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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第一章 闘獣編
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休憩~準決勝第三試合

 私と覇竜蛇の戦いが終わったことで『新人戦』は準々決勝という新たな段階へと進む。どうやらここで休憩を挟むようで、しばらくは私も戦う必要がない。ずっと休憩していてくれ。無理だろうけど。


 その間、私はカタバミの話を黙って聞いていた。彼女は言いたいことを言っているだけなのかもしれないが、私はその話を一言一句漏らさぬように集中している。何故なら、彼女の話は私にとっても非常に有益なものだったからだ。


 カタバミの話のお陰で私がいる大陸の名前と大まかな地理、この闘技場のある国の名前など飼育されていた私では知ることが出来ない情報を得られたからだ。今はアルテラ歴八百二十三年の春であり、ここはエンゾ大陸の内陸にあるハーラシア王国と言うのだとか。


 そしてここから南に下ると大陸を南北に分けるシュミエ大山脈が聳え立っており、カタバミの故郷はこの山脈の中腹にあるようだ。山には妖狐族の他にも様々な種族が『山の神』という存在の下で平和に暮らしているのだと言う。


『神様はね、ずっと昔に守護者と一緒に他の大陸から来たんだって。山が豊かなのは神様が管理しているからなの。普段は優しくて強いお方だけど、怒ったらとっても怖いのよ』


 カタバミは怒らせたことがあるのか、私の上でプルプルと震えている。それにしても『山の神』か。その神が何者なのかはわからないが、私の中には神についての知識もあった。


 太古の昔、『名も無き全能の無貌神』がこの世を創造し、その残滓から古神と生物が誕生した。それらの生物には生まれながらに身体能力や知能に差はあったが、共通している部分がある。それは身体能力にも知能にも、成長の限界が存在しないことだった。


 その理由は全ての生物が全能の神の因子を受け継いでいるからである。成長の速度には種族や個々の才能によって差があるものの、理論上はあらゆる生物はどこまでも強く、そして賢くなれるのだ。


 そして一定以上の力を蓄えた時、寿命というあらゆる生物に備わる制限を失って生物の枠を越えた存在となると言う。不滅ではないが、生物から『名も無き全能の無貌神』へと少しだけ近付くことで『神』あるいは『超越者』と呼ばれる存在となるのだ。


 しかし、それは理論上であって容易な道ではない。神に至るまで成長するためには、生命を脅かすほどの厳しい鍛練を幾度も積む必要があるからだ。ある者は成長の途上で力尽き、またある者は厳しい鍛練に耐えかねて諦める。それに寿命で果てる日まで鍛練を積んだとしても、才覚に恵まれなければ神に至るまで成長することは出来ない。この世は残酷なのだ。


 そのことを知っている知恵ある生物のほとんどは、神に至るために鍛練を積もうなどと考えはない。ほんの一握りの天才が血の滲むような努力をしたとて叶わないとされる境地を目指すなど、時間の無駄でしかないからだ。そして知らない知恵のない生物はそもそも生命の危険を犯してまで何かをしようとは思わない。故に神にまで至る生物の数は限られるのだ。


 逆説的に神に至った生物は激動の生を歩んでいる。それが自発的にせよ必要に駆られたからにせよ、穏やかな生を送ってきただけで神に至るまで成長することなど不可能なのだから。カタバミの語る『山の神』とやらがどんな生物から神へと至ったのかはわからないが、苦難の連続を乗り越えて来たのだろう。


『里に帰ったらアンタに掛けられた術を解く方法を神様に教えてもらう!それで何時か解放してあげるわ!約束よ!』


 山脈を統べるほど強大な神ならば、私の魂を縛る霊術を解く方法くらい知っている可能性は高い。問題は彼女がその方法を習得して助けに来てくれるまで私が生きているかの方が疑問である。百年を生き延びなければならない私であるが、それが困難な状況にあることは私自身が最も理解しているのだ。


 そうこうしている内に休憩時間が終了したのか、外に出ていた観客が次々と戻ってくる。観客席が満員になり、予選の時よりも多くの立ち見客が集まった頃、支配人が奴の定位置に現れた。


「大変長らくお待たせいたしましたっ!これより『新人戦』の準々決勝を始めさせていただきますっ!準々決勝第一試合を戦う闘獣の入場ですっ!」


 支配人が再開の宣言をするが早いか、岩竜と合成獣がそれぞれの入場口から現れた。そして予選の時と同じく透明な障壁の中にいるのだが、両者の反応は大きく異なっている。岩竜はとてもリラックスしていて大欠伸をしているのに対して、合成獣は全身を低く沈めた姿勢で唸り声を出して威嚇していた。


 それだけでもどちらの方が強者なのかはわかるというもの。今から始まる準々決勝第一試合は一方的な虐殺にしかならないだろう。合成獣が岩竜の力の一端を見せてくれたらよく頑張ったと言える。是非とも頑張ってくれたまえ。


「言わずと知れた最強種と、現代霊術の結晶っ!我らが『闘争の神』はどちらの闘獣を祝福されるのでしょうかっ!?それではぁ…………始めぇっ!」

「ゴオオオオオオッ!!!」

「メエェェェェェッ!!!」


 開始の宣言と共に障壁が消えた瞬間、最初に仕掛けたのは合成獣の方だった。合成獣にある獅子の口と山羊の角から放たれる炎と電撃、そして翼が巻き起こす風の刃が岩竜に直撃する。並みの生物であればこれだけで黒焦げになって切り刻まれたことだろう。


 しかし、相手は最強種と名高い竜である。生まれながらにして最も神に近い種族は、常軌を逸した頑強な肉体を有していた。合成獣の炎も電撃も鱗すら焦がすことはなく、風の刃はそよ風のように弾かれてしまう。岩竜は微動だにせず、大地を揺らして前進し始めた。


「グルルルル!」


 合成獣は唸りながら岩竜の後ろに回り込むように走り出す。岩竜はそれを追いかけるが、動きが鈍重過ぎて全く追い付かない。背後を取った合成獣は飛び掛かって牙を突き立てようとした。


 しかしながら、獣鬼の棍棒で傷一つ付けられなかった鱗をそう簡単に破壊することが出来る訳がない。後頭部に噛み付いたものの、ガリッと音を立てるだけで岩竜に何の痛痒も与えられている様子はなかった。


 背中に乗られた岩竜は不愉快そうに身体を揺らして合成獣を落とそうとする。それに耐えながら合成獣は何度も何度も噛みついた。牙が折れてしまうのではないかと思っていると、これまで全く通じていなかった合成獣の牙が岩竜に突き刺さったではないか。


「ギャオオオオオオオオッ!?」


 岩竜は絶叫を上げながら、狂ったように暴れ始めた。どうやらかなり痛みを感じているらしい。最強種と呼ばれる岩竜が苦しみ悶える姿を見て、観客は興奮に沸いていた。


 観客が喜ぶのはどうでも良い。それよりもどうして急に攻撃が通用したのかが気になっていた。私は合成獣の牙が突き刺さった場所に複眼を凝らす。すると、そこの鱗だけが逆向きに生えていることに気が付いた。


『あっ。運が良いわね。逆鱗に刺さったみたいよ。竜族の身体に必ずある唯一の弱点らしいわ。場所は竜によって違うけど、そこの鱗だけは柔らかいんだって。お母様が言ってたの!』


 逆鱗……私の知識には存在しなかったが、カタバミが知っていた。あそこが竜族の弱点なのか。私が戦う時、どうにか隙を見てあの逆鱗に毒針を打ち込めば勝機があるかもしれない。貴重な情報として記憶しておこう。


 岩竜は合成獣を振り落とそうと動き回るが、牙が深々と刺さったからか合成獣は落ちる気配を見せない。業を煮やしたのか、岩竜は背中から倒れこんだ。その衝撃で牙が傷を広げたので、岩竜はより大きな悲鳴を上げた。


 岩竜は自滅したかのようにも見える行為だったが、実は合成獣の方がダメージは大きそうだった。地面と岩竜に挟まれ、岩竜の重さで潰されるのだから当然だろう。合成獣もまた、二つの口から悲鳴を上げた。


 この時、合成獣は噛み付くのを止めて口を放してしまった。その瞬間、逆鱗の痛みから解放された岩竜は勢いを付けて一気に立ち上がる。その眼には明確な敵意、いや殺意に満ちていた。


「グオアアアアアアアアッ!!!」


 岩竜の口の奥が輝いたかと思えば、そこから真っ白で太い光線が迸った。これこそ竜族の象徴とも言える最強の攻撃である息吹である。口腔から放たれた極限まで練り上げられた霊力の奔流は、未だに地面に倒れている合成獣に向かって放たれ……着弾と同時に爆発した。


 爆発によって轟音が鳴り響いて空気を震わせ、巻き上げられた砂埃が視界を遮る。余波によって観客を守っている障壁がギシギシと軋み、術者の一部が苦しそうな呻き声を上げた。きっと息吹の衝撃波を受け止めるために霊力を消耗し過ぎたのだろう。


 砂埃が晴れた時、闘技場の床に残っていたのは黒く炭化した合成獣の残骸だけだった。岩竜はよほど頭に来ていたのか、合成獣の残骸を脚で何度も踏みつける。合成獣だったモノは完全に砕け、消えてしまった。


「けっ、決着うぅぅぅ!岩竜に血を流させる快挙を見せましたがっ!合成獣は健闘虚しく敗れ去りましたっ!流石は最強種っ!岩竜の勝利ですっ!」


 支配人の宣言で観客は再び沸き上がる。岩竜の怒りは収まっていなかったものの、ビクンと大きく痙攣してから大人しく出入口に向かって歩き始めた。どうやら『隷属の首輪』を通じて命令されたらしい。岩竜と謂えども魂を縛る霊術には逆らえないのだ。


 岩竜が去って行った後、準々決勝第二試合が行われた。戦うのは戦士蟹と氷牙狼で、勝者は戦士蟹だった。決め手は盾のような鋏による鉄壁過ぎる防御である。氷牙狼のあらゆる攻撃を受け止めてもヒビが入ることすらない鋏を攻略出来ず、体力が尽きたところを貫かれた。


 戦士蟹の派手さはないが堅実な戦いは私も感心せざるを得ない。同じように鋏を持つ者として参考になる部分が多々あったからだ。私が生き残る確率が、また少しだけ上昇したのは素直に嬉しい。


 準々決勝第三試合は陸王鳥と輝獅子の戦いで、意外にも陸王鳥が勝利を飾った。輝獅子は全身を輝かせることで闘技場の地面が溶けるほど温度を上げた。それを危険だと判断したのか、陸王鳥は捨て身の特攻を敢行して輝獅子の首を蹴り折ったのだ。


 私もそうだったが、陸王鳥の勝利は大番狂わせだったらしい。闘技場の観客はこれまでで一番盛り上がっている。どうやら大穴を当てた者がいたようで、最前列で大喜びしていた。


 ただ、一瞬で試合が終わった割りに陸王鳥は大怪我を負っている。地面を溶かすほど熱くなっていた輝獅子を蹴ったのだから、幾ら闘気で強化していてもそうなるのは当然だ。全身の羽毛は熱によって先端が焦げ、蹴った右足に至ってはもう使い物にならないだろう。陸王鳥の主人に治す手段がないのなら、準決勝を生き残ることは不可能だと思う。


「お待たせしましたっ!準決勝第四試合っ!闘獣達の入場ですっ!」

『頑張れー!負けるんじゃないわよ!』


 ようやく私の出番が回ってきた。戦いたくないが、逆らっても無意味であることを私は知っている。カタバミの声援を背中に受けつつ、私は重い足取りで闘技場へと節足を踏み入れるのだった。

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