アーディウス要塞攻略戦 特戦隊の戦い
竜吼砲と防衛兵器の撃ち合いは長時間に渡って続いていた。その間、歩兵は襲来する無人機の迎撃に全力を注いでいる。それは特戦隊の面々も同じであった。
「そら、次が来るぞ!気張れよ、野郎共!」
「「「おう!」」」
荒々しく鼓舞するのはティガルだった。彼は自らの手で討ち取った白機兵から奪い取った大剣を下段に構えると、霊力を込めてから空に向かって振り上げる。すると刀身から無数に枝分かれする電撃が放たれ、空中の無人機を貫いた。
彼に続くように色とりどりの霊術が上空へと向かい、彼らが担当するほとんどの無人機は空中で爆発四散する。だが、その攻撃から運良く逃れた無人機もまた存在した。
「無人機そのものはそこまで頑丈じゃない。ティガル達の打ち漏らしを正確に破壊するんだ」
「「「はっ!」」」
その数少ない無人機もザルドの指揮によって徹底的に破壊される。彼らの上を通過することが出来た無人機は一機たりとも存在しなかった。
「残骸を退けろ。戦闘の邪魔になる」
「「「グルルルル」」」
無人機を破壊すれば、残骸が残るのは当然だ。それを素早く、かつ正確に集めていくのはアスミ達だった。彼女が指揮するのは複数の生物と合成されたからか知能が低くなりがちなカン族の魔人だが、戦場の掃除くらいであれば指示通りに行える。
範囲を重視して迎撃する部隊、そこから抜け出した無人機を確実に破壊する部隊、そして瓦礫の始末をする部隊。三人の指揮官が率いる三つの部隊が順番にこの役割をローテーションすることで、人数的には少ない特戦隊が軽傷以上の怪我を負うことなく立ち回っていた。
「ふうぅ……次の迎撃は頼むぜ、アスミ」
「任せておけ」
「我々は休憩がてらのゴミ拾いだ。武器の修繕に使えそうな部品があれば纏めておけよ」
一先ず無人機による攻勢を凌いだところで、彼らは役割を交代する。次の攻撃があればアスミの部隊が迎撃し、ティガルの部隊がうち漏らしを排除し、ザルド達が残骸の処理を行うのだ。
ただし、アスミ達の時とは違ってティガルとザルドの部隊が残骸の処理を行う時には使えそうなジャンクパーツを収集させている。これは武具の補修に使うためのもので、アスミが率いる知能が下がった魔人には難しい行為だった。
「ソフィー。現在不足しているのはどんな部品だ?」
「防具に用いる金属板が足りておりません。補修する箇所が多かったものですから」
「なら、無人機のなるべく損傷が少ない装甲を集めるとするか」
魔人部隊には装備が支給されないが、敵から奪った装備を使うことは許されている。その補修や調節も自分達で行うため、その素材が必要だった。
鍛造する設備など使えず、補修と調節も霊術で形状を整えるだけ。それ故に意匠が不揃いで不恰好な装備になってしまう。霊術回路を刻む技術もないので、装備に特殊な効果を付与することも出来ない。特戦隊の装備は、精鋭ばかりの戦場ではどうしてもみすぼらしく見えるだろう。
だが、防具がないよりは遥かに負傷する確率が大きく下がるのは事実だった。周囲から侮蔑されたり嘲笑されたりすることに慣れているし、中央戦線の魔人達はボロ布の服だけで彼らよりも更にみすぼらしい。特戦隊の者達は、周囲の目など気にすることなく防具を装備していた。
「疲れた~!いいなぁ、アニキは。あっちで眺めてるだけなんだ……って痛ぇ!?」
「バカ言ってんじゃねぇ。あのキラキラ野郎が来たらボスは命懸けで戦うことになるんだからな」
子供の一人が不平を言うと、その父親が頭をゴンと殴り付ける。子供は頭を擦りながら、父親に悪かったよと謝った。そんな様子を横目に、レオは父親であるティガルに駆け寄ると小さな声で話し掛けた。
「父ちゃん、ちょっといいか?」
「おう、どうした?」
「その、ラピのことなんだけど……」
レオは盗み見るようにラピを見る。そこでは憮然とした表情で不機嫌であることを隠そうともしないラピがいた。彼女の側にいるアリエルが何か話し掛けているが、機嫌が治る様子は一向になかった。
それを見たティガルはまたかよと呟きながら、呆れたように溜め息を吐いた。ラピが不機嫌な理由は一つ。彼女の『あにき』がここにいないからだった。
彼女は冥王蠍の魔人を父や兄のように慕っている。そんな彼としばらく離れることになると、彼女は決まって不機嫌になるのだ。
「ボスの顔を見りゃ一発で機嫌が治るんだがなぁ」
「機嫌が悪くても話は聞いてるし、動きのキレもいつも通りなんだけど……その、雰囲気が悪くてさ」
不機嫌になって指示を無視したり動きが悪くなったりするのなら叱れば良いのだが、ラピの場合はそんなことにはならない。しかも仲間に八つ当たりすることもないのだから叱るのも難しかった。
以前はこう言う時、シャルが上手に機嫌を取っていた。だが、ティガルの愛する妻は妊娠中で後方の荷台の中にいる。代わりをアリエルが努めようとしているようだが、上手く行っているとはいえなかった。
「母ちゃんがいてくれたらなぁ……」
「何言ってんだ、馬鹿野郎。シャルはもうすぐお前の弟か妹を産むんだぞ?頼ろうとするんじゃねぇ」
「頼るつもりなんてないよ!でも良い考えが思い付かないんだ……父ちゃんならどうするのさ?」
レオは父親のことを尊敬しているが、本当に困っているのに力を貸したり相談に乗ったりするどころか叱られてしまった。不服に思うのも仕方がないだろう。
そうやって湧いてきた反抗心から、レオは自分ならどうするのかティガルに問うた。もしも解決法のビジョンすらないのなら、自分を叱る権利などないと言ってやるつもりだった。
「何もしねぇよ。キッチリ戦ってんなら放っておけ。ヤバくなったらブー垂れる余裕もなくなっちまうわ」
「えぇ……何だよそれ」
レオは怒りを通り越して呆れてしまった。解決法を模索するどころか、解決しようとする必要すらないと断言したからだ。
しかし、同時にレオは父ちゃんらしいとも思っていた。仲間達の命が関わることには慎重なのだが、ティガルは大雑把で細かいことは気にしない性格である。そんな彼からすれば周囲に被害を撒き散らしていないのならば許容範囲なのだ。
レオはそれで良いのかと思わないでもないのだが、ティガルはそのやり方でずっと部隊をまとめて来た。そしてずっと仲間達を生かして来たのである。そんな父親の判断ならば、きっと正しいのだろう。レオはそう思って自分を納得させようとしていた。
「ああ、そうだ。どうしても気になるってんなら、一つだけいい方法があるぞ」
「えっ!?それ本当!?」
「嘘じゃねぇ。まあ、後でボスがちょいと大変になるかもだが……それでも良いのか?」
「アニキが……?」
ティガルに問われたレオは悩んだ。彼が父親と同じくらいに尊敬する『アニキ』こと冥王蠍の魔人に迷惑をかけるかもしれない。それでも良いのか、と。
しばらく悩んだ後、レオはティガルに言った。その方法を教えてくれ、と。
「アニキならきっと『その時に必要だと思ったのなら別に構わない』って言うよ。だから教えてくれ、父ちゃん」
「良くわかってるじゃねぇか。なぁに、難しいこたぁねぇよ。要はラピを戦いに集中させりゃ良いんだろ?だからな……」
続いてティガルの口から出た言葉を聞いたレオは、聞かなかった方が良かったかもしれないと思いながらもそれなら効果があるだろうと納得もしていた。それほどラピには有効だろうとレオも頷かざるを得ない提案だったのだ。
ただし、ティガルが言ったように戦いが終わった後に間違いなくアニキは苦労するだろうと思う。レオは罪悪感を抱えながらも、不機嫌なラピに近付いた。
「ラピちゃん、怒らないで?ね?」
「……怒ってない」
レオが近付いた時、ラピはまだ不機嫌なままであった。アリエルが必死に宥めようとしているが、落ち着く気配は一向にない。彼女は困ったように眉を八の字にしていた。
ちなみに、ユリウスは手をこまねいていた。アリエルに手を貸したいのは山々だが、彼にはまだラピに殴り倒されたことから苦手意識があるからだ。
それに口が悪い自分がしゃしゃり出て余計なことを言えば、ラピはより不機嫌になるかもしれない。最悪、激怒させて再び昏倒させられるだろう。それを考えると何も出来なかった。
もう一人の同期とも言えるボルツだが、彼は我関せずを貫いている。彼は特戦隊の誰とも関わろうとしない。それはユリウスとアリエルでも同じことだった。
「おい、ラピ」
「……何?」
「そろそろふて腐れるのは止めろよ。アリエルが困ってるだろ?」
「……ふて腐れてない」
レオに注意されたラピは頬を膨らませながら、プイッと彼から顔を逸らす。その様子から自分の態度が良いものではないと自覚はしているらしいと推測したレオは、ティガルから教わった言葉を伝えることにした。
「実はな、戦う前にアニキからラピに伝言があるんだ」
「あにきから?」
アニキと聞いて、魔人形態のままだったラピの長い耳がピンと高く伸びる。アニキの名前を出した途端にこれかよ、と呆れながらレオは言葉を続けた。
「皆と協力して頑張ったら、アニキがご褒美をくれるんだってさ」
「!」
もちろん、冥王蠍の魔人はそんなことを言っていない。ティガルの考えた嘘である。しかし、その嘘は劇的な効果を示した。ラピは相変わらず無表情だが、先ほどまで垂れ流していた不機嫌な雰囲気は吹き飛んでいる。代わりにやる気の炎が彼女の背中から立ち上っている姿をレオは幻視した。
勝手に名前を出してごめん、とレオは心の中で敬愛するアニキに謝った。しかし、これでラピによって気まずい空気になることはないだろう。戦いが終わった後もアニキは大変だな、と思いながらレオは父親に問題が解決したと報告に向かうのだった。
次回は12月22日に投稿予定です。




