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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第三章 魔人戦争編
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補充された者達

「おい、何事だ?外まで声が聞こえてきたぜ?」

「あっ、お頭に族……違った、ティガルさんとザルドさん。お疲れ様です」

「ああ。それよりも何の騒ぎか教えてくれるか?」


 我々の天幕はその中央にある小さな広場を囲むように設営してある。この場所は支給される食糧を煮炊きするための場所として使っていて、基本的に我々はここで集まって飯を食う。他にも雑談にも使われる数少ない憩いの場でもあった。


 その広場は奇妙なことになっていた。端的に言うと子供達が喧嘩をしていたのだが、それを見た私の困惑はより大きなものとなってしまう。何故なら喧嘩をしているのはレオとラピであり、レオの後ろには見覚えのない二人の少年と一人の少女がへたりこんでいたのだ。


 二人の少年の片方は腹を抑えてうずくまり、もう片方はオロオロとしている。そして少女は地面に座り込んでガタガタと震えていた。


 レオとラピを挟んだ反対側では、優しげに微笑むケルフが泣いているロクムをあやしている。しかし、ロクムの泣き声は我々には聞こえてこない。ケルフが霊術で音を消すか遮っているかしているのだろう。器用なものだ。


「レオ、どいて。そいつは殺す」

「ぐおっ!?だ、ダメだって!」


 何時ものように抑揚のない、しかし濃密な殺気すら放ちながら物騒なことを口走るラピはレオを避けて後ろに回り込んでうずくまる少年に襲い掛かる。魔人にこそなっていないがラピは本気の速度を出している。しかしレオはその速度に着いていって、しっかりと反応して間に割って入って代わりに殴られていた。


 ふむ……状況から察するに倒れている子供がラピの逆鱗に触れる何かをしたのだろう。そしてトドメを差そうとするラピをレオが必死に抑えているという構図だ。


 ラピは理由もなく暴力を振るう娘ではない。必ず何かしらの理由があるに決まっている。しかし、要塞の内側でラピに衝動的な殺人をさせるわけにはいかない。私は腕を組んだまま素早く尻尾の伸ばし、先端の針をラピの襟に引っ掛けると持ち上げた。


「むっ、あにき。降ろして」

「あっ、アニキ!助かった!」


 吊し上げられたラピは不服そうに手足をバタバタと動かし、レオは疲れたようにその場で座った。レオも戦闘力は高いし、特に剣術の腕前では既に屈指だ。しかしながら素手での戦闘だとラピは特戦隊で上位三名に入る。私ですら尻尾なしだと苦戦は必至だ。レオにとっては庇うだけでも大変だったことだろう。よく頑張ったな。


 私は未だにバタバタと暴れるラピを自分の肩に乗せる。すると頬を膨らませたままではあるが、暴れることはなくなった。やれやれ、ようやく落ち着いたか。


「それで、何があった?」

「すいやせん、俺達も気付いたらこんなことになってやして……」

「ちょうど大人がみんな目を離してた時だったのよ」


 ゴーラは禿頭をガリガリと掻きながら、ファルは手入れをしている最中の弓を掲げて見せながらそう言った。当事者ではない者の意見が聞きたかったのだが……本当に誰も見ていなかったのか?


「ワタシが見ていたぞ」

「アスミか」


 そんなとき、スッと手を挙げる者がいた。その者は山羊の角と尻尾、猫の両目と四肢を持っている。青色の肌をしたその者の名はアスミ・イシャクラム……そう、私たちが潜入任務に赴いた時に激しく戦い、毒針で動けなくして捕虜にした元白機兵である。今の彼女は捕虜ではなく、魔人にされた特戦隊の戦闘員だった。


 アスミは捕虜として有益な情報を我々にもたらし、実際にそれはカルネラ港の攻略に役立った。しかし、カルネラ港は最後に共和国軍が無茶をやらかしたせいでボロボロにされてしまった。


 そのこと自体にはアスミの責任は存在しない。だが、奪還作戦の顛末に怒り狂った者がいた。それが皇帝その人である。せっかく取り返した自分の土地をボロボロにされた怒りの矛先が向いたのは、カルネラ港で生き残って捕虜にされたカン族達だった。


 怒り心頭の皇帝は捕虜を魔人に変え、死ぬまで共和国軍と戦わせるように命じた。流石に共和国の高度な技術や知識を持つ者は省かれたものの、白機兵だった彼女もまた魔人にされることになったのだ。


 カン族を使った魔人の作成をするにあたって、カレルヴォはせっかくだからとこれまで行わなかった実験を行うことを決意する。その実験とは『二匹以上の生物を用いた魔人作成』だった。


 三種類以上の素材を用いる合成獣はそれほど珍しくはない。しかし、これまで作成されてきた魔人は常に一人のヒト種と一匹の生物だった。二匹以上の異なる生物を用いて魔人を作ったことはこれまでなかったのだ。


 オルヴォはまだ実験していなかったようだが、安定した性能の個体を継続的に供給するのは恐らくは不可能に近いと予想していたらしい。それを知っていたからこそ、成功させようとカレルヴォは躍起になった。数百人いたカン族の捕虜を全て使い、様々な条件や生物の組み合わせを試したようだ。


 ただし、この実験は決して成功とは言えない結果となった。実験の素材となった数百人のカン族の内、そのほぼ全てが獣の魂を使った魔人のように発狂したのである。発狂せずに安定したのは約五十人であり、その者達もただ一人を除いて知能が獣並みに低下してしまった。


 その唯一ヒト種としての高い知能が残ったのが、他でもないアスミだった。ミカの予想では合成に用いられた他の素材と偶然にも相性が良かったからだろうとのこと。運が良いのか悪いのかわからない女である。


 カレルヴォの魔人は狂暴だが言語を理解する程度の知能は残っており、だからこそ暴走しがちだが複雑な命令も理解出来る。しかし、この実験で作られた魔人は性格は穏やかな者達が多いが、言語がわからないので簡単な命令も満足に果たせない。その結果、失敗作の烙印を押されて我々に合流し、共に特戦隊を構成する戦闘員となったのだ。


 アスミ達は二匹以上の生物と合成されているだけあって戦闘力は高いものの、複雑な命令はこなせないので潜入任務には向かない。我々が潜入任務に向かっている間は要塞内で雑用と連合国の魔人の調練を行っていた。


「何があったんだ?」

「ラピが広場でロクムを寝かしていたら、そこで転がってるユリウスが大声を出して怖がらせたんだ。ビックリしたロクムは大泣きして、怒り狂ったラピの出来上がりさ」

「そんなことがあったとはな。まあ、怒る気持ちもわかるが……殺そうとするのはやり過ぎだ」

「むぅ……」


 呆れたようにため息を吐きながらアスミは真相を語ってくれた。あの少年はユリウス言うらしい。そのユリウスが何を思ったかラピが面倒を見ていたロクムを故意に泣かせた。そのことに激怒したラピが殺そうとした、という流れのようだ。


 気持ちはわかるが、殺そうとするのはやり過ぎだ。熱くなりすぎていた自覚はあるようで、私が諭すと頬を膨らませたままそっぽを向く。だが、ユリウスに謝罪するつもりはないらしい。肩に座ったまま脚をプラプラさせていた。


「それで、そこにいる三人()新入り……でいいのか?」

「そうだ、ティガル。正確に言うとそこにいる三人()新入りだ」

「うん?何が違うんだ?」

「つまり、補充要員はそこにいる三人だけということだ。そうだな?」


 確認するように尋ねるザルドに、アスミは大きく頷いて肯定してみせた。この三人が帝都から送られてきた補充要員の全員なのだ。もっと人数が多いかとも思っていたが、少し考えれば習作が二十も三十も作られる訳がない。こんなものだろう。


 そして予想していた二つのパターンの内、運が良いことに私が望んだ方の理由でここに来たらしい。すなわち、どうせ大した戦力にならないと判断されたのだ。他の生物と合成された魔人であっても、普通の子供では機鎧兵に太刀打ち出来ないからだ。


 そんなことを話していると、うずくまっていたユリウスと言うらしい少年が身体を起こした。その目にはうっすらと涙が滲んでいる。腹部を押さえつつ苦しそうに咳き込んでいることから、ラピは鳩尾(みぞおち)を殴ったらしい。容赦のないことだ。


 私はラピを肩に担いだまま、三人の子供達に近付いていく。するとオロオロしていた少年と座っていた少女は顔を硬直させ、ユリウスは震えながらも私とラピを睨んでくる。殺されかけたのに恐怖ではなく反抗心を露にするとは……中々に根性のある少年だ。鍛えればきっと強くなると思った。


「お前達が補充要員だな?名前は?」

「ゲホッ、ゴホッ……人に名前を聞くなら自分から名乗るもんだろ、オッサン」

「……やっぱり殺す?」


 私達を睨み付けながらユリウスはそう言って啖呵を切って見せた。ラピは脚を揺らすのを止め、そのクリクリとした目を細めている。それを見た少年と少女は恐怖からか震えているようだった。


 ユリウスもまた恐怖を抱いたのか顔を引き攣らせている。しかし、その目を私達から反らすことだけはない。ラピは不快感を高めているようだが、後ろにいるティガルやザルドは感心している。それは私も同感だった。


「落ち着け、ラピ。私はこの特戦隊のリーダーだ。名前はない。『隊長』でも『ボス』でも『お頭』でも好きに呼べ。さあ、質問には答えてやった。次はお前達の番だ」

「へっ!名前がないだって?嘘つけ!」

「ちょっと、ユリウス!」


 名前がないのは本当だ。適当な名前を付けてそれを名乗れば良かったのかもしれないが、私は特に必要だと思わなかった。なぜなら、それで誰も困らなかったからだ。


 私には特戦隊のリーダーという立場があり、それで呼んでもらえるだけで自分だとわかる。それに自分や仲間達に付けてもらおうとも思えなかったので、私は未だに名無しのままなのだ。


「しっ、失礼しました!隊長さん!わっ、私はアリエルです!」

「ぼっ、僕はボルツっていいます……」

「それでこいつはユリウスっていいます!ほら、自分でも名乗りなさいよ!」

「ふん!」


 ペコペコと頭を下げる少女、アリエル。消え入りそうな声で名乗った内気そうな少年、ボルツ。そして生意気で反抗心の強い少年、ユリウス。この三人が新たな仲間であるらしい。歓迎するぞ、三人とも。地獄へようこそ。

 次回は10月11日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 新しく仲間になったんだから、仲良くできるといいですね。カン族の子供たちはつらい思いをして、人を信じられなくなっているでしょうから、接するのは大変だと思います。 今後子供たちを鍛えるつもりなの…
[一言] そういえば子供でも関係なくやる奴らやったな…
[一言] へえ、あの時の捕虜のアスミが魔人となって部隊に合流しているとは そして補充の人員は子供達でしたかー どんな魔人なのやら
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