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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
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アーディウス要塞攻略戦 帰還と報告

 師匠達の救援によって黄金の機鎧兵から命からがら逃げ延びた私が本隊に合流したのは、夜の帳が降りた後のことだった。それもこれもアルティシア様が自分で馬を走らせなかったのが原因である。


 ただ、そのお陰で私の傷の具合は大分良くなっていた。最優先で治していた内臓は完治しており、他の外傷も塞がって出血は止まっている。流石に潰れた左の大きな複眼はまだ再生していないが、複雑な臓器であるのに優先的に治さなかったのだから仕方がないだろう。


 ただし、傷は治っても身体には幾つもの深い傷痕が残ってしまった。顎の外骨格には砕かれた痕の線が走っているし、抉られた脇腹に至っては傷があった場所の肉が醜く盛り上がっている。今は普通の肌にしているが、外骨格へと硬化させた時にどうなるのか心配だ。


 外骨格が分厚くなったり固くなったりしていれば問題ないのだが、逆に脆くなっていたら目も当てられない。傷が完全に癒えたら確かめねばなるまい。


「我が弟子よ、もう少し付き合ってもらうぞ。アルティシア殿も構わんな?」

「無論ですわ」


 アルティシア様は本隊と合流する直前になって我に返っている。どうやら改良案がまとまったようで、私の目から見てもとても機嫌が良い。師匠の言葉にも憎まれ口を利くことなく、素直に返事をしていた。


 師匠とアルティシア様に連れられてやって来たのは、私は野営地の中央部にある各国の将が集まる天幕である。正直に言えば先に仲間達に無事を伝えに行きたいのだが、そんなわがままを聞いてくれる師匠ではなかった。


「『竜血騎士団』が団長アレクサンドル・レンクヴィンスト!ただいま帰還いたしましたぞ!」

「ミュルリ共和国、『烈風隊』のカリァ・ユク・アルティシアです。失礼いたしますわ」


 師匠は堂々と、アルティシア様は優雅に一礼してから天幕へと入っていく。私は外で待機するのかと思いきや、師匠は有無を言わせずに私を天幕へと連れ込んだ。


 当然ながら魔人である私を連れ込むことを天幕の守衛は止めようとしていたのだが、師匠の勢いと迫力に圧されて止められなかったらしい。後で怒られてしまうのかもしれない。ほぼ師匠のせいだが、私のせいでもあるので心の中で謝っておこう。


 天幕の中には十人ほどの男女が集まっていた。その出で立ちには全くと言って良いほど統一感がない。その理由は中央戦線は大陸中央部にある複数の国家による連合軍であるからだろう。


 服装やその装飾が国によって異なるのは当然のこと。それに最も多いのはフル族だが、コゴ族やエル族などそれ以外の民族もいる。私は大陸には様々な人々が暮らしていることを強く実感していた。


 ちなみに、この場にいる帝国軍の代表はあの男である。奴は私を見るなり立ち上がって怒鳴ろうとしたようだったが、その前に口を開く者がいた。


「おお!アレクサンドル殿!ご無事で何より!」

「やれやれ、やっと帰ってきたかい」


 師匠に負けない大声で歓迎したのは、師匠と同じコゴ族の将だった。年齢は意外にも若く、師匠に尊敬の眼差しを向けている。きっと彼の方が地位は上なのだろうが、コゴ族最強の戦士として尊敬されているようだ。


 一方で心底疲れたように椅子の背もたれに寄りかかってため息を吐いたのは、妙齢のエル族の女性だった。ゆったりとした服装に身を包んだ彼女は、師匠のことを睨み付けた後にアルティシア様へと親愛の情がこめられた笑みを向けた。


「おかえり、カリァ。怪我はないかい?」

「はい、将軍閣下。ご心配をお掛けしました」

「そこの脳筋野郎にウチの若い娘が連れて行かれたって聞いた時には倒れそうになったけどね。何事もなかったようで良かったよ」

「いえ、霊術関連で思わぬ収穫がありました。後程ご説明させていただきたく存じますわ」

「へぇ!それは楽しみだね。なんなら今すぐに聞かせて……」

「ンンッ、ゴホン!」


 アルティシア様とエル族の将は親しげに言葉を交わしている。指揮官とその部下の距離感ではないように見えるので、私的な付き合いがあるのかもしれない。


 二人の話が長くなりそうだと思ったのか、白く長い髭を蓄えた禿頭の老将が大袈裟に咳払いをする。するとアルティシア様は申し訳ありませんと謝りながら口を閉ざし、エル族の将は露骨に面倒臭そうな顔でそっぽを向く。霊術について並々ならぬ情熱を傾けているのはアルティシア様だけではないようだ。


「それで、レンクヴィスト殿。連合軍で最強と名高い貴殿が単独行動を行った理由をお聞かせ願えますかな?」

「しかもアルティシア殿まで連れていくとは、よほど重要な理由があったのでしょう?」

「まさかとは思いますが、後ろにいる()()()を救いに行った訳ではありますまい」


 『混じり』とは最近使われ始めた魔人を侮蔑する言葉である。これは余計なモノが混ぜられた、ヒト種ではない化物という意味らしい。


 魔人とは犯罪者や貧民を素材とし、戦争のために量産されて使い捨てのそこそこ戦える消耗品の兵士である。そんな我々に向けられる感情は大多数は、自然と侮蔑と嫌悪になっていた。


 我々に憐れみを向ける者も一定数いるが、そう言う連中は憐れんでいる自分の慈悲深さに酔っている者が多い。隠そうとしても、闘技場で様々な視線を向けられてきた私にはそれがありありと伝わってくる。師匠やマルケルスのように対等に近い態度で接してくれる者は本当に珍しいのだ。


 閑話休題。同じ感情を抱く者達が集まれば、自然と侮蔑に使うためだけの言葉が一つや二つは生まれてしまうのだろう。その結果が『混じり』という簡潔な侮蔑の言葉であった。


 確かに、我々が他の生物とヒト種を合成された存在なのは間違ってはいない。だが、だからと言って侮蔑されて何も感じない訳でもない。我々にも感情はあるのだから。


 自分達の立場と言うものを理解しているから何も言わないし、霊術で縛られているせいで逆らえないから我慢しているだけのこと。特戦隊に限らず、何か切っ掛けがあれば魔人達の爪牙は共和国軍ではなく連合軍や帝国軍に向けられることだろう……こんな風に物事を考えるとは、私も我ながら随分とヒトがましくなったものだ。


「無論、我が弟子を救いに行ったのだ!弟子の窮地を救うが師の責務であろう!」


 嫌みな口調で問う各国の将に対し、師匠は堂々と私を助けに行ったと断言する。余りにも堂々としているからか、言葉を失ってしまっていた。


 しかし、呆気に取られている時間も長くはないだろう。すぐに師匠を批判し始めるに違いない。だが、その前に口を開いたのは意外なことに無理矢理付き合わされたはずのアルティシア様だった。


「救出云々の是非はともかく、警戒するべき敵と遭遇しました。そのご報告をと思いまして参上致しました」

「金色の敵のことだろう?報告は聞いてるし、ちょうどその話をしていたところだったんだよ。先遣隊をたった一人で壊滅させたんだってね。数年前の大きな戦で帝国軍が一回だけやり合ったみたいだよ。そうだよね?」

「そっ、その通りだ」


 エル族の将に水を向けられたあの男は、決まりが悪そうに頷いた。それと同時に他の将達も厳しい視線を向けている。帝国の代表としてふんぞり返っている印象があったが、今は若干ながら顔を青くしていた。


 帝国があの黄金の機鎧兵と戦ったことがあったとは知らなかった。最低限の情報しか与えられない我々はともかく、連合軍が知らないと言うことは情報を隠していたらしい。いや、あれだけ強い敵の情報は共有しておけよ。私は内心で呆れていた。


「たった一人に精鋭が殺られたのが面子に関わるって理屈はわかるけどね。それを知ってりゃあ先遣隊の編成は変わってただろうし、場合によっちゃあ先遣隊そのものを送らなかったよ」

「然り。敵の情報を共有するのは連合軍全体の協定であったはず」

「協定を違えるとは、帝国は我らを軽んじておられるのか?」

「そんなことはありませぬぞ!だからこそ、()の部隊が派遣されているのです!」


 あの男は必死に弁明しているが、各国の将の多くは嘲るように鼻で笑った。それもそのはず、この男は一度たりとも自ら陣頭指揮を執ったことはないからだ。我々の監督は部下任せで、前線では私やティガル達が指揮を振るいながら戦っている。あの男は常に安全な場所で戦果だけを持って帰るのだ。


 その上で『私の部隊』と言われても失笑しか出てこないのだろう。それに関しては私も全く同意である。彼らは私に侮蔑の視線を向けていた者達だが、私は内心でもっと言ってやれと応援していた。


「静粛に。今は建設的な話をするべきであろう」


 なおも言い訳を続けようとする我が上司殿だったが、その機先を制するように言葉を発したのは咳をしてエル族の二人の暴走を防いだ老将だった。師匠のような大声ではないものの、よく通る声は天幕にいる全員に届いている。立ち上がって熱弁していたあの男は悔しそうに顔を歪めて着席した。


 あの男を一言で黙らせられること、そして上座に座っていることからあの老将がこの戦の総司令なのだろう。戦えば一瞬で殺せる程度の力しかなさそうだが、老いを感じさせない活力と覇気を感じる。油断ならない人物だと直感した。


「レンクヴィスト殿。貴殿が弟子を大切に思うのは良い。しかし、それはこの天幕に連れてきても良い理由にはならぬ。何か理由があるのだろう?」

「無論ですぞ!この者は我らが到着するまで一騎討ちにて足止めをしておりました!直接話をさせるべきかと考えた次第でござる!」

「それは一理あるだろう。よろしい。だが、次からは正しい手順を踏め。我らが規律を守らねば、士卒に示しがつかぬ」

「はっ!申し訳ございませぬ!」


 おお、師匠が謝っている!行為の有用性を認めつつも、淡々と間違っていた部分を諭されればちゃんと謝るようだ。あの老将は師匠の扱いを熟知しておられるらしい。


 その老将は師匠の後ろにいる私を真っ直ぐに見る。恥じるところのない私は、正面からその眼差しを受け止めた。すると、老将はその口元に柔らかな微笑みを一瞬だけ浮かべてから元の真面目な表情に戻した。


「では、魔人よ。発言を許す故、なるべく詳細に敵のことを話すのだ」

「……かしこまりました」


 老将に促された私は意を決して口を開く。あの戦いのことを思い出しながら、私は指示された通りなるべく詳細に経緯を語るのだった。

 次回は12月6日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 誰が何をして何をしていないのかをみんな見て知ってるるってことでしょうね。 実戦の様子を直に説明する機会を得て、それでみんなからの見る目が変わって待遇や接し方が変わるといいんだけど。いつまでも…
[一言] 私の部隊、ねえ いやはや自分で何一つしていなくてもそう言えるのは才能だとは思うけどもここじゃ別に強い立場じゃないからなあ
[気になる点] こちらの大陸には人に手助けする神はいないのかな?
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