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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
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アーディウス要塞攻略戦 暴走

 黄金の機鎧兵は挑発すればするほど乗ってきてくれるので引き付けるのは楽だったが、光の剣を回避するのは案外大変だ。素人だからこそ刃筋や剣術の理などを無視したメチャクチャな軌道で振り回す。それ故に普通ならあり得ない方向から刃が迫ってくることがあるのだ。


 刃筋を無視すれば剣とは驚くほど斬れなくなるものだし、理に背いた動きとは得てして鋭さに欠いてしまう。もしも相手が平均的な体格のヒト種であれば、簡単に反撃して仕留めていただろう。


 しかし、相手は神の末裔だ。霊術で作り出した光の剣に刃筋など関係ないし、理に反した動きも圧倒的な身体能力によって意外性のある動きへと昇華されている。光の弾を打っていた時の方が楽だったかもしれない。今からでも戦い方を戻して欲しいくらいだ。


『このっ!逃げるな!』

『当ててみやがれ、ノロマ野郎』

『許さぬ!許さぬぞ!』


 それでも時間稼ぎのためには挑発し続けなければならない。アスミには棒読みだと呆れられた下手な挑発に怒り狂いながら、黄金の機鎧兵は怒りに任せて私を追い掛け回す。


 しかしどれだけ攻撃しても回避されるので、頭に血が上っているらしい。振り回される光の剣はさらに大振りに、剣筋はより単純になっている。そのせいで先ほどよりも回避しやすくなっていて、それが奴の怒りを余計に掻き立てているようだった。


 私が回避し続けると、奴は逆上して攻撃がどんどん雑になる。奴が勝手に悪循環へと嵌まっていくと同時に私はどんどん楽になっていく。この調子を維持出来るのなら、足止めは間違いなく成功するだろう。


 ただ、いくら怒りで視野狭窄に陥っていても、私が逃げる一方では何かの拍子に私への執着を捨てて追撃に移るかもしれない。攻撃しても通用しないとわかっているものの、私は注意を引くためにも反撃することにした。


「シィッ!」

『がっ!?その程度、効くものか!』


 私は回避しながら尻尾の先端で黄金に輝く兜を殴り付ける。普通の機鎧ならば兜と仮面ごと潰れる必殺の一撃なのだが、残念ながら敵は普通ではない。機鎧と同じく頑丈な兜と、他の機鎧兵のそれとは違うデザインの仮面は私の尻尾ではびくともしなかった。


 もちろん、毒針が機鎧と仮面を貫通することもない。しかしながら、兜と仮面を殴られると視界が揺れてしまうらしい。効かないと怒鳴りながらも頭を少し振って兜の位置を直していた。


 なるほど、嫌がらせにはこういう方法もあるのか。一つ学んだと思いつつ、私は霊術を起動して砂の腕を作ると砂塵によって汚れている両足首をガッシリと掴んだ。


『うおおっ!?』

「これで死んでくれるなら楽なんだがな……」

『がああああっ!?』


 足首を掴まれたせいで空中で体勢を崩して前のめりになった瞬間、私は跳躍して背後に飛び乗る。そして両脇の隙間に双剣を、兜と鎧の隙間から通した毒針を首筋に突き刺した。


 神の末裔は痛みからか苦しそうに呻きながら痙攣している。脇からは激しく出血し、致死量を遥かに超える猛毒は殺せずともその身体を蝕んでいた。これを繰り返せば殺せるとまでは思い上がっていないものの、時間稼ぎには十分だ。私は内心でほくそ笑んでいた。


『ふぅ……ふぅ……おおお……オオアアアアッ!』

「ぐあっ!?」


 しかし、思い通りにことは運ばないらしい。奴は獣のような雄叫びを上げながら、これまでよりも強く、そして激しく霊力を放出し始める。その圧力によって砂の腕はあっさりと吹き散らされ、背中に乗っていた私もまた吹き飛ばされた。


 この戦いは吹き飛ばされてばかりだな、と余計なことを考えながら空中で姿勢を直して両足で着地する。そして今も雄叫びを上げている黄金の機鎧兵を油断なく観察していた。


『フシュー……フシュー……ハアァァァ……』


 空気を震わせる雄叫びが収まったかと思えば、黄金の機鎧兵は獣そのものの息遣いで肩を揺らしている。急激な変化に困惑しつつも、私は全ての複眼によってその一挙手一投足を見逃すまいと睨み続けていた。何故なら、奴から感じる圧力が先ほどよりも大きくなっているからだ。


 奴の中で何が起きたのかはわからない。しかし、奴が先ほどよりも強くなったのは間違いなかった。私の生存本能が、今すぐにここから去れとこれまでの人生で一度も感じたことがないほどに強く警鐘を鳴らしているのだ。


 私が冷や汗を流しながらゆっくりと後退りしていると、いきなりピタリと動きが止まる。そしてグリンと首を勢い良く回して私の方を向く。その瞬間、私の内側から捕食者に獲物として狙われる、原始的な恐怖が一気に沸き上がった。


『ガガ……ガルオオオオオオオッ!!!』

「なっ!?速すぎ……っ!」


 久々に感じる恐怖を捩じ伏せたものの、恐怖によって一瞬だけ竦んでしまったことが致命的だったらしい。急激に上昇した速度によって一息に彼我の距離は詰められ、同じく上昇した腕力に任せた拳が私の顔面を捉える。殴られた私は後方へと大きく飛ばされ、地面を何度も転がった。


 あ、危なかった……!殴られる瞬間に後ろへ跳んでいなければ、頭が粉砕されていたかもしれない。獣のようになっても格闘術などに目覚めた訳ではなく、それどころかより大振りな動きになっていたからこそ跳ぶのが間に合ったのだ。


 ただし、威力を減衰させたからと言って無傷ではなかった。左の頬の鋏とその周囲の外骨格は砕かれ、守られていた肉が露出している。頬骨と下顎骨も折れていおり、更に三つある大きな複眼のうちの一つが潰れてしまった。


 複眼を潰したのは、拳が当たった瞬間に機鎧の上腕部から伸びた太い針である。きっと拳で殴ると同時に伸びるように設計してあったのだろう。獣のように本能のままに暴れて初めて機鎧のギミックが動いたのは皮肉であった。


 この感じなら幾つもの強力なギミックが搭載されていただろうに……神の末裔としての力に相当な自信を持っていたようだし、その力に溺れて機鎧のギミックを使うことを忘れていたのかもしれない。強すぎる力を持っていても、使いこなせなければ宝の持ち腐れになってしまう。だからこそ、今まで殺されなかったのだが。


 閑話休題。殴られた私の外見は酷いことになっているだろうが、実は大したダメーではなかった。砕かれた外骨格と骨折した骨は既に治癒が始まっているし、大きな複眼も一つ潰れたくらいなら戦うことに支障はない。どうせ明日になれば治っているだろう。


『ガルルルル……?』

「モゴ……プッ!ふぅ、理性を完全に失っているようだな。もう挑発の言葉も理解出来なさそうだが……その必要はなさそうだ」


 私は口に溜まった血を吐き捨てた。その血には奥歯の破片が混ざっており、殴られた時に砕けていたのは明白だ。痛覚は既に切っているので、口の中にまで気が回っていなかった。


 こっちも既に治癒し始めているので、戦っている間に治るだろう。それよりも黄金の機鎧兵への警戒の方が重要だ。私を殴り飛ばした姿勢のまま、奴は自分の手を開いたり握ったりを繰り返しながら首を捻っている。どうやらギミックがどうやって起動したのかわからないようだ。


 理性を失っているのはわかっていたが、まさか知能まで獣並みに下がっているのか。立派で美しい機鎧を装備した神の末裔が哀れなことだ。しかし奴は今も私の命を狙っている敵である。同情など無用であろう。


『ゴルルルアアアアアアッ!!!』

「やはり速い……が、回避は可能だ」


 黄金の機鎧兵は獣の咆哮と共に突進してくる。その速度は途轍もなく速いのだが、動きが直線的過ぎて読みやすい。真っ直ぐに突っ込んで大振りの拳を叩き込む。それがわかっているのだから、後はいつ突撃してくるのかを注視していればどうにかなるのだ。ついでに双剣の刃を当ててみるが、火花を散らすだけで全く意味はなかった。


 私に回避されて拳が空を切った黄金の機鎧兵は、当たることを前提に前のめりになりすぎていたのかそのまま転んでしまう。勢い良く地面へと激突し、盛大に砂埃が立ち込め……それが私にとっては致命的な働きをした。


『ガオオオオオオッ!』

「しまっ……ガハッ!」


 黄金の機鎧兵は獣と化して増大した攻撃の衝動の命じるままに私へと突撃したのだろう。そして私と奴の間には砂埃と言う天然の煙幕が立ち込め、私の視界を遮っていた。


 異常なほど素早い奴は動きだが、その出だしが見えるからこそ回避可能だったのだ。その視界が遮られていたらどうなるのか?その答えは一つしかなかった。


「ゴボッ……いかんな、かなりの深傷だ」


 手を開いて引っ掻くように振り抜いた機鎧の指先によって、私の脇腹が深々と抉られてしまった。脇腹も外骨格で守られていたのだが、まるで紙のように切り裂かれている。もし手を開いておらず、拳のままだったなら大きな穴が空いていただろう。


 拳大の穴を空けられるよりはマシだろうが、重傷に変わりはない。この傷は内臓にまで達しており、腹から迫り上がって来た血液が口から溢れ出していた。痛覚を切ることが出来なければ、身動き一つとることが出来なかったかもしれない。


 自然と口に上がってくる血を吐きながら、私は冷静に腹部に闘気を集中させて傷口を塞いだ。これで傷口から内臓が出ることはないだろう。しかし、かなりの量の血を流してしまった。身体に力があまり入らず、指先からは双剣がすり抜けそうだ。複眼に映る視界も霞が掛かっていて見えにくい。絶体絶命である。


「私は、死なない。こんなところで死んでたまるか」


 しかしながら、どんなに傷付いても私には『百年間生き延びる』という至上命題が存在する。それを果たさずして死ぬ訳にはいかない。腹筋に力を入れながら闘気と霊力を高め、意識して双剣をしっかりと握り締めた。


『ガルロオオオオ……オオオッ!?』

「……何て良いタイミングですか」


 黄金の機鎧兵が再び私に突撃するべく前に飛び出した瞬間、私の背後の何もない空間から長細い何かが高速で飛来してその顔面に激突する。顔面を守る仮面は頑丈でほんの少し凹んだだけだったが、黄金の機鎧兵はその衝撃で再び盛大に転んでしまった。


 仮面と激突した飛翔体は、空中でクルクルと回転してから地面に突き刺さる。それは鈍色で無駄な装飾のない、武骨で巨大な斧槍であった。

 次回は11月28日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 一体誰が?!   サソリ君を全力で助けてくれる存在って・・? 師匠? 仲間? それとも・・・?
[気になる点] し、師匠!?
[一言] 毒の入れ過ぎで生命の危機に瀕して生存本能が体動かすようになっちゃった感じですかねー 理性がないほうが厄介とはなあ にしてもこのタイミングで神の末裔を攻撃してくれるとは一体どこの誰やら
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