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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
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アーディウス要塞攻略戦 足止め

 空の上から私を見下ろす黄金の機鎧兵は、両手の掌を私に向ける。そこに霊力が集まっていくので、私は光線が放たれるのを警戒して即座に駆け出した。


 しかし、奴は戦い方を変えてきた。掌に集める霊力を減らし、太い光線ではなく小さな光弾にして連射してきたのである。光線に比べれば威力が低い光弾であるが、闘気で強化した私の外骨格を一発で砕いてしまうだろう。


 あれは一発たりとも直撃する訳には行かない。私は地面の上をジグザグに走りながら、直撃しそうな光弾だけを双剣で弾き続ける。走りながら上から降り注ぐ光弾に対処出来るのは、私の複眼が頭上をもカバーしているからだ。見えていなければとっくにバラバラになっていただろう。


 外れた光弾と弾いた光弾が地面に着弾し、眩い光を放ちながら爆発していく。爆発によって飛び散る礫が外骨格を叩き、カンカンと小気味良い音を鳴らしていた。


「やられっぱなしでは無視されるかもしれん。そろそろ反撃してみるとするか……!」


 逃げてばかりだと私を捨て置いて先遣隊を狙うかもしれないので、私は無様に地面を駆けずり回りながら反撃の準備を整えていた。走りながら自分の霊力を地面に馴染ませており、何時でも霊術に使えるようにしていたのだ。


 周囲の地面は都合がよいことに黄金の機鎧兵によって耕されている。私が最も得意とする砂に変える手間が大幅に省けるというもの。馴染ませた霊力を操り、土砂を素早く砂へと変えた。


 霊術によって無から砂を作り出しても良かったのだが、そうすると霊力を余分に消費する。敵は神の末裔である化物なので、霊力は少しでも抑えたかった。


 一瞬にして作り出した大量の砂は、私の意のままに動かせる。その砂を無数の槍へと形を整え、私は一気に奴に向かって放った。


『下らん』


 それに対して黄金の機鎧兵は掌に集めた霊力を光の剣へと変えると、煩わしそうに砂の槍を叩き斬っていく。その動きはとても雑で、武芸を磨いた者のそれではない。ほぼ間違いなく、奴は武芸の鍛錬を積んだことがないのだろう。


 だが、明らかに私よりも素早い速度で腕が動いていた。しかも奴からは闘気を全く感じない。闘気を使って身体を強化していないのだろう。戦闘に向いた魔人として合成された私よりも優れた身体能力を闘気なしで発揮出来るとは……これが神の血統か。


「ならば雑種なりの汚い戦い方を見せてやろう」


 私は防がれるとわかっていながらも、地面を駆け回りながら砂の槍を放ち続ける。砂の槍は光の剣によって悉く斬り裂かれてしまう。このままでは霊力の無駄遣いにしかならない……と奴もそろそろ思ったことだろう。


 砂の槍を射出する手を止めることなく、別の霊術を使うべく集中する。闘気で身体を強化して動き回りながら二つ以上の霊術を使うのは手慣れたものだ。そのくらいの芸当が出来なければ、これまでの四年間で死んでいる。そのくらいには厳しい戦いを潜り抜けて来たからな。


「もう十分か……止まれ!」

『む?』


 私は叫ぶと同時に力強く地面を蹴って跳躍する。黄金の機鎧兵はすかさず私に向かって光の剣を投擲するが、投げた瞬間の姿勢で身体が止まってしまう。銃弾並みに速く、しかし狙いは外れていた光の剣を無視しながら、私はこの好機を逃してはならないとばかりに再び空中を駆けて接近した。


 敵が動かなくなったのは偶然や奇跡ではなく、私がそうなるように仕向けたからだ。奴が光の剣で斬っていた砂の槍だが、斬られて散らされた後もその一部は私の影響下にあった。空気中を漂っていた砂を密かに黄金の機鎧の膝肩や膝などの関節部へと潜り込ませ、それを石のように固めて固定したのである。


 無駄だとわかっていても砂の槍を撃ち続けたのは、この仕込みをスムーズに行うためだった。常に砂が飛び散る状況を作り出すことで、砂が不自然に動いていることを察知され難くしていたのである。


 機鎧の形状は複雑だが、こちらには以前は共和国軍の白機兵だったアスミがいる。機鎧の構造上、どうしても出来てしまう隙間の位置を熟知していた。この四年間、この機鎧の方を止める霊術を使って仕留められなかった敵は一人もいない。それは白機兵であっても同じことだった。


 ただし、目の前で固まっている黄金の機鎧兵も同じように仕留められるとは思っていない。現に奴の化物染みた力によって、関節を固定している砂は砕かれそうになっていた。


 想定()()、この小細工によって稼げる時間は短いだろう。これまで見せ付けられた力を考えれば当然である。しかし、再び剣の間合いに入るには十分であるし……私にはもう一つだけ策があった。奴の気を引くための策が。


『よう、間抜け野郎。相変わらずオツムの中身はスカスカか?』

『何だ……ぐっ!?』


 私は黄金の機鎧兵に接近すると同時に、カン族の言葉で話し掛ける。すると案の定、奴は一瞬だけ動きを止めた。その隙を逃さず、私は双剣で両脇腹を、毒針で首筋を突き刺した。


 アスミが努力してエンゾ大陸の公用語であるディト語を覚えたように、私を含めた一部の仲間達はアスミからカン族の言葉を教わっていた。敵が何と言っているのか、アスミを通さずに理解出来れば楽だと思って学んでいるのだ。


 まだまだ学んでいる最中だが、ある程度理解出来るようになって来ている。読み書きは無理だが、簡単な単語の聞き取りと幾つかの挑発に使える侮辱的なフレーズを教えてもらった。


 この言葉こそ、私の持つ最後の切り札だった。敵は自分達の使う言葉を私が話せるとは夢にも思っていなかったはず。侵略している大陸の、それも明らかにまともではない敵から急に自分の言語で挑発されればどう思うか。しかも挑発されたのは力だけは超一流だが戦闘の経験は浅い素人だ。結果は想像に難くないだろう。


 そして予想は的中し、奴は怒りとそれ以上の驚きによって無防備に動きを止めてしまった。その隙を突いて私は重傷を負わせることに成功したのである。


 我々と同じく鮮やかな赤色の血液が剣を伝って流れ出し、煌めく黄金の機鎧を濡らす。戦闘の最中であると言うのに、私は神の血液も赤いのかと下らないことに感心していた。


『貴様ぁ……!』

「おっと」


 意識が少しだけ反れていた私に向かって黄金の機鎧兵は反撃してきた。双剣は腹部を深く抉り、毒針からは私が分泌可能な中でも最も凶悪な猛毒を大量に流し込んでいる。腹部の傷は魔人であっても治癒が間に合わない致命傷であるし、猛毒に至っては魔人を千人は殺せる量だった。


 それでも神の末裔を殺すには至らない。それどころか機鎧が動かないように固定していた砂の塊を力ずくで破壊するほどの力は残っており、私の頭のすぐそばを通り抜けた拳の速度は中々のもの。決して死にかけている者が出せる力ではなかった。


 まあ、それも想像通りだ。鍛練を積んだ形跡もないと言うのにあれだけの身体能力を誇る相手である。闘気による治癒力も強いだろうし毒も効きにくいと思っていたので、驚愕するほどのことではない……少しだけ悔しくはあるが。


 それでも全く効いていない訳ではないらしい。私が振り下ろされた拳を避けた時、傷口が広がったのか苦しそうに呻いたからだ。良く見れば足も震えているので、毒も効いているらしい。致死量を遥かに超える猛毒を受ければ、神の末裔といえども平気ではいられないのだろう。それがわかっただけでも大きな収穫である。


『離れろぉ!』

「ぐぅっ……!」


 黄金の機鎧兵は拳を回避された直後、再び霊力を一気に放出して私を吹き飛ばした。耐えることは不可能だと感じた私は、吹き飛ばされる直前に双剣を少しでも捻ってさらに傷口を広げておく。機鎧の隙間から刺しているので動かせる範囲に限界はあるが、やらないよりはマシだろう。


 吹き荒れる霊力に飛ばされた私だったが、同じ攻撃が通じるほど油断はしていない。空中で姿勢を整え、余裕をもって地面に着地する……直前に黄金の機鎧兵が急降下し始める。その両手には霊術で作り出した光の剣が握られており、全身からは明確な殺意が吹き上がっていた。


『許さん!貴様は■■■■■■!』

「多分『死ね』みたいなことを言っているんだろうが……悪いが難しい言い回しはまだわからんし、ゆっくり話してくれんと聞き取れん」


 黄金の機鎧兵は出血をものともせずに必殺の光の剣を振り回す。強い殺気をぶつけられたことで全身に走る怖気を振り払うように慣れない軽口を叩いた私は、光の剣を回避しつつ踏み込んですれ違い様に双剣で撫で斬った。だが隙間にねじ込むのとは違い、やはり機鎧ごと身体を斬ることは出来ない。機鎧があまりにも堅牢だったからだ。


 もう一度隙を作り出せれば隙間を狙って剣を突き刺せるのだろうが、相手がいくら素人同然だからと言って同じ手は二度と通用するとは思えない。まともな傷を負わせることはほぼ不可能だろう。


 しかしながら、私の役割は足止めであって倒すことではない。十二分に奴の殺意を引き受けることに成功した時点で目的は達成されたと言っても良い。ここからは時間稼ぎに腐心するのみ。仲間達が逃げ切るまで、奴をここに釘付けにし続けるのだ。


『■■■■■■と、鬱陶しい!大人しく生命を差し出せ!』

『ノロマのデクが。新手の躍りか?下手くそめ』

『貴様ぁぁぁ!』


 ブンブンと身体能力に任せて振り回される光の剣を全て回避しながら私は走り続ける。自尊心が強そうなので、挑発を繰り返していれば私を無視することはなさそうだ。動きも単調であり、気を付けていれば斬られることはないだろう。


 ただし、全ての攻撃が直撃すれば致命傷になることを忘れてはならない。決して油断だけはすることなく、逃げ回りながら汚い言葉で神の末裔を罵るのだった。

 次回は11月24日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
岩竜と同じで全然効かないタイプか なら岩竜と一緒で脳くちゅくちゅさせたら勝てるか
[一言] 毒針を刺して毒を注入しても倒せないなんて・・ このまま時間を稼いで、そして無事仲間と合流できる可能性がどこにあるのか それともこのことも想定済みで何かしらの奇策があるのか 気になります。
[一言] 有効打!!! 毒も流し込めたし勝ったか!?と思ったらまさかのそれすらも耐えるとは 神の末裔、霊力だけじゃなく肉体スペックもあまりにも高すぎますねえ
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