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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
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アーディウス要塞攻略戦 三人の迎撃

 気配を消して自走砲の中に隠れていた黄金の機鎧兵。それを迎え撃つべく我々は行動を開始した。アルティシア様は強力な霊術を使うべく霊力を練り上げ、師匠は愛馬に跨がると黄金の機鎧兵に向かって駆け出した。


「フッ!」


 では私はどうするのか。私は霊術によって地面を砂に変えると、地中を泳ぐようにして戦場へと急行する。地中での移動速度ならば師匠の馬よりも数段速い。私の方が先に到着することだろう。


 地中だと視覚こそ封じられるものの、私は振動を感知することが可能だ。好き放題に力を振るって大暴れしている震源を辿れば良い。大体、あれほど強大な気配を感じ取れない者などいるわけがない。二つも目指すべきものがあるのだから、迷う方が難しいと言うものだ。


 強大な気配は中央戦線の兵士達を薙ぎ倒しながら、ひたすらに直進しているようだ。普通なら側面から不意打ちされたくらいでここまで崩れることはないのだろうが、相手は片手間で数百人の兵士を軽く消し炭にする怪物である。急襲された兵士には大きな被害が出ているようだった。


「むっ?これは……ティガル達か!」


 私が地中を移動している最中、歩兵の陣形を単騎で食い破った黄金の機鎧兵と良く知る気配がぶつかり始めた。それはティガルやザルドを初めとする特戦隊の面々である。腕利き達でどうにか持ちこたえているようだが、このままだと死んでしまうだろう。急がなければなるまい。


 しかしながら、ここで慌てても良いことはない。私の仲間達は私よりも長い時間を戦場で過ごし、修羅場を潜り抜けてきた猛者である。今すぐに討ち取られるようなヘマはしない。ならば単に彼らの間に割って入るのではなく、仲間達を信じて効果的な奇襲を仕掛けるべきだ。


 黄金の機鎧兵の真下にたどり着いた私は、地上の音をしっかりと聞きながら好機を待つ。苦し気な声を漏らすティガル達を一刻も早く助けたかったが、理性によって自分を必死に抑えていた。


「……今だ」


 地上ではザルドが殴り飛ばされ、ティガルが力で押し負けて膝を着いたところだった。黄金の機鎧兵は口汚く罵りながらトドメを差そうとしている。勝っていると思っている時が最大の隙……師匠から教わったばかりの教訓だ。


 私は頭上の土を全て砂に変え、下へ向かって流れるようにする。黄金の機鎧兵は急に両足が沈みこんだことでバランスを崩し、ティガルに振り下ろそうとしていた拳は空振ってしまった。


『なんだぁ?』

「こいつぁ……!退くぞ、テメェら!」


 困惑する黄金の機鎧兵とは対照的に、ティガルは何が起きたのか一瞬で理解したらしい。立ち上がりながら大剣を肩に担ぐと、仲間達にここから離れるように命令しながら彼自身も離れていった。


 それで良い。私は砂の流れに逆らって上昇しながら双剣を抜き、砂に引きずり込んでいた黄金の機鎧兵の膝の裏へと剣を思い切り突き刺した。


『うぎっ!?痛ぇっ!?』


 黄金の機鎧兵は痛がっているようだが、どうせすぐに治るのだからダメージを与えたとは思わない方が良い。私は一度刃を捻ってから引き抜くと、地上へと飛び出してから背中に張り付く。そして両脇の下からは双剣を、首筋には毒針を突き刺した。


 膝の裏を刺した時とは比較にならない絶叫を上げながら、黄金の機鎧兵は身体を我武者羅に動かして私を振り落とそうとする。私は無理に逆らわず、奴の背中を踏み台にして跳躍してから地上へと着地した。


『あがっ……何しやがった……!』

「やはり動けるか」


 既にわかっていたことだが、私の毒は神の末裔たる黄金の機鎧兵には効果的とは言えない。致死量の数百倍の毒を注入したとしても、精々が動きを鈍らせるだけなのだ。白機兵でも大量に流し込めば問答無用で即死させられたのだが……少しだけ自信を失いそうである。


 黄金の機鎧兵は流砂から強引に抜け出そうとしているが、柔らかい砂を足場にするのはコツがいる。それに機鎧は重たいので沈み易いが出るのが難しい。手足を動かすだけで抜け出すのは無理だろう。


『がああああっ!うざってぇぇぇぇぇっ!』


 黄金の機鎧兵は苛立ったように叫びながら、全身から霊力を放出する。その圧力によって足元の砂は全て吹き散らされてしまい、奴は再び自由を得た。全く……力任せで何でもどうにか出来る相手はやりにくい。


 前回はここからたった一人で味方が逃げ切るまで時間稼ぎをした。あの時の絶望感たるや相当なものだったが、今回はそうでもない。その理由はたった一つ。私は一人ではないからだ。


『このクソやばがぁ!?』


 怒り狂った黄金の機鎧兵が私に殴り掛かろうとした瞬間を狙ったように、奴の顔面に霊術の光が直撃して炸裂した。この威力、間違いなくアルティシア様の援護である。竜吼砲の位置からは随分と遠い場所なのだが、どうやって正確な狙撃をしているのだろうか?秘訣を知りたいが、彼女は絶対に教えてくれないだろう。


 この好機を逃す私ではない。私は地を這うように接近すると、機鎧の隙間から双剣と毒針を差し込む。そして反撃で殴られる前に後ろへ跳躍した。刃と毒針が奴の身体を抉ったのは一瞬だったが、その時間で可能な限り多くの猛毒を注入している。効きは悪いが、ジワジワと体力と集中力を削ってくれるはずだ。


『クソ、気分が悪ぃ……チョロチョロすんじゃねえぇぇ!』


 毒のせいか足元が覚束ない黄金の機鎧兵は、頭をブンブンと振ってから私に飛び掛かる。距離が離れているのもあるだろうが、アルティシア様の霊術はほとんど効いていないらしい。急所を刺されても平気で動き回る相手に、堅牢なる鎧の上からダメージを与えるのは現実的ではないのだ。


 黄金の機鎧兵は中身こそ別人であるようだが、身体能力は同じく闘気で強化した私よりも上なのは同じだ。しかし、戦い方が拙いのも同じである。飛び掛かる速度は立派だが、その速度は知っているし……攻撃も大振りだ。当たる方が難しい。


 私は地面を砂にして腰の辺りまで一息に沈んで必殺の拳を回避すると、すれ違い様に今度は右の足首と脇腹に双剣を突き刺しつつ尻尾を脛に引っ掛けて転倒させる。黄金の機鎧兵は速度が乗りすぎていたのか、何度もゴロゴロと転がっていった。


『うぜぇ……うぜぇうぜぇうぜえぇぇぇ!』

「癇癪持ちか?あの男のようだ」


 無様に転がった黄金の機鎧兵は、怒り狂って霊力を無秩序に撒き散らしながら私に向かって両手を前に出して突進する。怒鳴り散らしながら素人丸出しの動きで襲ってくる様は、私の上官殿にそっくりであった。


 しかし、癇癪持ち二人の実力は羽虫と猛禽ほども異なる。掴まれてしまえば外骨格ごと身体の肉を握り潰されるに違いない。私は完全に地中に潜ってやり過ごすと、別の場所から身体を出してから双剣をちょいちょいと動かして挑発した。


『ナメやがってぇ……!絶対にぶっ殺す!』

「させぬわ!ぬううううん!」

『がああああああっ!?』


 私に視線が釘付けになっていた黄金の機鎧兵へ、いつの間にか背後にいた師匠が斧槍を頭部に叩き込む。斧槍の一撃は兜を潰して脳天へとめり込み、黄金の機鎧兵は崩れ落ちるようにしてうつ伏せに倒れてしまった。


 師匠はある程度近付いたところで愛馬から降り、徒歩でこちらに駆けていた。その時、師匠の姿は見えていたものの、気配は不気味なほど希薄であった。それはアルティシア様の霊術の働きだと推測した私は、挑発することで師匠の姿が視界に入らない向きに誘導したのである。


 兜は大きく歪んで潰れ、破損した部分からは止めどなく血が流れている。師匠の渾身の一撃は、一振りで城門を破壊するほどの威力だ。如何に神の末裔とて、頭が割れたのだから重傷は免れまい。


『ぐげっ……がああぁぁぁっ!』

「ぬぅ!?頭を砕いても動くとは!弟子から聞いておったが、何と頑強な!」


 ……前言撤回。黄金の機鎧兵はピンピンしていた。師匠も言った通り、鎧を砕いた斧槍はそのまま頭も砕いている。斧槍の刃に付着した白っぽい肉片と兜の隙間からの出血が何よりの証拠だ。


 師匠は私の話を信じていたからこそ、確実に討ち取るべく必殺の一撃を頭に叩き込んだのだろう。実際に一時とは言え倒すことに成功したのだから、師匠の一撃は一定のダメージを与えたと言える。


 しかし、頭部を深く抉られたはずなのに黄金の機鎧兵は立ち上がった。それどころか頭を砕かれた直後に霊力を放出して敵を追い払おうとしている。常人どころか魔人でも即死するようなダメージを頭部に受けたとは思えないタフさだった。


 霊力の衝撃波を間近で受けた師匠は無理に逆らうことなく背後へと跳躍して体勢を整える。その声は想像以上の生命力に対する驚きと……強敵と戦える喜悦がない交ぜになったものだった。


『ばば……ぼ……やってくればぁっ!?』


 全方位に霊力を放出し続けていた黄金の機鎧兵だったが、頭部からの出血が収まると同時に霊力を弱めた。フルフェイスの兜が破損したお陰で見えるようになった奴の顔は、当然のことながら憎悪で醜く歪んでいた。


 頭部の治癒と同時に言語能力を取り戻した黄金の機鎧兵だったが、その兜の隙間へと後方から飛んで来た光が吸い込まれるように突き刺さって爆発する。まず間違いなくアルティシア様の霊術だろう。惚れ惚れするほど精密な霊術による狙撃であった。


 師匠によって半ばまで両断された上に、内側から爆発したことで兜は完全に砕けてしまう。破片が地面にパラパラと落ち、黄金の機鎧兵は顔を押さえて苦しそうに呻いていた。


「畳み掛けるぞ、弟子よ!」

「はい、師匠」


 苦しそうだからと言って、手心を加えてやるつもりなど我々には微塵もない。これは戦争で、目の前にいるのは必ず殺さねばならない我々よりも強い敵である。そんな相手への躊躇など、己と仲間の命を危険に曝すようなものでしかないのだ。


 私と師匠は前後から黄金の機鎧兵に襲い掛かった。可能ならばここで討ち取る。それが無理だったとしても、少なくとも治癒に時間がかかるほどの重傷を負わせるために。

 次回は1月3日に投稿予定です。皆様、良いお年を。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今年一年楽しませていただきました。 良いお年を!
[一言] 師匠とサソリ君の信頼関係あっての作戦でしたね。これで片が付けばいいんだけれど、そんな甘い相手ではないことも事実だからどうなることやら ですね。
[一言] 脳味噌破損しても行動不能にならないって生き物としてどうなん? あれか、〇惨様の様に胎内に複数の脳味噌と心臓でも備えてるのかな? 脳味噌複数有る割に頭〇惨という前例が有るから否定し難いなぁw
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