アーディウス要塞攻略戦 竜吼砲
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進軍を始めてから数日後、本隊は遂に要塞が見える位置にまでたどり着いた。要塞は以前と変わらぬ偉容を誇っており、見るからに堅牢そうである。少なくとも力攻めによって強引に攻めようものなら、ここにいる中央戦線の軍団はほぼ全滅してしまうだろう。
無論、貴重な戦力を無駄死にさせる作戦を立てる者はいないし、実行に移そうとする者もいない。彼らにはちゃんとした攻城戦のための兵器があった。
「竜吼砲、前進せよ」
中央戦線の将が命令を下すと、ガラガラと音を立てて百台以上の兵器が前進する。それは長大な金属の筒が車輪付きの土台に載っただけのシンプルな構造をしていた。
竜吼砲と呼ばれた兵器には一台に付き二人の一般兵士と五人の霊術士が付き添っている。これが霊術を用いる兵器であるのは明白だった。
「貫通弾頭、装填!推進力、充填開始!」
将が下した次なる命令に従い、霊術士達が竜吼砲に触れる。すると金属の筒の表面に刻まれた霊術回路が起動して、筒の内側に金属の弾頭が作り出された。
それと同時に筒の先端が分離して浮かび、クルクルと回転しながら白く発光し始める。その輝きは徐々に増していき、その輝きが限界まで強くなったタイミングで将は声を張り上げた。
「放てぇっ!」
直後、号令の声がかき消えるほどの轟音と共に全ての筒から高速で金属の弾頭が飛んで行く。飛んでいった弾頭は要塞に直撃し、数本は角度が悪かったのか弾かれたものの、ほぼ全てが要塞の外壁に深々と突き刺さった。
どの戦線でも共和国軍から鹵獲した銃を解析し、それを自分達の技術で再現した兵器を有している。中央戦線の国々が協力して作り出したのが、この竜吼砲という兵器だった。
原理は至ってシンプルだ。霊術士が金属の弾頭を作り、それを別の霊術士が回転させながら高速で射出する。ただそれだけであるが、霊術回路の補助を受けているので素早く、それでいて常に同じ品質の弾頭を作り出すことが可能だった。
先端が鋭い質量体が回転しながら激突する威力は驚異的である。一撃で外壁を貫通することこそ敵わないものの、深々と突き刺さるのならばいつか破壊出来るだろう。
しかも作り出せるのは一種類の弾頭ではない。今回使ったのは貫通力を重視してとにかく強度を増したものだが、突き刺さった後に炸裂しする弾頭や空中で小さな針に分裂して広範囲を穴だらけにする弾頭など数種類の弾頭を作ることが出来るらしい。この兵器の作製者は紛れもない天才と言えるだろう。
ただし、この竜吼砲にも欠点はある。まず、最初の欠点はかなり重いことだ。設置されている土台には移動用の車輪こそついているものの、長大な金属の筒はそれだけでかなりの重量がある。これを戦場に運ぶため、どうしても行軍速度が遅くなってしまうのだ。
次に霊術回路が複雑過ぎて熟練の霊術士でなければ扱えないことも大きな問題である。本来、霊術回路は複雑な霊術を即座に用いるべく、霊力を通わせるだけで起動させる技術だ。私も霊術回路のお陰で一々霊術に気を配ることなく双剣を強化出来ている。
しかしながら、竜吼砲に刻まれた霊術回路は繊細過ぎて霊力の扱いに長けた者でなければ使えないらしい。霊術回路を刻むの本来の意義が失われているのだ。残念としか言いようがない。
また、二つ目の欠点に関連する問題点として数人の優秀な霊術士が常に付き添っている必要があることが挙げられる。彼らが自由に動くことが出来たなら、前衛の戦士達をフォローする範囲が広がるのだが……前衛の被害が拡大する可能性よりも外壁を崩す必要性が勝ったのだろう。
そして最後の欠点は連射が出来ないということだ。竜吼砲による砲撃は強力無比なのだが、一発撃つ毎にしばらく排熱する必要があるらしい。無理矢理連射すると、砲身の強度が保たずに破損してしまうのだと言う。
「何にせよ、竜吼砲は要塞を崩すことは出来てもそれだけで占領は出来ん!最後にモノを言うのは精強なる戦士達よ!ガッハッハッハッハ!」
仲間達から離れた場所で、私が竜吼砲について師匠から教わっている。竜吼砲の情報は機密だと思うのだが、師匠は「どうせお主に話したなどと誰も思わん!」と断言してベラベラと話していた。
対照的にアルティシア様は頭痛がするかのように頭を抱えている。私の口から帝国に竜吼砲の情報が流出すると思っているのだろう。心配せずともあの男は私のことを全く信用していない。師匠から重要な話を聞いているなどと考えることは絶対にないのだ。安心してくれて構わない。
「……それ、自分で言っていて悲しくなりませんの?」
「いえ、全く」
そのことを伝えるとアルティシア様は呆れながら尋ねて来るが、私は全く悲しくならない。私もまたあの男に対して抱いている感情は憎悪だけだ。信用されていなかったとしても何も気にならなかった。
当初の予定通り、私は師匠とアルティシア様と共に黄金の機鎧兵が襲来した時に備えている。位置としては竜吼砲の少し後ろだ。黄金の機鎧兵が竜吼砲を破壊するために飛び出して来た場合、それを防ぐのが我々の役目だった。
仲間達は竜吼砲と要塞の間に布陣した歩兵集団の最前線にいて、もしも歩兵を突撃させることになればその先陣を切ることになるだろう。私がいなかったとしても三人が上手に指揮してくれると信じている。私は私で黄金の機鎧兵を相手に生き残ることに集中しなければ。
「おお、撃ち返して来おったぞ!」
「霊術の障壁で全て防いでいますね」
「当然ですわ。あれの使い手は私の同族ですもの」
要塞からは反撃として砲撃や霊術が放たれたのだが、その全てが霊術の障壁によって受け止められた。射程距離のギリギリなのかもしれないが、それを考慮しても小揺るぎもしない障壁の堅牢さは術者の腕前を如実に表していた。
術者達はアルティシア様の同族、すなわちエル族らしい。術者としての実力は彼女に劣るのだろうが、師匠が以前に言っていた通り、エル族は優れた霊術士を多く抱えているようだ。
「第一射の着弾位置から角度を調整せよ!次弾、装填を急……なっ!?」
命令に従って付き添いの兵士が射角の調整を、霊術士達が装填を開始する。それが終わるのを待っていた将だったが、彼が驚いたのも無理はない。竜吼砲によって穿たれた外壁の傷がゆっくりと、しかし肉眼でもハッキリと見える速度で修復しているからだ。
ただ、その修復は完璧には程遠いらしい。外壁は傷痕に沿って無数の凹凸が出来ており、随分と不格好になっているからだ。まるで黄金の機鎧兵の攻撃を受けた私の外骨格のように。
また、強度も最初よりも下がっているように見える。竜吼砲から急いで放たれた次の弾頭が修復された場所に直撃すると、初弾が命中した時よりも深く突き刺さったのがここからでも見えているからだ。強度が下がったという点では私とは異なるのである。
「……」
私は無意識に黄金の機鎧兵によって付けられた傷痕に指を伸ばしていた。身体に傷痕は残ったものの、幸いにも皮膚を外骨格に変えた際に傷痕部分の強度が下がることはなかった。むしろ、全体的に強度が上がったような気さえするのだ。
生命の危機に瀕したことで身体の強化が促進されたのかもしれない。何にせよ、傷痕が目視可能な弱点になっていないのは幸運だ。むしろ戦闘中に庇うように立ち回り、ここが弱点だと偽って敵の思考を誘導するのに使えるかもしれない。
とは言え、この傷を付けられたことに感謝などしていない。痛覚を切っていたので痛みなど感じていなかったが、殺されかけたのは事実である。あれを殺すことにこだわるつもりは毛頭ないが、好機さえあれば借りを返してやりたいと密かに願っていた。
「敵は外壁を修復するが、応急処置に過ぎん!このまま貫通弾頭で外壁を揺さぶるぞ!」
私が現在の戦場とは関係のないことを考えている間も、中央戦線と共和国軍は激しい砲撃の応酬を続けていた。中央戦線の竜吼砲が外壁を穿ち、それを何らかの方法で応急処置しつつ共和国軍は反撃するが、障壁の霊術によって防がれのだ。
共和国軍は外壁が徐々に傷付いているし、時折外壁の上部に着弾して防衛兵器ごと敵兵をなぎ倒している。逆に中央戦線は今のところ霊術士達が疲労しているだけで被害らしい被害は出ていない。この撃ち合いは中央戦線側の優勢と言っても良いだろう。
ブブブブブブブブ!
このままでは中央戦線によってジワジワと追い詰められると判断したのか、要塞に新たな動きがあった。要塞の内側から耳障りな音と共に無数の小さな何かが飛び立ったのだ。
あれが何かはここにいる者達ならば誰でも知っている。どの戦線でも苦しめられて来た厄介な兵器、無人機だ。その群れが迫ってくる。目標が竜吼砲なのは明白だった。
「竜吼砲に近付けるな!撃ち落とすぞ!」
「焦らず、ギリギリまで引き寄せろ。確実に当てるのだ」
「どうせ破壊したら自爆する!きっちり防げよ!」
前衛の歩兵は無人機の接近によって俄に慌ただしくなった。弓兵や霊術士は迎撃するべく備え、他の歩兵は自爆を警戒して防御の構えを取る。仲間達も各々の武器を手にいつでも動けるように待機していた。
弓と霊術の内、先に無人機を射程距離に捉えたのは前者であった。一斉に放たれた矢によって数多くの無人機が貫かれ、空中ないし落下した地面で爆発する。破壊と同時に自爆するのは想定通り。誰も驚くことはなく、自分の近くで発生する爆発を防御していた。
弓の次は霊術が待ち構えている。広範囲を焼き尽くす炎や無数の風の刃などが残りの無人機を滅ぼしていく。彼らの尽力もあって、一機の無人機すら竜吼砲の下へたどり着くことはなかった。
無人機の対処が終われば、再び竜吼砲による砲撃が開始される。しかし、要塞側からも新たな無人機が飛び立っていた。アーディウス要塞攻略戦の最初の戦闘は、お互いの兵器による砲撃合戦の様相を呈するのだった。
次回は12月18日に投稿予定です。




