アーディウス要塞攻略戦 降臨
黄金の飛翔体に乗って戦場の外れにやって来た黄金の機鎧兵。奴を迎撃するべく我々は行動を開始する。私は地中を泳ぐように進み、師匠は愛馬の腹を蹴って駆け出した。
アルティシア様は万が一に備えて竜吼砲の側を離れず、後方から霊術で援護する。我々三人のやることは前回と変わりはなかった。
「さっさと殺して帰らせてもらうぜ!」
そして前回はいなかった四人目であるジュードもまた、己にとって最速の方法で迎撃に向かう。私のように地中を泳ぐことは出来ず、師匠のように愛馬に跨がっている訳でもない。だが、彼が移動する速度は誰よりも速かった。
彼は槍を肩に担いだまま、地上を足を動かさずに進んでいる。どうやら霊術を使って地面を凍らせ、その上を滑っているようだ。氷の霊術で移動までこなすとは、『氷槍』の面目躍如と言ったところか。
『グオオオッ!ガアアアアアッ!』
「何だ、イカれてんのか?こりゃ楽に勝てそうだな、おい」
地上からは黄金の機鎧兵の咆哮とそれを鼻で笑うジュードの声が聞こえてくる。あいつ、話を聞いていたのか?理性を失えば失うほど、黄金の機鎧兵の力は増大していくと師匠達が教えていただろうに。
最初から理性を失っていると言うことは、最も力が増大している状態だと考えて良い。甘く見ていると一瞬で殺されてしまうだろう。
私の心配など知らないジュードは、地上を素早く滑っている速度を乗せた鋭い突きを繰り出す。穂先は機鎧の隙間へと正確に滑り込んだようで、肉を穿つ湿った音と獣の悲鳴が聞こえてきた。
『ギイィィガアアアアッ!』
「があっ!?」
私のように痛覚を切っていないので悲鳴は上げるものの、すぐに治ってしまうこともあって奴は即座に反撃してくる。そのことも教えていたはずなのだが、こっちも真面目に聞いていなかったのかもしれない。
反撃として振り回された拳は直撃こそしなかったようだが、何かが壊れたような音が聞こえている。恐らくはジュードの鎧が破損したのだろう。
「この野郎……ぶっ殺してやる!」
『ギアアアアッ!?』
ジュードは怒りのままに連続で突いているらしい。槍の穂先が空気を切り裂く鋭い音と、肉が穿たれて血が飛び散る音が交互に聞こえてくる。この動き……槍の腕前はリナルドよりも上だろう。
しかもジュードはただ槍を突いているだけではないらしい。彼は刺さる瞬間に霊術を用い、刺さった場所を凍らせているようだ。身体を内側から凍らされたことで、黄金の機鎧兵の動きは明らかに鈍っていた。
毒を流すよりもこちらの方が効果的なのか。私も双剣を刺した時、傷口に砂を入れてみるか?少なくとも傷の治りは遅くなるのではなかろうか。
「あまり効果的ではなさそうだし、止めておこう」
『ガギッ!?』
音を頼りに接近していた私は、ジュードの猛攻に曝されている黄金の機鎧兵に地面の下から襲い掛かる。双剣を両膝の裏から突き刺し、尻尾の毒針を脇腹から刺した。
その際、傷口に砂を入れることはない。効果があるかどうかわからないことを試すような余裕がある相手ではないし、思い付きを試したとしても失敗するような気がしたからだ。
『ガアッ!』
「ハッ!やるじゃねぇか、混じり野郎!」
「ガッハッハッハッハ!儂も交ぜさせてもらうぞ!」
黄金の機鎧兵は上半身を地面から出している私の顔面を踏みつけてくる。それを地面に潜って回避すると、ジュードは連続で突く速度を上げた。
その時、大地を踏み鳴らしながら突撃してきた師匠が斧槍を上段から振り下ろした。黄金の機鎧兵は師匠の一撃の恐ろしさを知っていたのか、ジュードの槍に身を曝してでも身体を反らして直撃するのをギリギリで回避してみせた。
私はこれまで二人の黄金の機鎧兵と戦ったが、師匠の恐ろしさを知っていることからこいつは二人目の方なのだと推測する。最初から獣のようになっているから、どっちが出撃しているのかわからなかったぞ。
ただし、師匠の一撃を知っているからと言って完全に回避することは無理だったらしい。斧槍の刃は機鎧の一部を砕き、その内側にある肉を斬り裂いた。
『ゴオオオオッ!?』
そこにアルティシア様の霊術が放たれた。本当にどうやっているのかは不明だが、師匠が砕いた鎧の部分へと正確に着弾している。もう見慣れたと言っても良い光の霊術は着弾と同時に炸裂し、戦場に焦げ臭い血煙が舞った。
間髪入れずに男三人による猛攻は続く。ジュードの素早い連撃が少しずつ出血を強い、師匠の一撃は機鎧ごと身体を斬り裂く。私は反撃しようとした時を狙って足元を砂に変えたり、双剣と毒針で下半身を傷付けて嫌がらせに徹した。
事前に打ち合わせた訳ではないが、立場も性格も、なんなら人種すらも異なる我々の動きが不思議と噛み合ったことでほとんど完封に近い状況を作り出している。輝いていた機鎧は傷や凹みだらけになり、破損して肌が露出している部分も多かった。
傷付く度に黄金の機鎧兵の力は増しているのを感じるものの、それでも我々はほぼ何もさせずに圧倒することに成功している。まだ力が高まっているのは信じがたいことであるが、我々には確かに追い詰めているという手応えがあった。
『ゴバハァ……アァ!?』
アルティシア様の霊術が何度か露出した部分に直撃した時、黄金の機鎧兵は遂に立っていられないとばかりに膝を着いた。この好機を逃す手はない。私はここぞとばかりに地中から飛び出し、双剣と毒針を右足に突き刺した。
これまでは二人の邪魔にならないことを考えて、直ぐに引き抜いてから地中に潜伏して再び好機を待ったことだろう。しかし、弱っているのが明白な状況ならば畳み掛けた方が絶対に良い。その起点を作るべく、私は右足を放さないまま地中に潜った。
黄金の機鎧兵は沈んだ片足を全力で引き抜こうとするが、私は闘気によって限界まで高めた全身の筋力をフルに使ってそれを阻む。相手は片足だけの力であるのに、私の全力よりも強いのだから理不尽な強さとしか言えなかった。
さらに周囲の砂を固定して必死に抵抗するものの、傷付く度に強くなる力の前では短い時間しか押さえられない。だが、その短い時間さえあれば師匠がどうにかしてくれると私は確信していた。
「よくやった、弟子よ!ぬぅん!」
『ゲヒュッ!?』
やはり師匠はやってくれたらしい。私の意図を汲んでいた師匠は、その時間で素早く霊力を斧槍に流し込んでいた。そして極限まで威力を高めた斧槍を、回避させないように横に薙ぎ払った。
師匠の斧槍はこれまでの戦いで傷付いていた機鎧の胸部を粉砕し、胸板を深々と抉っている。刃は肺腑にまで届いたのか、黄金の機鎧兵はこれまでとは明らかに異なる息を漏らした。
「今だ、小童!」
「わかってらぁ!」
師匠が斧槍を抜くと、その傷口へとジュードが槍を突き刺す。ジュードの槍は心臓のある場所を完全に捉えており、胴体を貫通して背中側の機鎧で止まった。
ただし、突き刺すと同時に傷口を凍らせるのがジュードのやり方だ。今頃、黄金の機鎧兵は心臓とその周辺を凍らされていることだろう。奴はもう声すら出せないのか、身体を微少に痙攣させるだけになっていた。
「これで、終わりよぉ!」
師匠は斧槍を振り上げると、完全に動かなくなった黄金の機鎧兵の頭に振り下ろす。既に亀裂が無数に入っている兜は両断され、奴の頭は下顎まで完全に真っ二つになったようだった。
討ち取った。刃を身体に突き刺していた私を含めた三人は確信していた。刃を刺している相手から命の灯火が消えていく感覚。それを感じていたからだ。
『……うん?ここはどこだ?』
しかしながら、確実に死んだはずの黄金の機鎧兵は次の瞬間には当然のように蘇生していた。しかも師匠によって頭を砕かれ、ジュードの槍が心臓を貫いた状態のまま何事もなかったかのように言葉を発していたのだ。
蘇生したことも驚きだが、同じくらいに衝撃的だったのは傷付く度に強くなった力はそのままに正気を取り戻して……いや、違う。そうじゃない。こいつは、誰だ?
『状況はわからんが……不愉快だ。離れよ、下郎共』
「ぬおおおっ!?」
「何だあぁぁ!?」
「ぐううぅっ!?」
黄金の機鎧兵は全身から霊術を放出することで私達を吹き飛ばす。その圧力は今まで散々浴びてきたそれとは格が違った。師匠ですら踏ん張ることが出来ず、私も地中から無理やり引きずり出されてしまったのである。
私達三人が立ち上がる時間を作るためであろうか、後方からアルティシア様の霊術が怒濤のごとく降り注いだ。黄金の機鎧兵はそれを身体で受けず……霊術の堅牢な防壁を構築して防いでしまうではないか!
『ほう?出力はちと弱いが、良い霊術だな。無駄のない構築は褒めて遣わす』
『お前は、誰ダ?その身体は、お前ノものでは、ないだロウ』
私はたどたどしい口調で奴に問うた。私が別人だと判断した理由は三つある。一つ目は口調がまるで異なるから。二つ目は霊術を使ったことから。そして三つ目は何よりも相対している時に感じる雰囲気がまるで異なるからだ。
アスミから習った彼女らの言葉なので通じるとは思っていた。思った通り奴はきちんと反応し、私の方へと向き直って口を開いた。
『今の我は気分が良いのでな、得体の知れぬ下郎である貴様の問いにも答えてやろう。我の寛大さに感謝するが良い』
『……』
『我が名はザーヒ・シュネーラー!大陸に覇を唱えし神の一柱なり!』
ザーヒが己こそ神であると名乗ると同時に、再び強大な霊力を放出する。余りにも濃密な霊力に耐えられず、黄金の機鎧は完全に砕け散ってただの瓦礫と化してしまう。その霊力の圧力に我々は圧倒されて言葉を失うのだった。
次回は1月19日に投稿予定です。




