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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
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アーディウス要塞攻略戦 今後の方針

 空に打ち上げられた合図に従って、私と師匠も撤退を開始した。最初こそ重装備で私ほど脚が速くはない師匠に合わせた速度で走っていたものの、途中でどこからともなく師匠の愛馬がやって来てからは速度が上がった。豪傑である師匠の愛馬は中々の駿馬なのだ。


「被害は思ったほどではないか。それは僥倖と言えるかもしれぬが……一部は負け戦のような空気になっておるな」

「無理もないでしょう。あれはそれだけ強かったですから」


 最後まで戦っていた我々は、野営地に戻ってくるのも最も遅くなった。だからこそ、野営地の現状は良くわかる。師匠は空気を感じ取っているだけだが……私の場合は視覚と聴覚でより詳しく知ることが出来ていた。


 外壁を崩した直後に現れた四脚タイプの自走砲の群れ。これを最前線に布陣していた重装歩兵達はきっちりと受け止めていた。彼らが奮戦してくれたお陰で中央を崩されることはなく、被害は最小限に抑えられている。


 しかし、自走砲に隠れて急襲した黄金の機鎧兵による被害はかなり大きい。まず、迎撃に向かった『戦鎖騎士団』の精兵は半数以上が戦死、生き残りも重傷者ばかりだった。


 攻城戦が終わるまでに治療を終えて戦線に復帰することは可能だろうが、集団としての『戦鎖騎士団』は死んだと思った方が良い。中央戦線は強力な機動戦力を一つ失ったことになる。これは痛い損害と言えよう。


 『戦鎖騎士団』が蹴散らされた後、主力の歩兵部隊が側面から食い破られたのも問題だ。殺された人数は全体から見るとそこまで多くはないのだが、奴はその圧倒的な力をまざまざと見せ付けている。それが士気を下げているのだ。


 自分達と同等の力を持つ精鋭が、なす術もなく蹂躙される。その光景を見た兵士達の頭には、これから先ずっと『あれと戦うことになるのかもしれない』と言う考えが片隅にこびりつくのだ。怯えてしまうのも仕方があるまい。


 ただ、士気が下がっているのは一部の者達に限られている。何故なら、一応ではあるが我々三人は何とか撃退した……ように見えていたからだ。


 実際は黄金の機鎧兵が撤退してくれただけのだが、遠目から見れば尻尾を巻いて逃げ出したようにも見える。嘘だろうが勘違いだろうが、勝利に近付くのならば勝手に思わせておけば良いさ。


「うむ。儂は報告のためにあちらへ向かう!弟子よ、心苦しいがお主は……」

「無論、見張りに戻らせていただきます」

「すまぬな」


 師匠に一礼してから私は野営地の外にある場所を目指して歩き出す。そこは私がいつも見張りをする際に使っている場所で、今はただの地面にしか見えないだろう。事実、ただの地面であるのは間違いない。


 しかしながら、私はここを少しずつ改造することに決めた。要塞からは今も黄金の機鎧兵、すなわち神の末裔の気配が二つ感じ取れる。私が二度戦った者達だろう。


 今はここまで気配が漂っているのに、急襲された時は全く気づかなかった。それは共和国軍が気配をほぼ完璧に隠すことに成功しているからだとしか考えられない。神の末裔が己の力をコントロールして隠蔽した可能性はあるが……あの力任せしか出来ない者にそんな器用な真似が可能とは思えないだろう?


「連中はアスミのような一部の例外を除いて貧弱だ。だが、その技術は驚異的としか言えない。改良されたと聞くアルティシア様の霊術以上に気配を隠すことが可能だと思った方が良い」


 私は生まれ落ちた直後から己よりも強い生物と戦ったのだ。敵の方が自分よりも強いと想定して策を練ることにはとっくに慣れている。


 ではそのためにどうすれば良いのか。戦場から帰還する道中で私はずっと考えていた。そして一つの方法を思い付いていた。


「集中しろ。だが、集中し過ぎてはならん……ふふっ、これは良い鍛練になるな」


 私は地面に胡座をかくと、尻尾の先端を突き刺して毒液を流すようにしてゆっくりと霊力を弱めに注いでいく。そして霊力を細く、長く、糸のようにして伸ばしていった。


 霊力の糸を伸ばして野営地を包囲すると、その部分を砂に変える。これで野営地は砂で出来た円で囲まれることになった。


「音による感知はミカに及ばんが、地面の振動を感じることならば私の方が上だ。それに……砂を通してならもっと鋭敏に感じられる」


 地面を動くことで生じた振動は、砂を通して私に伝わってくる。今も砂の円の直上とその近くで風に吹かれて揺れる雑草の動きすら感じ取れていた。振動のことを考慮せずに円の内側に入った者は、これで全て感知することが出来るだろう。


 ただし、霊術を使うところを見られると厄介なことになりかねない。私は誰かに感知されないように細心の注意を払いながら地中に幾つもの砂の円を作り、私の警戒網を広げていく。普段から霊力を操る鍛練を怠ったことはないが、繊細な技術が要求されるこの作業はこれまでにないほどの鍛練となっていた。


 その間も複眼による周囲の警戒も忘れてはいない。私は作業を淡々と続け、五つの円を完成させた辺りで夜が明けた。今日はここまでにするとしよう。私は立ち上がりながら尻尾を地面から抜くと、尻についた土を払って本陣へと戻っていった。


 本陣の様子だが、一晩明けて雰囲気は落ち着いているようだった。黄金の機鎧兵によって植え付けられた恐怖は相応に大きかったようだが、彼らには決して退けない理由がある。彼らは共和国軍の苛烈と言うのも生温いやり方を知っているからだ。


 自分達が逃げ出せば、後ろにいる人々が皆殺しにされる。そのことを思えば勇気を燃やすことも出来るのだ。これが正規軍の強みと言っても良いだろう。


「おう、弟子よ!今日も気合いを入れて行くぞ!」

「……一々大声を出さないでくださいませんこと?朝からその声は頭に響きますの」


 竜吼砲を置いてある場所で待っていると、愛馬に跨がった師匠とうんざりした顔のアルティシア様がやって来る。二人のやり取りも見慣れたもので、昨日の戦いのことを引きずってはいないことが良くわかった。


 ただ、二人のような歴戦の英雄が切り替えていることなど重々承知だ。私はそんなことよりも知りたいことがある。それはもちろん、これからどうするのかだった。


「師匠。攻城戦は続けるとして、現状維持なのでしょうか?」

「うむ、それはな……!?」

「だから、頭に響くと申しておりますでしょう?私の口から説明しますわ。よろしくて?」

「はっ」


 師匠がいつもの調子で語ろうかと思ったようだが、口を動かしているのに急に声が届かなくなってしまう。何故かと思えば隣にいたアルティシア様が霊術を使ったらしい。師匠の大声をこれ以上聞いていたくなかったと言っていたが、こんな強行手段に出るとは……容赦ないな。


「わかっているでしょうけれど、攻城戦はこのまま続けますわ。ですが、昨日の戦いでそれなりにそれは前提として、援軍を()()します」

「援軍ですか?しかし……」

「ええ。貴方の言いたいこともわかります。西部戦線は援軍を出す余裕どころか素人を大量に徴兵して肉の壁にしていると聞きますし、東部戦線の帝国からは()()()特戦隊に来ていただいております。どちらからも援軍を呼ぶことは出来ません」

「では、どこから……いや、援軍を『要請』ではなく『雇用』とおっしゃいましたね。つまり、傭兵ですか」

「その通り。思ったより頭は悪くないようですわね」


 そう言ってアルティシア様はニッコリと微笑んだ。いや、そんな笑顔で誤魔化されたりはしないぞ。この人、しれっと私のことを馬鹿にしているじゃないか。私は無表情のまま「恐縮です」と言って頭を下げておいた。


 それにしても傭兵か。ここ数年でエンゾ大陸の傭兵は相当に数を減らしている。その理由はもちろん、共和国軍との戦争のせいだ。


 傭兵は金で買える戦力である。傭兵の質はピンキリで、正規軍の精鋭をも屠る英傑もいれば、武器を持っただけの農民のような者もいる。高名な傭兵団ならばいざ知らず、普段は山賊紛いのことをして日銭を稼ぐならず者が大半だ。


 強ければ強いほど雇うのに大金が必要になるものの、平時は養ってやる必要がない上に正規軍ではないので失っても後悔しない。各国は昔から戦争が起きると彼らを重宝していた。


 共和国軍が侵略して来た時、彼らは当然のように雇われた。各国は戦力を欲していたし、傭兵達も侵略者が相手ならば遠慮なく殺すことが出来る。傭兵達は我先にと北方へと集まった。


 そんな彼らを待っていたのは、暴風雨のように叩き付けられた無数の銃弾である。正規軍の精鋭に匹敵するような、傭兵の中でも手練れとされる者達以外は瞬く間に蹂躙されてしまう。その結果、今も傭兵として活動しているのは銃弾の雨を耐えられる猛者か、命惜しさに最前線から逃亡した臆病者くらいのものだった。


 攻城戦のために雇うのであれば、黄金の機鎧兵と戦うことも考慮して傭兵の中でもトップクラスに強い者達でなければなるまい。そんな者達は既にどこかの戦線で雇われていると思うのだが……フリーの者がいるのだろうか?


「……かあっ!全く、とんでもないことをしてくれる!」

「ちっ、霊力放出で無理やり術を破るなんて……もっと強固な霊術にするべきでしたわね」


 私が疑問に思っていると、師匠は黄金の機鎧兵が多用していた純粋な霊力の放出によって口の周りに掛けてあった霊術を無効化してみせた。黄金の機鎧兵ほどの出力はないものの、弱い霊術を破るのには十分であるらしい。私も何らかの霊術を受けた時にはああやって逃れるとしよう。


 師匠が再び声を発することが出来るようになったからか、アルティシア様は露骨に舌打ちをしている。しかしながら隙を見て再び霊術をかけるのは無理だと判断したらしく、彼女は自分の耳の近くに霊術を掛けた。耳栓をしたようなものだろう。


「弟子の疑問は当然である!今のご時世、手が空いておる手練れの傭兵などいるとは思えぬのだろう?だがな、そんな傭兵団が一つだけあったのだ!それもお主も見たことがある者の所属する一団がな!」

「私が……?ああ、ひょっとして?」

「うむ!儂が初めてお主を見たあの日、あの場所に座っておった『氷槍』の異名を持つ傭兵ジュード!奴を抱える傭兵団、『暁の牙』よ!」


 師匠はそう言いながらガハハと豪快に笑うのだった。

 次回は1月11日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 援軍が来るとは心強いですね。 みんなで協力していい方向に進むことを期待します。 本当は争うことなく話し合いで決着がつくのがいいんだけれど。振りかざした拳は今更引っ込めることができないんですよ…
[一言] おお、ここに来て援軍、それも手練の傭兵ですか 『暁の牙』が黄金の機鎧兵を倒す最後のピースになってくれるといいんですが
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