アーディウス要塞攻略戦 最終決戦 その一
『氷槍』のジュード。その異名については初耳だが、誰なのかはわかっている。オルヴォと共に帝国へ移動する際、夜にうるさいと言って味方であるはずの傭兵達を殺そうとした強い気配のした男だ。『暁の牙』という傭兵団の所属という情報も盗み聞きして覚えているし、確定だろう。
「『暁の牙』は減少した戦力の補充になる上、『氷槍』の小童は儂と互角に戦える剛の者!我らと共にあの金色と戦うことになる!」
「足りなかった一押し、と言うことですか」
「左様!その時こそ、確実に奴を討ち取ろうぞ!ガッハッハッハッハッハ」
三人では足りないと思っていたが、そこに四人目が加わることになるのだ。そしてその実力も折り紙付きとなれば、次こそは勝てるかもしれない。いや、確実に討ち取って後顧の憂いを絶ちたい。強い敵は殺せる時に殺しておくべきなのである。
それまでは今まで通り遠くから竜吼砲でチクチク攻撃することになるのだろう。そしてまた黄金の機鎧兵が現れた時は三人で迎撃することになるのだ。一方的に痛め付けているようで、実はこちらの方が追い詰められていく戦いは気味が悪くて嫌なのだが……拒否出来ない立場の我が身が恨めしいものだ。
「それにしても、どうして『暁の牙』のような優れた傭兵団がどこにも雇われていないのですか?」
「うむ、どうやら帝国軍の将兵とトラブルになったようでな!向こうの戦いが一段落したところで契約の更新せずにこちらに戻っておるらしい。そこを捕まえたのだ!」
「神経質な男ですからね、あれは」
いつの間にか師匠の声を防ぐのを止めていたらしいアルティシア様がそう締めくくった。確かに眠りを妨げられただけで味方を殺そうとする男だ。敵を作りやすい性格だろうし、会話すらしたことはないが納得してしまった。
ただ、そんな神経質な男と肩を並べて戦わなければならないと考えると憂鬱な気分になる。背中を刺されて死ぬのだけはゴメンだぞ。頼むから癇癪を起こさないでくれと願うのだった。
◆◇◆◇◆◇
それから二週間ほど攻城戦は続けられた。竜吼砲による砲撃によって、アーディウス要塞の外壁は穴だらけになっている。未だに健在なのは最も奥にある外壁だけであり、攻城戦開始時の兵力があれば突撃していたかもしれない。
しかしながら、それを諦めざるを得ないくらいには損耗していた。連日の砲撃戦で要塞から出撃して来る無人機を迎撃する際、どうしても歩兵に被害が出てしまうのだ。
しかもここ数日、飛んでくる無人機は全て初めて見るタイプの兵器であった。何をしてくるのかわからず、ほぼ確実に最初の攻撃で被害が出る。毎日『今日は何をされるのだろうか』と警戒しなければならないのは相当なストレスとなったことだろう。
ただし、不幸中の幸いと言えることが二つある。それは黄金の機鎧兵が襲来することはあれから一度もなかったことと、共和国軍による夜襲は全て未然に防げたということだった。
二つ目の外壁に穴が空いた時、中央戦線の兵士達は歓声を上げる前に警戒心を強くした。また黄金の機鎧兵が出撃してくる思ったからだ。
実際、前と同じように無数の自走砲加えて無人機が穴から出撃しているので、皆の警戒は当然の反応と言える。正面から突撃してくる自走砲は重装歩兵が、左右に展開した自走砲は『竜血騎士団』や他の騎兵部隊が、無人機は他の歩兵が迎撃して事なきを得た。
だが、前のように黄金の機鎧兵が潜んでいると言うことはなかった。誰もがきっとどこかにいると考えて警戒を密にしたのだが……結局奴が出撃してくることは今日まで一度もなかった。
その代わりなのか、我々が夜襲を仕掛けない日を見計らって時々無人機による夜襲が行われるようになった。その際、私が構築しておいた振動を感知する砂の円環が役立っている。
基本的に無人機は喧しい音を立てながら浮かんでいるのだが、音を立てずに地面を移動する無人機が現れたのである。もしも本陣までたどり着いていれば、毒ガスや小さな礫を撒き散らして自爆していたことだろう……振動を感知して迎撃に向かった私は至近距離で食らったが。外骨格がなければ、死なないにしろ裂傷だらけになっていたと思う。
爆発を聞き付けた夜警中の中央戦線の兵士が遂に共和国軍も夜襲を仕掛けるようになったと知り、被害を出すことなく警戒を強めるようになる。本陣から遠い場所で察知して破壊したのは高く評価され、師匠からお褒めの言葉と共にまた褒美としてドライフルーツを大量にいただいた。
今回は後方の本国からの補給が届いたばかりだったらしく、量を用意出来たらしい。それだけでなく、ドライフルーツは一種類ではなかった。あまりにも量が多かったので、私は師匠に半分は仲間達に渡すように頼んでおいた。きっとラピ達は大喜びしていたことだろう。
閑話休題。とにかく、攻城戦も佳境に入ったと言っても良いだろう。今は最後の外壁へと総攻撃を仕掛けており、穴こそ空いていないものの既に凹みだらけになっていた。近い内に最後の外壁も崩れると思われる。何か大きな動きがあるとすれば、きっとそのタイミングだと師匠は予想していた。
「ああ、うるせぇ……!この音、どうにかならねぇのかよ」
「はぁ……全く、これだから無知な傭兵は困りますわ。竜吼砲には緻密で複雑な霊術回路を刻まれておりますのよ?強度を確保することと運用時のことを考慮すれば、消音の霊術回路を書き加える必要などありませんの。つまり……」
「どうにもならんと言うことよ!ガッハッハ!」
そんな攻城戦の要とも言うべき竜吼砲の側で、苛立たしげな様子で眉間に皺を寄せている者がいる。それはつい先日、戦場へとやって来た『氷槍』ジュードであった。
前に見た時に抱いた印象と違わず、彼はかなり神経質な男らしい。竜吼砲の発射音が鳴る度に苛立っているだけでなく、発射時の反動で土煙が巻き上がるだけで眉を顰めていた。
「チッ!さっさと青肌野郎共を片付けて、こんなうるさくて煙たい戦場からはオサラバした……ああっ、うるせぇ!」
「ガッハッハ!相変わらずよな!」
「うるさい男と細かい男……寡黙な魔人が一番マシってどういうことですの……?」
竜吼砲の発射音が轟く度にジュードは苛立ち、その様子を見て師匠は豪快に笑う。その様子を見たアルティシア様は複雑な表情でナチュラルに失礼なことを言っていた。
師匠は細かいことを気にしない人だし、私も消極的ではあるが最も高く評価していただいているので文句を言うつもりはない。だが、最も神経質な男だけは彼女の言葉を聞き逃さなかった。
「何だと?お前、俺がそこの混じりが劣るってのか!?」
「少なくとも戦場で無駄な体力を消費しないだけ、細かいことで一々文句を言う貴方よりはマシなのではなくて?」
「このアマァ……!」
当然のように私を魔人の蔑称で呼んだジュードは、肩に担いでいた槍が軋むほどに握り締めながらアルティシア様を睨んでいる。殺気が漏れ出していて、今にも襲い掛かりそうな雰囲気だ。仮に彼女が味方でなかったら即座に手を出していたことだろう。
そしてアルティシア様も殺気を向けられて大人しくするような可愛い性格をしていない。目を細めてジュードを睨み付ける。その手は自然体で開かれており、いつでも霊術を使えるようにしていた。
味方同士とはとても思えないピリピリした空気を無視しつつ、私は戦場をじっと見つめていた。今も仲間達は前線で戦っている。ここまでの戦いで数人が重傷を負い、その内の一人は残念ながら死んでしまったのを感じた。彼の闘気と霊力が完全に消えたので間違いないだろう。
仲間を失うのは初めてではないが……とても悔しいしそれ以上に悲しい。この喪失感に慣れることはきっとないだろう。少しだけ感傷的な気分に浸っていた。
「ガッハッハ!仲が良いのは結構であるが、そろそろ敵も動き出すようだぞ!」
師匠が二人の口喧嘩と言うには物騒過ぎる睨み合いを笑い飛ばしながらも、警戒を促す。師匠が言う通り、要塞の内側では巨大な気配が動いているのだ。間違いなく黄金の機鎧兵だろう。どうやら今回は気配を隠すつもりもないようだ。
気配を隠していないのだから、戦場にいる誰もが感じた。そして竜吼砲に携わっている霊術士達は特に敏感に感じ取っていたらしい。彼らは可能な限り急いで竜吼砲の準備を整え、最後の外壁を砕いてやるとばかりに一斉に発射した。
ドオォォン!!!
直後、戦場全体にこれまでとは比較にならない轟音が響き渡る。轟音の主は竜吼砲による一斉砲撃だけではない。砲撃の音に加え、要塞の内側でも盛大な爆発と共に何かが打ち上げられたのである。
砲弾が着弾して外壁に大きな亀裂が入ったのだが、それよりも気になるのは打ち上げられた何かの方だ。下の部分から炎を噴射しながら上昇していく紡錘形のそれは……黄金色をしていたのだ。
「何だ、ありゃあ……?」
「何かは問題ではない!あれからあの金色の気配がするのが問題なのだ!」
「それよりも、こっちに来てませんか?」
「「はっ!?」」
そう、師匠が言うように空飛ぶ黄金の物体から黄金の機鎧兵の気配を感じるのだ。しかもその飛翔する軌道は緩やかな弧を描いており……このままでは竜吼砲の上に落ちると思われた。
師匠とジュードが冷静さを取り戻した時、既にアルティシア様は動いていた。彼女は掌を空に翳すと、凄まじい突風を飛翔体に直撃させたのだ。ジュードに備えていつでも霊術を使えるようにしていたのが功を奏したらしい。いや、怪我の功名と言うべきだろうか?
ともかく、アルティシア様の機転によって飛翔体の軌道は大きく逸れて戦場から少し離れた場所に着弾する。それと同時に内側から放たれた霊力によって飛翔体は粉々に砕け散ってしまった。
「グオオオオオオオオオッ!!!」
霊力を放ったのは当然ながら黄金の機鎧兵である。奴は獣のような咆哮を上げると、最も近い場所にいる兵士に向かって駆け出した。
奴にまた歩兵達を虐殺させる訳には行かない。我々は今一度役目を果たすべく駆け出すのだった。
次回は1月15日に投稿予定です。




