アーディウス要塞攻略戦 迎撃成功……?
明けましておめでとうございます。
今年も拙作をよろしくお願いいたします。
「ガッハッハッハッハ!力だけは上出来!力だけはな!」
「喜ばないで下さい、師匠」
『うっぜえぇぇぇっ!さっさと死にやがれぇっ!』
私と師匠は一気呵成に黄金の機鎧兵を全力で攻め続けている。師匠は高笑いしながら斧槍を撃ち込み続け、私は常に背後や地中から意識の外を突くようにして双剣や毒針で着実にダメージを蓄積させた。
師匠の一撃は直撃すると黄金の機鎧を破壊してしまうので、基本的に奴は師匠に集中しなければならない。しかし、私を無視していると鎧の隙間から身体を抉られたり猛毒を注入されたりする。すぐに治るとしても刺されたら痛いし、毒にも強くとも体調は悪くなるのだ。そうして私に気を取られ過ぎれば、今度は師匠の一撃を受けるのだ……このように。
「だが!鍛練がなっとらん!食らえぃ!」
『ぐっ……!このクソ野郎共が!群れやがあぁ!?』
師匠が上段から振り下ろした斧槍が機鎧の左肩の部分を砕いて肉と骨を潰し、反撃として殴り掛かった瞬間に顔が爆ぜた。そう、奴が戦っているのは私と師匠だけではない。遠くにいるアルティシア様もいるのだ。
彼女は竜吼砲がある遠い場所にいるにもかかわらず、そこから霊術による精密な狙撃で援護してくれている。今も複雑な軌道で接近した霊術が無防備となった顔面に直撃し、その青色の肌を焼いていた。
『かはぁ……!雑魚が群れただけで粋がってんじゃねぇぞ!』
黄金の機鎧兵は両手に霊力を集中させると、以前に戦った者と同じように光輝く霊力の弾丸にして両手から連射し始めた。師匠は斧槍で、私は霊術も使いつつ剣でそれらを斬り払う。
光弾の狙いは甘く、アルティシア様のように追尾させることも出来ないようなので回避するのは容易であろう。しかし、回避してしまうと流れ弾が味方に当たってしまう恐れがあった。ただでさえ黄金の機鎧兵の急襲によって大きな被害が出ているのだ。これ以上の被害は容認出来なかった。
『オラオラオラオラオラァ!』
「ぬぅぅ……うりゃあああああっ!」
連射される光弾を斬りながら力を溜めていた師匠は、その力を解放して斧槍から霊力の斬撃を放つ。黄金の機鎧兵のように無尽蔵の霊力頼りではなく、しっかりと練り上げられた霊力の刃は光弾をすべて斬り裂いて奴にまで届いた。
光弾に威力を減衰させられたこともあって、霊力の刃は機鎧の表面を削るだけに終わった。しかしながら、師匠の一振りは光弾をすべて消したのだ。すなわち、私がフリーになったのである。
「弟子よ、今だ!」
「はっ!」
師匠に言われる前から私は動き始めていた。滑るようにして駆け寄ると、師匠の霊力の刃を受けて仰け反った黄金の機鎧兵に飛び掛かる。狙うは当然、師匠とアルティシア様が機鎧を砕いて露出した部分だ。
背後に回り込むと逆手に持った左の黒い剣を左肩に、尻尾の毒針を首筋に、そして右の白い剣を眼球に思い切り突き刺した。私は少しでも傷口を深くするべく、二本の剣と尻尾を全力で押し込んでいく。双剣は半ばまで突き刺さり、毒針からも複数の種類の毒を可能な限り流し込んだ。
しかし、私は刺した瞬間に直感した。こいつを仕留められてはいない、と。これではまだ足りない、と。
『あがが……グゴオオオオオオオオッ!!!』
「ちっ、こいつもか!」
私が双剣を抜くと同時に、黄金の機鎧兵は獣のような咆哮を上げながらこれまでとは比較にならない霊力を放出する。外骨格がギシギシと軋むほどの衝撃波を受け、私は後ろへと吹き飛ばされてしまった。
師匠も近くで霊力の衝撃波を受けそうになったのだが、その前に斧槍によって斬り払い……間髪入れずに突進した黄金の機鎧兵を真っ向から受け止める。流石は師匠、全く油断していなかったようだ。
『ガアアアアアアアッ!』
「ガッハッハ!今の方が思い切りが良い!手強そうであるな!」
獣じみた咆哮を出したことからもわかるように、黄金の機鎧兵は前に戦った者と同じく暴走し始めたらしい。奴は目を血走らせ、口の端からは涎をダラダラと垂らしながら我武者羅に拳を振り回して師匠に襲い掛かった。
一見するとメチャクチャな攻撃なのだが、その威力も速度も数段上昇している。だが、師匠は斧槍一本でこれを凌いでいた。斧頭で、柄で、石突で即死級の威力を誇る打撃を悉く受け流しているのだ。師匠が膂力だけではなく、技術もまた優れているのがよくわかるだろう。
いくら師匠が神業で戦えているとしても、師匠だけに任せておくべきではない。私は双剣に付着した血を払いながら駆け出しつつ、奴の足元を砂に変えて片足を沈める。そのせいで拳が空を切った一瞬の隙を見逃さず、師匠は斧槍を奴の喉元に突き刺してから一気に押し倒した。
「どっせぇい!」
『ゴボッ……!』
「シッ!」
地面に押し付けられながら口から血の気泡を噴いている黄金の機鎧兵に向かって、私は容赦なく双剣を振り下ろした。重量のある黒い剣で頭蓋を叩き割ったところへ、恐ろしいほどの切れ味を誇る白い剣を思い切り突き刺す。それと同時に返り血が飛び散り、私の顔と複眼を汚した。
それを拭う時間すら惜しみ、私は体重を掛けてもっと剣を深く突き刺す。それは師匠も同じこと。黄金の機鎧が凹むほどに強く踏みつけながら斧槍を押し込んでいた。
『ゴボボ……!』
「ぬぐぅぅっ!?」
「また衝撃波か!」
黄金の機鎧兵はこれだけやっても死んでいない。再び衝撃波を、それもこれまでで最も強いそれを放って私と師匠を吹き飛ばす。衝撃波そのものは一瞬で収まったからか、その直後にアルティシア様の霊術が降り注いで大きく爆発した。
私は受け身をとってすぐに立ち上がり、状況を確認する。黄金の機鎧兵の姿は霊術の余波で舞い上がった砂埃で見えておらず、師匠は空中で斧槍の石突を地面に突き刺したことで私よりも飛ばされている距離は短かった。
「ふんっ!弟子よ、生きておるな!?」
「はい。ですが、それは向こうも同じようです」
『あ……うぅ……』
師匠が斧槍を振るって砂埃を消し飛ばすと、そこには黄金の機鎧兵がフラフラとしながらも立ち上がっていた。今にも倒れそうに見えるのだが、私と師匠はどちらも前に踏み出すことすら出来なかった。
その理由はただ一つ。目の前の覇気も何も感じられない敵に迂闊に近づけば、そのままあっという間に殺されてしまうと理屈ではなく本能が警鐘を全力で鳴らしていたからだ。
我々が傷付けたせいで機鎧はボロボロで血塗れになっており、足元も覚束ないのか身体は常に左右に揺れている。口からはうわ言のように意味を成さない音を漏らしていて、まともな思考も出来ない状態にあるようだ。
しかしながら、滲み出る霊力はより多く、そして濃密なものになっている。弱っているようにしか見えないのに、近付くことすら慎重にならざるを得ない威圧感を撒き散らしているのだ。
パン!パン!パン!
我々が踏み込むのを躊躇していると、後方から三回音が聞こえてくる。私の複眼は後方の空中で赤色の光を放つ光の球体を目視していた。それは撤退の合図であり、一度退いて態勢を立て直すつもりなのだろう。
私と師匠としても、相対しているだけでも身の毛もよだつような化物と戦い続けるのは勘弁して欲しい。退いても良いのならさっさと逃げ出したいところだった。
だが逃げたいという気持ち以上に、ここで不用意に黄金の機鎧兵から目を離すことの方が恐ろしかった。気を逸らした瞬間に殺されてしまうのではないか?そんな危機感を拭い去ることが出来ないでいたのである。私と師匠は額から嫌な汗を流しながら、一挙手一投足を見逃さないように奴を凝視していた。
ブブブブブブ!
この緊迫した空気を破ったのは、要塞の方からやって来た大型の無人機だった。六機の無人機が編隊飛行しつつ接近し、その内の四機が私達に目掛けて銃弾を連射して来る。私達は黄金の機鎧兵から目を離さないまま、弾かれたように後方へと跳んで銃撃を回避した。
残りの二機には攻撃するための銃はなく、代わりに私の鋏のような金具が取り付けてある。その無人機は高速で黄金の機鎧兵に接近すると、金具によって黄金の機鎧兵を捕まえて……そのまま要塞へとトンボ返りしていくではないか。
我々の主観では追い詰められているのは我々の側だったこともあり、まさか逃げるとは思っていなかったので呆然としつつ見送ってしまう。我に返って追撃しようと思った時には、既に黄金の機鎧兵は遠くまで逃げてしまった。
後方からアルティシア様による霊術の狙撃が飛んで来るものの、我々に銃撃を続けていた四機の無人機が割って入って守っている。どうやらこの四機は護衛だったらしい。無人機としてはかなり頑丈だった四機は身を呈して守り続け、四機とも破壊されながらも黄金の機鎧兵には逃げられてしまった。
「ふむぅ……逃げられたのか、逃げてくれたのか。どちらが助かったのかわからんな、弟子よ」
「ええ、全くです」
師匠はため息を吐きながら構えていた斧槍を肩に担いだ。同意しつつ、私も双剣を鞘に収める。これまで善戦していたように思えたが、黄金の機鎧兵は傷付ければ傷付けるほど強くなっていた。あのまま戦っていたら死んでいたのは我々だっただろう。
やはり、戦力が足りない。あと一人でも良いからこの戦いに着いていける戦士がいてくれたら良いのに。そんなことを考えながら、撤退の合図に従って私と師匠は後方へと退くのだった。
次回は1月7日に投稿予定です。




