初めての武器鍛錬
ユリウス達に武器を選ばせた翌日、ほとんどの仲間達はこれまで通りにカレルヴォの魔人達と素手で殴り合う鍛錬を行っていた。だが、そこから離れた場所では私を含めた数人は武器を持っている。理由はもちろん、ユリウス達三人に武器の扱いを教えるためであった。
三人は昨日の内に自分が使う武器について決めている。ユリウスは双剣、アリエルは槍、そしてボルツは片手剣と盾を選んでいた。レオへの対抗意識から双剣を選んだユリウスはともかく、アリエルはリーチを、ボルツは防御を重視して選んだらしい。武器を選ぶ基準にそれぞれの個性が出ているのは気のせいではないだろう。
ちなみに、さすがに開戦までの期間で弓の扱いを覚えるのは魔人であっても不可能だと特戦隊一の射手であるファルに言われている。それ故に三人には弓を選択する自由を与えることは出来なかった……三人とも最初から弓を選ばなかったので問題はなかったが。
「ほんじゃあ軽く手解きしてやろうかね」
「アリエルは槍を握るのも初めてなんだからぁ、優しくしてあげてよぉ?」
「わぁってるよ。って言うか、お前こそ厳しくし過ぎてうっかり殺すなよ?」
そして肝心の教官役であるがユリウスは私が、アリエルはリナルドが、ボルツはトゥルが担当することになった。二人とも特戦隊では槍と盾の扱いに関しては最高の戦士である。教官として不足と言うことはないだろう。
夫婦の微笑ましいやり取りを聞いて、アリエルとボルツは何故か蒼白になっている。二人は我々の中でも相当な実力者だ。加減を誤ることはほぼないので安心して欲しい。だからそろそろシャキッとしなさい。
まあ、もしかしたら加減を誤って死にかけることがあるかもしれないが……実際の戦場に赴く前に死にかける経験をしておくのも良いだろう。その時にどれだけ身体が動かないのか、知っておいて損はないのだから。
「こちらも始めるぞ」
「ああ。それで、何をすりゃ良いんだ?」
「私が教えられることは一つだけ。実戦を通して学ぶのみ。さあ、どこからでも掛かってこい」
私は誰かに理論立てて双剣の扱いを教わったことはない。師匠と言える人物はいるが、その鍛錬はひたすらに戦うだけだった。生き残りたい一心で少しでも速く、少しでも鋭く、少しでも無駄のない動きを戦いの中で磨いてきた我流の剣術。それが私の戦い方だ。
それ故に私が教えられるのは、実戦に近いやり取りを繰り返して良い点と悪い点を指摘することだけである。不親切な教え方であることは重々承知しているが、それしか出来ないのだから仕方がない。それにレオなど一部の仲間には好評な教え方なので、そこまで悪いものでもないと思っている。
閑話休題。私は双剣を鞘から抜き、両腕を垂らして力を抜いた。これはユリウスを侮っているのではなく、どんな攻撃にも対応するための構えである。この構えらしからぬ構えを取るようにしてからと言うもの、武器を用いた鍛錬で身体に刃を受けたことは数えるほどしかない。素手の鍛錬にも応用したいところだ。
ただ、そのことを知らないユリウスはやはり侮られたと感じたらしい。眉間に皺を寄せて不快感を示すと、魔人の俊敏さを遺憾なく発揮して両腕を振り上げながら踏み込んで来た。
うむ、思い切りが良いのは間違いなくユリウスの長所であろう。しかしながら、その動きは余りにも単純過ぎる。真っ直ぐに突っ込んだところで、格上には絶対に通用しない。私はユリウスの双剣を左手の剣で受け止めた。
「遅い。その程度の速さで馬鹿正直に突っ込むな」
「うわっ!?」
「そして軽い。それでは機鎧兵の鎧を斬り裂けんぞ。剣には重さを乗せろ……こんな風にな」
受け止めた直後、ダメ出しをしながら無造作に右手の剣を振ってユリウスを弾き飛ばす。弾かれたことでユリウスはひっくり返るが、私は気にせずに踏み込んで剣を振り下ろした。地面に転がっていたユリウスだったが、直撃すれば両断されると察したのか慌てて横に転がって剣を避ける。
おお、怯えて硬直せずにちゃんと逃げたか。無論、本気であれば真っ二つになっていただろうが、今そんなことはどうでも良い。私が感心したのは、敵意を向けて殺しに来る凶器を前にして怯えたり目を瞑ったりしなかったことだ。
「良いぞ。どれだけ怖くても敵から目を背けるな。生き残りたければ、その恐怖を忘れずに飼い慣らせ。常に死を意識しろ」
「くっ!このぉ!」
ユリウスは素早く立ち上がると、再び私に向かって駆けて来る。最初の我武者羅な突撃とは違って、姿勢を低くして膝を狙っているな。私との体格差を考慮した、良い戦術だ。この咄嗟の判断と思い切りの良さは素晴らしい。戦士に向いているだろう。
しかし、これではまだ合格点をあげられない。体格差を活かしてくる戦術は敵も想定している。ユリウスも想定していないとアッサリと反撃されるだろう。私は剣で迎撃せず、ユリウスの腕を薙ぎ払うようにして蹴った。
「がはっ!?」
「ほう……蹴りに反応して刃を滑り込ませたか。私の蹴りを読んでいたな?今のは文句なく合格だ」
私の蹴りによって吹き飛ばされたものの、ユリウスは即座に受け身を取って立ち上がりながらニヤリと笑う。彼は私が何らかの手段で迎撃することを読んでいて、見事に反応してそれを防ぐだけでなく攻撃までしてみせた。私の脛を覆う外骨格には刃の痕がうっすらと残っているのがその証拠だ。
また、背中だけで受け身を取る技術も格闘術の鍛錬によって身に付けているのも評価出来る。両手が塞がる双剣を使うのなら必須の技術を体得しているのなら教える手間が省けると言うものだ。
「さあ、殺すつもりで来い。その度に良かった点と悪かった点を教えてやろう」
「へっ!死んじまっても文句言うなよ!」
ユリウスの腕前で私を殺すのは不可能だと思うが、それは言わない方が良いだろう。折角ヤル気になっているのだ。それに水を差すのは気が引けるし、逆にムキになられて雑な動きをされても困るのだ。
まだぎこちない動きのユリウスを指導しながら、私は複眼によって他の二人の鍛錬を観察する。リナルドはアリエルの対面に立って槍の握り方や基礎的な動きを丁寧に教えていた。
「アリエルは霊術が結構得意だって聞いてるぜ。今すぐは無理だろうが、霊術と槍術を組み合わせて戦えるようになると良いな」
「え?あの、槍はあくまでも護身用のつもりなんですけど……」
「はぁ、何言ってんだ?多少霊術が使えるくらいで俺達が後方に回してもらえる訳ねぇだろ。むしろ霊術の方が護身用で、白兵戦が中心になるぞ。そのために最初に体術の鍛錬を積ませるんだからな」
「そんな……!」
「俺達は最前線以外に居場所はねぇ。生き残りてぇなら死に物狂いで槍術も身に付けろよ」
最初から真面目に槍術を習っていたアリエルだったが、リナルドに現実を指摘されてより必死さが増している。動きはまだまだ未熟だが、彼女には霊術を実戦レベルにまで高めた実績があるのだ。きっと槍の使い方もすぐに覚えることだろう。
アリエルに続いてボルツとトゥルに意識を向ける。そこではトゥルが盾の構え方を教えているところだった。教わっているボルツだが、それなりに様になっているようだ。意外なことに盾の扱いには才能があるのかもしれない。嬉しい誤算であった。
最も危うい思っていたボルツが自分の命を自分で守れそうなことには安心した。それは良いのだが……あいつ、教わりながらチラチラとトゥルの胸を見ているじゃないか。
元々がヒト種ではない私にはよくわからないが、ヒト種の男性が女性を魅力的だと感じる部分の一つが胸らしい。それを盾の後ろから隠れるようにして盗み見ているのだ。トゥルはリナルドの妻であるのに発情するとは……何を考えているんだ。
「うんうん、上手ねぇ。じゃあ、そろそろ実戦形式に移るわよぉ。はい、構えてぇ……えい」
「わかっぶべぇ!?」
「あらあら?鍛錬中に気を抜いちゃダメよぉ。戦場で反応出来なかったら死んじゃうからねぇ」
チラチラと盗み見るのに夢中になっていたボルツだったが、実戦形式に移ると言った途端に振るわれたトゥルの戦鎚に殴り飛ばされてしまった。ボルツはくの字になって吹き飛び、地面を何度か跳ねてようやく勢いが収まった。
トゥルにとっては軽く振ったつもりだろうが、彼女は特戦隊でも一二を争う膂力の持ち主である。その威力は相当なもので、殴られたボルツはその場で踞りながら嘔吐していた。
早速事故が起きてしまったが、そもそも鍛錬の最中に別のことに気を取られていたボルツが悪い。余所見を反省しつつ、今のうちに痛みを知っておく経験が出来たことを喜んでおけ。このままトゥルに任せておこう。
「しっかり踏み込め。腰を入れろ」
「せいっ!やあっ!」
「まだ連続攻撃を使うのは早い。一撃を大切にして打ち込んで来い」
「がああっ!」
「悪くない。だが、殺気に波がある。牽制か本命かが丸わかりだ。防がれるとわかっている攻撃にも殺気を乗せろ。当たれば死ぬと思い込ませろ。気迫と言うものも侮れん」
他の二人にも気を配りつつ、私は私なりに言葉を尽くしながらユリウスに技術と心構えを叩き込んでいく。ユリウスからすれば虐待されているように感じるかもしれない。無茶なことを言うなと内心で私を罵っているだろう。
しかし、戦場とはもっと理不尽に満ち溢れた場所である。弱い者や間抜けな者は容赦なく殺されてしまうし、どれだけ鍛えた手練れでも運が悪ければコロッと死んでしまう。そんな場所で戦い抜き、生き残るためにはやれることは何でもやらなければならなのだ。
しばらくは一日中武器を振らせて少しでも慣れさせ、開戦の数日前からは他の仲間達と模擬戦をさせて様々な相手との戦いを経験させよう。それでも死ぬ時は死ぬだろうが……そこは三人の運次第だ。
まだ付き合いは短いが、彼らも仲間だ。なるべく死んで欲しくないものだ、と願いながらユリウスを鍛え続けるのだった。
次回は11月12日に投稿予定です。




