である。


 師匠のお陰で再び隙が生まれたザーヒにジュードと私はもう一度襲い掛かった。それに合わせて師匠も振りかぶっての一撃ではなく、突きを主体とした戦い方に切り替える。三人による手数で押し切る方向にシフトしたようだ。


 一撃の威力に目が行きがちだが、先ほどの受け流しでもわかるように師匠は小技も得意である。二本の槍と二本の剣が前後と下から迫るとなれば、自称神であっても厳しいようで眉間の皺をさらに深くしていた。


『ほう……三人相手ではちと厳しいか。ならば、こちらも追加しよう』


 そう言った直後、ザーヒの左手に菱形の盾を作り出す。剣と盾を用いた、攻守のバランスとれたスタイルが本来の奴の戦い方らしい。


 盾が加わっただけで状況は一気に覆った。三人による四つの刃は一切ザーヒに届かなくなったのだ。剣と盾による防御はまさに鉄壁で、ザーヒは涼しい顔で全て弾いていたのである。


「この野郎、ナメやがって!」


 額から大量の汗を流しつつ、ジュードは吼えながら氷の霊術を用いる。すると彼の槍の穂先が氷に包まれ、氷の刃が生み出されたではないか。


 彼の作った刃は単に穂先の伸長させるだけではない。穂先の付け根の辺りから左右にも延びており、柄と合わせて十字の形状となっていた。


「シャアアアッ!」

「熱くなるでない!愚か者が!」


 ジュードは氷の刃によって強化した槍を縦横無尽に振り回す。防御をかなぐり捨てて強引に攻め始めたジュードを一喝しながらも、師匠は彼のフォローに回るしかない。それは私も同じであった。


 ジュードの連続攻撃は見事なものであった。突きの鋭さはそのままに、足払いや石突きによる打撃も絡めていたので動きを読み難い。氷の刃によって穂先の長さ横幅も増しているので、私であれば何度か斬られて無傷とはいかなかっただろう。


『温い。そのような小手先の技が我に通じるものか』

「何!?」


 しかし、相手が悪すぎた。これまでは師匠の動きを主軸に置き、ジュードが鋭い突きで反撃の暇を与えず、私が対処し難い位置から攻めて崩そうと立ち回っていた。だが、師匠とジュードの役割を急に変えることには無理があったらしい。三人の連係に少しだけ乱れが生じ、そこに付け入る技量がザーヒにはあったのだ。


 奴は巧みに盾を使って氷の刃を逸らし続け、大振りの突きに合わせて盾で殴り付けるようにして氷の刃を砕いてしまったのである。砕かれた衝撃でジュードは仰け反ってしまい、致命的な隙を曝してしまった。


「小童!」

『死ね、下郎……?』

「ぐおっ!?」


 ジュードを助けるべく繰り出した師匠の斧槍は盾で弾かれ、彼の首に吸い込まれるように剣が迫る。その首が斬り落とされる……前に私の尻尾が彼の身体を殴り飛ばした。


 ジュードを生かしたのは我ながら良い仕事だったと思う。だが、その代償は大きかった。私の第五の手足とも言える尻尾が半ばから切断されてしまったのである。もしも痛覚を切っていなければ、痛みでのたうち回っていたかもしれない。


「でかした、弟子よ!」

『仕損じたか。その異形は飾りではなかったようだな』

「……クソッ!」


 師匠は嬉しそうに笑いながら斧槍を一回転させてから再び構え、ザーヒは忌々しげに私を睨み、ジュードは悔しそうにザーヒと私を交互に睨む。助けたのにその態度はなんだ、おい。


 若干ながら助けたことを後悔しつつあった時、後方からアルティシア様の霊術が飛んで来る。ザーヒは剣でそれを斬り払った後、深々とため息を吐いた。


 その様子は隙だらけに見える。だが、何故かその仕草を見た私の警戒心は急速に高まっていた。それは師匠とジュードも同じことであるのか、誰一人として仕掛ける者はいなかった。


『神たる我が直々に死を与えようというのに、それを妨げるとは……興が殺がれたわ。遊びはここまでにしよう』

「ただならぬ雰囲気……弟子よ、何と言ったのかわかるか?」

「遊びはここまでだそうです」

「ケッ!調子こいてんじゃねぇぞ!」


 ジュードは強がりを言っているが声が震えている。これまで余裕を持って我々の相手をしていたザーヒが全力になることの意味がわかっているからだろう。


 緊迫した空気を破ったのはアルティシア様による霊術だった。これまでよりも一段威力を増している霊術をザーヒが剣で斬ったと同時に、我々三人は飛び掛かる。待ちに回れば何も出来ずに死んでしまう。それを本能で察していたのだ。


『児戯だな』

「「「なっ!?」」」


 ザーヒが嘲笑うような口調で何かを呟いた瞬間、我々三人は鮮血が撒き散らしながら吹き飛ばされていた。全く見えなかったが、どうやら斬られてしまったらしい。視界の端でキラキラと輝く師匠の鎧の破片が妙に美しく感じられた。


 地面に転がった我々だったが、立ち上がれたのは私と師匠だけだった。師匠は金属鎧が、私は外骨格が守ってくれたようだが……軽装鎧だったジュードはかなりの深傷を負ったらしい。死んではいないようだが、おびただしい量の血液を流しながらビクビクと痙攣していた。


「ぐおおっ!?」

「がはっ!?」


 かろうじて立ち上がれただけだった私と師匠へ、ザーヒは容赦なく追い討ちをかける。一度見たこともあって全く見えないというほどでもなかったものの、回避することなど出来るはずもない。私に出来たのは首へと迫る刃の前に剣を差し込むことだけだった。


 何かが砕ける音が聞こえた直後、私の胸板を再び白刃が斬り裂いた。どうやら右手に持っていた白い剣が砕けてしまったらしい。黒い剣は無事だが、それは単に差し込むのが間に合わなかっただけのこと。剣が左から迫っていれば、折られていたのはこちらだっただろう。


 師匠も似たようなものらしく、斧槍の柄が両断されて腹部を斬られたようだ。師匠は斬られた腹を押さえながら斬られて短くなった斧槍を杖代わりにして立ち上がろうとしているものの、力が入らずに片膝立ちになっていた。


「ふぅ……ふぅ……」

『ほう?まだ立つか。しぶといな』


 師匠とジュードが戦闘不能になった中、それでも私は立ち上がった。痛覚を切っているからこそ可能な無茶である。実際、両足には力が入らずに頼りなく震えていた。


 立つだけでやっとなのだから、到底戦える体調ではない。しかし、今更逃げることは不可能だ。逃げるだけの余力すらないのだから。


 だが、私は生きることを諦める訳には行かない。私には百年間生き延びるという使命がある。その使命を果たすことは最早不可能に近いが、生きている限りは最期の瞬間まで足掻くのだ。


『その生きることを諦めぬ眼差し……不愉快だな』

「ぐっ……」


 私が立ち上がったことが気に入らないらしいザーヒは、浮遊しながら私の前にやって来ると震えている太腿をわざわざ斬った。外骨格など存在しないかのように簡単に斬られ、私はうつ伏せになって倒れてしまった。


 それでも諦められない私は折れた白い剣を投擲しつつ、無事な黒い剣で足を斬ろうとする。しかし、無情にも投擲した剣の残骸は盾で防がれ、左腕は振るわれる前に剣に串刺しにされて地面に固定された。


『そうか、一つ思い出したぞ。決して諦めぬその眼、あの森の忌み子に似ているのだ。本当に忌々しい……いい加減に死ね、異形よ』


 ザーヒは浮かんだまま膝をあげる。私の頭を踏み潰そうとしているのだ、と理解した時には奴はその足を振り下ろしていた。何故かゆっくり迫ってくるように見える足の裏を、私は自分の無力を痛感しながら睨むことしか出来なかった。

 次回は1月23日に投稿予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 助け合っていても異形と蔑まれることの理不尽と自称神と戦う理不尽。 どんな手を使ってでも生き延びて欲しい。  こんな時、助けに来てくれるのは誰だろう と考えてしまった。  ポピ族じゃないし、…
[一言] 理不尽すぎぃ
[一言] ザーヒは自分が既に死んでいることは知らない……? いや、まあ向こうの事情はどうあれ手も足も出ない訳ですが 何か活路はないのか……!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ